聴覚情報処理をつかさどる機能が低下する3タイプの精神障害の病理を、当事者の観点から考察します。
キーワード:音声認識、言語理解、カクテルパーティー効果、音韻ループ、ワーキングメモリ、マルチタスク、聴覚過敏、解離、吻側前頭前野、容量性注意障害、特異的言語発達障害、頭蓋骨縫合早期癒合症
<はじめに>
「聴覚情報処理障害」とは、「相手の話を理解できない」、「雑音下での聴き取りができない」などのコミュニケーション上の問題を抱えた状態を示す疾病概念です。ちなみに私、リョウタロウも「狭義の聴覚情報処理障害」(「狭義」の詳細は後述)の当事者です。
「聴覚情報処理障害」は半世紀ほど前に、アメリカの言語医学会(American Speech-Language-Hearing Association: ASHA)で扱われ始めた概念であり、そこまで新しい概念ではありません。しかし、ようやく近年になって(およそ10年前?)から、国内でも扱われるようになりました。音声言語医学の専門家の間ですが、その知名度は徐々に広がっています。
余談ですが、どうやら2018年秋ごろにNHKで聴覚情報処理障害の特集が放送される、という情報をtwitterで収集しました。
聴覚情報処理障害(APD)の件で、NHK番組制作者と協力することになり、具体的なエピソードや障害について説明しました。少しでも聴覚情報処理障害が、世間に認知されれば良いなと思います。
— 卯月 (@unohanazuki4) 2018年5月20日
企画では秋頃に放送予定です。
— 卯月 (@unohanazuki4) 2018年5月20日
おそらくこのことは事実でしょうから、すると、研究者や当事者しか知らない「聴覚情報処理障害」の知名度はさらに広がるのでしょう。NHKによる聴覚情報処理障害の特集サイトがリリースされたので、添付しました。しかし、詳細は後述しますが、聴覚情報処理に関する研究が発展途上の段階にあり、「聴覚情報処理障害」自体が、多くの論点や問題点を抱える疾病概念です。そのひとつとして、「聴覚情報処理障害」の疾病概念としての定義が不完全であり、その定義について賛否両論が沸き起こっています。その定義の問題点についても、本稿では焦点を当てていきます。
<この記事の概要>
- 音声認識と言語理解の認知プロセス
- 聴覚情報処理における、ワーキングメモリの役割
- 「聴覚情報処理障害」の定義:「広義」と「狭義」
- 「発達障害」と聴覚情報処理障害の関係
- 狭義の聴覚情報処理障害の正体を解明する ←<メイン>
- 序論
- (記事リンク)聴覚情報処理障害を診断できる病院 / タイプ別診断
- 「聴覚情報処理障害」の症状一覧、定義について
- 聴覚情報処理障害に含まれない疾病
- 聴覚情報処理障害の当事者で認められる脳血流の状態の特徴
- 聴覚情報処理で必要な脳機能に関する概念
- 発達障害と聴覚情報処理障害の関係
- 狭義1つ目:容量性注意障害
- 頭蓋骨縫合早期癒合症が脳を圧迫し、聴覚情報処理障害を引き起こす可能性
- 参考文献、聴覚情報処理障害に関する著書、研究
序論
音声言語医学の研究によると、聴覚情報処理障害には、以下の3種類が挙げられます。
現時点での音声言語医学で病理が解明されていない「狭義の聴覚情報処理障害」とは、配分性注意障害(容量性注意障害)であるというのが、私の持論です。
(記事リンク)聴覚情報処理障害を診断できる病院 / タイプ別診断
当ブログでは、聴覚情報処理障害の診療に関する情報や、オリジナルの判別方法(問診)についての記事を配信していますので、ぜひご覧ください。
「聴覚情報処理障害」の症状一覧、定義について
聴覚情報処理機能の低下症状を抱える患者については、「最初に訴える症状が「騒音下での聴きにくさ」と表現されることが多い」*1という特徴が言及されています。
そして、症状に関するデータを集めた臨床研究によると、聴覚情報処理障害を抱える患者が抱える症状は、以下のような特徴を持つことが判明しています。
聴覚情報処理障害の症状一覧*2
- 聞き返しが多い
- 聞き誤りが多い
- 雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
- 口頭でいわれたことは忘れてしまったり、理解しにくい
- 早口や小さな声などは聞き取りにくい
- 目に比べて耳から学ぶことが困難である
- 長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
典型的な例では、多人数が話す場合など、騒音環境下での聞き取りにくさ、音声提示された指示に対する従いにくさ、よく似た言葉の弁別しにくさなどがあり、しばしば聞き返しが多く、口形に注目してコミュニケーションを図ろうとするなど難聴時と類似した症状を示すことがある。*3
音声言語医学によって通説となっている聴覚情報処理障害の定義は以下の通りです。
聴覚情報の処理にかかわる中枢性の処理障害が存在し、かつ末梢聴覚およびその他の脳機能には障害が存在しないか、あるとしてもその程度は症状を説明するほど高度なものでな く、聴覚情報処理に特異的な中枢の障害が第一義的な病態の中心になると考えられるもの*4
以上の定義に従い、聴覚情報処理障害が成立する必要条件は、以下通りです。
聴覚情報処理障害の条件
しかし、音声言語医学の中では現在でも「聴覚情報処理障害」の定義に関する論争が続いており、その定義は定まっていません。
聴覚情報処理障害に関しては,研究端緒から半世紀を超しているにもかかわらず,用語や定義についても議論が絶えない。臨床像や対処法等では明確な点が多かったにもかかわらず,原因論や検査方法などは問題点が数多く指摘されてきた。*5
論争の原因は、従来の定義に従うと複数のサブタイプが含まれることは先述しました。
APDという表現自体が単一の障害のように受け取られる可能性があるが、聞き取り困難を抱える症候群と考えれば、様々な背景要因を抱える例を含めることになる *6
聴覚情報処理機能の困難さに特化している純粋な APDと他の要因から生じる APD 症状との鑑別の問題が残っている*7
複数のサブタイプで共通するのは「雑音下での言語理解ができない」という患者の主訴のみであり、原因だけでなく、症状の現れ方までもが異なっています。このことは小渕先生が提示している「聞き取り困難を抱える症候群」という表現の存在により明らかです。しかし、サブタイプ間では、原因だけでなく聞こえ方自体も異なるので、もはや「聴覚情報処理障害」は疾病概念ではなく、症状概念です。
論争の原因はもう一つあります。それは原因不明のサブタイプの存在です。論争の詳細、および定義に対する持論については以下の記事の中で紹介しています。
聴覚情報処理障害に含まれない疾病
まずは上記の聴覚情報処理障害の定義から外れる、近似の疾病を列挙します。
① 聴覚障害(ろう)
聴覚障害は、聴覚情報処理のうち、音声認識の機能が無効化した状態と形容できる中枢神経障害ですが、言語理解の低下はありません。なので、似た名称を持ちますが、聴覚情報処理障害と聴覚障害は、本質的に異なります。
② 難聴(伝音性難聴、感音性難聴)
難聴は、音声認識の機能が低下した末梢神経障害です。同じく、聴覚情報処理障害とは本質的に異なります。
③ ストレス、あるいはうつ病に起因する聴覚情報処理機能の低下(心因性難聴)
心因性難聴については、聴覚情報処理障害に含まれると考える研究者も存在します。
ストレスが発展し罹患するうつ病は、聴覚情報処理障害と類似した聴覚情報処理機能の低下を引き起こします。これを心因性難聴といいます。しかし、心因性精神障害であって器質性精神障害ではないため、聴覚情報処理障害に含まれるというのは妥当ではありません。
ただし、発達障害を含める器質性精神障害は、往々にして二次障害の引き金になります。このことから、二次障害である心因性精神障害による聴覚情報処理機能の低下と、先天的に備わっている聴覚情報処理障害が併発しているケースが、発達障害を抱える当事者のなかに存在する可能性を無視できません。
聴覚情報処理障害の当事者で認められる脳血流の状態の特徴
福島、川崎(2008)の研究の中で記載されている、狭義の聴覚情報処理障害の症状が認められる患児の臨床データの内容*8は以下の通りです。
「会話が聞き取れない」ことを主訴に近医耳鼻咽喉科受診となるが、当初標準純音聴力検査結果が安定しなかったことから機能性難聴と判断される。しかし聴性行動の観察から語音認知の低下が推定された…。
乳幼児期の発達経過に特記事項はない。滲出性中耳炎の既往、難聴の家族歴はない。
理学初見・神経学的所見:特記事項なし
頭部MRI所見:局所性病変を認めなかった
機能画像初見:SPECTにてisspで両側側頭葉後部内側の局所脳血流量の低下を認めた
総合所見:本症例では神経生理学的所見からは、末梢性の難聴とauditory neuropathy(中枢性難聴) は否定的であり、両側横側頭回を含む頭頂葉内側皮質領域の機能低下が語音聴取に影響をきたした可能性が示唆されている。
聴覚情報処理で必要な脳機能に関する概念
聴覚情報処理を達成するためには、音声認識と言語理解の処理経路以外にも、以下のような効果が必要です。
音声認識に必要な機能概念:カクテルパーティー効果
言語理解に必要な機能概念:音韻ループ
それぞれの効果の詳細と、その効果の成立に必要な補助的脳機能の概念を紹介します。
1 カクテルパーティー効果
カクテルパーティー効果とは、聴覚情報処理のうちの音声認識を達成させるために必要な効果です。1953年にコリン・チェリーによって提唱されました。その定義は、「聴く側の雑音下でのコミュニケーションを円滑に進めるための必要な効果」というべきでしょうか。
心理学の教科書の中では、「選択的注意」の一部として説明されることが多い概念ですが、この説明だけでは、メカニズムを知るにはあまりにも不十分です。そこで、カクテルパーティー効果が実現するために必要な脳のはたらきと機能について紹介します。
- A 目標音声の雑音からの抽出
目標音声以外の音声を雑音として無視し、目標の音声のみを聴くという行為を人間は任意に行うことができます。
雑音下での会話以外の例を挙げると、オーケストラが演奏する交響曲のうち、特定の楽器が演奏しているメロディーパートのみを聴き取るという行為が、「目標音声の雑音からの抽出」に該当します。
- B 未抽出音声の補完
認知目標音声の抽出を行っても、どうしても聞こえない音声が発生することがあるのは、健常者においても同様です。その際、聴く側は、相手の口元の動きや「経験則」を参考にしながら、聞こえなかった音声を推察し、補います。
口元の動きという視覚情報を参考にできない視覚障碍者は、「未抽出音声の補完」が困難であるという面で、カクテルパーティー効果の実現が不利であるといえます(ただし、視覚障碍者は、聴覚や第六感の発達という代償で補っている可能性がある)。
カクテルパーティー効果が実現するためには、以下の条件が必要です。
- 聴覚刺激に対する正常な感受性が備わっていること(目標音声の雑音からの抽出で必要)
- 実行機能(情動抑制)が有効であること(目標音声の雑音からの抽出で必要)
- 必要最低限の注意容量を持つこと(未抽出音声の補完で必要)
聴覚刺激に対する正常な感受性が備わっていることは、他の補助的脳機能と比べて優先度が高いです。「目標音声とそれ以外の雑音との混線の防止」という役割を担っています。
いわゆる「集中力」が必要になることは、聴覚情報処理をする場面においても同様です。ワーキングメモリネットワークが担う衝動抑制・注意制御機能は、目的の認知処理に対する集中力の有無をつかさどっています。特に、「目標音声の雑音からの抽出」に必要です。
必要最低限の容量の注意資源が備わっていることは、後述する音韻ループの実行にも必要なのですが、音声認識と口元の動きの観察といった視覚的記憶というマルチタスクの可否にも影響します。
2 音韻ループ
① 文を理解するための機能
音韻ループとは、聴覚情報処理のひとつである言語理解を達成させるために必要な、ワーキングメモリネットワークによる効果です。
人間が言語を認知する際に用いる基本単位は、「句」、あるいは「節」です。日本語の場合、膠着語としての性質を持つため、私たちが日本語の文を理解する際の基本単位は「節」です。
そして、日本語の文を理解するためには、それまでに理解した「節」を保持する仕組みが必要です。この仕組みを、認知心理学では「音韻ループ」と呼んでいます。
いわば、音韻ループとは「文を理解する際に運用されるワーキングメモリネットワークの機能」です。
② 文の理解と「ワーキングメモリ容量」との関係
音韻ループは、「節」の保持と「節」の貯蔵というマルチタスクによって成り立っています(このマルチタスクを私は「脳内マルチタスク」と呼んでいます)。このマルチタスクを実行するためには、先述の衝動抑制・注意制御機能が有効になっていることは当然ですが、そのうえ、必要最低限の注意容量、すなわちワーキングメモリの容量が、備わっていなければなりません。
③ 「ワーキングメモリ容量」と日本語の文構造
ミズーリ大学の心理学者ネルソンコーワンによって、健常者が持つ注意容量が「4チャンク前後」である、という結論が提示されています。
このことから、日本語の場合、健常者が理解しやすいといえる範囲内の文とは、主語から述語までの間に存在する節の個数が、4つ以下であるといえると、私は考えています。
発達障害と聴覚情報処理障害の関係
さて、ここからが本題です。聴覚情報処理障害の症状、メカニズムについて説明していきます。
聴覚情報処理障害が発生する原因は、カクテルパーティー効果や音韻ループといった効果を構成する脳機能のうち、いずれかの脳機能が無効化していることにあります。
聴覚情報処理機能の低下症状を引き起こす器質性精神障害は以下とおりです。
それぞれ、言語理解の情報処理過程に異常はありませんが、聴覚情報処理の補助的機能に悪影響が及んでいます。
このうち、広義の聴覚情報処理障害とその原因疾患に該当する精神障害の関係を紹介します。
1 自閉症スペクトラムが抱える聞こえ方の問題
先述した、音声言語医学の臨床で報告されている聴覚情報処理機能低下の症状のうち、自閉症スペクトラム障害を持つ患者でみられる症状は以下の通りです。
- 雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
- 口頭でいわれたことを忘れることがある
小渕先生は、自閉症スペクトラム障害による聴覚情報処理機能低下の病理について、以下の見解を提示しています。
(弱い中枢統合のために、)入力された情報の仕分けが困難となり、雑音下での聴取が困難になると考えられている、また、大事な事柄に注意を統合できずに注意が拡散する。このため、さまざまな症状が出現すると考えられるが、その1つとして聴覚情報処理にも影響していると考えられる。*9
私は、自閉症スペクトラム障害の患者に認められる聴覚情報処理機能の低下には、自閉症スペクトラム障害が持つ以下の2つの特徴が原因であると考えています。
- 聴覚過敏
- 解離性
上記に列挙したそれぞれの特徴が聴覚情報処理にどのような悪影響を与えるかについて、それぞれ紹介します。
① 聴覚過敏による聴覚情報処理機能の低下のメカニズム
聴覚過敏は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状のひとつであり、聴覚刺激に対する脆弱な感受性を持つ特徴を意味します。具体的に表現すると、認知目標の音声の抽出をする際においても、その他の音声を聴き取ってしまうという、聴き取る音声の取捨選択の困難性です。そして同時に、不協和音で構成される聴覚情報を許容できないという特徴も含まれます。
すると、聴覚情報処理に必要になる補助的脳機能のひとつである「カクテルパーティー効果」を成立させる脳のはたらきのうち、「雑音からの認知目標音声の抽出」が困難になります。一方の「未抽出音声の補完」のほうの悪影響の有無は不明ですが、どちらにせよ、その前提がクリアできていないのでカクテルパーティー効果の発揮されないことになります。
② 解離性による聴覚情報処理機能の低下のメカニズム
聴覚過敏から視野を広げまして、その原因疾患である自閉症スペクトラム障害による症状は、ほかにも解離性が認められます。
音声言語医学による臨床研究で報告されている症状のうち、「口頭でいわれたことは忘れてしまったり、理解しにくい」とは、解離性による症状です。その特徴は、口頭でいわれたことが丸ごと抜け落ちるというものであり、いわば「ALL or Not」 です。自閉症スペクトラム障害の解離についての詳細は、以下のHPで扱われています。
2 ADHD:注意散漫に起因する聴覚情報処理の困難
先述した、音声言語医学の臨床で報告されている聴覚情報処理障害のうち、ADHDによって引き起こされる症状は以下の通りです。
- 雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
- 長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
ADHDによる聴覚情報処理機能低下の病理について、以下の見解を提示しています。
注意の集中、持続、衝動性などの障害が見られ、様々な感覚での知覚、認知に影響を及ぼしうる。特に聴覚情報は視覚情報に比べて情報が残りにくいため、障害が顕著にみられやすい。*10
注意欠陥多動障害児は、聴覚提示された音に集中することが困難で、結果として音の理解や記憶が困難となる場合がある。これは、注意障害によって情報に集中できないためで、聴覚中枢自体に問題の中心があるわけではない。*11
注意欠如多動性障害(ADHD)は、神経伝達物質の脳内伝達が十分に行われない器質性精神障害であり、実行機能をつかさどるワーキングメモリネットワークの活動が低下しています。
その結果、情動抑制が無効化されるので、聴覚情報処理機能が低下します。高次脳機能概念を用いて考察すると、ADHDは持続性注意障害や選択性注意障害の性質を兼ね備えているといえます。
音の聞こえ方の特徴については、音声認識に対する感受性は健常者と変わらない点において聴覚過敏とは異なります。しかし、問題なのは、「目標音声の雑音からの抽出」から言語理解に至るまで、これらの認知を達成するために集中することが困難であることです。
雑音下でのコミュニケーションの際では、
- 目標以外の異なる雑音に注意が向かう
- 聴覚情報処理以外のことを考える
といった問題が認められます。
狭義1つ目:容量性注意障害
先行研究によりますと、精神医学が既に定義づけている精神障害(ADHD、自閉症スペクトラム障害)のどれにも当てはまらない、原因不明の聴覚情報処理機能の低下を抱える患者群が存在することが判明しています。
成人例のうち6名については、明らかな背景要因が考えられず原因不明に分類した。…これらの対象者については、明らかな診断が行われていなくとも記憶や注意の面には弱さが見られると考えられる。 *12
そして、この原因不明の聴覚情報処理障害では、前に紹介した聴覚情報処理障害の症状がすべて認められます。
「記憶や注意の面に弱さがみられる」という文言から、「狭義の聴覚情報処理障害」の正体のひとつとして、容量性注意障害を挙げられると。
「集中力」にしぼって比較すると、ADHDの衝動抑制機能の無効化は「選択的注意障害」や「持続性注意障害」と同じ問題を引き起こし、多動になるため集中力が途切れやすくなります。これに対して容量性注意障害では情動抑制は実行可能であり、ADHDとは全く異なります。
聴覚情報処理障害の研究では聴覚的言語の理解のみに焦点が当てられています。しかし実際には、特異的言語発達障害では、聴覚情報だけでなく視覚情報、そして理解だけでなく運用にも困難性が認められます。言い換えると、狭義の聴覚情報処理障害に限らず、「口下手」、「遅筆」、読解力の低下(理解が遅い)という特徴をもちます。
- 視覚言語情報処理の低下:複雑な統語構造を持つ文の理解が苦手である。
- 言語運用の困難:複雑な統語構造を持つ言語情報の出力が苦手。視覚言語情報、聴覚言語情報の種類を問わない。
atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp
atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp
頭蓋骨縫合早期癒合症が脳を圧迫し、聴覚情報処理障害を引き起こす可能性
吻側前頭前野が担うワーキングメモリの機能低下が、容量性注意障害を引き起こします。
これは、あくまで私自身のデータに基づくものですが、容量性注意障害を引き起こす疾病の一つに、頭蓋骨縫合早期癒合症が挙げられます。
頭蓋骨縫合早期癒合症が引き起こす頭蓋内圧亢進の途中経過の中に、狭小化した頭蓋骨による大脳新皮質への圧迫があります。そして、吻側前頭前野が担うワーキングメモリ機能の低下を引き起こし、その結果、言語機能に悪影響を与えます。
詳細は以下の記事をご覧ください。
参考文献、聴覚情報処理障害に関する著書、研究
- 福島邦博、川崎聡大 「聴覚情報処理障害について」
- 小渕千絵「聴覚情報処理障害の評価と支援」
- 太田富雄、八田穂高「聴覚情報処理障害の用語と定義に関する論争」
- 太田富雄、八田徳高、福永直哉「聞こえの困難さを訴える成人症例2例の聴覚情報処理の特徴」
http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2018-j27-2/P449-P455_hatta.pdf
- 小渕千絵、原島恒夫「きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援」
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