「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と容量性注意障害に関する当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(他キーワード:特異的言語発達障害、軽度三角頭蓋)

「聴覚情報処理障害」の問題点:その定義をめぐる論争についての持論と「聴覚情報処理障害」の狭義、広義

キーワード:聴覚情報処理障害の定義、発達障害ADHD自閉症スペクトラム、容量性注意障害

 

聴覚情報処理障害の診断上の問題点

上がる知名度と問題点…

聴覚情報処理障害は、近年になってようやく研究者の間だけでなく、一般の間にも浸透するようになりました。

それは、小渕千絵先生が執筆を手がけた以下の書籍が貢献しているところが大きいでしょう。 

きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援

きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援

 
 

インターネット上でもこの書籍がクローズアップされ、徐々にその概念の知名度は上がっていきました。そして現在では聴覚情報処理障害の専門医療機関では、多くの予約待ちにより、込み合っている状態とのことです。 

予約で混み合っている…とのことですが、診察のほうも前途多難のように思います。その根拠として、「聴覚情報処理障害」はまだ多くの問題点を内包する疾病概念だからです。

 

問題点その1:聴覚情報処理障害の評価方法が確立されていない

まず、聴覚情報処理障害を診断するために必要な基準となる、症状に対する評価方法が確立されていません。このことは聴覚情報処理障害の診断における重大な問題点であり、診断及び支援に混乱をもたらします。

APDに関しては原因や評価、支援方法などが確立されているとは言えず、医療機関教育機関での混乱も大きい*1

 

問題点その2:定義が決まっていない

聴覚情報処理障害の評価方法が確立されていない問題の背景には、聴覚情報処理障害の定義が未だに決まっていないという問題点があります。

現時点で聴覚情報処理障害の定義は、一応存在します。しかし、現行の定義に従うと聴覚情報処理障害に該当する精神症状が多く存在することになります。そこで、聴覚情報処理障害の定義を見直し、厳密に定義するべきと考える人が、私を含めて存在しています。この見解の内容は後述します。

現在も、音声言語医学の専門家の間で聴覚情報処理障害の定義の内容に関する論争が継続中です。

聴覚情報処理障害に関しては,研究端緒から半世紀を超しているにもかかわらず,用語や定義についても議論が絶えない。臨床像や対処法等では明確な点が多かったにもかかわらず,原因論や検査方法などは問題点が数多く指摘されてきた。(太田、八田, 2010 抄録)

 

混乱を生む原因不明の聴覚情報処理障害の存在

これまでに紹介した聴覚情報処理障害の診断上の問題点が発生する根本原因とは、聴覚情報処理障害に、原因が不明であるサブタイプが存在していることです。 

成人例のうち6名については、明らかな背景要因が考えられず原因不明に分類した。…これらの対象者については、明らかな診断が行われていなくとも記憶や注意の面には弱さが見られると考えられる。 *2 

病理が不明であれば、支援のハウトゥーを開発できませんし、また、病理が不明であるこの疾病の定義を決めるというのは「悪魔の証明」のようなものです。すると、なぜ、そもそも「聴覚情報処理障害」が存在するのか、という疑問が出てきます。

 

聴覚情報処理障害の広義と狭義

聴覚情報処理障害のサブタイプとして、ADHD自閉症スペクトラム障害、原因不明のものが含まれることから、聴覚情報処理障害の本質が症状概念であり、疾病概念ではないといえます。このことは研究者である小渕先生も「聞き取り困難を抱える症候群」と表現していることからも明らかです。すると、シンプルに「聴覚情報処理障害」と表現した場合、どのタイプを指すのかがわからない事態に陥ってしまいます。

そこで当ブログでは、聴覚情報処理障害を、以下の2つの概念で分類します。

  • 「広義の聴覚情報処理障害」

例:ADHD自閉症スペクトラム障害、ストレスによるうつ病の前兆

  • 「狭義の聴覚情報処理障害」

厳格な定義づけによるもの。聴覚情報処理機能の低下症状を引き起こす、精神障害であるものの原因が不明である。上記のものを除く。

このうち、現行の聴覚情報処理障害の定義は、「広義の聴覚情報処理障害」の内容が適用されています。

 

「聴覚情報処理障害」の存在価値

「聴覚情報処理障害」という疾病概念の存在理由とは、原因不明の聴覚情報処理障害のサブタイプに名辞を与えることにほかなりません。

通常、医学で扱われる疾病概念の定義の内容は、その病理で説明されます。

しかし、精神医学で扱う精神障害は、必ずしもそうであるとは限りません。たとえば、統合失調症に代表される病理不明の精神障害の場合、定義の内容は客観的に認められる精神症状のみです。

聴覚情報処理障害もこの例のひとつであることが明らかです。臨床現場に立つ研究者にとって「有意」な精神症状であるために、精神障害概念としての提唱の必要性が生まれたのでしょう。

そこで、「原因不明・病理不明の精神障害に起因する聴覚情報処理機能の低下」を表現するための手段として、「聴覚情報処理障害」が構築されたのであれば、納得がいきます。

 

 

私が現行の聴覚情報処理障害の定義に反対する理由 

1 聴覚情報処理障害の定義が広すぎるゆえ、実体像がつかめない

音声言語医学が提唱している聴覚情報処理障害の定義は、広義の聴覚情報処理障害です。

音声言語医学が採用している聴覚情報処理障害の該当範囲が広すぎることになるので、その観念は抽象的なものになるといわざるを得ません。

「狭義の聴覚情報処理障害」と「広義の聴覚情報処理障害」とでは、たしかに「雑音下でのコミュニケーションの困難性」という共通点を持ちます。しかし、それはあくまで結果論であって、雑音下でのコミュニケーションの困難性に至る原因は、それぞれ全く異なります

 

2 広義の聴覚情報処理障害を設置することの無意味さ

広義の聴覚情報処理障害の原因疾患に該当する精神障害は、すでに定義が確立された精神障害です。

まず、「ADHDによる聴覚情報処理機能低下」について、わざわざ「聴覚情報処理障害」と表現する必要性はありません。単にADHDの一症状と表現することで済む話です。

つぎに、「自閉症スペクトラムによる聴覚情報処理機能低下」について検証してみますと、聴覚過敏や解離症状が原因として挙げられます。ですので、聴覚過敏や解離症状が聴覚情報処理機能に悪影響を与えた、と表現することで済みます。

 

広すぎる聴覚情報処理障害の定義を厳格化せよ

「広義の聴覚情報処理障害」を採用しているままでは、聴覚情報処理障害は特定不能の症状概念のままであることには変わりはなく、疾病概念として失格です。

では、「聴覚情報処理障害」を疾病概念へと昇華させるにはどうすればよいか?

まず、「聴覚情報処理障害」の定義を「狭義の聴覚情報処理障害」に変えるべきでしょう。聴覚情報処理障害に対し厳格な定義付けを行い、発達障害による聴覚情報処理機能の低下や、そのうつ病などによる心因性難聴から分離するべきです。

 

狭義の聴覚情報処理障害のひとつは「容量性注意障害」

しかし、このまま狭義の聴覚情報処理障害の定義に移行したとしても、その発生メカニズムが不明であるために、疾病概念に昇華できません。ですので、狭義の聴覚情報処理障害の病理を解明することは急務であるといえます。

現時点での音声言語医学の研究においては、狭義の聴覚情報処理障害の原因および病理は未解明です。

私見では、原因不明の「狭義の聴覚情報処理障害」は、特異的言語発達障害による症状のうちの聴覚情報処理面における問題と結論付けています。そして、その特異的言語発達障害とは、容量性注意障害の言語機能の低下です。

 

 

 

参考文献

小渕千絵「聴覚情報処理障害の評価と支援」, 2015

www.jstage.jst.go.jp

 

*1:小渕, 2015, p. 302

*2:小渕, 2015, p. 303