「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

認知心理学の研究をする頭蓋骨縫合早期癒合症の成人当事者が考えたことを書いていきます。扱っている症状は原因不明のものばかり(泣)。当ブログの記事における内容及び理論は無断転載及び引用は禁止です。更新情報はツイッターでも配信しています。

聴覚情報処理障害(APD)の原因に関する論考(ADHD、聴覚過敏、特異的言語発達障害)

これまで私は特異的言語発達障害について書いてきましたが、聴覚情報処理障害について持論を展開したことはありませんでした。

これまでにも聴覚情報処理障害について執筆しようと考えていたのですが、これは慎重に書くことを必要とするテーマでした。

その根拠は、「聴覚情報処理障害」が以下のような特徴を持つ概念であるためです。

  • 歴史が浅い
  • 精神障害ではなく、情報処理障害概念にとどまっている
  • 不特定概念であるため、様々な病理が存在する

 

しかし、どうやら2018年秋ごろにNHKで聴覚情報処理障害の特集が放送される、という情報をtwitterで収集しました。

 

 

これは良い機会だと思い、聴覚情報処理障害に関する論考を執筆することを決意しました。 

 

<このページの目的>

  • 「聴覚情報処理障害」の定義をおさらい
  • 発達障害と聴覚情報処理障害の関係性
  • 原因不明の聴覚情報処理障害の病理を解明する ←<メイン>
  • 聴覚情報処理障害のタイプ別診断 

 

目次

 

 

第1 (記事リンク)聴覚情報処理障害(APD)を診断できる病院 / タイプ別診断

当ブログでは、聴覚情報処理障害の診療に関する情報や、オリジナルの判別方法(問診)についての記事を配信していますので、ぜひご覧ください。 

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

第2 聴覚情報処理障害に関する著書、研究(敬称略)

・小渕千絵、原島恒夫「きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援」

 

きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援

きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援

 

 

・小渕千絵「聴覚情報処理障害の評価と支援」

www.jstage.jst.go.jp

 

第3 「聴覚情報処理」とは

1 聴覚情報を分類する

聴覚情報というカテゴリーは以下の2種類の聴覚情報に分類されます。

  • 音声情報としての機能のみを持つもの
  • 音声情報および言語情報としての機能を持つもの

 

(例えば、絶対音感がある人やアニメのCVを当てられる人というのは、聴覚情報の音声情報の側面を記憶し、認識する力が優れている人ということになります。)

 

聴覚情報の性質について、音声情報と言語情報に分類する根拠は、音声情報の認識(音声認識)と言語情報の理解(言語理解)は、プロセスが異なる情報処理であることにあります。実際、脳の中で賦活される部位も異なります。

 

2 聴覚情報処理のプロセス

聴覚情報に種類があるのと同様、入力された聴覚情報に対して、「言語情報として処理する」機能と「音声情報として処理する」ための機能がそれぞれ脳に備わっています。

① 音声認識:聴覚情報を音声情報として処理する

<聴覚情報の入力>

耳 → 聴覚野、辺縁系( ↔ 言語中枢 )

 

ちなみに絶対音感を持つ人の脳は、音声情報が入力されたとき、海馬と言語中枢の間の働きが強化されています(かっこで示した部分)。

 

② 言語理解:聴覚情報を言語情報として処理する

<聴覚情報の入力>

耳 → 聴覚野、辺縁系  → 言語中枢(ウェルニッケ野、ブローカ野)

 

3 聴覚情報を補助的に処理する機能の存在

また、上記の図で示した情報処理経路以外にも、聴覚情報処理について補助的にかかわる機能が存在します。それは、大脳皮質が担っている実行機能(ワーキングメモリ)です。

ちなみにこれは、音声言語医学ではなく、認知心理学の理論です。このワーキングメモリ理論が原因不明の聴覚情報処理障害の病理を導き出すための手掛かりであると、私は考えています。

 

第4 聴覚情報処理障害の定義について

1 定義

小渕千絵先生が聴覚情報処理障害の特徴として「聞こえているのにわからない」と形容しているとおり、聴覚情報処理障害は聞こえているが聴き取れていないという症状を示します(症例については後述)。

より厳密に定義するならば、

言語性知能の低下が原因ではないが、音声認識あるいは言語理解が困難であるという病態が認められるものは、「聴覚情報処理障害」のカテゴリーに含まれる

ということになるでしょう。

 

2 聴覚情報処理の問題ではあるが、聴覚情報処理障害ではない疾病

以下の障害は、聴覚情報処理障害概念のカテゴリーには属しません。

  • そもそも聞こえにくい難聴(感音性難聴、伝音難聴)
  • すでに独立した脳機能障害概念である失語症言語障害

失語症言語障害は言語中枢の機能低下によって引き起こされる病態であることが解明されています。聴覚情報処理障害とは異なり、言語性知能の低下が認められます。

 

3 「聴覚情報処理障害」は不特定概念である

聴覚情報処理障害という概念が不特定概念であると冒頭で説明しました。このことは小渕先生も同様に考えています。

APDという表現自体が単一の障害のように受け取られる可能性があるが、聞き取り困難を抱える症候群と考えれば、様々な背景要因を抱える例を含めることになる *1

聴覚情報処理障害とは音声言語医学の臨床の場において、便宜的に作られた不特定概念であるといえるのです。このことから「聴覚情報処理障害」というカテゴリーには、異なる病理を持つ情報処理障害がひしめいているといえます。

 

第5 聴覚情報処理障害の症例

小渕千絵先生の臨床データによりますと、聴覚情報処理障害を抱える患者が訴える症状は、以下のようにさまざまなものが見受けられるとのことです。

  • 聞き返しが多い
  • 聞き誤りが多い
  • 雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
  • 口頭でいわれたことは忘れてしまったり、理解しにくい
  • 早口や小さな声などは聞き取りにくい
  • 目に比べて耳から学ぶことが困難である
  • 長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
*2

 しかし、先述したようにこれらすべての症状が共通の病理を持つものではありません。

聴覚情報処理障害の類型を判断するためには、上記の症状以外に併発している症状を参照することが必要であると思われます。

 

第6 聴覚情報処理障害の分類

現段階の音声言語医学の臨床研究において、聴覚情報処理障害は以下のように分類されています。

① 聴覚過敏

② ADHD

③ 「原因不明」

 

それぞれの病理について説明します。

 

1 聴覚過敏(音声認識の異常)

自閉症スペクトラム障害ASD)の症状のひとつです。

聴覚情報を取捨選択することや、不協和音で構成される聴覚情報を許容できないといった特徴を持ちます。

聴覚過敏に加え、絶対音感の資質が備わっていると、症状に対する困り具合は悪化すると思われます。

 

2 ADHD(目的の聴覚情報処理に必要な注意資源を供給できない)

① 病理

注意欠如多動性障害(ADHD)は、神経伝達物質の脳内伝達が十分に行われない器質性精神障害であり、実行機能をつかさどる脳部位の活動低下により注意制御機能が無効化されている状態を意味します。

 

② 聴覚情報処理に対する悪影響

もちろん、聴覚情報処理をする場面においても「集中すること」が必要です。聴覚情報処理に必要な「注意資源」を供給できないため、聴覚情報処理の達成に悪影響を及ぼします。

例えば、雑音の中での会話のような、選択的注意(カクテルパーティー効果)が必要になる場面でのコミュニケーションをするべき場面では、対象の言語情報を理解する行為に注意が向かわずに

・目標以外の異なる雑音に注意が向かう

・聴覚情報処理以外の事象に意識が向かう(違うことを考える)

といった認知様式が見られると推定されます。

 

3 「原因不明」(言語理解の異常?)

① 原因不明の聴覚情報処理障害の特徴

先行研究によりますと、精神医学が定義づける精神障害のどれにも当てはまらないタイプの患者群が存在することが判明しています。

成人例のうち6名については、明らかな背景要因が考えられず原因不明に分類した。…これらの対象者については、明らかな診断が行われていなくとも記憶や注意の面には弱さが見られると考えられる。 *3

先行研究から導き出される、原因不明の聴覚情報処理障害(以下「原因不明」と記載)の特徴は以下の通りです。

  • 言語性知能の低下は認められない
  • 「総合的な言語理解力」の低下

このことから推察できることは、聴覚情報処理のうち言語理解における情報処理能力の低下が原因であるということです。

しかし、この現象は「言語理解の問題」と結論付けることはできません。なぜなら、言語理解をつかさどる言語中枢の機能の無効化によって発生する症状ではないからです。

 

② 近似概念との比較:ブローカ失語(運動性失語)

現時点の障害学において認知されているもののうち、「原因不明」に最も近いのは、「ブローカ失語」でしょう。

ブローカ失語は、前頭葉に位置する運動性言語野(ブローカ野)が損傷して発生する高次脳機能障害です。その特徴は以下の通りです。

  • 言語性知能の低下が認められない ←「原因不明」と同じ
  • 言語運用時の流暢性の著しい低下

しかし、ブローカ失語において流暢性が低下する場面は言語運用時に限られ、総合的な言語理解力は通常と同じ水準を保っているのです。

それと比較すると、「原因不明」の流暢性の低下の程度は、ブローカ失語と比較すると軽度であることは明白であり、かつ「言語理解および言語運用時における流暢性の低下」です。

よって、「原因不明」はブローカ失語とは異なるという結論が得られます。

 

③ 音声言語医学では説明不可能

音声言語医学の理論に従うと、「言語理解力の低下の病巣=言語中枢」ということになります。この理論によって病理が導き出されているのが、受容性言語障害ウェルニッケ失語(感覚性失語症)です。

言語理解力の低下を解明する際に、「言語中枢」以外の病巣の存在は、音声言語医学にとっては想定外です。失語症でも受容性言語障害でもなく、既存の精神障害概念にも該当しない「原因不明」の病理を音声言語医学独自の理論を用いて解明することは、現状不可能です。

 

第7 「原因不明の聴覚情報処理障害」=「特異的言語発達障害」である

では、ここからが本題です。

原因不明の聴覚情報処理障害は、「特異的言語発達障害(SLI)」として報告されている言語障害概念ではないかと私は考えています。ちなみに、私自身は、このタイプの聴覚情報処理障害の当事者です。

 

1 「特異的言語発達障害」も不特定概念である

特異的言語発達障害とは、音声言語医学上の概念です。

従来の言語障害概念や失語症の病理理論では説明できない症状を持つことから、名称に「特異的」という言葉がついています。

もちろん、具体的な病理は「不明」ということになっています

 

2 ワーキングメモリとの強い関連性

特異的言語発達障害に関する研究のなかには、ワーキングメモリとの関連性を持つという仮説を提示している研究が存在します。

しかし、ワーキングメモリの機能低下がどのようなものであるか、そのうえ、それによってもたらされた性質が特異的言語発達障害として認知されている症状を現れるまでの病理を論証できておらず、仮説を打ち立てている段階で止まっています。

それも当然のことで、通常のワーキングメモリ理論に準拠すると、「ワーキングメモリの機能低下がADHD」という結論になります。

特異的言語発達障害を論証するためには、その前段階として新しいワーキングメモリ理論の構築が必要です。これを実現するためには、認知心理学の専門知識に加え、当事者の症例を集めることが必要になるでしょう。

 

3 特異的言語発達障害の特徴

① 言語理解力及び言語運用力の低下

聴覚情報処理障害の研究では聴覚的言語の理解のみに焦点が当てられています。しかし実際は、以下のような症状も存在します。

・視覚言語情報処理の低下:複雑な統語構造を持つ文の理解が苦手である。

・言語運用の困難:複雑な統語構造を持つ言語情報の出力が苦手。視覚言語情報、聴覚言語情報の種類を問わない。

 

② 易疲労性

言語理解力が低下した状態で言語理解を実行するためには代償機能を使います。機能代償は易疲労性につながります。

原因不明の聴覚情報処理障害では、「症状の混合」が報告されています。これの原因については、易疲労性が引き起こした、脳機能の一時的な低下であると考えています。

 

③ 言語発達遅滞

特異的言語発達障害はその性質上、幼少期の言語発達に悪影響を及ぼします。ちなみに言語性知能の低下は見られませんが、複文の理解および運用が困難であるため、言語発達が通常より遅くなります。

 

4 特異的言語発達障害の病理について(記事リンクあり)

特異的言語発達障害の病理は学術的には未解明ですが、当ブログで私の持論を展開しています。詳細は以下の記事をご覧ください。 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

  

簡単にまとめますと、特異的言語発達障害の原因は、前頭前野背外側部(DLPFC)が担う「タスクポジティブネットワーク」の低下であると考えています。

 

第8 (結論・考察)聴覚情報処理障害という概念の定義、および存在意義の是非を問う

 執筆中です。

 

引用文献

音声言語医学 56巻 4号 2015年10月

小渕千絵「聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)の評価と支援」 

*1:小渕, 2015 p. 302

*2:同上, p. 302

*3:同上, p. 303