「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と容量性注意障害(聴覚情報処理障害)に関する当事者研究の記録です。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。

頭蓋骨縫合早期癒合症に対する現行の治療方針 / 軽度の早期癒合症(軽度三角頭蓋)を治療しない根拠と軽度三角頭蓋の外科治療(手術)の是非を問う論争

更新中です。

一般的に実施されている早期癒合症の外科治療について 

1 治療の対象年齢、および手術対象となる早期癒合症の範囲について

頭蓋骨縫合早期癒合症は遅くとも1歳までに手術を行うとされている。・・・頭蓋骨縫合早期癒合症の治療の目的は、1番目に整容であり、2番目に脳機能障害を予防するということである。*1

早期癒合症は先天性疾患です。早期癒合症の病態が中等度あるいは典型例ならば、出産時に素人でもすぐにわかるほどの外観の変容であるため、先進国であればただちに手術が施されます。

治療の目的について、脳機能障害の予防とありますが、頭蓋内圧亢進に起因する、特に脳ヘルニアが発生するまでの身体症状の予防を最重要視していると推測されます。

手術の対象については、基本的に中等度と典型例のみに限定されます。軽度の早期癒合症が手術の対象として認められていない根拠については、後に紹介します。

2 脳神経外科学が規定した「治療方針」と、経過観察と手術適用の分かれ道

現時点で脳神経外科学は早期癒合症の外科治療の目的について、頭蓋内圧亢進を解消することのみであると定義づけています。脳神経外科学は、早期癒合症の臨床研究で報告されている知見に基づいて、早期癒合症(軽度三角頭蓋を含める)に対する「治療方針」、いいかえると診断結果から治療を実施するか否かを決めるためのルールを定めています。 

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日本児童青年精神医学会 P. 160より引用 

上図で示した、治療方針にもとづく「治療決定プロセス」の内容を説明すると、以下のような流れになります。 

① 外見的所見の確認:頭蓋変形が重度か、あるいは軽度か

頭蓋縫合上の骨性隆起の存在が認められた場合、頭蓋縫合早期癒合症の診断が確定される。この際、頭蓋変形が重度の場合、頭蓋拡大形成術を実施する。一方で頭蓋変形が軽度である場合、次の②の診断に進む。

② 頭蓋内圧亢進症状の存否確認

眼底検査および頭蓋内圧測定術により、頭蓋内圧亢進が認められた場合、頭蓋拡大形成術を実施する。一方で頭蓋内圧亢進が認められなかった場合は、経過観察となる。

中等度および典型例の早期癒合症では、ほぼすべてのケースでうっ血乳頭および頭痛といった頭蓋内圧亢進症状が認められます。そのため、中等度及び典型例の早期癒合症は何の問題もなく治療対象として扱われています。

3 うっ血乳頭があらわれるほど頭蓋内圧が亢進していなければならない

治療方針のなかで記されている「頭蓋内圧亢進」という表現の解釈には注意が必要です。手術適用条件として記されている「頭蓋内圧亢進」とは、厳密に言えば「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」です。いいかえると、うっ血乳頭が、治療の必要性がもたらされる条件に該当します

頭蓋内圧亢進症状はうっ血乳頭以外にも嘔吐、頭痛、眼筋麻痺などありますが、なかでも極めて高い頭蓋内圧の数値が現れている状態が、「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」に該当します。脳神経外科学(神経生理学)の定義によると、「頭蓋内圧亢進」と判断できる数値とは「200mmH2O(およそ16mmHg」)とのことです。

上記の脳神経外科学が規定した治療方針アルゴリズムに従うと、眼底検査でうっ血乳頭が存在しないと判断された場合、頭蓋内圧測定術を行うことなく、経過観察処分を受けることになります。うっ血乳頭という厳格な条件を設定している根拠を簡単に説明すると、「ハイリスク・ローリターン」な外科治療を行うことを回避するために用いられている、「生命維持の観点」というポリシーにあります。

脳外科による手術の中では、早期癒合症の手術は脳組織内の侵襲という危険性が少ない部類ではあります。とはいうものの全身麻酔を使うほどのものであるため、患者および執刀医に相応のリスクが生まれます。手術以前に、頭蓋内圧測定術(脳組織内の脳脊髄液の圧力を直接測定する)も全身麻酔を使う手術であるため、同じくリスクが伴います。

生命維持の観点から経過観察がふさわしいと判断した疾病を抱える患者に対して、相応のリスクを伴う治療を行うことをすすめる行為は、脳神経外科学のポリシーに反するのです。以上の理由があり、頭蓋内圧測定術を行う前に、眼底検査でうっ血乳頭の有無を確認するという順序を踏むように規定されています。

4 「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」については経過観察

実は、「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」もあれば、うっ血乳頭が現れない程度の慢性頭蓋内圧亢進も存在することが分かりました。

まず、健常者の頭蓋内圧を数値化すると、10mmHg以内といったところです。これに対して、脳神経外科学が治療の必要性があると判断する数値は200mmH2O(約16mmHg)です。この二つのグループの間に位置する、グレーゾーンに該当する範囲は、脳神経外科学的に治療する必要のない頭蓋内圧亢進ということになります。

  • 健常者の頭蓋内圧値は10mmHg程度
  • 「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」:頭蓋内圧値:11~15mmHg、うっ血乳頭は出現しないと推測
  • 脳神経外科学規定の「頭蓋内圧亢進」:・頭蓋内圧値:16mmHg以上、うっ血乳頭が出現

 頭蓋内圧亢進症状には、ほかにも嘔吐や眼筋麻痺、頭痛といった症状が存在します。「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」では、これらの症状が発生している可能性が高いです。しかし、うっ血乳頭が存在するほどの頭蓋内圧の亢進ではないことから、現行の脳神経外科学に従い、経過観察処分となります。 

現行の治療方針によって経過観察対象とみなされる軽度の早期癒合症

うっ血乳頭という、治療の必要性の有無を決定づける頭蓋内圧亢進症状が存在しないけれども、たしかに頭蓋内圧亢進が存在する早期癒合症の類型は存在します。それが、軽度の早期癒合症です。

全541例 2015年まで*2

  • 言葉の遅れ    : 517例
  • 運動遅滞     : 153例
  • 多動       : 412例
  • 自閉傾向     : 342例
  • 自傷行為     : 142例
  • パニック・イライラ: 237例
  • 睡眠障害     : 132例
  • 偏食       :  73例
  • 頭痛       :   8例
  • 嘔吐       :  18例
  • 退行       : 121例

上の資料は、下地先生による臨床研究で集計された、軽度の早期癒合症の一つである、軽度三角頭蓋の患者に表れていた症状をまとめた資料です。うっ血乳頭に関しては確認できませんでしたが、頭痛や嘔吐といった頭蓋内圧亢進症状が少ないことがわかります。下地先生が外科治療を実施している「軽度三角頭蓋」における頭蓋内圧亢進症状の現れ方は、中等度以上の早期癒合症と比べると、端的に言えば「弱い」です。つまり軽度三角頭蓋の場合は、頭蓋内圧亢進がうっ血乳頭や頭痛といった重症の症状を訴える水準まで達していない症例が多いです。

先述したように、脳神経外科学が規定した治療方針の内容とは、うっ血乳頭があらわれるほどの頭蓋内圧亢進を引き起こす早期癒合症である場合に限り、治療が適用されるというものでした。すると、現行の脳神経外科学においては、頭蓋内圧亢進に起因する精神症状を引き起こしていたとしても、うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進に起因する身体症状があらわれていない軽度の早期癒合症は、治療対象として扱われないという結論が導き出されます。

軽度の早期癒合症が治療対象として脳神経外科学が扱わない根拠は、うっ血乳頭の有無だけではありません。うっ血乳頭の有無は便宜であって、それ以前に軽度の早期癒合症について治療対象として認めないという見解を、脳神経外科学が持っているといわれています。

軽度三角頭蓋は、整容的な手術の必要が無いこと、症状(頭蓋内圧亢進に起因する)の発現がないとされてきたことがこれまでの常識である。*3

単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進と発達障害は生じないと一般的に考えられており、整容目的に正常の頭蓋と比較して異常な形態を修復する治療が行われている。*4

他の頭蓋内圧亢進症状(頭痛、眼筋麻痺、嘔吐)があったとしても、うっ血乳頭があらわれていない場合、「うっ血乳頭があらわれるほどの頭蓋内圧亢進」どころか、頭蓋内圧亢進そのものの存在を全否定しているのです。こうした脳神経外科学の見解に基づいて、軽度の早期癒合症は手術適用性が阻却されます。

(執筆中・リンク先記事作成中)「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」の概要

 

「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」を批判する医学

下地武義先生による軽度三角頭蓋の患者に対する外科治療は、成果を残しており、精神症状や身体症状が改善したケースが報告されています。

しかし、この手術が実施されていることに対する否定的な意見は多くあり、主に日本児童青年精神医学会が、下地武義先生に対する否定的声明を公に発表しているという状況です。

「国家戦略特別区域高度医療提供事業」認定を受けて実施を予定している「小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術」に対し、医療関係団体が認定撤回を求めている*5

 過去に行われた軽度三角頭蓋の治療をめぐる論争の内容は、日本児童青年精神医学会発行の機関誌「児童青年精神医学とその近接領域」(詳細は記事末に記載)のなかで記されています。

パネルディスカッションの中では精神医学、脳神経外科学、小児科学(小児神経科)が、それぞれ異なる内容の「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」の否定的見解を提示しています。 

1 精神医学からの批判:いずれの精神障害概念にも当てはまらない

冒頭でも記したように、パネルディスカッションを主催している日本児童青年精神医学会は、軽度三角頭蓋の手術について全面的に否定しています。

倫理委員会では、・・「臨床症状を伴う三角頭蓋」を発端に行われてきた、発達の障害を有する子供に対しての軽度三角頭蓋の外科手術について、倫理的側面から検討を加えてきた。・・当学会は、警告と見解を示してきた。*6

 宮嶋雅一先生のご発表および下地一彰先生らのご報告は、当委員会として同意できるものではない。*7

精神医学が上記の内容のように軽度三角頭蓋の手術に対する批判をしている背景にはは、日本自閉症協会が、軽度三角頭蓋の精神症状と「自閉症スペクトラム障害」との関連性について否定していることが挙げられます。 

重度の頭蓋骨早期癒合症の場合、頭蓋の拡大が制限されて脳の成長が阻害され、四肢の運動麻痺や知的障害などの神経症状が生じる可能性があります。・・・現時点で、三角頭蓋と自閉症との関連について、脳神経外科学、児童青年精神医学、小児科学などの学会で認められているとは言えません。・・・自閉症の子どもが、少しでもよくなる方法があれば試してみたいという保護者の方々のお気持ちはよくわかりますが、明確な科学的な根拠が得られるまでは、研究段階にあるものであることを充分認識する必要があります。*8

 「自閉症に似た症状と三角頭蓋の関連について、科学的証明はなされていない」*9

2 脳神経外科学からの批判:治療方針からの逸脱

早期癒合症の診断に関する基準が述べられています。 

前頭縫合はほかの頭蓋骨縫合と異なり、健常児でも3か月から癒合が始まり8か月ごろまでに癒合が完成する。そのため8か月以降に認められる前頭縫合隆起のみでは病的所見とは呼べず、前頭部大脳圧迫所見、眼窩間距離短縮、眼窩の変形を伴うものが三角頭蓋と診断される。*10

 次に、脳神経外科学規定の早期癒合症に対する治療方針を紹介したうえで、

「早期癒合症に対する手術の目的は、頭蓋形態の改善と、頭蓋容積拡大によって脳の病的圧迫を解除すること、そして慢性的頭蓋内圧亢進による二次的脳障害を予防することである。頭蓋内圧亢進が存在すれば早期減圧が望ましい。」*11

「頭蓋骨縫合早期癒合症では、手術によって改善が期待できるものはあくまで頭蓋形態と頭蓋内圧亢進であり、精神発達を促すことは手術の主目的とはなりえない」*12

上記の「二次的脳障害」とは、頭蓋内圧亢進症状の身体症状を指しています。すなわちこの概念には、下地一彰氏が主張する「発達障害」となる精神症状を含みません。

「早期癒合症が精神症状を発生させる」ことについては、早期癒合症が引き起こす頭蓋内圧亢進が精神症状を引き起こしうるということにとどまっており、頭蓋内圧亢進を引き起こしていない場合は精神症状が発生しないとみなしています。

 「単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進や発達障害は生じないという一般的な考えにより、軽度三角頭蓋の手術に対して、多くの小児科医をはじめ小児脳神経外科医においても批判的」*13

3 小児科学からの批判:臨床研究が行われていることに対する言及

軽度三角頭蓋の手術は、患児に対する臨床研究としての側面を持っています。小児科学による否定説の内容は、この部分に言及するものです。 

まず、日本小児神経外科学会の理事会が表明している、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の見解は以下の通りです。

・従来、発達障害に対する本術式の有効性は認められていない

・診断、治療効果判定、予測リスクなどの検討が極めて不十分であり、現時点では発達障害の治療として実験的治療であると言わざるを得ない。 *14

そして、外科治療の手術適応条件といった実体的な部分ではない、手続上の問題点の存在を以下のように指摘しています。

手術自体の発達障害に対する効果、形態以上の基準、頭蓋内圧や脳血流測定と症状との関連などのいずれも明確ではない。…一般的に子供の医療行為の承諾は、親が代理で行うことが認められているが、あくまで代諾である以上、その医療行為は確立されたもの、もしくは十分な合理性のあるものでなくてはならない。もし、治療方法に合理性がなければ、子供への人権侵害に陥りかねない。*15

(執筆中)論争に対する論考① うっ血乳頭の扱いを見直すべき

 

論争に対する論考② 現行の早期癒合症の治療方針を見直すべき 

ほかの頭蓋内圧亢進症状があったとしても、うっ血乳頭が存在しない場合においては治療しないと結論付ける脳神経外科学の治療方針アルゴリズムは、精緻性を欠くと言わざるを得ないと私は考えます。

早期癒合症の治療方針においては治療を受け入れられない軽度三角頭蓋に対する外科治療が、下地武義先生をはじめとして行われています。下地先生による手術は、他の研究では指摘されていない症状を含めて、早期癒合症に起因する症状を改善するという実績を残しています。現在も下地先生による軽度三角頭蓋の外科治療について、賛否両論があります。

軽度三角頭蓋の手術が「生命維持の観点」という脳神経外科学のポリシーに反する外科治療であると脳神経外科学が主張するならば、代替治療を脳神経外科学以外の医学が担当すればよいのでしょう。しかし、代替医療でどうにかなるような治療ではありませんことは、だれが考えてもわかることです。 

早期癒合症に対する治療方針のないようがが現状維持となると、どのようなことが起きるでしょう。うっ血乳頭以外の頭蓋内圧亢進に起因する身体症状および精神症状があらわれている、軽度の早期癒合症(軽度三角頭蓋)を抱える児童は多くいます。すると、彼らの治療の機会が奪われることになります。彼らが治療の機会を得ないまま放置されるという最悪のシナリオを絶対に阻止しなければなりません。

論争に対する論考③ 精神医学には反証の研究が不可能

少々雑な表現ですが、真実、あるいは絶対的正義は、軽度三角頭蓋の手術の肯定説にあります。しかし、この論争について私が感じたこととは、まるで肯定派に対する「異端審問」であるということです。

なぜなら、否定説側が本質的な部分、例えば下地武義先生が提示している手術の有効性に関するデータを一切検証することなく、無視するという態度を示しているためです。本来ならば、軽度三角頭蓋の精神症状の病理についての研究を精神医学が行うべきなのです。

また、下地先生が軽度三角頭蓋の精神症状として報告している精神症状は、おそらく精神医学ではピックアップされていない疾患です。言い換えれば、精神医学は、神経心理学などの脳科学より遅れている学問です。ゆえに、精神医学は「軽度三角頭蓋の精神症状の病理が不明である」と主張する以外の手段を講ずることができないといえます。

神経心理学認知心理学の動向を把握していれば、下地先生が報告している、精神症状の病理に関する考察の価値を見出すことができると確信しています。 

参考文献

「倫理委員会パネルディスカッション 発達の障害を有する子どもへの軽度三角頭蓋の外科治療と臨床研究の倫理」、日本児童青年精神医学会 『児童青年精神医学とその近接領域』 第57巻 第1号、2016年  

リンク↓

国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online

 下地武義 「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子達に未来はある」、諏訪書房、2018年6月初版発行

*1:下地 p.26

*2:下地 P. 94

*3:下地 P.26

*4:日本児童青年精神医学会, 2016, p. 152

*5:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*6:同上, p. 151

*7:同上, p. 152

*8:日本自閉症協会(2015)「三角頭蓋の手術についての公式見解」

http://www.autism.or.jp/topixdata/sankaku20040921.pdf

*9:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*10:井原, 2016, p. 159

*11:井原, 2016, p. 159

*12:同上, p. 160

*13:下地, 2016, p. 156

*14:坂後, 2016, p. 157

*15:坂後, 2016, p. 158