当事者研究ブログ:大人の頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)についての当事者研究のノートです。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

頭蓋骨内側にある指圧痕の原因は「軽度慢性頭蓋内圧亢進」ではないだろうか

慢性頭蓋内圧亢進の鑑別方法

頭蓋内圧亢進には、急性頭蓋内圧亢進と慢性頭蓋内圧亢進に分けられます。急性頭蓋内圧亢進は、健常の状態から突然発症するものであり、脳卒中脳挫傷などが挙げられます。一方の慢性頭蓋内圧亢進を引き起こす疾患は水頭症や頭蓋骨縫合早期癒合症が挙げられます。

頭蓋内圧亢進時に発症する代表的な症状は、以下の三種類です。頭蓋内圧亢進の有無を判断する際の基準に該当する身体症状であり、「頭蓋内圧亢進の三徴」と呼ばれています。

  • うっ血乳頭
  • 嘔吐(悪心がない噴出性嘔吐)
  • 頭痛(早朝頭痛、起床時に発生する)

うっ血乳頭の発症時には、視野が狭まったり視力低下を引き起こしたりします。頭蓋内圧亢進の状態が長期にわたり続いた際に発症する症状であるため、慢性頭蓋内圧亢進特有の症状であるといえます。

頭蓋内圧亢進の三徴以外にも、頭蓋内圧亢進で出現する身体症状は存在します。眼筋麻痺の一つである外転神経麻痺を発症すると、両目が内側に寄ります。後天的な内斜視とも言えますが、内側に寄った目の位置をほかの方向に変えられなくなります。さらに頭蓋内圧亢進の程度が強い際は、眼球突出が出現します。また眼球突出は、顔面形成の悪影響を伴う症候群性の早期癒合症で認められるケースが多いです。

これらの症状が「三徴」に含まれていない根拠は、脳神経外科ではなく、眼科で扱われる疾患であるためかもしれません。

脳神経外科学の規定によると、頭蓋内圧亢進の判定基準となる所見は、うっ血乳頭と脳浮腫です。脳浮腫はMRI画像で判明します。うっ血乳頭や脳浮腫の発症は、高度な頭蓋内圧亢進の時のみに限定されます。

もちろん、嘔吐や頭痛があれば頭蓋内圧亢進の存否を判断することは可能です。しかし、頭痛の存否は患者の訴えにとどまることは避けられず、診断医にはわかりません。嘔吐についても逆流性食道炎である可能性もあります。そのため、嘔吐や頭痛のみで頭蓋内圧亢進の存否を評価し、医師が診断を下すことは不可能です。

これに対して、うっ血乳頭や脳浮腫は客観的な評価材料に該当します。これらの存否によって、慢性頭蓋内圧亢進を引き起こしうる疾患を解消する手術を実行するか否かを決定します。

軽度慢性頭蓋内圧亢進症の他覚所見:指圧痕

頭蓋内圧は数値で表せます。すなわち、頭蓋内圧亢進と評価される数値は脳神経外科学で規定されています。頭蓋内圧は、頭蓋骨の中の圧力という意味で、脳脊髄液の圧力で定義づけられます。この圧力は髄液圧といわれています。

髄液圧の正常値は、測定時の体位と測定方法によってばらつきがあります。代表的数値として、水平側臥位における70~180mmH2O*1、すなわち5.145~13.23mmHgを提示します。このうち、髄液圧の規定通常値は136mmH2O(およそ10mmHg)です。

脳神経外科学による頭蓋内圧亢進の規定値は、16mmHg(およそ200mmH2O)です。髄液圧がこの数値を超えたときは、生命に危険が差し迫っているというふうに判断されます。

健常者の髄液圧と脳神経外科学で規定される頭蓋内圧亢進における髄液圧の数値との間には、かなりの差が存在しています。脳神経外科学が規定する「頭蓋内圧亢進」の規定値が高く設定されている根拠は、「致命的である」という厳格な定義によるものです。すなわち、180~200mmHgの範囲の髄液圧が示す状態とは、致命的ではない「軽度な頭蓋内圧亢進」に該当します。

軽度な頭蓋内圧亢進は、脳神経外科学では想定されていません。急性頭蓋内圧亢進が基準になっており、その急性頭蓋内圧亢進では軽度な頭蓋内圧亢進を考慮することに意味がないためです。

一方の慢性頭蓋内圧亢進の場合は例外です。これを引き起こしうる疾患が軽度であれば「軽度な頭蓋内圧亢進」を引き起こすということで想定可能です。しかし、「軽度な慢性頭蓋内圧亢進」は頭蓋内圧亢進の三徴を引き起こす可能性が低いです。したがって、致命的な問題ではないことから、2020年時点においても医学では病気として扱われません。

では、軽度な慢性頭蓋内圧亢進には症状がないのかというと、それは違うと私は提言します。自覚症状とは別に、指圧痕が他覚所見として挙げられます。

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管理人リョウタロウの指圧痕

脳脊髄液が頭蓋骨の内側に打ち付けて発生するデコボコを、指圧痕といいます。通常の髄液圧では発生しません。髄液圧が上昇している状態、すなわち頭蓋内圧亢進が長期間存続した際に形成されます。要するに、慢性頭蓋内圧亢進症のなかで出現する所見です。

しかし、脳神経外科学において指圧痕は頭蓋内圧亢進の判定基準として扱われていません。指圧痕のみが出現している状態では、致命的な頭蓋内圧亢進症であるとは判断できないためです。その背景には、軽度な頭蓋内圧亢進症を「病的」として扱っていないことが挙げられます。

脳回陥凹陰影ともいう。大脳皮質の脳回のふくらみに対応して、頭蓋の内面が圧迫されて脱灰を起し、指で押したように骨が薄くなる状態をいう。指圧痕は頭蓋内圧亢進症状の一つとして出現するが、正常者でも、脳が急速に発育する時期の小児に生じることがある。1~2歳頃に始り、4~8歳頃に最もよくみられる。しかし、どの程度から病的というかその判断はむずかしいことが多い。主として頭頂部、後頭部で著明で、単純X線撮影で確認できる。*2

「指圧痕の病的ラインを判断するのは難しい」という部分は、軽度の頭蓋内圧亢進症と致命的なものとの区別が難しいというのと同義です。脳神経外科学の知見に従えば、うっ血乳頭や脳浮腫が存在している場合を病的と判断するでしょう。 

発症頻度が高い年齢層が幼少期に特定されていることを踏まえると、成人では出現しない症状であると判断できるということです。これを反対解釈をすると、成人症例において指圧痕が存在することは病的であると判断できる余地が存在するといえます。

頭蓋骨内側に指圧痕のみが発生する事例は限られてきます。まず慢性頭蓋内圧亢進症であるので、脳挫傷脳卒中で発症する急性頭蓋内圧亢進症では発生する時間がないと考えるべきです。

慢性頭蓋内圧亢進においても、致命的、すなわち髄液圧が高くなれば脳浮腫やうっ血乳頭といった所見が出現します。水頭症はたいてい重度の慢性頭蓋内圧亢進を引き起こすので、指圧痕のみの症例は少なくなるでしょう。

となると、指圧痕のみを発生させる疾患とは、軽度慢性頭蓋内圧亢進症を引き起こす疾患であるといえます。したがって、その原因疾患は病態に様々な程度が存在しているものでなければなりません。この条件に当てはまる疾患は、頭蓋骨縫合早期癒合症しか思いつきません。

軽度慢性頭蓋内圧亢進症の身体症状(他覚所見、自覚症状)

脳神経外科学が規定している頭蓋内圧亢進は、致命的な度合いのものに限られています。一方で軽度な髄液圧の上昇を示す軽度慢性頭蓋内圧亢進について、医学では健常者と同一であるとみなされています。

指圧痕についても、うっ血乳頭や脳浮腫などの他の頭蓋内圧亢進の所見を併発しない、指圧痕のみの症例においても健常者と同一であるとみなされています*3

健常者と同一とみなされているというのは、軽度慢性頭蓋内圧亢進症においてはほかに症状が存在しないと判断されているためです。しかし、軽度慢性頭蓋内圧亢進症の症例を健常者としてみなすことは、誤りであると私は提言します。すなわち、軽度慢性頭蓋内圧亢進症が所見以外にも症状を発生することをここで提言します。

軽度慢性頭蓋内圧亢進症に関する臨床研究は存在しません。そのため、軽度慢性頭蓋内圧亢進の症状は全く不明です。ここで紹介する症状は、早期癒合症の軽症例の成人当事者(指圧痕は写真)である私自身の症状です。そしてこれらの症状は全て、原因不明です。

  •  開散麻痺:頭蓋内圧亢進による病理を構築可能な眼筋麻痺

    atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp 

  • 慢性上咽頭炎:上咽頭のうっ血、原因は脳脊髄液のうっ滞といわれる
  • 非びらん性胃食道逆流症(反芻症候群):下部食道括約筋が緩む、嘔吐中枢の異常

開散麻痺、非びらん性胃食道逆流症、慢性上咽頭炎といった症状も、罹患者の人数や特徴といった実態が解明されておらず、原因が解明されていません。しかし、頭蓋内圧亢進との関連性が疑われる要素が含まれています。

軽度慢性頭蓋内圧亢進で出現すると仮定している症状は、重度な頭蓋内圧亢進で発生する身体症状と対応しています。開散麻痺の原因は部分的な外転神経麻痺であり、非びらん性胃食道逆流症の原因は部分的な噴出性嘔吐であるということです。

これらの症状を引き起こす軽度な頭蓋内圧亢進は、致命的ではありません。慢性上咽頭炎や非びらん性胃食道逆流症は症状の程度が軽く、開散麻痺は自覚が困難であるため、これらの症状を自覚する成人当事者はこれからも現れないと私は推測します。

しかし、これらの身体症状を治療する方法もわからないまま、そして原因不明のままということになれば、その患者の生活の質(QOL)が損なわれてしまいます。本稿では紹介していませんが、頭蓋骨縫合早期癒合症の軽症例が引き起こす、容量性注意障害も引き起こすことは忘れてはなりません。 

(まとめ)仮説:髄液圧の数値と出現する症状の対照表

  • 健常者(髄液圧の正常値:136mmH2O程度)
  • 軽度慢性頭蓋内圧亢進(仮称、髄液圧:136~200mmH2O)

  他覚所見:指圧痕

  自覚症状:非びらん性胃食道逆流症、開散麻痺、慢性上咽頭炎

  • 頭蓋内圧亢進(200mmH2O~)

  他覚所見:うっ血乳頭、脳浮腫、トルコ鞍の拡大(Pressure Sellaという)

  自覚症状:噴出性嘔吐、外転神経麻痺

 非びらん性胃食道逆流症および開散麻痺は重度の頭蓋内圧亢進で発症しないのではなく、隠れていると考えられます。