当事者研究ブログ「大人の頭蓋骨縫合早期癒合症」

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)に関する当事者研究の記録です。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係、デフォルトモードネットワークの機能について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

音読に意味がないのか?音読で必ずしも文章理解できるとは限らない

学業の本質である読解は、マルチタスク

学童期は、勉強に集中することをこれから学ぼうという時期です。子供にとって、課題に着手することと、それへの集中を維持することは難しいことです。

当然のことながら、子供がすべてのことに集中できないわけではありません。まず、ごっこ遊びや運動、ビデオゲームといった短期的に快楽を獲得できる手段は、好きなことに該当します。そのためこれらに対して集中することは容易です。

これに対して、学業に存在するほとんどの科目は、二重課題の形式を持ちます。二重課題は、認知心理学の実験で扱われる課題の一つであり、実行機能全般、なかでもワーキングメモリ(オリジナル表現で言い換えると「脳内マルチタスク機能」)を使用しなければ、正解にたどり着けません。

ただし、全ての学業が二重課題ではありません。一問一答形式(クイズ形式、言語名称目録観的)での勉強を達成するためには、ワーキングメモリの重要度は低くなります(実行機能は必要ですが)。そのため、クイズ形式は子供にとって優しい手段です。

余談ですが、 実行機能とワーキングメモリの違いについては、以下の記事で紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

読解力の重要性、比重のおおきさ

成人にとっても、学業は平気でできることではありません。やはり、それなりの覚悟と努力がなければ長続きしません。ざっくり言いますと、物事(課題実行)を達成するために必要な、「努力」という無意識の脳活動を、神経発達が著しい学童期のうちに習得してもらうというのが、学校教育の目的です。

その目的を実現するために便利な手段が読解です。これが学業における基本です。

文系科目では、まず言語科目が読解自体の成績が反映されます。ボキャブラリーや文法はあくまでもその基礎にすぎません。難易度の高い学校の入学試験では、読解問題の比重が大きくなります。そして、問題で読解させる文章の主題が難しいことや文章が長くなりますが、最も注目するべき要素は、一文あたりの統語構造の複雑性です。重文や複文が増えてきます。

すると、ワーキングメモリに負荷をかける二重課題を実行する頻度が高くなります。ゆえに、実行機能全般を運用する能力が必要不可欠になります。

理系科目においても同様です。試験では「数学的思考」が求められるので読解はほぼ必要ありませんが、教科書を読んだり先生の話を聞いたりするうえで読解力が必要になります。よって、直接ではないものの、間接的に読解力が理系科目の成績に関与するといえます。

言語教育における音読の目的

「読み」の実践を確認するため

現代文などの言語系科目では、授業で必ず先生は生徒に音読をさせます。この教育手法を採用している根拠は二つあります。まず一つ目の目的は、音読行為が読むことに対して否かを客観的に確認できる手段だからです。

読む行為には、音読と黙読の2種類が存在します。黙読では文章を読んでいる当人は声に出していないので、客観的に読んでいるかどうかがわかりません。一方で、音読のほうは、読んでいる内容を声に出すことで読んでいることを対外的にわかるという点で、客観的に読んでいることを確認できる手段です。

音読の効果:二重課題の強制手段

対外的に読んでいることを確認できるという教員にとっての便宜、実務的なメリットとは別に、音読は、読む当人にとっても読む行為への集中力を高めるための良い手段になります。

そこで、読む行為に対する注意制御を促進させるために生徒に対し指導するメソッドが、音読教育です。「読めば必ず理解できる」という言語教育の理念の根拠を提言三段論法形式で表すと、以下の通りになります。

・音読をすると、読む行為に対する集中力が高くなる。

・読む行為に対する集中力が高ければ、読解ができる。

・ゆえに、音読ができるならば、読解ができる 

上の命題に従うと、制度の低い音読がされている場合は、読みに対する注意制御が実行されていないと判断できます。逆に、円滑に音読されている場合は、理解するために読むという注意制御が十分に実行されていると判断できます。

「音読」と「読解」は別々の認知(情報処理)である

先に持論を紹介すると、上の音読教育を構成する根拠のうち、「読む行為に対する集中力が高ければ、読解ができる」という命題について、必ずしもそうであるとはいえないと私は考えています。

まず、音読で読解できるを紹介すると、音読で実行機能の運用を強制させます。しかし、音読と読解は別の認知プロセスです。ここではそれぞれの認知プロセスの内容を紹介します。

音読は入力処理と出力処理を含みます。はじめに文字をワーキングメモリに貯蔵します。次に言語中枢が聴覚言語情報に変換したのちに、その音声を出力するという行為です。

入力:視覚言語情報(文字)

変換:視覚言語情報(文字) → 聴覚言語情報(音声)

出力:聴覚言語情報(音声)

読解(文章理解)は、純粋な入力処理です。ワーキングメモリに貯蔵された文字は、言語中枢によって意味情報に変換処理される、というプロセスで構成されています。

入力:視覚言語情報(文字)

変換:視覚言語情報(文字) → 意味情報

出力:なし

音読と読解には「視覚言語情報を入力する」という共通点があります。この入力処理に対して注意制御を実行するには、実行機能が必要です。

読解に必要不可欠なワーキングメモリ

一方、音読と読解には、決定的な違いがあります。それは短期記憶の保持の必要性の有無です。

音読にも厳密には短期記憶の保持が使われていますが、詳細は後述しますが、保持に神経を注ぐ必要はありません。これに対して、読解のほうは短期記憶の保持が必要な場面が発生することが頻繁に発生します。

言い換えると、音読にはワーキングメモリをさほど使用しませんが、読解にはワーキングメモリを酷使する場面がたくさん発生します。

ワーキングメモリは実行機能の一部に含まれる機能であり、脳内で複数の情報を保持するという、オリジナルの表現で言い換えれば、「脳内マルチタスク機能」に該当します。ワーキングメモリの詳細は以下の記事で紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

ワーキングメモリの必要性の有無が異なってくる背景を証明するために、以下思考実験をしてみました。

音読の発声にワーキングメモリは不要

音読は、次に読み上げる文字の記憶を目でスキャンすることと発声で構成されるマルチタスクです。純粋に読み上げるだけの行為なので、過去に読み上げた「句」を保持する必要はありません。

句を音読している際における注意の焦点(ワーキングメモリ)は、次に変換するべき句の視覚言語情報を入力することです。音読における情報処理の仕組みは以下の通りです。 

----(句の入力)----

① 貯蔵

視覚言語情報をへ貯蔵。

② 変換

貯蔵した視覚言語情報を「聴覚言語情報」に変換。

----(句の入力)----

③ 貯蔵

④ 変換

----(句の入力)----

⑤ 貯蔵 

このことから音読とは、「単独の情報処理によって達成可能な認知行為の繰り返し」であるといえます。これを達成するためには、注意の焦点は1チャンクで十分であり、複数の情報の保持は必要ありません。言い換えると、音読のみであれば実行機能は必要ですが、ワーキングメモリは不要です。

読解(黙読の目的)時のワーキングメモリの役割

ワーキングメモリが不要な単文の読解

一方の読解は、実行機能は当然のことながら、ワーキングメモリも必要不可欠になる場合が多くあります。ただ、ワーキングメモリが不要である場合もあります。

まず、読解で意味情報を変換する際の基本単位は句です。しかし、文の意味理解するためには、文を構成する全ての句の意味情報が「脳内」にそろっていなければなりません。

私の主観ですが、「単文」といわれる形態の文であれば、句を保持する役割をワーキングメモリが担う必要がないようです。どうやら、単文としての意味を理解する際、一つ一つの句の意味情報を統合して文の意味情報を創出する手続きが、脳内で行われているようです。

一つの文の意味を理解したとき新たな文が現れたときも同様です。文の意味情報の保持を担う機能は、短期記憶から長期記憶の変換するために必要な実行機能です。

私の経験則で導き出した内容ですが、ワーキングメモリを使わなくても読解できる単文の条件を以下のようにまとめてみました。

  • 主語と文の主要部(述語)との間の距離が短い
  • 修飾節が短いこと

単文に加えて、単文で構成される重文も、ワーキングメモリは不要であると私は考えます。

ワーキングメモリを酷使する複文の読解

一方、複雑な統語構造を持つ文を理解するためには、文として成立していない句の意味情報を短期記憶として保持する必要があります。これを実現するためにはワーキングメモリによる「注意の焦点」が十分に備わっていなければなりません。

複雑な統語構造を持つ文とは、複文に該当します。ワーキングメモリを酷使する複文の条件を、以下のようにまとめてみました。

  • 主節と主要部との間の距離が長い
  • 長く複雑な形容詞節が含まれている

読みに集中しても読解できるとは限らない

ここまでの内容をまとめます。

音読の効果は、実行機能を強制的に引き出し、読みに対する注意制御を実現することであるといえます。この注意制御が可能であることは、文章読解における最低条件であるといえます。この最低条件を克服させるためには音読は効果的です。

もちろん、実行機能が低下しているような精神障害が存在する場合は、これの解決を優先しなければいけません。

しかし、実行機能が有効である一方で、ワーキングメモリが無効化されているような場合、音読は効果ありません。ワーキングメモリが無効化されている容量性注意障害という高次脳機能障害が存在します。

この精神障害の特徴は、円滑に音読できる一方で、音読した内容を理解していないことが多くあるということです。読解が困難であるのは、複雑な統語構造を持つ文、すなわち複文を読んだときです。では、黙読では理解できるのかというと、音読と同様で、一度で理解することは困難です。

読解力が低下する原因

読解力低下の原因になる疾患と、解決策は以下の通りです。

  • ADHD:実行機能の低下。ドーパミントランスポーターの過活動の阻止のための投薬治療
  • 後天性のうつ病(持続性抑うつ障害を除く):実行機能の低下。脳機能全般の回復のための適切な投薬治療、および休息が必要。
  • 特異的言語発達障害(容量性注意障害):ワーキングメモリの無効化。これの原因に該当する疾患(頭蓋骨縫合早期癒合症など)の解消。

 詳細は以下のリンク先の記事で説明しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp