当事者研究ブログ「大人の頭蓋骨縫合早期癒合症」

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)に関する当事者研究の記録です。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係、デフォルトモードネットワークの機能について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

光トポグラフィー検査で得られる血流変化量陰転波形の考察:配分性注意障害(容量性注意障害)における代償機能、ワーキングメモリネットワークとデフォルトモードネットワーク

今回は、光トポグラフィー検査(NIRS検査)のなかで、医学で十分に考察されていない「陰転波形」を扱います。今回の記事では、管理人による当事者研究をもとに、陰転波形が現れる病理について考察しました。

陰転波形の特異性

序論

うつ病波形」として精神医学に見なされている陰転波形の原因疾患について、大うつ病以外に一部の高次脳機能障害が含まれると私は考えます。双方とも健常者より成績が悪いという共通点を持っていますが、陰転波形は、うつ病波形とは全く異なるメカニズムを持ちます。

マルチタスク時の大脳皮質における血流量陰転は、大脳皮質の機能(ワーキングメモリ)が無効化されていると同時に、ほかの脳部位による代償機能を示していると考えます。その脳部位について、私はデフォルトモードネットワーク(DMN)であると推測しています。

陰転波形についての精神医学の認識

NIRS検査で得られる血流量変化の波形のなかには、医学においても論理的に説明されていない病理を持つ波形が存在します。それは陰転波形です。

陰転波形は、検査におけるマルチタスク、すなわち視覚情報の入力と言語流暢性課題の実施している時に、被験者の大脳皮質の血流量が通常時と比べ減少することが認められる症例です。

次に紹介する陰転波形の画像は、管理人の検査結果です。

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陰転症例:ブログ管理人リョウタロウのNIRS検査結果

現時点での医学の公式見解によると、陰転波形は「うつ病」に分類されることになっています。その根拠は以下の通りです。

うつ病波形の特徴

NIRS検査を健常者が受けると、マルチタスク時に前頭葉および側頭葉の活動レベルが上がり、その血流量が上昇する波形が得られます。

精神医学が陰転波形と関連性を結びつけている、うつ病波形の特徴は、マルチタスク時に上昇する血流変化量が健常者より小さいことです。上昇のタイミングは健常者と同じです。

マルチタスクを要求された際、健常者の場合ワーキングメモリネットワーク(WMN)の活動レベルが上がります。しかし、うつ病では、扁桃体が過活動している一方で、そのほかの多くの脳部位の機能が低下しています。中でもWMNのひとつに該当する前頭前野の機能(すなわちワーキングメモリ)も低下しているため、マルチタスク時の活動レベルが健常者より低くなります。モノアミン系の神経伝達物質の供給能力が低下するためです。

NIRSは脳の表面部分、すなわち大脳皮質の血流量を測定できる手段です。そのため、NIRS検査は大脳皮質の血流変化量という観点で、大脳皮質の機能低下をうつ病の存否を判定できるというわけです。

ただし、NIRS検査で得られたうつ病波形をもとに、うつ病の確定診断をできません。身体症状や問診による評価をもとに行います。

NIRS検査の仕組みと、健常者を含める波形類型の詳細については、以下の記事の中で紹介しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp 

NIRSの問題点と陰転波形

現在、うつ病診断においてNIRS検査は診断のための材料として扱われていますが、NIRS検査の結果でうつ病の確定診断をすることは認可されていません。NIRSは空間分解能が低いアプローチであり、血流量変化については脳の一番表面だけしか観測できません。NIRSは、空間分解能が低く、大脳皮質の血流量変化だけの測定に特化しています。

うつ病の存否を厳密に判定するためには、報酬系からのモノアミン系神経伝達物質の供給状況や、ストレス反応を評価する必要があります。

NIRSが測定できる大脳皮質の血流量変化は、表面的な指標に過ぎません。より内部の脳の状況を調べるためには、空間分解能が高い検査を用いることが必要であり、「脳全体における血流の移動状況」を考察することで、初めて脳活動を考察していると評価できます。むしろ、NIRS検査は、うつ病診断に不必要な検査であるといっても過言ではありません。その存在意義は、患者のニーズです。

NIRSの空間分解能の低さという側面は、うつ病診断の可否だけでなく、陰転波形の評価という論点にも絡んできます。なぜなら、陰転波形をうつ病のひとつとしてみなしている精神医学の見方は、大脳皮質の脳活動という「表面」に対する評価のみであり、脳活動全体の考察を省いて形成されているからです。

マルチタスク実施時に大脳皮質の血流量が減るメカニズムは解明されていません。それどころか、精神医学において解明しようという機運さえありません。

その背景には、NIRS検査を受けに来た被験者のうち、陰転例を示す被験者の人数が稀少であることが影響しています。もし、陰転症例を持つ人が集まれば、医学も研究に乗り出すでしょう。

陰転波形はうつ病波形とは異なる

健常者が示すNIRS検査の波形と、精神医学でエビデンスが確立している精神障害の波形は、血液量変化のタイミング、およびその変化量が異なります。一方で、健常者を含めてすべての類型には、血流量が陽転(上昇)するという共通点がありました。

これに対して陰転波形は、いずれにも当てはまらない例外です。「うつ病傾向波形」では微量ながらも血流変化のベクトルが陽転でしたが、陰転波形はこの特徴とは真逆です。

真っ当な脳活動では、マルチタスク時にWMNが活性化するはずと考えられています。うつ病においても同じです。

これに対して、陰転波形は現時点では学術的には真っ当ではない、医学の想定を裏切る波形であると評価しても過言ではありません。 

陰転波形でみられる血流量の陰転をうつ病としてみなすことは早計です。それどころか、陰転波形はいずれの精神障害に当てはまらないと評価するべきだと私は考えます。

本来ならばここで陰転波形の病理の考察に関する、精神医学が発表している見解を紹介するべきです。しかし、先述したように2019年現在、精神医学では陰転波形に対する考察が実施されていません。

そのため、ここで紹介する考察の内容は私の持論になります。

ワーキングメモリネットワークとデフォルトモードネットワークの関係

陰転波形の病理の考察は、他の精神障害類型とは異なり、大脳皮質、すなわちワーキングメモリネットワーク(WMN)の血流量変化とは異なる観点が必要であるという点で、特異的です。大脳皮質への神経伝達物質の供給量だけに注目することは不十分です。マルチタスクの時の血流量現象を神経伝達物質の供給が減少するという、神経心理学の知見に反する考察をしてはいけません。陰転波形における病理を考察には、ここで必要不可欠な知見が、「デフォルトモードネットワーク(DMN)WMNの関係」です。

DMNWMNの関係を端的に紹介すると、「ほぼ排他的」であるといえます。その関係の概説は、以下の通りです。

  • WMNが活発化したときはDMNの活動レベルが低下
  • DMNが活発化したときはWMNの活動レベルが低下
  • 抑うつ状態の時は、WMNDMNの双方の活動レベルが低下

ワーキングメモリとは

今日に至るまで、認知心理学では研究の観点としてワーキングメモリを重要視しています。そのため、認知心理学において、これを担う脳部位であるWMNの活動レベルの観測が多く実施されています。人間が意識下でマルチタスクや言語行為を達成するためには、短期記憶の貯蔵、保持する機能が必要であると認知心理学では考えられています。

光トポグラフィー検査における言語流暢性課題は、視覚刺激の入力と同時に実施されるため、マルチタスクに該当します。このとき大脳皮質における血流量の上昇は、WMNの活動レベルが上がり、ワーキングメモリが有効であることを示しています。

また、WMNの活動レベルは、精神発達(知能発達)に影響を与える重要な指標であると考えられています。例えば、これはあくまで結果論であるかもしれませんが、ワーキングメモリの活動レベルが高い人間ほど、高知能である傾向であるという情報を、澤口俊之先生が発言していたことを私は記憶しています。

精神発達と直接影響を与える要素はモノアミン系神経伝達物質の需要と供給であり、ワーキングメモリは表面的な指標ですが、その活動レベルの優劣によって神経発達が左右されるという見方もできるため、認知心理学だけでなく発達心理学の中でも知能発達に影響を与える機能としてワーキングメモリは注目されています。学術的には、発達障害の一つであるADHDの症状克服のためのNバック課題が、ワーキングメモリを鍛える手段として活用されています。また通俗的にも、仕事効率化を目的として、ワーキングメモリを鍛えることを奨励する動きが多く存在しております。

意見はさまざまですが、ワーキングメモリの活動レベルを決定づける、神経伝達物質の供給の優劣は先天的な要素が強く、後天的に鍛えることは難しいと私は考えています。

デフォルトモードネットワークの機能とは

中央実行系理論が確立されたころは、まだ実験心理学の技術が発達途上であったため、人間の脳活動を現在ほど広く、脳部位の考察ができませんでした。実行機能のサブ機能のひとつに該当する心的機能が、ワーキングメモリです。

しかし、わりと最近になって、ワーキングメモリネットワークとは全く異なる脳部位の活動の存在が認知心理学で確認されるようになります。その脳部位は通常時にも機能しており、かえって人間が何もしなくなった時に活発化する脳部位であることから、DMNと名付けられるようになりました。

DMNが活発に活動しているときとは、「何もしていないとき」が該当します。極端な例を挙げると、睡眠でしょう。目を閉じてぼーっとするというマインドフルネスもDMNに働きかける行為です。

WMNにとってのワーキングメモリのように、理論という形でDMNの機能も定義づけられています。日本では、DMNは「社会脳」と呼ばれており、発達障害認知症との関連性の研究が主に行われています。しかし、世界的にはDMNの研究は多岐にわたっています。特にDMN報酬系およびWMNの関連性は注目されています。そのこれらの研究は、以下の事柄の実態解明につながるとみなされています。

  • 集中力
  • ひらめき(創造性)

先述したWMNDMNの機能の所在における違いを表現するならば、WMNが意識下の脳の働きをつかさどり、一方のDMNは無意識下の脳の働きをつかさどっているといわれています。

陰転波形における代償機能

陰転波形という不思議かつ想定外の脳活動を、あえて学術的に評価するならば、ワーキングメモリが起動されるべきタイミングで、前頭前野を含めるWMNが機能していないということになります。

しかし、被験者の感覚は波形の表現通りではなく、ワーキングメモリ(WMN)が無効化されているとはいえません。

まず、ワーキングメモリが無効化されていれば、二重課題を達成できません。しかし、陰転波形を示す被験者は、大脳皮質の血流量が減少していているときに、マルチタスクが達成できないわけではありません。実際、その被験者の一人である私の場合も同様で、かろうじて言語流暢性課題を回答できました。

陰転波形の状況を改めて説明すると、WMNを構成する一部の脳部位(前頭前野に存在)の機能が低下しているため、ワーキングメモリが無効化されている状態であることは、認められるべきでしょう。しかし、健常者とは程遠い精度ですが、マルチタスクをかろうじて達成できているという逆説的な現象が発生しているのです。

この逆説をどう説明するべきでしょうか。WMNとは別の脳部位が、マルチタスクを達成しようとしていると私は考えています。端的にいえば、ワーキングメモリの代償機能です。

NIRS検査の観測対象となる脳部位は大脳皮質でした。そして、WMNの一部である前頭前野が大脳皮質の一部であることを踏まえると、陰転波形が得られた被験者は、マルチタスクの時にWMNを何らかの理由で使用できない代わりに、別の脳部位を働かせている、すなわちワーキングメモリの代償機能が実行されているといえます。この代償機能の主体になっている脳部位が、DMNであると私は考えています。残念ながら、この代償機能に関する仮説を裏付ける証拠は、まだ手元に持っておりません。

光トポグラフィー検査で血流量変化を調べられる脳部位は、大脳皮質の表面部分に限られています。NIRSは内部に位置するDMNの活動を観測できません。この観測を実現するためには機能性MRIFMRI)や脳磁図(MEG)を使用する必要があります。何年後になるかわかりませんが、検査結果が分かり次第、報告します。

うつ病と容量性注意障害の違い

容量性注意障害は、高次脳機能障害であるように物理的な脳損傷、すなわち、ワーキングメモリを担っている吻側前頭前野の機能低下によって発症することが、精神医学で規定されています。併発症がなければ神経伝達物質の供給に関しては、問題は存在しないと思います。すなわち、容量性注意障害は発達障害うつ病とは異なり、情動系や報酬系、モノアミン神経系には異常が認められず、抑うつ症状は存在しないはずです。

NIRSで分類されている「うつ病傾向」が示すものは、本来ならば神経伝達物質の供給量、さらに言及すると分泌量が低下していることに起因する脳機能全般の機能低下であるべきです。しかし、観測対象がワーキングメモリネットワークのみになっている以上、その時点でうつ病の判定ができません。容量性注意障害は、このNIRSの問題点の犠牲になっています。

容量性注意障害は、ADHDうつ病と同じく、「不注意」であるという特徴を持っています。しかし、ADHDうつ病の注意制御の困難性が全く別物であるように、容量性注意障害の不注意はこれらの疾患とは性質が異なります。ちなみに容量性注意障害では実行機能(注意制御や情動抑制をつかさどる)は有効です。

 

陰転波形を示す容量性注意障害において、ワーキングメモリが無効化されているかという問いに対する答えは、陰転波形を示す病態において、WMNが担うワーキングメモリは無効化されているが、DMNによる代償機能によって創出されたワーキングメモリが機能している、という仮説段階の結論を導き出せます。

容量性注意障害の詳細は以下の記事で紹介しています。 

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

陰転波形の原因疾患

高次脳機能障害の原因の一つとして、このブログでは頭蓋骨縫合早期癒合症を紹介しています。私自身、頭蓋骨縫合早期癒合症の当事者です。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp