当事者研究ブログ:大人の頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)についての当事者研究のノートです。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

特異的言語発達障害の症状、原因は配分性注意障害

(キーワード:ワーキングメモリ、聴覚情報処理障害、複文、配分性注意障害、頭蓋骨縫合早期癒合症)

特異的言語発達障害の定義(引用抜粋)

音声言語医学では言語発達障害を引き起こす原因を何種類か特定しています。しかし、原因どころか症状、すなわち認知が困難になる状況が不明確であるうえ、「運動性言語機能の無効化」というような従来の機能の無効化で病理を説明できない疾患が存在します。これの存在は音声言語医学で報告されており、「特異的言語発達障害」といわれています。 特異的言語発達障害の定義に関する公式的な見解を、以下の引用部分で紹介します。

特異的言語発達障害 (Specific Language developing Impairment (SLI)) とは,言語発達を妨げるような明らかな要因,たとえば知的障害や難聴,自閉症などを認めないにもかかわらず,言語発達が遅れた場合にその診断名がつけられる。*1

特異的言語発達障害(Specific Language Impairment, SLI)とは、知的障害や聴覚障害、対人関係の障害など言語発達を遅滞させる明らかな問題が認められないにもかかわらず、言語発達に遅れや歪みがみられる障害をいう。*2

非言語性知能の低下、聴覚障害、神経学的異常などの言語発達を阻害する要因が認められないにもかかわらず、言語能力に著しい制約がみられる障害*3

「特異的言語発達障害」は英語名で”Specific language developent impairment”と表現されているように、「言語発達障害のうちの特異的なもの」です。

一般に言われている「発達障害」である神経発達障害は、英語で"Neurodevelopmental disorder" です。これにはADHDASD、LD、発達性強調運動障害などが含まれています。

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引用元:https://www.genki-kids.net/shien/hattatu.html

日本語に翻訳したときに「特異的言語発達障害」と「特異的発達障害」と、結構似ていることは同感です。しかし、上の図で示されているように、特異的言語障害は「神経発達障害のうちの特異的なもの」である一方、言語発達障害は神経発達障害ではないので、それぞれの概念が示す内容は全く異なります。

精神発達遅滞に起因する言語発達障害が存在することを根拠に、言語発達障害すべてが神経発達障害であると結論付けることはナンセンスです。それならば「言語発達障害」という症状ではなく、精神発達遅滞にフォーカスするべきです。

詳細は後述しますが、特異的言語発達障害は神経発達障害ではなく、むしろ後天的に発生する高次脳機能障害に起因します。

大人の特異的言語発達障害は診断できない

特異的言語発達障害の診断は、言語聴覚士によって実施されています。診断対象は、未成年に限られています。2020年現座、音声言語医学によると成人における特異的言語発達障害の評価基準が存在しないことから、診断できる専門家は日本にいないとのことです。

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症状の引用元にも、「(聴覚情報処理ではない)優位な情報処理方法を活用することが重要である*4」というように書かれていることから、音声言語医学では治療方法が確立されていないことがわかります。

成人になっても継続する特異的言語発達障害の困りごとを解消するという治療ではなく、「ほかにできること」を探すという支援、というような、精神医学の理念に従うようなやり方になっています。

では、支援の方法は音声言語医学では存在しているかというと、確立されていません。つまり成人当事者自身による環境整備や方針転換にゆだねられるということです。

特異的言語発達障害の症状と二次的症状の「学習障害

先行研究で報告されている特異的言語発達障害の症状は、以下の通りです。

以下は,特異性言語障害の子どもの症例。語彙数が極端に少ない印象があり,会話時になかなか文章にならず,助詞や助動詞が抜けたような単発的な発語になる。*5

聴力・対人関係・知能には問題がないが, 言語発達が遅れた8歳6ヵ月男児の指導経過からその言語発達特徴を整理した。その言語特徴は, (1) 語彙力が落ちており語想起が悪い, (2) 音韻認識の発達が遅れている, (3) 統語面の発達が遅れている, (4) 聴覚的記憶が視覚的記憶に比べ低下している, というものであった。この特徴は英語圏でいわれている特異的言語発達障害に相当するものと考えられた。その言語特徴の背景としては, 聴覚記憶を含む聴覚認知経路の障害が考えられた。こうした症例の指導にあたっては, 問題の背景を探り, 優位な情報処理方法を活用することが重要である。*6

先行研究で報告されている特異的言語発達障害の症状をまとめると、以下の通りです。

  • 年齢不相応の語彙力の低さ(「特異的言語発達遅滞」という先行研究あり)
  • 聴覚情報処理障害(狭義)
  • 語の表出に時間がかかる
  • 複雑な統語構造の表出と理解が不可能
  • 音韻ループ(言語性ワーキングメモリ)の機能低下

これらの症状のデータ採取元は、音声言語医学および精神医学が患者としてみなすことが可能と定める児童に限定されています。学童期の児童は脳の神経発達の途中であるため、一般的には健常児でも言語機能は当然のことながら、実行機能も未完成であることを考慮すると、特異的言語発達障害を抱える成人の症状は異なってくるといえます。

一方で、患児の症状からは以下の特徴がみられることが明記されていません。

  • 記憶機能(言語性知能の発達やスキーマ形成に影響を与える)
  • 認知的共感(非言語的コミュニケーションの可否に影響)
  • 実行機能(注意制御、情動抑制)
すなわち、特異的言語発達障害ADHD自閉症スペクトラム、精神発達遅滞とは病理に共通点がみられないといえます。
学童期における最大の問題は、学業に支障をきたすことです。語彙力の乏しさや文の理解力と構成力が低いので、特にそれにかかわる言語系科目の成績が悪化することは当然です。具体的には、長文読解問題や小論文記述、リスニングといった文を扱う問題や、慣用句やことわざといった言外の意味を持つ表現を問う形式の問題困難を強いられます。ただし、漢字や理系科目、一問一答の社会科はこの限りではありません。
ただ、特異的言語発達障害の症状は教科書の読解などにも影響があるので、学業全般を修めるうえでの支障になるといえます。音声言語医学のなかではこれを「広義の学習障害」に含める見方があります。もちろん特異的言語発達障害は限局性学習障害とは異なりますので、あまり良い表現であるとは言えません。
学業への悪影響を当事者の観点から考察した内容は、以下の記事で扱っています。atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

特異的言語発達障害の世人当事者は、幼少期に存在した語彙獲得の遅れを克服します。しかし、その原因である特異的言語発達障害そのものは残存します。健常者と同じように言語を扱えるようになった、というように音声言語医学でみなされていますが、社会人として生活するようになると、口下手、遅筆、理解力の低さの問題がより一層目立つようになると思います。また、学童期に続いて学業における困難性も継続します。

当ウェブサイトの管理人である私も、特異的言語発達障害の成人当事者です。幼少期から続いている症状の特徴をまとめた記事を作成しています。 

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特異的言語発達障害の正体:ワーキングメモリの無効化

私自身にも認められる、成人当事者になっても継続する特異的言語発達障害の症状は、以下の通りです。

  1. 名詞の言い間違い
  2. 読解力が低い。流暢に音読できても一度に理解できない文がある。
  3. ヒアリングに集中できても苦手。
  4. 文章作成の段取りが難しい。書いた文および書く文(展望的記憶および回想的記憶)を覚えながら文を作成できない
  5. 難しい構造の文を作成すると、助詞の誤用、主語と述語の不一致が発生する。
  6. 言語行為のマルチタスクの困難性(ラジオを聴きながら文章を組み立てる)
  7. ポリフォニー音楽の聴き取りができない

4の症状を除き、特異的言語発達障害を抱える成人当事者において、認知する際に上記の問題(エラー)が発生する文の統語構造には共通の特徴を持っています。それは、従属部に従属節が修飾される複文です。

特異的言語発達障害の原因疾患は、ワーキングメモリの無効化という病理を持つ容量性注意障害という高次脳機能障害です。いいかえると、「配分性注意障害」(容量性注意障害)に起因する言語症状が、特異的言語発達障害の正体であると私は考えています。 

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ワーキングメモリはいわば「脳内マルチタスク機能」で、すなわち同時に複数の事柄を考える(短期記憶として保持しながら)ための脳機能です。配分性注意障害では、複数の短期記憶の保持が不可能な状態に陥ります。

しかし、ワーキングメモリの上位概念である実行機能の機能低下と配分性注意障害は、別問題です。すなわち、ADHD気分障害とは異なり、集中力に悪影響を与えません。ワーキングメモリと実行機能の定義の違いについては以下の記事で紹介しています。 

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最も目立つ症状として、物の置忘れといったアクションスリップ、いわゆる不注意(ADHDの不注意とは異なる性質)が挙げられます。しかし、配分性注意障害の悪影響はそういった行動面に限らず、言語面、具体的には音韻ループ(言語性ワーキングメモリ)に悪影響を及ぼします。

前に紹介した、成人の症状のうちの「難しい構造の文を作成すると、助詞の誤用、主語と述語の不一致が発生する」について、難しい構造の文とは複文を意味します。複文は、日本語に限らずすべての言語において、意味および文法的観点から最も難しいと評価されています。なぜなら、主語と述語を持つ節が複数存在しているうえに、その間には階層性(意味的な優位性と劣位性)が存在しているからです。重文との違いは階層性の有無です。

主要部後置型言語(SOV型言語)である日本語文法規則は、英語のほぼ逆であり、後置詞(助詞)などを含めて、その規則は右側主要部の規則といわれています。

日本語では複文を形成する際にも右側主要部の規則が適用されます。そのため、日本語で作られる複文のうち、「従属部修飾複文」の認知には、ワーキングメモリを使用します。一方で、「主要部修飾複文」は、ワーキングメモリを使用しなくても、実行機能さえ動いていればあつかえます。複文の種類とワーキングメモリの必要性の有無に関する詳細は、下のリンク先の記事で紹介します。 

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特異的言語発達障害を引き起こす疾患

特異的言語発達障害が容量性注意障害に起因する言語症状です。その容量性注意障害は高次脳機能障害です。幼少期から特異的言語発達障害は存在することを踏まえると、容量性注意障害を引き起こす原因になる疾患は以下の条件に符合するものでなければなりません、

  • 幼少期から存在する
  • 専門医や家族が気づかず治療の機会を逃してしまうくらい軽度な病変

これに当てはまる、容量性注意障害を引き起こす疾患が、頭蓋骨縫合早期癒合症の軽症例(軽度三角頭蓋を含める)です。

私自身がこの疾患の当事者です。詳細は以下の記事で紹介しています。

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