「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症の成人当事者、および認知心理学の研究者の視点で考えたことを発信しています。メインテーマは「注意」の認知科学的分析。なお当ブログの記事における内容及び理論は無断使用禁止です。

頭蓋骨縫合早期癒合症における最大の論点:軽度三角頭蓋の形成手術の肯定説および否定説の論争

頭蓋骨縫合早期癒合症(以下、早期癒合症)と診断されたお子さんのご家族によるブログを読んでいて気づいたのは、ほとんどのケースでその子供が手術を受けているということです。

しかし、軽度な早期癒合症の場合は事情が異なってきます。軽度の早期癒合症のひとつである「軽度三角頭蓋」の患者に対する手術の是非を問う論争が現在まで続いています。現状、軽度三角頭蓋の手術は下地武義先生によって実施されてはいますが、手術についての否定的な意見は多く存在します。

 「国家戦略特別区域高度医療提供事業」認定を受けて実施を予定している「小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術」に対し、医療関係団体が認定撤回を求めている*1

 

今回の記事では、軽度三角頭蓋にまつわる論争の原因について考察します。

ちなみに、早期癒合症による悪影響に関する内容は以下の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

 

第1 早期癒合症の手術の目的についての脳神経外科学による見解

これに関する内容は以下の記事で紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

要約しますと、

  • 脳神経外科学によって実務上定義づけられている早期癒合症の手術するための基準 → 「頭蓋内圧亢進の三徴」の所見が認められること
  • 脳神経外科学は早期癒合症の手術の目的を、頭蓋内圧亢進症状の解消と定めている
  • ゆえに精神障害の解消を目的とした早期癒合症の手術は、脳神経外科学は行わない意向を掲げている。頭蓋内圧亢進症状が現れていなければ、なおさら手術をしない。

 

第2 軽度三角頭蓋の手術の内容

こういった背景があり、後述する軽度三角頭蓋の手術は、脳神経外科学による「認可」はされておらず、「美容整形手術」として行われています。

軽度三角頭蓋の手術の内容については以下の通りです。

1 手術適用年齢

およそ学童期以前までが好ましいとのことです。

具体例をあげますと、以下の通りです。

  • 順天堂医院:2~4歳
  • 下地武義先生:基本的に9歳まで

手術適用年齢を設置している根拠については、年齢が後になればなるほど手術の効果が期待できないことを提示していますが、それに加え早期癒合症が「小児慢性特定疾患」であって、「大人の早期癒合症」については脳神経外科学が想定していないこともあるとも考えられます。

 

2 早期癒合症の手術適用条件との比較

軽度三角頭蓋の児童に対する手術は頭蓋内圧亢進症状が無くても手術ができます。こののことは、後述する下地先生による統計資料を参照すると明らかです。

 

第3 軽度三角頭蓋の手術の目的

軽度三角頭蓋の手術の目的については、早期癒合症特有の精神的症状の改善、および悪化の防止と定義づけられています

軽度三角頭蓋によって発生すると推定される精神的症状に関する資料の内容は以下の通りです。

これまでに見てきた420症例の主な臨床症状を以下に列挙します。

 
① 言葉の遅れ(407例):有意語無しから、単語のみ、2語、3語の組み合わせ、会話が不十分、に至るまで様々です。また、何度も何度も同じことを繰り返すケースや、他人の話を聞こうとしない、他人の言葉の理解に困難がある子もいます。
 
② 多動(322例):家でもずっと動き回っている状態。親が手を放すと飛んで行ってしまうので、親御さんは、特にスーパーマーケットなどでの買い物時などは大変です。また、テレビも15分と見ることができない、交通信号を待てない、信号の意味が理解できない、高いところが好きで上って飛び降りる、そうした自分の行う行為について危険性の認識の無さなどがあります。
 
自閉傾向(267例):人と目を合わせない、合いにくい、よそよそしい態度(Aloofness)、相互依存が無い、他人を気にしない(時に両親ですら)、他児と遊べない、ある物事へのこだわりが強い、などがあります。
 
④ 運動遅滞(114例):多くが筋緊張低下状態にある。歩くことができない、ふらふらする歩き方、年齢に応じた運動能力に欠けるなどが見られます。
 
自傷行為(103例):自傷行為のほとんどが頭を打ち付ける行為(head banging)です。自分の髪の毛をむしる子もおり、また、母親の腕を噛んだり、他人に頭突きをしたりする他傷行為をする子もいました。
 
⑥ パニック・いらいら(179例):自分の意志に反することが起きると床に転がり込んで、常識では考えられないくらいの長い時間泣き叫んだりしますが、周りは何で泣いているのか理解できないなどがあります。
 
睡眠障害(77例)(最近気が付いたので、この数字はもっと多い可能性があります):ベッドに入ってから寝付くまでかなりの時間を要する。深夜、ぎゃーといきなり泣き出し大騒ぎする(夜驚 Night terrors)
 
⑧ 頭蓋内圧亢進症状(20 例):頭痛を訴える子が8名、嘔吐のある子が16名いました。その他、興味ある症状として6例にひどいよだれ(drooling)が見られました。また、偏食も意外と多くの患児にありました。*2

 

 

早期癒合症特有の精神症状のひとつに対し、下地先生は自閉傾向という名辞を与えています。この言葉は自閉症スペクトラム障害とは異なる概念であると下地先生は説明しています。

 

第4 軽度三角頭蓋の手術についての否定説

まずは、軽度三角頭蓋の手術についての評価を公に提示している団体及びその意見書を紹介します。

重度の頭蓋骨早期癒合症の場合、頭蓋の拡大が制限されて脳の成長が阻害され、四肢の運動麻痺や知的障害などの神経症状が生じる可能性があります。・・・現時点で、三角頭蓋と自閉症との関連について、脳神経外科学、児童青年精神医学、小児科学などの学会で認められているとは言えません。・・・自閉症の子どもが、少しでもよくなる方法があれば試してみたいという保護者の方々のお気持ちはよくわかりますが、明確な科学的な根拠が得られるまでは、研究段階にあるものであることを充分認識する必要があります。*3

 

  • 日本児童青年精神医学会

自閉症に似た症状と三角頭蓋の関連について、科学的証明はなされていない」

*4

 

第5 軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の根拠論理

ここでは、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の根拠論理について、推定できる事柄を紹介していきます。

1 早期癒合症が精神症状を引き起こすメカニズムが未解明

軽度三角頭蓋の手術に否定的な立場をとる団体は、軽度三角頭蓋の手術をするより以前に、早期癒合症が精神症状を引き起こす病理を医学的に実証するべきであるとの意見を提示しています。

たしかに、早期癒合症との関係性が実証されていない精神症状を改善することを目的として、頭蓋骨を切る手術を行うという行為について、目的のわりにハイリスクであるというのは、的確だと評価できます。

 

2 早期癒合症の手術適用条件からの逸脱

脳神経外科学が実務上定義づけていると推定される、早期癒合症を手術するための条件とは、頭蓋内圧亢進症状が現れていることです。言い換えれば、頭蓋内圧が亢進していなかった場合、手術必要性が阻却されます。

一方、軽度三角頭蓋の手術の目的には、精神症状の改善が含められています。すなわち、頭蓋内圧が亢進していなかったとしても、美容整形手術の名目で手術を行うことが可能になります。実際、下地武義先生による先の統計資料によると、頭蓋内圧亢進症状を示しているのは、420症例中20例のみです。

下地先生が行っている軽度三角頭蓋の手術は、脳神経外科学による早期癒合症治療の意向に反していることになります。