「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と容量性注意障害に関する当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(他キーワード:特異的言語発達障害、軽度三角頭蓋)

軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症を抱える成人当事者に対する手術の必要性、有効性についての考察 / 早期癒合症の治療における手術対象年齢制限の根拠

下地武義先生の新著に関する情報、および、早期癒合症手術の年齢制限、成人当事者に対する早期癒合症手術の効果についての考察しました。

キーワード:下地武義、軽度三角頭蓋、神経心理学、スキャモンの発育曲線、 大脳皮質

 

下地武義先生の著書「三角頭蓋奮闘記 (あきらめない この子たちに未来はある)」に関する情報

頭蓋縫合早期癒合症および軽度三角頭蓋にかかわる方々は見逃せないでしょう!

下地武義先生による新著が、発刊されました。その内容は肝心の軽度三角頭蓋やそれの手術に関するものになっているようです。

三角頭蓋奮闘記 (あきらめない この子たちに未来はある)

三角頭蓋奮闘記 (あきらめない この子たちに未来はある)

私はまだ読んでいないので、感想レポートは別の機会で紹介します。

私が気になったのは、この書籍の「推薦の弁」です。

本書「推薦の弁」より、子どもの発達障害で悩んでいる方々は一読される価値がある。希望が出てくるかも知れない。しかし、子どもが成長した後で読まれた方は悔いるかもしれない。もう少し早く知っていたら……と。*1

 上の「……」には、一体どんな言葉が入るのでしょう?

 

 国内における早期癒合症治療の事情

1 日本は早期癒合症医療では世界一かもしれない

頭蓋骨縫合早期癒合症は、国内の医学においては「小児慢性特定疾病」として扱われています。日本だけに限らず、国際的にも手術は児童の間で行われております。

私見ですが、実は日本は、早期癒合症医療においては「世界一」になりつつあります。その根拠とは、早期癒合症手術の安全性は当然のこと、下地武義先生が行っている軽度三角頭蓋の手術が日本だけでしか行われていない、というアドバンテージが存在することにあります。

 

2 軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の存在

しかし、「世界一」になるためには課題が存在します。

まず一つ目に挙げられるのが、医学のなかでは軽度三角頭蓋の手術に対する否定的見解が存在することです。 

ここで問題なのは、医学が保守的な学問であることです。たしかに否定説の理論は論理的に整合性が確保されています。しかし、否定的見解の根拠理論となっている精神医学および脳神経外科学の知見は、神経心理学から見ると古いものです。

これに対し、精神医学の知識を形成する学問に該当する神経心理学の知見から見ると、軽度三角頭蓋の手術は正当なものであると評価できます。

 

 3 成人当事者に関するエビデンスが存在しない

そしてもう一つは、成人当事者に対する治療のエビデンスが未確立であることです。

実際には私のような早期癒合症の「成人当事者」はほかにも一定数存在しているのですが、これまでに成人当事者であることを自覚した人物が存在していないこともあいまって、日本国内で成人当事者に関するデータは、2018年現在においても存在しません。

ちなみに当ブログでは成人当事者である私が抱えている症状に関する情報を紹介しています。

 

4 手術対象の年齢制限が設定されている

そのうえ、早期癒合症の手術は年齢制限が設定されています。

このことは軽度三角頭蓋の手術においても同様のことが言えます。実際、下地武義先生は軽度三角頭蓋の手術の対象年齢についてを、学童期に限定しています。

 

なぜ手術の対象年齢に制限が設けられているか?

1 神経心理学の一般認識

神経心理学の一般認識として挙げられるのが、「スキャモンの発育曲線」です。

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その内容とは、「脳内の神経細胞の発達は、幼少期がピークであり、年を重ねるにつれて神経発達の「勢い」が緩やかになる」というものです。

この理論に従うと、神経発達を妨げている問題が存在する場合は、「幼少期の間に問題を解消しなければ、脳内の神経発達に悪影響が残る」という結論を導き出されます。

  

2 脳神経外科学の一般認識

脳神経外科学の一般認識の論理構造は以下の通りです。

  • 早期癒合症は頭蓋内圧亢進を引き起こす。
  • 頭蓋内圧亢進は、大脳辺縁系の神経発達に悪影響を与える。
  • よって、早期癒合症の精神症状は、頭蓋内圧亢進が引き起こした、大脳辺縁系の機能低下である。

     

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3 結論:「推薦の弁」の続きの部分

脳神経外科学の一般認識と、先の神経心理学の一般認識を掛け合わせると、早期癒合症由来の精神症状を解消するための手術は幼少期に行われなければならない、ということになります。

逆のことを言えば、成年以降に行っても効果がないという理論が形成されます

冒頭のテーマに戻りましょう。下地先生の著書の「推薦の弁」の続きの部分が、おわかりいただけかと思います。

つまり、頭蓋内圧亢進による精神運動発達遅滞が引き起こされているような、通常程度の早期癒合症の場合では、幼少期に手術を行わなければ、大脳辺縁系の神経発達」という面に限れば、徐々に効果が薄くなるということです。

しかし、全く無意味というわけではありません。

頭蓋内圧亢進による身体症状については、幼少期でなくても手術をしなくても解消するべき問題であることは当然のことです。そのうえ、後述する「早期癒合症特有の精神症状」については、この限りではないと私は考えています。

 

頭蓋内圧亢進症状ではない「早期癒合症特有の精神症状」

しかし、軽度三角頭蓋の症例で多く報告されている症状の原因は、頭蓋内圧亢進による辺縁系機能の低下によって引き起こされる神経発達障害ではなく大脳皮質の機能低下であると私は考えています。

大脳皮質由来の精神症状は、上記の神経心理学の一般認識は適用されません。なぜなら、神経発達とは異なる問題だからです。

この精神症状については「早期癒合症特有の精神症状」と名称を用いながら詳細を別の記事で紹介しているのでご覧ください。 

 

成人に対する手術の有効性

早期癒合症に対する減圧開頭術の効果は、文字通り頭蓋内圧亢進の解消に役立つといわれています。しかし、これは脳中心部の髄液圧を低下させるだけでなく、「大脳皮質への圧迫」という病態の解消も伴います。クモ膜下腔およびクモ膜下槽の容積が拡張されることで、「早期癒合症特有の精神症状」も解消できることは明白です。 

先ほど提示した神経心理学の一般認識は、「早期癒合症特有の精神症状」の原因となっている大脳皮質に当てはめるべきではありません。すなわち、成年期以降でも大脳皮質の機能低下を回復させることは十分に可能です。なぜなら、「十分に神経発達している大脳皮質」の機能を低下させているのが早期癒合症だからです。

 

成人患者に対する手術が行われるべき理由

早期癒合症の成人患者に対し、開頭減圧術を行うべき根拠は、病理学的根拠だけではありません。現行の軽度三角頭蓋の手術に対する否定説を一つ退けることが可能になります。

 

1 小児科学による軽度三角頭蓋の手術の否定説の根拠

実は軽度三角頭蓋の手術は、医学的には認められていないため、「美容整形手術」として行われていることは、「軽度三角頭蓋の手術をめぐる論争」の記事で紹介した通りです。

軽度三角頭蓋の手術に対する否定説は、様々な種類の医学関係者から上がっています。そのうちの一つである小児科学の否定説の内容は、軽度三角頭蓋の手術の対象年齢が幼年であることに対する批判です。詳細については以下の記事をご覧ください。

 

2 成人患者に対する臨床研究ならば問題ない

臨床研究としての性格を持つ軽度三角頭蓋の手術を、成人患者に対して行うようにすれば、少なくとも小児科学の否定説を退けられます。なぜなら、患児に対する場合とは異なり、手術の承諾を成人患者本人に求めることが可能だからです。

軽度三角頭蓋であれば、精神発達遅滞ではないケースが多いので、制限行為能力者ではないので、承諾を求めることが可能です。患者本人にとっても強い希望になること、そして下地武義先生にとっても臨床研究のデータを集めることが可能になるので、成人当事者に対する開頭減圧術の施行は、患者と研究者の利害が一致するのです。

 

成人患者に対する手術の実現を阻む要因:術式が未確立

成人に対する軽度三角頭蓋の手術が仮に行われたとしましょう。そのためにはそれなりの準備が必要になるでしょう。

最も懸念すべきことは、手術の手法が確立されていないことです。

現在存在する早期癒合症の手術の手法は既存の頭蓋骨を使ったものですが、それは患者が成長期であることが術式の有効性を形成しています。

それに対して、成人の頭蓋骨の場合は癒合が終了しているため、患児に対する手術が有効的であるとはいえません。

早期癒合症は小児慢性特定疾病として認知されてきたものですので、成人に対する手術が行われたことがないという事実が、術式の未確立の要因になっているのでしょう。

ただ、現在は頭蓋骨のインプラント技術があるので、手術が実現不可能というわけではないということは、確実に言えます。

*1:アマゾンでの商品詳細ページより引用