「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と容量性注意障害(聴覚情報処理障害)に関する当事者研究の記録です。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。

軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症の当事者に対する手術の効果についての考察 / 早期癒合症の治療における手術対象年齢制限の根拠

今回の記事の目的は以下の通りです。

  • 下地武義先生の新著に関する情報の紹介
  • 早期癒合症手術で設定されている年齢制限の根拠の紹介
  • 成人当事者に対する早期癒合症手術の効果の検証
  • 軽度三角頭蓋の外科治療に神経発達理論を適用することに対する問題提起

キーワード:軽度三角頭蓋、発達心理学、スキャモンの発育曲線、大脳皮質、容量性注意障害、高次脳機能障害

下地武義先生の著書「三角頭蓋奮闘記 (あきらめない この子たちに未来はある)」に関する情報

頭蓋縫合早期癒合症および軽度三角頭蓋にかかわる方々は見逃せません!

下地武義先生による新著が、発刊されました。その内容は肝心の軽度三角頭蓋やそれの手術に関するものになっているようです。

私はまだ読んでいないので、感想レポートは別の機会で紹介します。

私が気になったのは、この書籍の「推薦の弁」のひとつに、以下のような文章がありました。

子どもの発達障害で悩んでいる方々は一読される価値があります。希望が出てくるかも知れない。しかし、子どもが成長した後で読まれた方は悔いるかもしれません。もう少し早く知っていたら……と。*1

外科治療の対象年齢は制限されている

早期癒合症は小児慢性特定疾病として認知されています。現時点では、児童に対する手術のみが行われており、成人に対する手術例が存在しません。というのも、脳神経外科学によって規定されている早期癒合症の治療方針において、手術に年齢制限が設定されているためです。 

このことは軽度三角頭蓋の外科治療においても同様で、手術適応年齢に制限が設定されています(2018年現在)。具体的には、軽度三角頭蓋の手術の対象年齢を9歳*2までに設定されています。

「年齢制限」の根拠:自閉症スペクトラム障害発育曲線(発達心理学

早期癒合症の外科治療の手術適応年齢の制限について、小児慢性特定疾患だから、手術適応年齢が制限されているという論理ではありません。

臨床研究で結論づけられた、早期癒合症の精神症状発症のメカニズムは、以下の通りです。

  • 早期癒合症の頭蓋骨の狭小化は、脳組織を圧迫、頭蓋内圧亢進を引き起こす。
  • 頭蓋内圧亢進は、大脳辺縁系の神経発達に悪影響を与える。
  • 早期癒合症の精神症状である精神運動発達遅滞は、頭蓋内圧亢進が引き起こした、大脳辺縁系の機能低下である。

そして、精神運動発達遅滞の原因となっている早期癒合症の治療の時期の根拠として、発達心理学の「スキャモンの発育曲線」の内容を紹介します。

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その内容とは、「脳内の神経細胞の発達は、幼少期がピークであり、年を重ねるにつれて神経発達の「勢い」が緩やかになる」というものです。

早期癒合症の臨床研究では、その精神症状は大脳辺縁系の機能低下および神経発達障害である精神運動発達遅滞と結論付けられています。この理論に従うと、幼少期の間に早期癒合症の病態を解消しなければ、脳内の神経発達に悪影響が残る」という結論を導き出されることになります。

逆のことを言えば、成人以降に手術を行っても効果がないという見解が形成されますつまり、頭蓋内圧亢進による精神運動発達遅滞が引き起こされているような、通常程度の早期癒合症の場合では、幼少期に手術を行わなければ、大脳辺縁系の神経発達」という面に限れば、徐々に効果が薄くなるということです。

(執筆中)早期癒合症によるミラーニューロン圧迫に起因する自閉症的精神症状(自閉症スペクトラム障害全般ではない / つまり外因性精神障害自閉症スペクトラム障害

 

年齢制限の問題点

1 精神医学および脳神経外科学は、「大脳皮質の機能低下」を無視している

物理的な観点から想像すると、早期癒合症によって狭小化した頭蓋骨に圧迫されて機能低下を引き起こしている脳部位は、大脳辺縁系だけであるわけがありません。実際、私の症例において認められることですが、圧迫された大脳皮質の機能低下に起因する容量性注意障害も存在することは間違いありません。

軽度三角頭蓋の症例で多く報告されている症状の原因は、大脳皮質の機能低下による容量性注意障害であって、頭蓋内圧亢進による辺縁系機能の低下によって引き起こされる神経発達障害ではないと私は考えています。

早期癒合症と大脳辺縁系の神経発達障害の関係に関する言及は、先行研究で多く存在しています。その一方で、2018年現在において、所属する学会大会のなかで当方が発表した当事者研究以外に、大脳皮質の機能低下と早期癒合症の関係に言及した先行研究は存在していません。

2 臨床研究の不十分性

一般的な脳神経外科学による臨床研究では、大脳辺縁系の機能低下のみに焦点が当てられているわけです。大脳辺縁系については、脳の可塑性や神経発達理論に基づいて、成人に対する手術の予後が不良であることを予測しています。

しかし、大脳皮質の機能低下については言及されていないため、手術で効果に関する情報が収集できていないのです。

成人当事者に対する手術の効果に関する研究(というより、成人に対する手術そのもの)は、これまでに行われたことがありません。このような状況下で、成人当事者の手術の効果を全否定する脳神経外科学の姿勢は、成人当事者の治療実績というエビデンスが存在していないという点で根拠に乏しく、早計であると評価せざるを得ません。

「成人当事者に対する手術」は小児医学からの否定的見解を退けられる

早期癒合症の成人患者に対し、開頭減圧術を行うべき根拠は、病理学的根拠だけではありません。軽度三角頭蓋の手術に対する否定説を一つ退けることが可能になります。

現在、軽度三角頭蓋の手術は「美容整形手術」として行われておりますが、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説は、様々な科目の医学関係者から上がっています。そのうちの一つである小児科学の否定説の内容は、軽度三角頭蓋の手術の対象年齢が幼年であることに対する批判です。詳細は以下の「軽度三角頭蓋の手術をめぐる論争」の記事をご覧ください。

臨床研究としての性格を持つ軽度三角頭蓋の手術を、成人患者に対して行うようにすれば、少なくとも小児科学の否定説を退けられます。なぜなら、患児に対する場合とは異なり、手術の承諾を成人患者本人に求めることが可能だからです。

軽度三角頭蓋であれば、精神運動発達遅滞ではないケースが多いので、制限行為能力者ではないので、承諾を求めることが可能です。患者本人にとっても強い希望になること、そして下地武義先生にとっても臨床研究のデータを集めることが可能になるので、成人当事者に対する開頭減圧術の施行は、患者と研究者の利害が一致するのです。

早期癒合症に起因する容量性注意障害は、高次脳機能障害である

上記の記事リンクで紹介しているように、「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」は、残念ながら、各方面の医学関係者から正当性がないと評価されてしまっているのが現状です。

しかし、もし、成人当事者に対し手術を施すという内容の臨床研究を行い、容量性注意障害の解消という効果を実証したならば、患児に対する手術の正当性を確保することが可能になります。早期癒合症に起因する容量性注意障害、およびこれの解消効果を持つ早期癒合症の手術に、神経発達理論を当てはめるという論理そのものが誤っていると私は考えています。

通常の早期癒合症で見られる精神運動発達遅滞の場合、その手術は大脳辺縁系の神経発達障害の解消と神経発達を促すという目的を持つため、これに神経発達理論を当てはめて、神経発達の予後という観点から年齢制限を設けることは正しいです。

一方の、軽度の早期癒合症(軽度三角頭蓋)で見られる容量性注意障害は、脳の損傷ともいうべきものであり高次脳機能障害です。容量性注意障害の解消という効果のみに焦点を当てた場合、通常の早期癒合症においても年齢制限をかけることは不適切といえます。

軽度三角頭蓋の患者に対する外科治療において年齢制限を設定することは、容量性注意障害の解消効果を持つ手術としての意義を失うことにつながりかねないといえます。

結論

  • 軽度の早期癒合症でみられる精神症状のひとつである容量性注意障害は、脳組織への圧迫に起因する高次脳機能障害である。
  • 軽度三角頭蓋の外科治療は、容量性注意障害の解消効果を持つ。
  • 神経発達理論を根拠に、軽度三角頭蓋の外科治療に年齢制限を設けることは、不当である。
  • 成人当事者に対する早期癒合症の外科治療は、精神症状のうち、容量性注意障害の解消という効果を実現できる可能性は、十分に存在する。
  • 「成人当事者に対する外科治療」という内容の臨床研究を実施し、容量性注意障害の解消効果を確認することで、「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」の正当性を実証可能になる。

*1:下地武義 三角頭蓋奮闘記, 諏訪書房, 2018, P. 198 (元立正大学心理学部教授 柿谷正期氏による推薦の弁)

*2:

www.geocities.jp