「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と容量性注意障害に関する当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(他キーワード:特異的言語発達障害、軽度三角頭蓋)

頭蓋骨縫合早期癒合症による精神運動発達遅滞、および軽度三角頭蓋の「発達障害」の原因とは?

病理が未だはっきりとしていない頭蓋骨縫合早期癒合症による精神症状(発達障害的症状)の病理、およびその疾患因子について、当事者の観点から考察しました。

キーワード:頭蓋内圧亢進、前頭前野背外側部(DLPFC)、ワーキングメモリネットワーク、特異的言語発達障害、言語発達遅滞(言葉の遅れ)、デフォルトモードネットワーク 

第1 序論

現在の医学では、早期癒合症が引き起こす精神症状の原因について、頭蓋内圧亢進であると定めています。

この見解に対し、私は以下のような見解を持っています。

まず、頭蓋内圧亢進症状とは別の精神症状発生の機序が、早期癒合症には存在する。

その精神症状とは、ワーキングメモリネットワークを構成する前頭前野背外側部(DLPFC)が、狭小化した頭蓋骨によって圧迫されたことで機能不全に陥り発生する精神症状である。その特徴は、日常生活面では「不注意症状」、言語面では「特異的言語発達障害」として報告されているものである。この精神症状が、軽度な早期癒合症でみられる精神症状に該当する。

一方で、重度な早期癒合症によって発生する精神発達遅滞とは、大脳新皮質の圧迫に加え、頭蓋内圧亢進によるデフォルトモードネットワークへの悪影響が及んだことで引き起こされた精神症状の結果である。

 

第2 早期癒合症の程度と精神症状の相関性

早期癒合症の程度によって発生する精神症状がどれに該当するかを解析するための指標として、「症例数が多い症状は、早期癒合症の程度が軽いときにあらわれる精神症状」、一方で「症例数が少ない症状は、早期癒合症の程度が重いときにあらわれる精神症状」であると仮定します。

言語発達遅滞 → 407例

多動症状 → 322例

パニック・いらいら → 179例

運動遅滞 → 114例

自傷行為 → 103例

睡眠障害 → 77例

(全症例数:420)

下地武義先生の臨床研究から引用*1

 言語発達遅滞の発生確率は420件のうち407件と、発生頻度が非常に多いことから、頭蓋骨の狭小化の程度が軽度であったとしても発生する確率が高い精神症状であるといえます。

一方で、発生確率の低い精神症状が発生している場合は、早期癒合症による悪影響が及んでいる脳組織の範囲がより広い状態である仮定できます。

 

第3 早期癒合症による大脳皮質への悪影響の存在

通常の早期癒合症では、頭蓋内圧亢進症状が発生しているケースが多いです。また、重度の早期癒合症の患者には精神発達遅滞が認められることから、一般論として、頭蓋内圧の亢進という現象が、精神症状が発生させていると推定されています。

しかし、早期癒合症による脳への物理的な悪影響は、脳中心部に位置する脳脊髄液圧の異常だけではないようです。

実は大脳皮質周辺の異変が認められるという研究結果が存在します

以下のURLにてその詳細が記載されています。 

 参照元に記載されている早期癒合症の成人当事者からサンプリングして得られた特徴は以下の通りです。

  • 精神運動発達遅滞
  • クモ膜下腔およびクモ膜下槽の容積の著しい減少

これらの情報の存在から、頭蓋骨の狭小化による大脳皮質への圧迫という悪影響が存在するといえます。

  

第4 早期癒合症による頭蓋内圧亢進の特異性

早期癒合症によって引き起こされる頭蓋内圧亢進のメカニズムは、脳ヘルニアによって発生する頭蓋内圧亢進とは多少異なると私は考えています。

この件についての詳細は以下の記事で紹介しています。

 頭蓋骨のの容積が徐々に小さくなるという現象があると仮定します(ありえないことですが)。

小さくなるにつれて頭蓋内環境が悪化することは明白です。最終地点は頭蓋内圧の上昇でしょう。しかし、頭蓋内圧亢進よりも前に、大脳皮質への圧迫という段階が存在すると私は考えています。

もしそうであるとすると、頭蓋内圧亢進症状が現れていないが、「早期癒合症特有の精神症状」が発生しているというケースは十分に想定できます。であれば、頭蓋内圧亢進症状を引き起こすほど頭蓋変形が強くない軽度三角頭蓋が精神症状を引き起こしている可能性は否定できません。

この精神症状は、頭蓋内圧亢進症状ではありません。圧迫された大脳皮質の機能低下によって発生する「早期癒合症特有の精神症状」です。

 

第5 軽度三角頭蓋の「発達障害」=「早期癒合症特有の精神症状」 

1 「ワーキングメモリ」を担う部位(DLPFC)

大脳皮質のなかでも前頭前野背外側部(DLPFC)は、ワーキングメモリネットワークの一部であり、実行機能を十分に成立させるために重要な役割を担っている部位です。

早期癒合症では、早期癒合した縫合線の下に位置する大脳皮質を圧迫します。すると、頭蓋骨によって圧迫されたDLPFCが持つ実行機能が低下します。

 

2 「早期癒合症特有の精神症状」の病理

ワーキングメモリネットワークを構成するDLPFCの機能の低下により現れる精神症状の病理は、以下の表現で説明できます。

  • 注意資源の小容量化
  • 音韻ループ機能の低下

しかし、ワーキングメモリネットワークのうちDLPFCのみの機能が低下するにとどまっており、辺縁系の機能は低下していないため、神経伝達物質の伝達異常に影響を与えません。つまり、頭蓋内圧亢進がなく、大脳皮質の圧迫のみが認められる場合では、ADHDの症状(抑制機能の無効化)があらわれる可能性は低いです。

この精神症状の詳細については以下の記事で紹介しています。 

 

3 言語発達遅滞は特異的言語発達障害の一側面である

早期癒合症における発生頻度が最も高い言語発達遅滞は、特異的言語発達障害の性質がもたらした結果であると考えられます。

音韻ループ機能の低下により現れる「特異的言語発達障害」の性質は、言語理解・言語運用に困難性を与えるというものです。軽度三角頭蓋で併発している言語発達遅滞とは、言語発達期における特異的言語発達障害の一側面です。 

 

第6 早期癒合症による精神発達遅滞の病理

下地先生による統計資料の解析から、早期癒合症の程度が頭蓋内圧亢進を引き起こすほどに重度であるほど、精神発達遅滞が発生する可能性が高くなるという仮説を導くことが可能です。しかし、大脳皮質の悪影響を原因とする情報処理障害単独では、精神発達遅滞という結果をもたらすことは考えられません。

早期癒合症による精神発達遅滞の原因について、大脳皮質の機能不良による情報処理障害の性質に加え、大脳辺縁系への悪影響が加わった影響によるものであると私は考えています。早期癒合症による大脳辺縁系への悪影響の可能性を表す所見は、頭蓋内圧亢進症状に該当します。

ワーキングメモリ理論でいえば、大脳辺縁系は「デフォルトモードネットワーク」であり、苧阪直行教授の言葉を表現すると「社会脳」としての役割を担っています。頭蓋内圧亢進という脳組織内側部分の環境悪化は大脳辺縁系の機能低下にとどまらず、神経発達に悪影響を及ぼすことが想定できます。 

ちなみに社会脳については以下の文献をご覧ください。

苧坂直行「社会脳からみた意識の仕組み」

 

第7 結論

1 軽度三角頭蓋の「発達障害」 = 「早期癒合症特有の精神症状」

→ 注意資源の小容量化による音韻ループ機能の低下が、言語発達遅滞を引き起こす。他にも不注意症状、特異的言語発達障害などが存在する。

2 早期癒合症による精神発達遅滞 = 「早期癒合症特有の精神症状」+ 頭蓋内圧亢進による精神症状

→ 大脳皮質への圧迫により発生するワーキングメモリネットワークへの悪影響にくわえ、頭蓋内圧亢進による辺縁系の機能低下により発生するデフォルトモードネットワークへの悪影響も存在する。