「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)の当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。当ブログの記事における内容及び理論は無断での引用は禁止ですが、リツイート推奨(笑)。更新情報はツイッターで配信しています。(キーワード:特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)、音韻ループ、軽度三角頭蓋)

軽度三角頭蓋の治療をめぐる論争、およびその論評(改訂版) 

 

第1 批判されている軽度三角頭蓋の治療

早期癒合症の治療をめぐる論争は、「早期癒合症と発達障害との関連性が認められない」という精神医学の主張が現状優勢です。脳神経外科学は精神医学の意向に沿うかたちで、基本的には「頭蓋内圧亢進症状の解消を目的とする早期癒合症の手術」を行うことのみを公式的に認めています。

そういった状況のなかで、下地武義先生は軽度三角頭蓋の患者に対する治療を実施しています。手術の成果は良好なケースが多く、精神症状や身体症状が改善したケースが報告されています。

しかし、当然のことながらこの手術が実施されていることに対する否定的な意見は多くあり、主に日本児童青年精神医学会が、下地武義先生に対する否定的声明を公に発表しているという状況です。

 「自閉症に似た症状と三角頭蓋の関連について、科学的証明はなされていない」*1

 

「国家戦略特別区域高度医療提供事業」認定を受けて実施を予定している「小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術」に対し、医療関係団体が認定撤回を求めている*2

 過去に行われた軽度三角頭蓋の治療をめぐる論争の内容は、日本児童青年精神医学会発行の機関誌「児童青年精神医学とその近接領域」(詳細は記事末に記載)のなかで記されています。

そこで、今回の記事では、この文献から引用しながら軽度三角頭蓋の手術に対する否定説を紹介し、それに対する論評を行います。

 

第2 序論:私の立場

初めに断っておきますが、私は軽度三角頭蓋の手術を肯定する立場です。なぜなら、私自身が軽度の早期癒合症の当事者であり、併発している悪影響と早期癒合症の病理を私なりの手法で導き出しているからです。

少々雑な表現ですが、真実、あるいは絶対的正義は、軽度三角頭蓋の手術の肯定説にあります。

この論争について、日本児童成年精神医学会がすすめている、肯定派に対する「異端審問」であると私は感じました。

なぜなら、本質的な部分、例えば下地武義先生が提示している手術の有効性に関するデータを、否定説側がないがしろしている、という公平性に欠けるものであるためです。本来ならば、軽度三角頭蓋の精神症状の病理についての研究を精神医学が行うべきなのです。

しかし、先に結論を言いますと、軽度三角頭蓋の精神症状は「早期癒合症特有の精神症状」であり、精神医学が扱っている精神障害概念のいずれにも該当しません。ゆえに、精神医学は「軽度三角頭蓋の精神症状の病理が不明である」と主張する以外の術を持ちえません。

そこで、他の学問領域とのクロスオーバーの必要性を、私は提唱します。

 

第3 脳神経外科学による早期癒合症の治療方針、およびその根底理論

現在、多くの病院で早期癒合症の患者に対する形成手術が実施されています。しかし、早期癒合症であれば、必ず手術ができる、というわけではありません。

 

1 早期癒合症の診断基準

脳神経外科学が定義づける早期癒合症の診断基準に関する記述があったので引用します。

前頭縫合はほかの頭蓋骨縫合と異なり、健常児でも3か月から癒合が始まり8か月ごろまでに癒合が完成する。そのため8か月以降に認められる前頭縫合隆起のみでは病的所見とは呼べず、前頭部大脳圧迫所見、眼窩間距離短縮、眼窩の変形を伴うものが三角頭蓋と診断される。*3

特筆すべき点は、この診断基準における三角頭蓋(前頭縫合の早期癒合)扱いは特殊であることです。

ラムダ縫合や矢状縫合といった縫合とは異なり、通常の場合においても前頭縫合が癒合したときには、その存在は確認できなくなるからです。

 

2 早期癒合症治療のルール:「治療方針アルゴリズム」の存在

脳神経外科学は、早期癒合症の治療を通して培った知見をもとにして、早期癒合症(軽度三角頭蓋を含める)に対する「治療方針アルゴリズム、すなわち診断結果から治療を実施するか否かを決めるためのルールを定めています。

 

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P. 160より引用 

その内容を説明すると、以下のような流れになります。

① 外見的所見の確認:頭蓋変形が重度か、あるいは軽度か

頭蓋縫合上の骨性隆起の存在が認められた場合、頭蓋縫合早期癒合症の診断が確定される。この際、頭蓋変形が重度の場合、頭蓋拡大形成術を実施する。

一方で頭蓋変形が軽度である場合、次の②の診断に進む。

 

② 頭蓋内圧亢進症状の存否確認

眼底検査および頭蓋内圧測定術により、頭蓋内圧亢進が認められた場合、頭蓋拡大形成術を実施する。

一方で頭蓋内圧亢進が認められなかった場合は、経過観察となる。

 通常の早期癒合症は必ず頭蓋内圧亢進症状が現れており、頭蓋内圧亢進症状が併発していないケースは存在しません。 なので、「通常の早期癒合症」の治療において、治療方針アルゴリズムは根拠理論として差し支えなく機能しています。

 

3 必ずしも「早期癒合症なら治療できる」というわけではない

脳神経外科学は早期癒合症の手術の目的について、頭蓋内圧亢進症状の解消と定めています。

ここが「早期癒合症治療」の厄介な部分で、あくまで「早期癒合症の頭蓋骨に対する形成手術」は手段である、と解釈しているのです。

よって、早期癒合症の事例において、以下の条件をすべて満たしている場合に限り、手術適用性が付与されるということになります。

  • 頭蓋骨の変形という外見的特徴(軽度も可能)
  • 頭蓋内圧亢進症状の所見が認められること

 

第4 軽度三角頭蓋の治療の根拠

1 美容整形手術として実施されている軽度三角頭蓋の手術

現在、軽度三角頭蓋の手術は脳神経外科手術ではなく、「美容整形手術」の名目で行われています。もちろん、手術の内容は脳神経外科および形成外科的なものです。

軽度三角頭蓋の手術を「脳神経外科学による手術」という名目で実施できない原因は、この手術が脳神経外科学の意向に反するものであることです。

軽度三角頭蓋の手術の内容については以下の通りです。

 

① 手術適用年齢:学童期以前まで

具体例をあげますと、以下の通りです。

  • 順天堂医院:2~4歳
  • 下地武義先生:基本的に9歳まで

手術適用年齢を設置している根拠については、年齢が後になればなるほど手術の効果が期待できないことを提示しています。

それに加え「成人期の軽度三角頭蓋」の存在を想定していないことも根拠に含まれると推察できます。

 

② 早期癒合症の手術適用条件との比較

軽度三角頭蓋の児童に対する手術は、頭蓋内圧亢進症状が無くても手術が受けられます。

軽度三角頭蓋を診断、および治療についての記述は以下の通りです。

単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進と発達障害は生じないと一般的に考えられており、整容目的に正常の頭蓋と比較して異常な形態を修復する治療が行われている。しかし、最近の研究では4-20%の感じに学習障害、言語発達の遅れと行動・認知障害などが認められると報告されており、単一縫合早期癒合症に対する考え方は少しずつ変化してきている*4

 

「早期癒合の診断基準にグローバルスタンダードはなく、下地武義先生の研究に照らした基準」*5

 以下の内容は推測ですが、下地武義先生が用いている診断基準とは、前頭縫合線の早期癒合のみでも病態として認める」というものでしょう。もしそうであれば、これは脳神経外科学の意向に反したものであるといえます。

 

③ 軽度三角頭蓋の手術の目的、存在意義

軽度三角頭蓋の手術の目的について、下地一彰先生は「あくまで頭蓋内圧亢進の治療」*6と発表しています。しかし、実際には頭蓋内圧亢進症状が併発していない患者に対する減圧的頭蓋形成術も実施されています。それはおそらく、患者家族の希望ありきの手術でしょう。

もちろん、頭蓋内圧亢進が併発していない患者にほかの精神症状が発生していることを下地武義先生は突き止めています。

この精神症状を「早期癒合症特有の精神症状」と名付けるならば、軽度三角頭蓋の手術の目的は、早期癒合症特有の精神症状」の改善、および悪化の防止であるといえます。

 

④ 臨床研究としての一面を持つ

頭蓋内圧亢進症状を伴わない早期癒合症が精神症状を引き起こす病理に関する研究は現時点で存在せず、前例がありません。そこで、軽度三角頭蓋の手術例を通し、「早期癒合症特有の精神症状」についてのエビデンスを確立することを意図していると推測できます。そして、「早期癒合症特有の精神症状」の病理を実証するという目的があると思われます。

  

2 (抜粋)精神症状についての見解

パネルディスカッションのなかで下地一彰先生が論述した、軽度三角頭蓋についての見解は以下のとおりです。

言語発達の遅れなどの臨床症状がみられる患児の中に、前頭部の骨性隆起を認め、前側頭部の陥没が顕著である特徴的な頭蓋形態を呈する群が存在する*7

 

手術の際に、「窮屈な部屋を広げることで症状改善する可能性がある」「あくまで頭蓋内圧亢進の治療」と説明していると述べると同時に、脳圧の亢進は、「急激に起こると頭痛や嘔吐をきたすが、慢性的に起こると発達障害になる」*8

 軽度三角頭蓋の患者に診られる精神症状について、「精神運動発達障害」(精神発達遅滞と同義)という名称が用いられています。ほかにも下地武義先生が用いている「自閉的症状」という表現が存在します。

いずれの概念も抽象的であり、現時点の精神医学によって具体的に定義づけられている精神障害概念の名称を用いていません。

また、自閉症スペクトラム障害との関連性を否定していることは特筆すべき点でしょう。

 

第5 「早期癒合症特有の精神症状」の存在を否定する医学

「早期癒合症特有の精神症状」の存在を認めるか否かによって、「精神症状の解消を目的とする軽度三角頭蓋の手術の是非に対する考えが決まります。 

脳神経外科学や精神医学は、「頭蓋内圧亢進による精神症状」、すなわち頭蓋内圧亢進が発達障害を引き起こす可能性を肯定しています。その根拠として、通常程度の早期癒合症は頭蓋内圧亢進を発生させる原因としては十分な要素であること、そして同時に精神発達遅滞が併発しているというエビデンスより、頭蓋内圧亢進と精神症状の関連性の存在が挙げられます。ゆえに、早期癒合症の病態の解消を目的とする手術を行うことについては異論を唱えていません。

同時に、精神医学や脳神経外科学は、早期癒合症における精神症状を発生させるファクターについては、頭蓋内圧亢進以外に存在しないと考えています。言い換えると、「早期癒合症特有の精神症状」の存在を否定しています。

なので、頭蓋内圧亢進症状が併発しない症例がほとんどを占める軽度三角頭蓋については、「精神症状は存在しない」、あるいは「病理が不明」という結論を脳神経外科学及び精神医学は導き出します。

この考えから派生してできあがったのが、軽度三角頭蓋手術の否定説です。軽度三角頭蓋と精神症状の因果関係を病理学的に導き出していない段階の中で手術を実施することに対する危惧のあらわれが、否定説に共通する「理念」なのでしょう。

パネルディスカッションでは、精神医学、脳神経外科学、小児科学(小児神経科)の3種類の医学の専門家がそれぞれの観点から主張しています。それぞれ紹介していきます。

 

第6 精神医学による否定説:いずれの精神障害概念にも当てはまらない

冒頭でも記したように、パネルディスカッションを主催している日本児童青年精神医学会は、軽度三角頭蓋の手術について全面的に否定しています。

倫理委員会では、・・「臨床症状を伴う三角頭蓋」を発端に行われてきた、発達の障害を有する子供に対しての軽度三角頭蓋の外科手術について、倫理的側面から検討を加えてきた。・・当学会は、警告と見解を示してきた。*9

 宮嶋雅一先生のご発表および下地一彰先生らのご報告は、当委員会として同意できるものではない。*10

 精神医学が軽度三角頭蓋の手術に対する批判をしているのは、日本自閉症協会が、軽度三角頭蓋の精神症状に最も近いといわれている「自閉症スペクトラム障害」との関連性については否定していることです。 

重度の頭蓋骨早期癒合症の場合、頭蓋の拡大が制限されて脳の成長が阻害され、四肢の運動麻痺や知的障害などの神経症状が生じる可能性があります。・・・現時点で、三角頭蓋と自閉症との関連について、脳神経外科学、児童青年精神医学、小児科学などの学会で認められているとは言えません。・・・自閉症の子どもが、少しでもよくなる方法があれば試してみたいという保護者の方々のお気持ちはよくわかりますが、明確な科学的な根拠が得られるまでは、研究段階にあるものであることを充分認識する必要があります。*11

 まとめると、精神医学は以下のように

  

第7 脳神経外科学による否定説:治療方針のちがい 

1 (抜粋)早期癒合症の手術の目的についての見解

「早期癒合症に対する手術の目的は、頭蓋形態の改善と、頭蓋容積拡大によって脳の病的圧迫を解除すること、そして慢性的頭蓋内圧亢進による二次的脳障害を予防することである。頭蓋内圧亢進が存在すれば早期減圧が望ましい。」*12

 

「頭蓋骨縫合早期癒合症では、手術によって改善が期待できるものはあくまで頭蓋形態と頭蓋内圧亢進であり、精神発達を促すことは手術の主目的とはなりえない」*13

 

2 精神症状についての見解

上記の「二次的脳障害」とは、頭蓋内圧亢進症状の身体症状を指しています。すなわちこの概念には、下地一彰氏が主張する「発達障害」となる精神症状を含みません。

「早期癒合症が精神症状を発生させる」ことについては、早期癒合症が引き起こす頭蓋内圧亢進が精神症状を引き起こしうるということにとどまっており、頭蓋内圧亢進を引き起こしていない場合は精神症状が発生しないとみなしています。

 「単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進や発達障害は生じないという一般的な考えにより、軽度三角頭蓋の手術に対して、多くの小児科医をはじめ小児脳神経外科医においても批判的」*14

当ブログでの表現を借りれば、「早期癒合症特有の精神症状」の存在を否定しています。

 

3 手術適用条件に反する

脳神経外科学が定義づける治療方針アルゴリズムの内容を見てみますと、早期癒合症における手術適用条件に、頭蓋内圧亢進症状の存在が明記されています。反対解釈します頭蓋内圧亢進症状が現れていない場合、手術の必要性が阻却されるということになります。

軽度三角頭蓋は一部を除いたほとんどのケースで頭蓋内圧亢進症状が現れていません。下地武義先生による軽度三角頭蓋の手術は、

・美容整形手術であること

・頭蓋内圧亢進症状がなくても手術が可能であること

という特徴を持つため、脳神経外科学の意向に反することという結論に至ります。

  

4 脳神経外科学における軽度三角頭蓋の処遇

早期癒合症の「治療方針アルゴリズム」を軽度三角頭蓋に当てはめると、以下のようなプロセスを踏みます。頭蓋変形の程度は軽度であるため、頭蓋内圧亢進症状の存否を確認するプロセスが必要になります。仮に頭蓋内圧亢進症状(特に頭蓋内圧亢進の三徴)が存在していれば、手術確定になります。しかし、これが存在していない場合、手術を受けることは不可能であり、経過観察となります。

早期癒合症における精神症状の有無や、そのほかの身体症状を持っていることは、脳神経外科学による早期癒合症の治療必要性を判断するうえでは、考慮の範囲外の要素になります。

つまり、ほとんどのケースにおいて頭蓋内圧亢進症状が併発しない軽度三角頭蓋は、たとえ精神症状が現れていたとしても、脳神経外科学的には手術対象になりません。

 

第8 小児科学による否定説:臨床研究としての側面に対する言及

軽度三角頭蓋の手術は、病理が実証されていない精神症状の解消を目的とした、児童に対する臨床研究としての側面を持っています。小児科学による否定説の内容は、この部分に言及するものです。 

まず、日本小児神経外科学会の理事会が表明している、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の見解は以下の通りです。

・従来、発達障害に対する本術式の有効性は認められていない

・診断、治療効果判定、予測リスクなどの検討が極めて不十分であり、現時点では発達障害の治療として実験的治療であると言わざるを得ない。 *15

そして、以下は小児科学オリジナルの見解です。

手術自体の発達障害に対する効果、形態以上の基準、頭蓋内圧や脳血流測定と症状との関連などのいずれも明確ではない。…一般的に子供の医療行為の承諾は、親が代理で行うことが認められているが、あくまで代諾である以上、その医療行為は確立されたもの、もしくは十分な合理性のあるものでなくてはならない。もし、治療方法に合理性がなければ、子供への人権侵害に陥りかねない。*16

  

第9 (論評)軽度三角頭蓋の論争から導出される、精神医学の盲点と「情報処理障害」を扱う学問の必要性

1 精神医学は早期癒合症の精神症状を研究していない

「軽度三角頭蓋と精神症状の関係性」、および「早期癒合症特有の精神症状の存在」に関する研究を行っているのは、手術肯定派である一部の脳神経外科医のみです。一方で、病理解明を目的とした研究は、精神医学においては存在しません。存在するのは、手術肯定派に対する批判的研究ばかりです。

たしかに、軽度三角頭蓋の手術が実施されていることに対し、日本児童青年精神医学会が否定的であることについて、現時点においては反論の余地がありません。しかし、軽度三角頭蓋の手術の必要性を全否定することは、精神医学に対しても進展を与えず、病理解明という目的から遠のくばかりです。

私自身、「軽度三角頭蓋の精神症状のデータから未定義の精神障害の病理を解明するのが、医学としての精神医学の道理であるはず」と考えていた時期がありました。

しかし、現実はそうではなかったのです。「軽度三角頭蓋の精神症状」が、いわば「精神医学の盲点」をつく案件だったのです。

 

2 医学の根拠理論は旧態依然である

軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の内容は、古いと言わざるを得ません。

現時点の段階で、単一縫合早期癒合症においても精神症状が発生するとい研究結果が既に存在します(下地一彰先生側の主張より)。これに対し、脳神経外科学は「単一縫合早期癒合症が精神症状を発生しえない」という根拠理論を提示しています。そのうえ、その根拠理論の真偽について言及することはなく、「一般論」であるという根拠を提示していること。これは保守的な姿勢であるといえます。

 

3 どうすれば軽度三角頭蓋の手術が認可されるようになるか

精神医学の盲点を説明する前に、軽度三角頭蓋の手術を日本児童青年精神医学会に認めさせるためには、精神医学が定義づける精神障害概念に当てはまることを論証しなければなりません。しかし、早期癒合症を原因とする精神症状は、精神医学によって実体性をもって定義されている精神障害概念のいずれにも当てはまりません。

なので、まずはじめに「早期癒合症特有の精神症状」の存在を立証する必要があります。そこで、早期癒合症を原因とする精神症状の病理を提唱し、新たな精神障害概念として精神医学に認めさせるというステップを踏むことで、軽度三角頭蓋の手術は認可されるのではないでしょうか。

 

4 精神医学の盲点

精神医学の役割とは、精神医学で定義づけられている精神障害に関する研究や実務を行うことです。一方、定義づけられていない精神障害概念に関する現象に対しては、お手上げなのです。

精神医学が研究をしていない根拠とは、早期癒合症の精神症状が、既存の精神障害概念では説明がつかないためです。あえて軽度三角頭蓋の案件の中で精神医学ができることを挙げるならば、既存の精神医学の知見に基づく批評しかないでしょう。

現状では、脳神経外科学は早期癒合症による精神症状発症の病理を解明しているとはいえません(性質上、脳神経外科学単独では解明は不可能です)。ですので、精神医学が新たな精神障害概念を構築することは、現状においては不可能です。

以上のような根拠があるため、「精神障害」の解消を目的とする軽度三角頭蓋の手術が実施されていることについて否定的な立場をとること以外の選択肢は、精神医学には残されていません。

 

5 早期癒合症研究の理想像

① 早期癒合症の精神症状は「情報処理障害」である

精神医学で定義づけられている精神障害概念の「目録」は、もはや隙のないほど充実しています。しかし、驚くべきことに早期癒合症特有の精神症状が、精神医学が認知している精神障害概念では説明ができないという事態が発生しています。

このような事態が発生している原因について、早期癒合症の精神症状が、「情報処理障害」という新しい概念に分類されるからだと私は考えています。

精神医学は情報処理障害を扱っていません。これを扱っているのは心理学なのです。

 

② 学問の範疇を超える必要性

早期癒合症の精神症状は情報処理障害であるため、これを対処するためには心理学の知見が必要になります。

では、具体的にどのような研究形態をとればよいのでしょう。

早期癒合症特有の精神症状に関する研究は大まかに2つに分ける必要があります。まず、早期癒合症が与える脳に対する悪影響(頭蓋内圧亢進や大脳皮質の病変)に対する即物的な研究が挙げられます。これを達成するためには、脳神経外科学と神経心理学のクロスオーバーが必要となるでしょう。

次に、言語発達遅滞などの精神症状そのものの仕組みを分析するためには、音声言語医学と認知心理学のクロスオーバーが必要になるでしょう。

 

③ 早期癒合症研究がもたらすもの

軽度三角頭蓋特有の精神症状を上記の手法を用いて考察することによって、通常の早期癒合症で発生する精神運動発達遅滞の病理の解明にもつながると私は考えています。

また、病理解明が不十分であるために、精神医学が情報処理障害や「特定不能の広汎性発達障害」を放置している、という現状の改善につながるとも私は考えます。

  

第9 「早期癒合症特有の精神症状」に関する考察(記事リンク)

当ブログでは、「早期癒合症特有の精神症状」についての考察記事を配信しています。
 

参考文献

下地一彰、秋山理、木村孝興、宮嶋雅一、新井一、下地武義 「臨床症状を伴う前頭縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)の2施設コホート研究」、日本児童青年精神医学会 『児童青年精神医学とその近接領域』 第57巻 第1号、2016年 

坂後恒久「発達の障害を持つ軽度三角頭蓋の子供への外科治療の問題」、同上

井原哲「頭蓋骨縫合早期癒合症の治療と精神発達」、同上

 

リンク↓

国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online

 

*1:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*2:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*3:井原, 2016, p. 159

*4:下地, 2016, p. 152

*5:日本児童青年精神医学会, 2016, p. 152

*6:P. 152

*7:下地, 2016, p. 152

*8:日本児童青年精神医学会, 2016, p. 152

*9:同上, p. 151

*10:同上, p. 152

*11:日本自閉症協会(2015)「三角頭蓋の手術についての公式見解」

http://www.autism.or.jp/topixdata/sankaku20040921.pdf

*12:井原, 2016, p. 159

*13:同上, p. 160

*14:下地, 2016, p. 156

*15:坂後, 2016, p. 157

*16:坂後, 2016, p. 158