当事者研究ブログ:大人の頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(容量性注意障害)についての当事者研究のノートです。言語性ワーキングメモリと日本語(右側主要部の規則)の関係について研究しています。目的①頭蓋骨縫合早期癒合症を成人症例、生活史を記事としてまとめること。目的②特異的言語発達障害の当事者研究をもとに、日本語が日本人の思考に与える影響(サピアウォーフ仮説)を考察すること。

手術しないとどうなる?気づかないまま大人になった私が頭蓋骨縫合早期癒合症の診断を受けるまで / 成人当事者(軽度三角頭蓋含める)の予後

 

中等度、典型例程度の成人当事者の症例

頭蓋骨縫合早期癒合症の概説は以下のリンク先の記事をご覧ください。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp 

中等度および典型例の早期癒合症は、日本国内においては治療対象であるため、乳幼児である間に治療が施されます。そのため、中等度および典型例の早期癒合症の成人当事者に関する情報は日本に存在しません。

しかし、一方で発展途上国では、通常の早期癒合症の患者が未治療のまま放置されてしまうという可能性が存在します。インターネット上に、通常の早期癒合症の成人当事者の症状に関する資料が実際に存在します。

その詳細は以下の海外ウェブサイトで紹介されています。

引用元の症例の内容を箇条書きにすると以下の通りです。

  • 31歳女性、非症候性早期癒合症

  • 出生時より重篤な精神運動発達遅滞。

  • 両親は健常(遺伝性が認められないことの示唆か)

  • 大脳皮質の指圧痕が認められる

  • クモ膜下腔およびクモ膜下槽(大脳皮質の外側部分)が消失していた

クモ膜下腔とは、脳組織と頭蓋骨の間のスペースであり、脳脊髄液が流れている部位です。クモ膜下腔の消失は、頭蓋骨が脳組織を圧迫していることを示しており、すでに脳脊髄液圧が亢進し、頭蓋内圧亢進の状態であることを示しています。

指圧痕とは、慢性的に頭蓋内圧が亢進している患者の頭蓋骨の内側で見られる、凸凹状の所見です。脳組織は心拍に従い膨張と収縮を繰り返します。頭蓋内圧が高い場合、その分だけ頭蓋骨に打ち付けるように膨張するため、頭蓋骨にその痕が刻まれるのです。

この症例からは、早期癒合症に起因する頭蓋内圧亢進によって、精神運動発達遅滞が引き起こされたといえます。 

幼少期から抱えていた頭蓋骨の違和感、早期癒合症の診断を受けるまで

私が頭蓋骨縫合早期癒合症(早期癒合症)を診断されたのは、大人になってからのことです。早期癒合症は通常、生まれて間もないときに診断され、治療が実施されます。脳神経外科学に1歳までに治療されるべきと規定されています。

私の場合は早期癒合症の軽症例だったため、大人になるまで早期癒合症の診断されたことはありませんでした。生まれてからの間、家族も私の頭蓋骨が狭小化していることに気づきませんでした。私自身も頭蓋骨が狭小化していることに長年気づかない状態でした。しかし、完璧に気づいていなかったわけではなく、中学生だったころから自分の頭蓋骨の形に強い「違和感」を感じていました。

早期癒合症であることに気づかなかった間、それの症状を抱えていなかったわけではありません。結果論ですが、配分性注意障害開散麻痺は幼少期から抱えていたと結論付けています。高次脳機能障害である容量性注意障害は不注意と特異的言語発達障害をもたらし、長年私を苦しめるコンプレックスでした。一方の開散麻痺による潜伏性内斜視は自力で目を真正面にもどしていたため、それが普通だと思い込んでいる状態でした。ただし、高校生のころから筋性眼精疲労が徐々に強くなっていきました。

これらの症状に加えて、20歳のころに非びらん性胃食道逆流症を発症し、同時に開散麻痺の診断を経験しました。これをきっかけに私の脳に何らかの問題があると考えるようになりました。

形がいびつで、石頭な頭蓋骨、これが脳に悪影響を与えているいるかもしれないと思っていましたので、当初から私は自分の頭蓋骨の形を疑いました。「頭蓋骨と精神障害の関係」と調べてヒットした「下地武義先生の軽度三角頭蓋の手術」で、早期癒合症の存在を知るに至りました。その後早期癒合症の他覚所見である骨性隆起があることを確認し、早期癒合症の検査を受け、正式に診断が下りました。

私の場合、軽度三角頭蓋どころか前頭縫合および矢状縫合の早期癒合症の軽症例という、より重いタイプであることが判明しました。ただ、三角頭蓋特有の蝶形骨縁の変形が自閉症類似の神経症状を引き起こすという現象はなく、単に慢性頭蓋内圧亢進が発生している状態であるというものでした。事実、加藤進昌先生からはADHD自閉症スペクトラム障害といった発達障害は認められないと診断されています。

こうして私は頭蓋骨縫合早期癒合症の診断を受けてましたが、経過観察という判断となり、外科治療を適用は認められませんでした。そのため現在も容量性注意障害も、ほかの身体症状も依然として抱えたままです。

「大人の頭蓋骨縫合早期癒合症」の病態

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ここでは、軽度の早期癒合症の成人当事者である私の症例を紹介します。私の頭蓋骨は、前頭縫合、および矢状縫合が早期に癒合している状態です。癒合の程度は共に軽症例に該当します。

すなわち、頭蓋骨の縦に走る縫合線が早期に癒合した状態です。

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赤線で示した部分は、通常の頭蓋骨では見られない所見です。 

側頭部を除く部分が、すべて狭小化しています。

次に、私が過去に受けた検査の結果を紹介します。

① CT検査

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CT画像その1:指圧痕

頭蓋骨内側に存在するデコボコは指圧痕といい、頭蓋内圧が健常者より高いときに発生する現象です。

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CT画像その2:クモ膜下腔の容積が小さい

脳と頭蓋骨の間のスペース(くも膜下腔、くも膜下槽)の容積が、健常者と比較して著しく狭いです。これは、狭小化した頭蓋骨に脳が圧迫されていることを示します。

また、CT画像では私の頭蓋骨は有意に厚いこと、すなわち石頭であることも判明しました。

先述したように私は中学生ころから自分の頭の形に強い違和感を持っていました。具体的に説明すると、側頭部が盛り上がっている「鉢張り」な頭だなということです。しかし、この「鉢張り」の正体は、早期癒合症で発生した陥没でした。

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赤丸の陥没は「鉢張り」ではなく、逆に頭頂部が狭小化していることを示しています。

真上から見るとこんな感じです。

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軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症の症状:軽度慢性頭蓋内圧亢進

私の頭蓋骨裏側に発生している指圧痕は、軽度慢性頭蓋内圧亢進で出現する他覚所見です。このことから、私は早期癒合症によって軽度慢性頭蓋内圧亢進を抱えていることがわかります。

推定頭蓋内圧は11~15水銀柱ミリメートル(mmHg)の範囲であると想定可能です。正常値は10mmHg 台以下 、病的とされる重症の規定値は16mmHgです。

軽度慢性頭蓋内圧亢進に起因するといえる症状は、以下の通りです。

  • 容量性注意障害(高次脳機能障害
  • 開散麻痺(軽度な外転神経麻痺と推定)
  • 非びらん性胃食道逆流症(軽度な噴出性嘔吐と推定)

軽度慢性頭蓋内圧亢進の概説は、以下の記事で紹介しています。

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言語障害、忘れ物が多いなどの配分性注意障害

私が生まれたころから抱えている神経症状である配分性注意障害(容量性注意障害ともいう)について、私は早期癒合症の軽度慢性頭蓋内圧亢進で発症していると結論付けています。

配分性注意障害の症状は、同時に複数の事柄に注意を向けられないという性質であり、逆に言えば同時に注意を向けられる事柄は一つだけとなります。同時に複数の事柄を考えられなくなります。これによって、ものの置き忘れが頻発して発生するようになり、忘れ物が多くなります(物忘れではありません)。認知心理学の表現を用いると、ワーキングメモリの無効化であると説明されます。

精神医学で扱われる注意障害は通常、脳卒中や脳の外傷などによって出現するとみなされており、配分性注意障害が単体で発症しているケースを扱われません。そのため配分性注意障害の悪影響はあまり知られていません。配分性注意障害が言語機能にも悪影響を与えることはなおさら知られていないでしょう。

私自身の感覚に従うと、そうであると確信しています。一応言語症状の特徴から、特異的言語発達障害と呼ばれる言語障害とのことです。主な症状を挙げると、複雑な日本語の文を理解したり話したりするのに制限があります。そのためか、結果的に幼少期には言語発達が通常より少し遅れており、成人になってからも言語障害の感覚に変化はありません。

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配分性注意障害の印象は不注意といったところですが、ADHDとは異なります。ADHDの場合は持続性注意障害や選択性注意障害、転換性注意障害を含めるのに対して、私の場合は集中力が極めて高いことから、ADHDの要素は存在しないとみなしています。配分性注意障害に関する内容は、以下のリンク先の記事で紹介しています。

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成人になって受けた光トポグラフィ検査(NIRS)では、これまた「陰転波形」という珍しい検査結果で判明しました。この検査結果が配分性注意障害の根拠となっています。

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検査の評価では「うつ病パターン」という結論に至っています。しかし、その根拠はあくまでも二重課題時の大脳新皮質の血流量が健常者より少ないという特徴のみであり、それを根拠にうつ病と評価することは不可能です。NIRSは脳の表面に位置する大脳新皮質の血流状況しか測定できず、神経伝達物質の供給量については測定できないため、うつ病などの気分障害であると判定できません。

血流量変化は一定のため、大脳新皮質の血流量が減少していることから、ほかの脳部位で活性化していることになります。自分自身が抱える精神症状の特徴の分析をもとに、NIRSの陰転波形は容量性注意障害を示していると結論付けています。

NIRSの陰転波形の考察を以下の記事のなかで紹介しています。

開散麻痺

20歳になったとき、「開散麻痺」という麻痺性内斜視の診断を受けました。斜視とはいっても自力で眼球を元の位置に戻せる「内斜位」です。発覚したきっかけは、泥酔したときに眼球が内側によっていることを指摘されるという出来事でした。

開散麻痺の特徴は、著しい筋性眼精疲労を抱えざるを得ないことです。眼球を真正面の位置に戻せるため、目の疲れがひどいです。そのひどさを例えるならば、自力で眼精疲労に効くツボ(上晴明)を探し当て、押したいと思えるほどです。

発覚した時期は20歳のころですが、高校生のころから眼精疲労で常に眠かったことは覚えていますし、小学生の頃に親に叱られてずっとうつぶせにしていたら「寄り目」になっていたことを指摘されていました。なので開散麻痺は幼少期から患っていたと結論付けています。

開散麻痺の概説と、その原因に該当する慢性頭蓋内圧亢進との関係に関する詳細は、以下の記事で紹介しています。

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非びらん性胃食道逆流症(反芻症)

開散麻痺の診断とほぼ同時期に、非びらん性胃食道逆流症も発症しました。簡単に説明すると、気持ち悪くなっていないのに、げっぷと同時に胃の内容物を吐き出してしまうという症状です。

開散麻痺とは異なり非びらん性胃食道逆流症は20歳時に発症した症状で、それ以前は全くありませんでした。

慢性咽頭扁桃炎(慢性上咽頭炎)、慢性口蓋扁桃

私は物心ついたときから後鼻漏が常にありました。その原因はいわゆる慢性上咽頭炎という疾患であり、咽頭扁桃が常に炎症を起こしています。口蓋扁桃も常に腫れています。ただ扁桃病巣疾患が出現するほど重度ではありません。

慢性上咽頭炎が判明したのは、早期癒合症の診断後です。仮説を立てる以上のことはできませんが、早期癒合症に起因する長年の軽度慢性頭蓋内圧亢進が慢性上咽頭炎の原因であると私は考えています。ただ、開散麻痺や非びらん性胃食道逆流症と比べると、因果関係について自信がありません。

仮説の詳細は以下の記事をご覧ください。リンク先の内容を簡単にまとめると現在、日本病巣疾患研究会で慢性上咽頭炎の原因について脳脊髄液の経路の異常であるという内容のレポートがあり、これと早期癒合症によるクモ膜下腔の狭小化を結び付けています。

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当事者である私が手術を受けられない背景

早期癒合症の治療に関して、最も焦点を当てるべき論題は、早期癒合症の一種に該当する軽度三角頭蓋に対する外科治療の可否に関する論争です。以下のリンク先の記事はその詳細について記載していますが、だいぶ昔に書いたものなので、考察に整合性が欠けているかもしれません。

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当然ながら可否というのは技術的なものではなく、「手術で期待できる効果が存在するか否か」という医学特有の観点に基づく可否です。その理屈とは、効果が期待できない疾患に対して「手術の必要性がある」といって勧める行為は問題だということです。

ただ、論争が存在していること、そして当事者である私が論争について気になっていることから察していただけたかと思いますが、軽度三角頭蓋の外科治療を否定することは、当事者の観点から間違っていると私は考えています。

そして、軽度三角頭蓋の外科治療を肯定する側の見解についても不十分な部分があると私は考えています。彼らは外科治療の目的について、蝶形骨縁の異常形成に起因するミラーニューロンの発達の阻害を取り除くことと、致命的な頭蓋内圧亢進を取り除くことと規定しています。一方で、私が抱える軽度の慢性頭蓋内圧亢進が問題ではないということになります。事実、軽度の慢性頭蓋内圧亢進について、肯定側の医師は、軽度の慢性頭蓋内圧亢進によって引き起こされる症状を知りませんし、仮にそれがあったとしても「致命的ではないこと」を根拠に医師側が手術を引き受けることはありません。

ここで一言、軽度慢性頭蓋内圧亢進を引き起こす軽度の早期癒合症と、その症状の因果関係を成立させるためには、非医学的な手法を採用せざるを得ないのかもしれません。その手法というのは脳内血流量増大仮説をベースにした「トレパネーション」です。私はこれについて真剣に検討しています。