開散麻痺の当事者である私自身のデータをもとに、原因不明といわれている開散麻痺の原因についての持論を立てました。(キーワード:内斜視、外転神経麻痺、軽度慢性頭蓋内圧亢進、頭蓋骨縫合早期癒合症、良性頭蓋内圧亢進症)
- (序説)開散麻痺とは
- 開散麻痺の症状
- 開散麻痺の原因はよくわかっていない、あるいはたくさん?
- 開散麻痺の症例に関する情報 リョウタロウが抱える症状および疾患
- 頭蓋内圧亢進の程度と外転神経
- 軽度の早期癒合症が開散麻痺を引き起こす過程
- 疾患の軽症例を病的な状態として見直そう
(序説)開散麻痺とは
開散麻痺は、麻痺性内斜視を引き起こす疾患の一つです。医学で報告されている、麻痺性内斜視を引き起こす疾患は、およそ以下の通りです。
- 外転神経麻痺由来の内斜視
- 開散麻痺由来の内斜視
- 重症筋無力症による内斜視
麻痺性斜視は後天的に発症します。そのため先天的に目の位置に問題がある間欠性外斜視や恒常性外斜視などとは全く異なる部類のものです。
そのほかの麻痺性斜視に関する説明は、日本弱視斜視学会のHPで紹介されています。
現時点において開散麻痺に対する治療方法は、手術しか存在しません。しかし、この治療方法は対症療法であり、根本的な原因を解消するものではありません。そのため手術の予後は悪いです(ソースは私)。
開散麻痺の症状
開散麻痺と外転神経麻痺の違い
後天的に発症する麻痺性斜視は、開散麻痺以外にも外転神経麻痺や滑車神経麻痺が存在します。このうち外転神経麻痺は開散麻痺と同じく、両眼性の内斜視を引き起こす疾患です。外転神経麻痺と開散麻痺は非常に似ていますが、決定的な違いが存在します。ざっくり説明すると外転神経麻痺は全く目を動かせなくなるのに対して、開散麻痺は目を動かせます。
つまり、外転神経麻痺は内斜視で固定されてしまい、目の位置を元通りに変更できません。一方の開散麻痺は、自力で眼位(目の位置)を元通りにできる状態であるため、内斜位(潜伏性内斜視)となっています。つまり、開散麻痺では当事者自身が意識的に眼位を元通りにしているため、傍目から麻痺を引き起こしていることを認知することは不可能です。
あと、外転神経麻痺は眼筋の麻痺なので眼筋麻痺ですが、一方の開散麻痺は眼筋の麻痺として考えられておらず、外転神経核より「上部の異常」ということで核上性麻痺であるといわれています。
複視と、つらい筋性眼精疲労
後天的な麻痺である開散麻痺を抱える患者は、両目がしっかりと見えています。脱力時に左右の目が異なる方向に向いてしまうため、視界が左右に分離します。これを複視といいます。
複視を防ぐため、開散麻痺の当事者は無意識的に眼位を元通りにしています。この時、動かせる筋肉が動かない筋肉の分まで力を使っています。そのため、筋性眼精疲労という強い苦痛をもたらします。眼筋の筋肉痛です。
多くの健常者は寄り目ができる一方で、その逆はできないはずです。開散麻痺の当事者はその逆をやっています。不可能なことをやっている分だけ、その疲れの程度は強いといわれています。
開散麻痺の原因はよくわかっていない、あるいはたくさん?
開散麻痺に気づけない当事者
よほどの出来事がない限り、開散麻痺を自覚したうえで来院する患者は存在しないはずです。当事者である私もそうでしたが、当事者の大半は開散麻痺の存在に気づけません。
外転神経麻痺のように全く動かせないわけではないので、麻痺を抱えていること自体を自覚するのが困難です。当事者の自覚症状は目の位置を動かしていることによる筋性眼精疲労です。筋性眼精疲労であることがわかればよいのですが、それをよくある目の疲れ(神経性眼精疲労)と誤解するでしょう(ソースは私)。
当事者が開散麻痺を自覚するきっかけとなるようなよほどの出来事を挙げると、以下の通りです。
- お酒を飲む:アルコールの作用によって麻痺していない眼筋に力を入れられなくなる。
- 眼帯を常につけている:遮蔽すると眼筋が楽に作用する。外した際に複視を自覚。
- 双眼鏡を使用
開散麻痺の原因についての眼科学の暫定的見解
2020年現在において、発症メカニズムや原因疾患は解明されておらず、理論で仮定するか、あるいは併存疾患で仮定するしか方法がありません。以下は、日本眼科学会が表明している、開散麻痺の原因に関する仮定的一般認識に関する文章です。
脳の付け根の部分である脳幹と呼ばれる部分の障害で起こるといわれています。はっきりとした原因が不明のこともありますが、脳血管障害、脳腫瘍、外傷などで発症するといわれています。
つぎに、開散麻痺が発生している患者が抱えている疾患は以下の通りです。
兵庫医科大学の三村治先生のまとめた新臨床神経眼科学という教科書を開いてみると、開散麻痺を生じたという報告があるもとの病気には、脳血管障害、脳腫瘍(後頭蓋窩腫瘍、テント上腫瘍、中脳血管腫、転移性脳腫瘍)、外傷(血腫)、ウエルニッケ脳症、ジフテリア、脳炎、良性頭蓋内圧亢進症、鉛中毒、小脳失調症、多発硬化症、急性白血病、甲状腺疾患、神経梅毒、抗癌剤、フィッシャー症候群などが上げられています。*4
原因がわからないだけでなく、「開散麻痺」の開散という現象のメカニズム(神経基盤など)もよくわかっていないそうです。
(新潟大学の三木先生の記載によると)臨床的に開散麻痺はよく知られていますが、開散の中枢が存在して輻輳系と積極的に拮抗支配しているのか、開散が輻輳系の弛緩過程であるのかという明確な結論は出ていません。*5
清澤眼科通信では、開散麻痺の原因に関する新しい情報を発信しているので、そのリンクを紹介します。
開散麻痺の症例に関する情報 リョウタロウが抱える症状および疾患
本題である、開散麻痺を引き起こす原因疾患とメカニズムに関する仮説を紹介する前に、その仮説のベースとなる私自身の症例を紹介します。
- 開散麻痺(潜伏性内斜視)
- 弱視なし、脱力時に複視
- ド近眼
- 頭蓋骨縫合早期癒合症:軽症、前頭縫合および矢状縫合の早期癒合
- 軽度慢性頭蓋内圧亢進:指圧痕あり、脳浮腫およびうっ血乳頭なし
- 神経症状あり:容量性注意障害
先述したように、成人になってから私は開散麻痺を診断されました。中学生のころから筋性眼精疲労を感じており、その程度は今と変わらず強かったです。しかし、ド近眼であるうえに、一日中受験勉強をするなど目を酷使する生活を送っており、神経性眼精疲労であると勘違いしたため、開散麻痺が存在することを気づけませんでした。
頭蓋内圧亢進の程度と外転神経
外転神経麻痺の原因:重度の頭蓋内圧亢進
外転神経麻痺は、重度の頭蓋内圧亢進によって引き起こされます。
眼球を外側に動かす神経が麻痺し、複視を自覚します。複視は、麻痺側を見ようとすると悪化します。原因としては、脳血管障害、糖尿病、頭部外傷などが考えられます。通常、片眼性ですが、脳腫瘍などで頭蓋内圧が上昇した際は、両眼性の外転神経麻痺を引き起こします。*6
「外転神経は脳幹(橋)から出て,脳神経のなかで最も長い距離を走行して外眼筋に至ります。長い距離を走行するため,「頭蓋内圧亢進」という変化を受けやすいといわれています。患者さんは,片側ないし両側の眼球が外側を向けないため複視を訴えます。」*7
頭蓋内圧が亢進した際、その中を通る様々な神経は圧迫されます。外転神経も例外ではなく、目から脳の後ろ側という長距離を走っているため、むしろ最も悪影響を受けやすい神経です。
問題は頭蓋内圧亢進の定義です。脳神経外科学が定義する「頭蓋内圧亢進」は、致命的、すなわち重度なものに限定されています。そのため、脳神経外科学が定義づける「頭蓋内圧亢進」の規定値および判断基準は、以下の通りです。
- 髄液圧が16mmHg以上であること(正常値は10mmHg)
- 脳浮腫が認められる
- うっ血乳頭が認められる
重度な頭蓋内圧亢進の際、これらの所見と同時に外転神経麻痺も発症します。ちなみに、不可解なことに外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進の判定基準に含まれていません。
軽度の早期癒合症と軽度慢性頭蓋内圧亢進
突然ですが、開散麻痺の原因に関する私がたてた仮説は、軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症が軽度慢性頭蓋内圧亢進を引き起こし、開散麻痺を引き起こすというものです。眼科学が提示している仮説とは全く異なります。
順を追って根拠を説明します。
慢性頭蓋内圧亢進はマイナーな現象ですが存在します。これを引き起こす疾患は水頭症と頭蓋骨縫合早期癒合症くらいしかありません。このうち頭蓋骨縫合早期癒合症に関しては軽症例が存在します。
論理的に仮説を立てると、慢性頭蓋内圧亢進を引き起こす頭蓋骨縫合早期癒合症の程度が軽度であれば、発生する頭蓋内圧亢進も軽度なものになるといえます。
この仮説を立証するために、軽度の早期癒合症および開散麻痺の当事者である私は、自分の頭部をCTで撮影してきました。すると頭蓋内圧亢進で発生する所見が表れていることが判明しました。それは指圧痕です。
指圧痕は、脳が頭蓋骨に圧迫されていることを示す所見であり、頭蓋内圧亢進を客観的に評価できる所見の一つです。一方私の症例では、重度の頭蓋内圧亢進で出現する所見である、うっ血乳頭や脳浮腫はありません。指圧痕は軽度慢性頭蓋内圧亢進の時に出現します。
このため指圧痕のみが表れている症例は、頭蓋内圧亢進があっても、それは病的なものではないとみなされています。事実、健常の幼児において指圧痕が認められることがあるそうです。
しかし、私は成人です。頭蓋骨内側に指圧痕が認められる成人症例を病的ではないと評価することは、妥当ではありません。
軽度慢性頭蓋内圧亢進における外転神経の悪影響
先述したように、外転神経は頭蓋内を走る神経のうち最も距離が長い神経であるため、頭蓋内圧亢進が発生した際に真っ先に悪影響を受ける神経であるといえます。このことから軽度慢性頭蓋内圧亢進が発生している状態で、外転神経のみが悪影響を受けていることは想定可能であることが導き出されます。
開散麻痺は、軽度慢性頭蓋内圧亢進において外転神経が悪影響を受けて発症する麻痺であり、いわば「軽度な外転神経麻痺」であると、開散麻痺の当事者である私は提言します。
すなわち、開散麻痺が発生している症例について、以下のような事柄を推測できます。
- 髄液圧は11~15mmHg
- 指圧痕あり
- うっ血乳頭、および脳浮腫はなし
軽度慢性頭蓋内圧亢進によって発症するそのほかの身体症状と、指圧痕の扱いに関する詳細は、以下のリンク先の記事で紹介しています。
atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp
軽度の早期癒合症が開散麻痺を引き起こす過程
私の症例に限って言えば、開散麻痺の発症メカニズムは軽度慢性頭蓋内圧亢進の影響下にある外転神経が軽度に機能不全を引き起こしたことであり、根本的な疾患は軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症であるということです。
兵庫医科大学の三村治先生がまとめていた本に記載されている、開散麻痺と併発していた疾患はたくさんありました。このうちの良性頭蓋内圧亢進症が最も近いものかもしれません。良性頭蓋内圧亢進症は成人になってから突発的に発症するものであり、急性頭蓋内圧亢進に該当すると思われます。
これに対して私の場合は早期癒合症は出生時から存在する疾患であり、成人になるまでのあいだに頭蓋内圧亢進が徐々に進行していったものであるため、私の軽度慢性頭蓋内圧亢進は良性頭蓋内圧亢進症とは区別されるべきでしょう。
私が根本の原因疾患として考えている軽度の早期癒合症の判断基準は、おでこの真ん中、あるいは頭頂部を縦に走る部分に骨性隆起が存在することです。それぞれ前頭縫合線や矢状縫合線といい、これらが早期癒合することが多いです。
早期癒合症に関する記事は改訂中です。完了後リンクを張ります。
疾患の軽症例を病的な状態として見直そう
現時点で眼科学が暫定的に提示している、開散麻痺の原因についての仮説は、おそらく誤りではないかと思います。核上性の麻痺といえば、重症筋無力症や多発性硬化症といった部類の疾患が挙げられます。これらの疾患は開散麻痺とは本質が異なります。
私自身の症例から推察した内容、すなわち開散麻痺が「軽度な外転神経麻痺」であり、その病理は外転神経麻痺の一部であることは、検討するに値すると私は考えます。一番手っ取り早い立証方法は、軽度の早期癒合症の解消のための頭蓋再建手術を行うことです。
逆に言えば、軽度の疾患を病的な状態として見直さなければ、開散麻痺の原因を眼科学が解明することは永遠に不可能でしょう。
*2:清澤眼科医院のHP http://blog.livedoor.jp/kiyosawaganka/archives/51691216.html
*3:日本眼科学会のHP
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_w-vision.jsp
*4:
*5:
*6:http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_w-vision.jsp
*7:「循環器ナーシング」2011年10月号<基礎力を高める! 脳血管障害看護のトピックス(前編)>