当事者研究ブログ:大人の頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)についての当事者研究のノートです。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

大人に対して特異的言語発達障害を診断できない原因、「特異的言語発達遅滞」に対する公式見解

 

特異的言語発達障害の診断対象は未成年

特異的言語発達障害は、言語聴覚士や音声言語医学を専門とする研究者が研究している疾患です。特異的言語発達障害知名度が低く、これを研究者はごく少数です。特異的言語発達障害の診断に関する情報を紹介します。

私との情報交換に対応して下さった、音声言語医学の専門家を以下に紹介します。

  • 川崎聡大先生(東北大):相談受付可、診断ではない
  • 橋本竜作先生(北海道医療大):小学生・中学生を中心に評価、診断ではない
  • 東北文化学園大学総合発達研究センター附属国見の森クリニック リハビリテーション科:小児に対する支援

  • www.tbgu.ac.jp

著名な精神疾患の多くは日常生活に支障をきたすものであれば、行政の支援や診断書作成という効力が発生します。特異的言語発達障害においては「診断」ではなく「評価」という表現が用いられているように、その効力は発生しません。

特異的言語発達障害は精神医学で報告されてはいますが、実務では多くの場合用いられていない、あるいは知られていない疾患です。評価基準に基づいて学童期の未成年に対して特異的言語発達障害の認定をし、これの支援を行っていくという方法で実施されています。

では、特異的言語発達障害の成人に対する支援はどうなのか。特異的言語発達障害の研究者でいらっしゃる、東京学芸大学伊藤友彦先生が教えてくれた内容を、紹介します。
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伊藤先生が教えて下さった、特異的言語発達障害に関する状況は、

  • 支援の方法どころか、成人の評価方法が確立されていない
  • 日本語における特異的言語発達障害の特徴がつかめていない

とのこと。

特異的言語発達障害の成人当事者が存在すること自体が想定外、いえむしろ、「存在しない」という見方もありうることに私は気づきました。

「特異的言語発達遅滞」の由来

音声言語医学の中で、特異的言語発達障害に起因する一番の問題となる症状が、言語発達遅滞です。言語発達遅滞が発生することは、定義に関する引用部分にも記載されています。この言語発達遅滞そのものも、精神発達遅滞に起因する言語発達遅滞とは異なるため、これもまた「特異的言語発達遅滞」*1という表現が用いられることがあるようです。

要するに、「特異的言語発達遅滞」とは、特異的言語発達障害によって言語発達に悪影響が及んだ結果に該当する症状です。

「特異的言語発達遅滞」が解消されるという解釈

特異的言語発達障害の診断は、音声言語医学の専門家である言語聴覚士によって実施されます。ただし、その診断の対象年齢は児童から未成年に限定されています。成人患者は診断対象外です。

成人に対する特異的言語発達障害の診断の実績はありません。その背景には特異的言語発達障害の成人患者に対する診断基準が存在しないことが影響していると推測します。児童に対する特異的言語発達障害の診断基準は、先述の「特異的言語発達遅滞」です。すなわち語彙力が年齢不相応に低い水準ということです。

「特異的言語発達遅滞」は記憶機能に問題がないため、語彙力を形成する際に必要な記憶機能(長期記憶の貯蔵)は正常です。そのため、言語性知能の形成は阻害されることはありません。いわゆる語彙力が発達するのが遅いという、いわゆる「晩成型」であることが問題であるだけであり、逆に言えば最終的に到達できる水準は健常者と変わりません。すなわち、「特異的言語発達遅滞」は成人になれば解消されます。

音声言語医学が求める語彙力は、学校教育で求められる水準に設定されます。特異的言語発達障害を抱えていたとしても、おおよそ18歳になるころには健常者と同じ水準の語彙力を持つことが確実です。

大人になっても特異的言語発達障害は存在する。

すると、「特異的言語発達遅滞」が症状であるという音声言語医学の観点で評価すると、成人になって語彙力が健常レベルになったことで困りごとが解消されるとみなします。そして成人患者はいないという結論になります。

たしかに、特異的言語発達遅滞が解消されることは間違いありません。しかし、それは困りごとが解消されただけにすぎません。特異的言語発達障害の存在を解消しない限り、症状に起因する困りごとは持続します。

成人になっても、言語理解と表出に困難性があるという症状は残存します。そのため、社会で求められる言語機能のハードルは学童期と比較して高い水準にある(詳細は後述)ため、言語理解および表出の障害が社会不適合の原因になります。

このような問題を引き起こす特異的言語発達障害を抱えている成人当事者に対する医療の対応は冷たいもので、成人当事者に対して精神医学は診断できません。なぜなら特異的言語発達障害の評価基準はほかに存在していません。

この訴えを発している人物は当事者である私だけではありません。音声言語医学の臨床に携わっている研究者の多くは、語彙力形成が遅くなるメカニズムを探求することが、特異的言語発達障害の本質につながると考えているようで、2020年現在も特異的言語発達障害の新たな評価方法を模索していることが、「今後の課題」に記されています。

しかしながら、特異的言語発達障害の成人が存在することを言及している研究は存在しません。患児だけを研究対象として扱っている部分を変えるべきだと私は考えます。

(リンク)特異的言語発達障害の成人当事者の症例、病理について

 

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*1: 武田篤, 及川絵美子, 村井盛子: 特異的言語発達遅滞の予後決定因子に関する研究. 音声言語医学, 42: 311-319, 2001.