当事者研究ブログ「大人の頭蓋骨縫合早期癒合症」

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)に関する当事者研究の記録です。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係、デフォルトモードネットワークの機能について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

うっかりミス(不注意)が多い病気「容量性注意障害」の評価方法と原因疾患

インターネット上の検索エンジンに「ワーキングメモリ」と入力すると、「少ない」、「小さい」、「弱い」というネガティブ形容詞や、「容量 増やす」「鍛える」という表現が続きます。

当記事ではワーキングメモリのみに悪影響が及ぶことで発生する「容量性注意障害」の症状、原因疾患を紹介します。

 

 

容量性注意障害についての精神医学の定義

容量性注意障害は、高次脳機能障害に分類される注意障害のひとつです。高次脳機能障害脳卒中といった疾患や交通事故の後遺症である外因性精神障害です。神経発達という先天的な発達障害心因性精神障害うつ病)とは異なる種類の精神障害です。 

容量性注意障害の症状の特徴については、一般的に以下のように説明されます。

容量性注意障害では,一度に処理できる情報量が低下します。そのために低下した処理容量内に収まるくらいの少ない情報量であればうまく処理できますが、情報の処理効率が悪くなり,同時に複数のことを処理するのが困難になります。
容量性注意障害では、日常生活において短い会話は理解できても、長い会話になると理解がしづらくなったり、混乱したりします。桁数の少ない暗算は可能ですが、桁数が多くなるとできなくなります。作業をする際、ひとつなら問題なくこなせても、複数を同時にしなければならなくなると、途端にできなくなり、ミスが増えます。*1 

容量性注意障害は後天的に発生するもので、ほとんどは先述したように病気や事故といった突発的な出来事をきっかけに発症することが多いです。しかし、物心つく前の幼少期から後天的に発症しているというケースも十分に存在します。このことに関する詳細は後述します。

ワーキングメモリの意味:「注意の焦点」

容量性注意障害の「容量」とは、ワーキングメモリの容量です。ワーキングメモリは複数の短期記憶を同時に保持する効果を持つ脳機能です。

ワーキングメモリというと、従来は同時に複数の短期記憶を保持する脳機能を意味するものとして通っていました。これに加えて、短期記憶と注意の関連性を提示した理論があります。それが、Nelson Cowan(以下、カーワン氏)が提唱した「注意の焦点」です。

「注意の焦点」とは実行機能による注意制御が発揮される範囲を意味する表現であり、ワーキングメモリが持つ機能を意味します。注意制御が発揮される範囲とは、一時点において保持できる短期記憶の個数を意味します。専門書では、「短期記憶は長期記憶の活性化したものであり、その中でも特に活性値の高いものが注意の焦点で保持されている」*2と書かれています。

また、健常者が持っているワーキングメモリの容量はカーワン氏によって算出されています。その容量は「4±1チャンク」です。健常者は同時に4つ前後の短期記憶を保持でき、そして、4つ前後の事柄について注意を向けられることが彼によって突き止められました。

ワーキングメモリについての詳細は以下のリンクで紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

ワーキングメモリが機能していて、「注意の焦点」が複数のチャンクに分かれていることによって、人間はマルチタスクを実行できるようになります。マルチタスクというと、「別のことをしながら何かをする」のように単に「実行の結果」として存在しているだけでなく、頭の中での思考でも同じことが起きています。人間は脳内の思考の中でもマルチタスクを実行しているから、私は「脳内マルチタスクと表現を用いています。

容量性注意障害の症状

カニズム

物の置き忘れ、すなわち自分が置いたモノの場所を忘却する(物忘れとは違う)ことは、健常者にもしばしばみられる現象です。これはヒューマンエラーのうちのアクションスリップに該当します。簡単に言えば不注意と評価されるミスです。

アクションスリップが頻繁に発生する状態である場合、何らかの精神疾患を抱えている可能性が高くなります。その疾患には先天的と後天的なものが存在します。先述したように容量性注意障害は後天的な疾患に該当します。

容量性注意障害のメカニズムは、ワーキングメモリの無効化です。言い換えると「脳内マルチタスク」を実行できない状態に陥ります。

容量性注意障害のうっかりミスのメカニズム

容量性注意障害による「ワーキングメモリの無効化」は、「物の置忘れ」を発生することがしばしばあります。「物の置忘れ」が発生する状況を紹介すると、物の置忘れの発生を防ぐための短期記憶が、別の行為に関する短期記憶に上書きされたことが原因です。

ワーキングメモリが有効であれば、存在する「注意の焦点」の個数は4チャンクが存在しています。すると、当初保持されていた「物の置忘れの発生を防ぐための短期記憶」を格納している「チャンク」とは別のチャンクに「新たな短期記憶」を格納できます。たいてい、日常生活を送るうえで、2チャンクあればスリップアクションは発生しません。

これに対して容量性注意障害の場合、存在する「注意の焦点」の個数は1チャンクのみです。すると、「新たな短期記憶」が「注意の焦点」に格納されてしまった場合、当初保持されていた「物の置忘れの発生を防ぐための短期記憶」を上書きするしか方法がありません。

こうなった場合、モノを置いた行為に関する記憶を保持していないため、モノの位置情報をさかのぼって思い出せないという問題が発生します。

しかし、探していたモノを見つけた際、その場所にモノが置かれていることについて納得します。遡及的に思い出せなくても、納得した後にその情報を起点として思い出すことができます。 

ADHDと似ていると思われがちですが、異なります。注意資源の供給に問題はなく、注意制御機能は十分であるからです。容量性注意障害は、衝動性は認められず、集中力も高いです。ほか精神疾患との違いは以下の記事で紹介しています。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

容量性注意障害の評価方法(症状の特徴)

ワーキングメモリが無効化されている容量性注意障害は、注意資源の供給には問題ないため、実行機能自体は有効です。

「注意の焦点」の容量が1チャンクのみであることから、「注意の焦点」に多くの注意資源が投入されることになるので、一つの物事に対する集中の度合いは、健常者より高いと私は推測します。

ワーキングメモリが無効化された場合、普段の行動面の症状だけでなく、言語行為にも悪影響が及びます。

① スリップアクション(不注意症状)

  • 衝動性、解離は認められない(ADHDとは異なる要素)
  • ゆえに集中力は通常程度高い
  • しかしマルチタスクが必要な行為は困難

② 特異的言語発達障害(狭義の聴覚情報処理障害)

  • 従属部に従属節が修飾されている複文に対する理解および表出を1度にできない
  • 言い間違いが多い
  • ラジオを聴くことと読書のマルチタスクができない

 

↓ 特異的言語発達障害に関する記事 

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

  ↓ 聴覚情報処理障害に関する記事

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

容量性注意障害の脳では何が起きている?(神経心理学的考察)

1 ワーキングメモリの脳部位について

神経心理学的に容量性注意障害の病理を解析すると、「ワーキングメモリ」本体に該当する吻側前頭前野(RPFC)の機能低下のみであるといえます。

ADHDとは異なり、実行機能(注意制御機能・衝動抑制機能)は有効な状態です。すなわち、前帯状皮質から分泌される神経伝達物質が、前頭前野背外側部に伝達するまでのプロセス、言い換えれば注意資源の供給に異常はありません。

2 検査結果でわかる容量性注意障害:光トポグラフィ検査における「陰転」

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リョウタロウの検査結果

上の画像は、筆者の光トポグラフィ(NIRS)の検査結果です。

評価では「うつ病パターン」という結論に至っていますが、二重課題時の大脳皮質における血流量低下が根拠です。NIRSでは脳の表面の血流状況しか測定できないため、他の脳部位での血流状況は不明です。

この結果の根拠について、圧迫された大脳皮質が使われない代わりに、別の部位で代償されていると私は推測します。つまり、ワーキングメモリネットワークが無効化されている状況ですので、それと排他的関係に位置するデフォルトモードネットワークが活性化されたために、二重課題時の大脳皮質の血流量が通常時と比べて低下したのではないでしょうか。

ワーキングメモリネットワークに悪影響を与える疾病(頭蓋骨縫合早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症は、頭蓋骨の狭小化という病態を持つ疾病です。頭蓋骨が狭小化しても、脳組織の質量は変わりませんので、脳組織は頭蓋骨に圧迫されます。その悪影響を最も受けやすいのが、大脳新皮質です。

吻側前頭前野は、大脳新皮質の中でも前頭部のもっとも外側に位置する部位です。脳を外側から圧迫する頭蓋骨縫合早期癒合症では、その部位に機能不全が引き起こることは想像に難くありません。

早期癒合症には軽度のものが存在しています。その一つが「軽度三角頭蓋」です。臨床で報告されている軽度三角頭蓋による精神症状は、吻側前頭前野が圧迫されたことに発生した容量性注意障害であると私は提言します。

頭蓋骨縫合早期癒合症の症例に関する詳細を、以下の記事のなかで紹介しています。

 

<参考文献>

苧阪直行「ワーキングメモリの脳内表現」京都大学出版社

*1:

*2:苧阪 P. 128