当事者研究ブログ「大人の頭蓋骨縫合早期癒合症」

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)に関する当事者研究の記録です。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係、デフォルトモードネットワークの機能について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

音読しても黙読しても文章理解できない原因とは? 読解力が低下する原因(ADHDとうつ病、容量性注意障害)

 

文章読解に必要な脳機能(言語野を除く)

文章読解に必要な脳機能について、優先順位が高いものから以下のように列挙しました。

  • 文字を視覚言語情報として認識する機能
  • 実行機能(前帯状皮質):注意制御、情動の抑制
  • 記憶機能(海馬):短期記憶を長期記憶に変換する力
  • ワーキングメモリ(吻側前頭前野):複文を理解する際に、節の意味情報を保持する

文章の意味を理解するためには、言語理解のための脳機能以前に、文字という視覚情報を視覚言語情報として認知できるようにするための脳機能が必要です。

実行機能は、「読む行為それ自体」に集中する役割を担っています。情動に基づく雑念に注意資源が投入されることを抑制し、注意資源をやるべき行為の情報処理に投入するという注意制御を実行します。

記憶機能やワーキングメモリは、意味情報の記憶が必要になる言語理解に関わっています。このうちの記憶機能は、一つの文を読み終わり、次の文を読む際に、古い意味情報を長期記憶として保持する際に必要な脳機能です。

ワーキングメモリは、同時に複数の情報を保持する機能であり、言い換えれば「脳内マルチタスク」といったところです。一つの文の意味を理解するためには、完全に読み終えるまでの間に、文の構造や句の意味情報といった情報を覚えていなければなりません。それと同時に人間は新たな情報を貯蔵しようとするので、古い情報を短期記憶として脳内に保持する必要があります。この役割をワーキングメモリが担っています。

音読と黙読の効果の比較

読解力が低下する疾患を判別するための指標として、次のような指標が提示します。

「読解以前に音読に集中できるか否か」

「音読しても読解できないか」

そこでこれらの指標を説明する前に、音読と黙読の目的と効果を比較します。先に結論を言うと、音読は発声に集中することによって、強制的かつ半無意識的な読解という付随効果を実現する行為であり、これに対して黙読は読解そのものであり、付随効果はありません。

音読は、読解と発声の2つの認知プロセスを含みます。そのため、音読の目的は2つに分かれます。それは、単に発声を達成するのみか、あるいは読解のための手段のどちらかです。

前者は入力した視覚言語情報を音声として変換する行為です。この際、脳内の意識に貯蔵する情報は、句の先読みした情報のみです。言い換えると、スキャンした文字を短期記憶(厳密には短期的な展望記憶)として記憶します。

この際短期記憶として記憶する情報の個数は1つで足ります。このことから、発声という目的のみで音読を達成するならば、ワーキングメモリ(同時に複数の情報を保持するという「脳内マルチタスク)は必要ありません。

発声するためには視覚言語情報のスキャンすることに集中しなければなりません。物事に集中するためには実行機能が有効であることが必要です。もし、スキャンに集中できれば、これに付随して読解も自然とできるようになります。

一方、読解するために音読をする場合、文の意味を理解するために、同時に複数の意味情報を短期記憶として保持する場面が多く発生します。特にSOV型言語類型を採用する日本語は、顕著です。このことから、読解する際はワーキングメモリが必要不可欠になる場面が多く発生するといえます。容量性注意障害を抱えるごく少数を除けば、ワーキングメモリは有効なので、問題ありません。

ワーキングメモリに負荷をかける文とは、複文で複数の節構造を持つような文です。理解する際にワーキングメモリが必要不可欠になる文が持つ句構造に関する説明や、実行機能と文章理解の関連性についての考察は以下の記事で扱っています。

読解の達成の条件をまとめると、読む行為に集中するための実行機能と複数の意味情報を保持するワーキングメモリが必要です。

黙読は音読から発声を取り除いた行為であり、その目的は自然と読解のみに絞られます。そのため、黙読という手段を通した読解を達成するためには、実行機能とワーキングメモリの双方が必要です。

読解力低下の原因の大分類

言語障害(言語獲得の障害、精神発達遅滞)を除き、音読による読解力が低下する要因は、以下のように挙げられます。

  • 視覚言語情報の認知無効化 ⇒ 「限局性学習障害ディスレクシア)」
  • 読む行為に対する注意制御ができない ⇒ 「ADHD」、「うつ病

  • 一時的に一度理解した文の意味を覚えられない状態 ⇒ 「うつ病

  • ワーキングメモリの無効化による、言語性短期記憶の保持数低下 ⇒ 「容量性注意障害」

まず、実行機能が低下すると、読む行為に対する注意制御が困難になります。その原因は、中央実行系への注意資源たる神経伝達物質の供給における問題です。

次に挙げられる原因が、記憶機能の低下です。通常は、一度理解した文の意味を長期記憶として保持することと同時に、その次の文の意味の理解に移ることを繰り返すことによって、文章全体の意味を理解することが可能になります。記憶機能が低下すると、長期記憶としての保持が困難になります。

読解力低下の3つ目の原因が、ワーキングメモリの無効化です。記憶機能の低下が文の意味の保持を困難にしたのに対し、ワーキングメモリの無効化は節の意味情報の保持を困難にします。単文であれば影響はありません。

行動障害に「読む行為」を阻まれるADHD

実行機能(情動抑制および注意制御)が低下しているADHDでは、「読む行為」に対する注意制御が困難であるため、読解力が低下します。

ADHDで見られる情動抑制の障害は、読む行為への注意制御を許さないほどの正の情動の抑制の低下です。これは後述するうつ病を含める抑うつ症状による情動抑制と比べて程度が強く、その症状は行動障害の出現として報告されています。

ADHDでの問題の発生のタイミングは、認知の対象が本人の意向に沿わない義務的なものである場合に限られます。そのため、認知の対象が本人の意向に沿うものであれば、それがどんなに複雑な文でも集中して情報処理に注意資源を投入できます。このときは注意制御というより、「正の情動」と認知の対象が一致したことによる過集中であると説明するほうが正確です。

抑うつは脳機能全般を低下させる

抑うつは、実行機能と記憶機能の低下を引き起こします。この際の症状は、読む行為自体が困難になるという特徴がADHDと共通しているようですが、その困難性の性質は異なります。

まず、うつ病で発症する実行機能の低下は、ADHDと異なります。そもそも、ADHDで問題となっている「正の情動」が発生していません。その一方で、焦燥感や絶望感といった「負の情動」が優位になっており、これを抑制できない状態になっています。

うつ病とまではいかない抑うつ状態では「正の情動」の抑制が困難になります。ADHD特有の「行動障害」が出現することはありませんが、認知面での抑制障害が目立ちます。その代表例が、イヤーワームです。認知面での抑制障害は、強迫性症状であるともいえます。

抑うつが悪化したうつ病は記憶機能の無効化を引き起こすとも考えられます。すると、一度理解した文の意味を長期記憶として保持することも困難になります。これが文章全体の意味の理解の困難性につながります。

さらに重度のうつ病では、文字を言語として認識することが困難になります。見た瞬間からゲシュタルト崩壊が起きている状態と解釈すると、その原因は実行機能の低下か、あるいは。うつ病は脳機能全般が低下すると考えると、どちらもありうるのではないでしょうか。

うつ病とまではいかない軽度の抑うつ状態も、実行機能と記憶機能に悪影響を与えると考えるべきでしょう。ただし、記憶機能のほうはオールオアノットなので、軽度では機能が低下している程度を推し量ることは難しいです。

音読は上手だけど内容理解が伴わない容量性注意障害

容量性注意障害に起因する特異的言語発達障害

通常、健常者であれば、すらすらと音読できる状態ならば、同時にその内容を一度で理解できる状態でもあります。これは音声言語医学の一般認識です。しかし、その一般認識を裏切るタイプが存在します。

今回の記事における本題に該当するタイプです。音声言語医学では「特異的言語発達障害」という言語面の問題として報告されています。そして、特異的言語発達障害は、ワーキングメモリの無効化を示す高次脳機能障害である容量性注意障害の言語症状です。

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容量性注意障害の特徴は以下の通りです。

  • どんなに複雑な構造の文でも円滑に音読できる
  • 「目的語の複文」に対する、理解および表出の困難性(一度で理解、表出ができないので、口下手、遅筆、理解が遅いという印象)
  • 言い間違いが多い
  • 聴きながらメモできない(狭義の聴覚情報処理障害)

容量性注意障害は実行機能や記憶機能(短期記憶から長期記憶への変換)に全く問題がありません。そのため音読を上手に実行できます。この点がこれまで紹介してきたADHDうつ病との違いです。

一方、容量性注意障害における問題は、「難しい構造の文」(詳細後述)を一度に扱えないことです。読解においては音読の可否にかかわらず、一度に理解できなくなります。読解だけでなく、その表出(発話や記述)を一度に適切に実行することも困難になるので、「口下手」という印象が強くなります。

容量性注意障害の当事者は、文の理解におけるハンディキャップに対して、理解するまで文を読み返すという方法でその場しのぎの対処をしています。一方で全ての文を理解できないというわけではありません。単文や重文といった単純な構造の文であれば、確実に一度で理解できますし、円滑な表出もできます。

理解しにくい「複雑な構造の文」の意味

日本語は、主語と主要部の間の距離が長いことや、修飾節の後に被修飾語が位置するという文法を採用する言語であるため、難しい構造を持つ文を理解する際はワーキングメモリが必要不可欠になります。

ワーキングメモリが必要不可欠になる「難しい構造の文」とは、全種類の複文というわけではありません。それは「文の従属部に従属節が修飾する複文」です。そのうちの代表例が、目的語に従属節が修飾する複文です。当ブログでは「目的語の複文」と表現しています。

「目的語の複文」の認知にはワーキングメモリが必要不可欠であるという内容の詳細を以下の記事で紹介しています。

 

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