当事者研究ブログ:大人の頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)についての当事者研究のノートです。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

日本児童青年精神医学会による、軽度三角頭蓋の外科治療に対する批判を論評する(軽度三角頭蓋の手術の是非を問う論争)

「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」を批判する日本児童青年精神医学会

下地武義先生が実施している、軽度三角頭蓋の患者に対する外科治療は、成果を残しており、精神症状や身体症状が改善したケースが報告されています。

しかし、この手術が実施されていることに対する否定的な意見は多くあり、主に日本児童青年精神医学会が、下地武義先生に対する否定的声明を公に発表しているという状況です。

①「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求*1

「国家戦略特別区域高度医療提供事業」認定を受けて実施を予定している「小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術」に対し、医療関係団体が認定撤回を求めている。

② 医学会が認定撤回要求 豊見城中央病院の三角頭蓋手術*2

今年4月に豊見城中央病院(新垣晃院長)が内閣府の認定を受けた「国家戦略特別区域高度医療提供事業」のうち、小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術について、医療関係団体が「自閉症に似た症状と三角頭蓋の関連について、科学的証明はなされていない」として声明文を出し、内閣府に対し認定撤回を求めていることが分かった。同病院はまだ実施していないが「基本的には予定通り進める方向で考えているが、声明文についてはきちんと受け止める」とし、疑問への回答で理解を求めていく考えを示している。
 認定撤回を求める主な動きとしては、日本児童青年精神医学会松本英夫理事長)が7月にホームページ上で声明文を発表し、日本自閉症協会(市川宏伸会長)も8月に同声明文を支持する見解を表明している。
 内閣府地方創生推進事務局の担当者は「県と病院が検討中との報告を受けている」とし、推移を見守る姿勢を示した。県企画部企画調整課の担当者は「病院の意向を大事にしたい」と述べるにとどめた。
 三角頭蓋(前頭縫合早期癒合症)とは、子どもの頭蓋骨の接合部分が早期に閉じる病気の一つ。多動や発達の遅滞、自傷行為など自閉症に似た臨床症状との関連性に着目した県内医師が頭蓋形成手術による症状改善を主張し、国や県の事業認定を受けた臨床研究を進めてきた。
 同医師のデータによると2015年12月現在の手術数は541例で、13年までの491例のうち「改善した」が249例(51%)、「やや改善した」が218人(44%)だった。一方で同医学会は軽度三角頭蓋と「発達の遅れと自閉症類似の症状」の関連について「軽度三角頭蓋の自然経過を含めた疫学調査が行われておらず、科学的医学的証明はなされておらず、非倫理的な医療行為」などと指摘し、認定撤回を求めている。 

過去に行われた軽度三角頭蓋の治療をめぐる論争の内容は、日本児童青年精神医学会発行の機関誌「児童青年精神医学とその近接領域」(詳細は記事末に記載)のなかで記されています。

パネルディスカッションの中では、精神医学、脳神経外科学、小児科学(小児神経科)から、それぞれ異なる内容の「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」に対する批判に該当する見解を提示されています。

冒頭でも記しましたが、パネルディスカッションを主催している日本児童青年精神医学会は、軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療の実施について批判しており、その旨の公式声明を発表しています。

倫理委員会では、・・「臨床症状を伴う三角頭蓋」を発端に行われてきた、発達の障害を有する子供に対しての軽度三角頭蓋の外科手術について、倫理的側面から検討を加えてきた。・・当学会は、警告と見解を示してきた。*3

 宮嶋雅一先生のご発表および下地一彰先生らのご報告は、当委員会として同意できるものではない。*4

パネルディスカッションでは、小児科学と脳神経外科学の見解が紹介されている一方で、精神科医の登壇はありません。しかし、小児科学および脳神経外科学からの批判は、日本児童青年精神医学会の見解をベースに形成されたものであるため、これらを精神医学からの批判とみなしても問題ありません。

日本児童青年精神医学会が発表した批判声明は、以下のリンクに記載されています。

child-adolesc.jp

上記の日本児童青年精神医学会による声明に記載されている以下の記載に注目します。

そもそも軽度三角頭蓋と「発達の遅れと自閉症類似の症状」の関連について、軽度三角頭蓋の自然経過を含めた疫学調査が行われておらず、科学的医学的証明はなされていない。

また、中立的と思われる脳神経外科医による研究論文にも、同様のことが記されています。

額部の形態異常の軽症の三角頭蓋と多動・自閉症あるいは広汎性発達障害については,脳圧亢進との関連から,2000 年ごろより,その外科治療の適応について議論が続いている精神発達障害に対する手術療法の効果についての有意差を示す症例数および報告はまだ十分ではなく,症候群性と異なり,遺伝性についてもまだ明らかとはいえない。*5

ここでの「自然経過を含めた疫学調査とは、「コントロール研究」に該当します。コントロール研究は症例対象研究といい、治療症例の経過観察だけでなく、治療をしないで放置した患者の経過観察も同時に行い、両方の症例を比較する研究です。

2016年に出されている公式声明では、「行われておらず」とコントロール研究の存在を全否定している口調になっていますが、この指摘は誤っています。実際には下地武義先生と島袋智志先生によって2016年よりも前(2001年)にコントロール研究をもとにした論文が発表されています。

ci.nii.ac.jp

エビデンスを確立させるためには、コントロール研究において、一定数以上の未治療例を確保しなければならないそうです。日本児童青年精神医学会は、軽度三角頭蓋の外科治療におけるコントロール研究における未治療例の件数が十分ではないことを批判するために、「行われておらず」という表現を用いていると推測できます。

医学的な公式見解によると、典型例の早期癒合症が引き起こす精神障害に対して「精神運動発達遅滞」と名付けられています。「頭蓋内環境の悪化が神経発達に悪影響を与える」といったように大まかに説明されています。

一方、軽度三角頭蓋に起因する精神症状について、日本児童青年精神医学会は疾患名を提示していません。というのは、下地先生が報告している精神症状について、明確な答えを既存の精神障害概念で説明できないことを根拠に、下地武義先生が報告している軽度三角頭蓋の精神症状が「精神障害」であることを認定していないのです。

そして、軽度三角頭蓋の外科治療については、精神障害として認められない精神症状の解消が目的の実施されている、無益な外科治療と断定します。このようにして、批判論者は軽度三角頭蓋の外科治療を、治療の効果を持たない外科治療とみなし、外科治療を行っていることを批判します。

最も強い内容を持つ(偏っている)批判を紹介すると、鹿児島大学の伊地知信二氏による批判(「ヘルシンキ宣言」を持ち出しながら、軽度三角頭蓋の外科治療の臨床研究を人体実験として批判する)が挙げられます。

ci.nii.ac.jp

日本自閉症協会のコメント(患者家族あて、中立的?)

精神医学からの批判論者が、軽度三角頭蓋に起因する精神症状を精神障害として認定しないと結論付けているのと並行して、日本自閉症協会からも早期癒合症に関する声明を発表しています。

重度の頭蓋骨早期癒合症の場合、頭蓋の拡大が制限されて脳の成長が阻害され、四肢の運動麻痺や知的障害などの神経症状が生じる可能性があります。・・・現時点で、三角頭蓋と自閉症との関連について、脳神経外科学、児童青年精神医学、小児科学などの学会で認められているとは言えません。・・・自閉症の子どもが、少しでもよくなる方法があれば試してみたいという保護者の方々のお気持ちはよくわかりますが、明確な科学的な根拠が得られるまでは、研究段階にあるものであることを充分認識する必要があります。*6

ただし、自閉症協会からの公式声明を、手術に対する批判とみなすことについては、注意するべき要素があります。なぜなら、この声明が保護者をターゲットに発表したものであるからです。

社団法人日本自閉症協会が平成十六年九月二十一日付けで示した「三角頭蓋の手術についての公式見解」は、同協会に寄せられた質問への回答として示されたものであり、政府に対して具体的な取組を求めるものではない…*7

実は軽度三角頭蓋と診断されること自体が稀です。なぜなら、軽度三角頭蓋を診断できる病院や医師は、下地武義先生や順天堂医院以外のみであるためです。

下地武義先生はインフォームドコンセントを実施していますが、最終的には患児に子供を受けさせるか否かについて最終的に判断するのは、保護者です。この際、中には医学の専門書を読む方もいらっしゃるでしょう。しかし、早期癒合症の軽症例は脳神経外科学で疾患として認定されていないため、医学書には記載されていません。

インターネット上に存在する、病院や疾患に関するウェブサイトにおいても同様です。しかし、インターネット上には医学書には存在しない情報も存在します。それは、個人が発信する情報です。

同じく患者の保護者が発信する情報や、関係者が作成しているものも存在します。先んじて下地先生の外科治療を受けた患者の家族が、公平な観点で発信する情報(予後が良好である情報が多い)ものもありますし、一方で批判的な関係者が発信する情報もあります。

2chという掲示板のなかで、かつて「軽度三角頭蓋」のスレッドが動いていたことがありました。これによると、手術を受けなければよかったと考える保護者も存在します。詳細は後述しますが、そのように考える保護者は、「自閉症が治る」という喧伝に翻弄され、「自閉症の解消」という主観的目的に手術を受けた人物でしょう)。

ただし、これらの情報は科学性に乏しいもの、すなわち根拠の実証が不十分なものが多いです。私が書いているブログもその一つです。ただ、これを言ってしまうとキリがありません。日本児童青年精神医学会の公式声明も、内容は批判の主張だけで、根拠の実証が示されていないため、科学的であるとは言えません

現時点で科学的な情報は、根拠の実証を示している下地武義先生が発信している情報が唯一、科学的な情報であると評価できます。しかしながら、「軽度三角頭蓋の外科治療」に関係する脳科学の知見も発展途上の段階であり、また、発達心理学者も従来の知見に基づき予測的見解を形成している段階にとどまっています。

患者の保護者にとって、手術の是非を判断するには酷な状況です。そこで、現状を見かねた日本自閉症協会は保護者あてに声明を発表したと、私は分析します。だから、日本自閉症協会の声明を批判の根拠として運用することがあるならば、それは誤りです。 

治療の形式的な問題を指摘する小児科医

軽度三角頭蓋の手術は、患児に対する臨床研究としての側面を持っています。小児科学による否定説の内容は、この部分に言及するものです。 

まず、日本小児神経外科学会の理事会が表明している、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の見解は以下の通りです。

・従来、発達障害に対する本術式の有効性は認められていない

・診断、治療効果判定、予測リスクなどの検討が極めて不十分であり、現時点では発達障害の治療として実験的治療であると言わざるを得ない。 *8

そして、外科治療の手術適応条件といった実体的な部分ではない、手続上の問題点の存在を以下のように指摘しています。

手術自体の発達障害に対する効果、形態以上の基準、頭蓋内圧や脳血流測定と症状との関連などのいずれも明確ではない。…一般的に子供の医療行為の承諾は、親が代理で行うことが認められているが、あくまで代諾である以上、その医療行為は確立されたもの、もしくは十分な合理性のあるものでなくてはならない。もし、治療方法に合理性がなければ、子供への人権侵害に陥りかねない。*9

脳神経外科学からの批判(記事リンク)

 一部の脳神経外科学医からは、脳神経外科学規定の早期癒合症の治療方針を逸脱した治療であるという批判を受けています。

早期癒合症の治療方針では、治療の目的について「頭蓋内圧亢進の解消」に限定されています。軽度三角頭蓋が「頭蓋内圧亢進」(脳神経外科学規定の基準を満たすもの)を引き起こさないという認識が、脳神経外科学において一般的に知られているとのことです。脳神経外科学は軽症例について頭蓋内圧亢進を引き起こさない病態であると断定したうえで、治療対象ではないと結論付けています。

しかし実際には、軽症例による頭蓋内圧亢進が、脳神経外科学規定の基準値を満たすことを、多くの症例で確認されています。ですので、脳神経外科学の見解が矛盾そのものであると評価することができ、脳神経外科学からの批判は不適切であると私は結論付けます。

詳細は以下の記事で紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

日本児童青年精神医学会の見解に対する私見(批判)

尾ひれがついていった「軽度三角頭蓋の手術の効果」

精神医学は軽度三角頭蓋が自閉症スペクトラム障害を引き起こすことはないという認識を持っています。そして、精神医学は軽度三角頭蓋の外科治療について、自閉症スペクトラムの解消が目的の外科治療とみなしています。精神医学が軽度三角頭蓋の外科治療をどのように批判しているかというと、自閉症スペクトラム障害の解消が治療の目的というのが不適切であるといいます。

しかし、精神医学の批判は誤っています。なぜなら、そもそも、下地先生は軽度三角頭蓋の外科治療について、開始当初から「自閉症スペクトラム障害解消」を治療の効果として紹介していないからです。

下地先生は軽度三角頭蓋の外科治療の実施し始めた当初から、早期癒合症が自閉症の原因ではないことを主張しています。外科治療の効果が喧伝される中で話に尾ひれがついた結果、いつの間にか業界の中で自閉症の治療に効果がある」と喧伝されるようになったと思われます。その証拠に、現在も専門家(特に発達心理学者)のなかには、「軽度三角頭蓋の外科治療が自閉症スペクトラム障害の解消の効果を持つと宣伝されていた」と認識している方は、少なからずいらっしゃることの確認は私の調査の元で取れています。

軽度三角頭蓋の外科治療の効果に、尾ひれがついていった様子やその根拠について、私は推測しました。まず、軽度三角頭蓋の外科治療は、自閉症類似の高次脳機能障害と、容量性注意障害、あるいは精神運動発達遅滞を解消する効果を持ちます。ただし、自閉症類似の高次脳機能障害のほうは、施術年齢が治癒の可否に影響を与えます。

自閉症類似の高次脳機能障害の原因の一つを早期癒合症が引き起こしうる」というのが正しいのですが、この外科治療の効果について、「自閉症類似の高次脳機能障害を治す外科治療」や「自閉症を治す外科治療」と曲解している関係者(2ch含める)が多いと私は感じました。

批判に過激派が存在する

すでに、日本児童青年精神医学会の公式見解の誤り(コントロール研究の存在の全否定部分)を先述の内容の中で指摘していますが、ここから詳らかに批判を紹介します。

日本児童青年精神医学会による下地武義先生への批判は、科学的根拠が欠如した内容であると私は評価します。大きく分けて、批判対象を誤っていることや、批判のための研究をしていないことを私は批判します。

批判の根拠を提示していない(反証研究の欠如) 

この論争については、肯定派に対する「異端審問」であると私は感じました。というのも、批判一辺倒だからです。下地先生が脳神経外科医であることを踏まえると、「発達心理学や精神医学の専門家である我々は、専門外の人間の言っていることには耳を傾けないぞ」と思わせるような態度であるといえます。

本来ならば、軽度三角頭蓋の精神症状の病理についての研究を精神医学が行うべきです。しかし、否定説側が本質的な部分、例えば下地武義先生が提示している手術の有効性に関するデータを一切検証することなく、無視するという態度を示しています。精神医学は軽症例の精神症状の分析すらすらしていません。

高次脳機能障害の可能性を無視し、発達障害の切り口のみで展開(論点相違の誤謬)

下地先生は、早期癒合症が自閉症スペクトラム障害を引き起こさないことや、軽度三角頭蓋で発症する精神症状が自閉症スペクトラム障害ではないことを主張していました。それにも関わらず、外科治療に対する批判では、軽度三角頭蓋で発症している精神症状が、自閉症スペクトラム障害という神経発達障害であることを前提に内容を展開しています。

先述したように、批判の対象が「自閉症を治す治療」という尾ひれがついた、実体のない喧伝です。批判をする前に下地先生の主張を確認するべきです。

ここでもう一つ、軽度三角頭蓋の精神症状が特殊な性質を持っていることを説明します。それは、下地先生によって報告されている早期癒合症に起因する精神症状が、精神医学では扱いにくいものであるということです。

脳神経外科学の公式見解で言及されている「精神運動発達遅滞」は、「頭蓋内環境の悪化が神経発達に悪影響を与える」といったように大まかに説明されています。しかし、その疾病概念は複合的で、いいかえると曖昧です。

これに対して、早期癒合症に起因する精神症状が、少なくとも発症時点では高次脳機能障害であることを私は主張してきました。

近年になって、ようやく公式見解で「高次脳機能障害を引き起こす可能性」について言及されるようになりました。

従来の見解と異なり、高次脳機能障害を伴うこともあることが近年明らかとなってきている。*10

しかし、その一つであると私が主張している配分性注意障害(容量性注意障害)の文字は現れていません。

精神医学には、旧来の精神障害概念に縛られ、発達障害のみにしか焦点を合わせていないという問題(要するに視野の狭さ)を抱えています。精神医学は単独では高次脳機能障害を扱うことが苦手かもしれません。

その証拠に、高次脳機能障害を扱っている精神科は、神経発達障害と比較しても圧倒的に少ないです。脳神経外科医や精神科医だからといって、高次脳機能障害を診断できるとは限りません。発達障害気分障害を専門と定めている医院が多い精神科の場合、高次脳機能障害がお断りされることは多く、専門外の医院では医療情報提供書を用いた紹介もされません。高次脳機能障害に強い医師は少ないといえるでしょう。

さらに、自閉症類似の高次脳機能障害が、おそらく精神医学ではピックアップされていない疾患です。ゆえに少なくとも、神経心理学などの脳科学による最先端の知見を用いない限り、対処不可能であると私は考えます。

神経心理学認知心理学の動向を把握していれば、下地先生が報告している、精神症状の病理に関する考察の価値を見出すことができると確信しています。 

コントロール研究こそ医療倫理に反する

下地先生によると、エビデンスの確立を実現するほどの未治療例を確保できていないとのことです。

今後、非手術例との比較(小児科の島袋先生による非手術例15例との比較は論文になっていますが、数が少なく不十分と自認しています)を十分な症例数で検証していくという課題が残されています。*11

もし私が下地先生の立場だったならば、未治療例は当然のことながら、患者家族に対してコントロール研究における経過観察の同意を求めることはできません。すぐに治療をしてあげたいと思います。患者を放置することになるコントロール研究の実施が医学では認められている手法であるとはいえ、倫理問題すれすれのところに位置すると私は思います。

また、自閉症類似の高次脳機能障害が現れている症例の場合、その症状を解消できる好機を逸することにつながります。早期癒合症においては身体症状も発症します。頭蓋内圧亢進という手術適応条件が認められる場合、脳神経外科医が外科治療をすることが、脳神経外科学規定の治療方針で義務付けられています。この際、コントロール研究どころではありません。

患児の苦しみを引き延ばすことは不当である

逆に、日本児童青年精神医学会が求めている、コントロール研究における半年程度の経過観察という行為自体が、なかなか非倫理的だと思います。

因果関係の科学的立証されたものが精神医学にとって「真実」になることは、学問の科学性を確保するために必須事項であると思います。しかし、コントロール研究は、患児の苦しみを一刻よりも早く解消することより、自閉症類似の高次脳機能障害と早期癒合症の因果関係の解明を優先するということになります。

医学が言っている内容は、不思議です。因果関係が存在することが真実だったとしても、因果関係が科学的に実証されるまでは、治療をするなというのです。

すでに述べたように、未治療例や経過観察例を設ける行為は、患児の苦しみを引き延ばすだけでなく、仮に自閉症類似の高次脳機能障害を抱えている場合、その解消の好機を逸することにつながりかねません。

よって、日本児童青年精神医学会などが提言している、コントロール研究の実施こそが、患児のことを軽視しており、倫理的に危険であると評価できます。

小児科学からの批判を退けられる成人当事者

ここまで私は精神医学からの批判を論評する中で、批判とその根拠を説明する内容を展開してきました。しかし、下地先生による軽度三角頭蓋の外科治療が、コントロール研究の不十分性を根拠に批判されているという状態は、平行線のまま続くでしょう。

早期癒合症と自閉症類似の高次脳機能障害、および配分性注意障害との因果関係を科学的に実証するためのコントロール研究が十分に行われることに越したことはありません。しかし、そのコントロール研究の対象に、患児を用いることが「現実的ではない」ことは先述した通りです。

そこで、成人当事者を対象にしたコントロール研究を、当事者本人の同意を取ったうえで実施するべきである旨を、私は提案します。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

精神症状の解消という目的の実現のために外科治療を実施できるようにするためには、児童でもその家族にその役割を担わせるのではなく、私のような成人当事者が適任であると私は考えます。

参考文献

  • 「倫理委員会パネルディスカッション 発達の障害を有する子どもへの軽度三角頭蓋の外科治療と臨床研究の倫理」、日本児童青年精神医学会 『児童青年精神医学とその近接領域』 第57巻 第1号、2016年 

文章の一部がインターネット上にアップされていたので、以下に紹介します。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/1/57_152/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/1/57_157/_pdf

*1:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*2: 琉球新報  2016年10月3日

*3:同上, p. 151

*4:同上, p. 152

*5:

ci.nii.ac.jp

*6:日本自閉症協会(2015)「三角頭蓋の手術についての公式見解」

http://www.autism.or.jp/topixdata/sankaku20040921.pdf

*7:

www.sangiin.go.jp

*8:坂後, 2016, p. 157

*9:坂後, 2016, p. 158

*10:https://www.shouman.jp/disease/details/11_13_031/

*11:

amekudai.tjmc.or.jp