「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)の当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(キーワード:特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)、音韻ループ、軽度三角頭蓋)

なぜ人間は文を運用できるのか?言語情報の出力処理におけるワーキングメモリの役割と「脳内マルチタスク」の内容

 

 

第1 文を認知するという奇跡

コミュニケーションをとるときや情報を発信するときに人間は言語情報を用いる。その言語情報の形とは、「文」や「文章」である。人間が言語情報を認知する際に利用する基本単位は「句」であるもかかわらず、連続する複数の「句」で構成される「文」を人間は認知できる。

このページでは、文の出力をするときの脳機能のうち、ワーキングメモリにかかわる部分の仕組みについて、考えたことを説明する。

 

第2 序論

文の認知は、複数の句の意味情報を統合することにより達成できる。抽象的に表現すると、文の認知とは「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

その統合処理の素材となる、複数の句の意味情報および統語構造をワーキングメモリに保持するために必要な機能を、私は「脳内マルチタスク機能」と定義づけている。

反対に、脳内マルチタスク機能が無効化された状態である「ワーキングメモリ容量減少症候群」においては、文の出力が困難になる。そして、このワーキングメモリ容量減少症候群による脳内マルチタスク機能の無効化による症状は、特異的言語障害である。これによる言語情報の出力における症状は、「口下手」、「遅筆」が挙げられる。

 

第3 言語の運用とは

1 「言語の運用」の例

言語の運用とは、言語情報を出力する行為を意味する。その例は以下の通りである。

 

・「話す」

変換処理: 意味情報 → 聴覚言語情報

出力処理: 聴覚言語情報

 

・「書く」

変換処理: 意味記憶 → 視覚言語情報

出力処理: 視覚言語情報

 

文を話す行為や書く行為の間は、意味記憶から変換される言語情報の種類が異なるものの、変換行為であることは全く同じである。

 

2 出力する言語情報の形態による分類

・句

言語情報を認知する際に利用する基本単位である。これ単体を出力した場合、相手はその意味を理解できることから、言語情報であるといえる。

・文

連続する複数の句によって構成される言語情報である。大方の場合、主要部(述語)を持つものが代表的である。

本稿では、「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力することについて焦点を当てる。

・文章

連続する複数の文によって構成される言語情報である。

本稿では、「文章の中の文」の「連続性」を流暢に出力することについて焦点を当てる。

 

なお「節」という言語情報の形態も存在するが、言語情報の出力においては連続する複数の句によって構成されるという共通点を持つことから、文としてみなす。

 

第4 言語の運用と「脳内マルチタスク

1 ワーキングメモリで保持されるべき情報

以下の3種類の情報が、言語の運用において、同時にワーキングメモリに保持されなければならない。

 

① 変換及び出力処理対象の言語情報

人間が言語情報を出力する際、意味情報から言語情報への変換処理が行われる。変換および出力処理の対象となる言語情報の単位は句である。これは文を出力する際も同様である。

 

② 展望的記憶の言語情報

展望的記憶とは、未来指向の記憶を意味する。すなわち、本稿においては、これから自分が出力する言語情報の意味情報や統語構造に該当する。

 

③ 回想的記憶の言語情報

回想的記憶とは、過去指向の記憶を意味する。本稿においては、これまで自分が出力した言語情報の意味情報や統語構造に該当する。

 

言語情報の出力の際に、以上の3種類の情報をワーキングメモリに保持することを、「脳内マルチタスク」という。

 

2 出力する言語情報の形態と脳内マルチタスク機能の必要性

言語の理解と脳内マルチタスクの関係を考察した以下の記事の中で、私は以下のように定義づけた。

「脳内マルチタスク機能」とは、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」を効率的に達成することを目的として、統合処理の素材となる複数の情報をワーキングメモリに保持することを可能とする機能である。

「単独の情報処理で達成可能な認知行為」を実行する場面においても、当該機能は働いているが、それの達成のためには統合処理を実行する必要がないため、脳内マルチタスク機能を必要としない。

これは言語の運用においても同様のことがいえると私は考える。

句という形態を持つ言語情報を出力しなければならない場面においては、句の意味情報から言語情報への変換をすることで達成可能であるといえる。

一方、文は複数の句で構成される言語情報の形態である。文の出力の達成、すなわち「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力するためには、「変換及び出力処理」を句の個数分の回数を繰り返さなければならない。その際、展望的記憶および回想的記憶の言語情報を考慮する必要がある。

文の出力における統合処理とは、展望記憶及び回想的記憶の言語情報を考慮しながら、変換および出力処理をすることを意味する。

 

よって、以下のような結論を導き出すことが可能となる。

・句の出力は「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるため、これを達成するためには、脳内マルチタスク機能を必要としない。

・一方で文の出力は、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるため、これを達成する(「文の中の句」の連続性を流暢に出力する)ためには脳内マルチタスク機能を必要とする。

 

第5 出力する句の変化に伴う、脳内マルチタスク機能によって保持されている情報の内容の変化

人間は文の出力時に、文のなかのとある句を出力し終えると、それの次の句の出力に移行する。このように、人間は意識的に出力する句を変更することから、言語情報を出力する際に実行されている「脳内マルチタスク」のうち、「変換および出力対象の言語情報」は、人間が直接変化を与える部分であるといえる。

文の出力時の統合処理を成功させるためには、「変換および出力対象の言語情報」の変更とともに、「展望的記憶の言語情報」および「回想的記憶の言語情報」の内容も同時に変更させなければならない。

 

ここでは、言語情報の出力時における、脳内マルチタスクとして保持されている3つの情報の内容の変化の過程を、出力する言語情報の形態(句および文)の場合を提示する。

 

1 句の出力と「脳内マルチタスク

句を出力する際の「脳内マルチタスク」の内容の変化は以下のとおりである。

 

出力対象:P(a)

→脳内マルチタスク

↓タイミング

展望的記憶

変換及び出力対象

回想的記億

① 出力直前

P(a)

None

None

② P(a)の出力時

P(a)

P(a)

None

③ 出力終了

None

None

P(a)

 

句を出力する際の情報処理を、このように脳内マルチタスクの内容の変化というかたちで表現することも可能である。言語認知の基本単位である句を出力することで達成できるため、「変更及び出力対象の言語情報」の変更プロセスが存在しない。ゆえに「展望的記憶」や「回想的記憶」を参照することがない(そもそも出力する句以外に存在しない)ため、統合処理の必要性は皆無である。

このことから、句の出力時におけるワーキングメモリ上の情報処理は「変換及び出力対象の言語情報」だけでよい。ゆえに、句の出力を達成するためには「脳内マルチタスク機能」を必要としないといえる。

 

2 文の出力と「脳内マルチタスク

複数の連続する句によって構成される言語情報である文の出力には、脳内マルチタスク機能により保持されている3種類の情報の統合処理が必要であることを示すために、ここでは下記の文を出力する際に変化する「脳内マルチタスク」の内容を提示する。

 

出力対象:S = P(a)、P(b)、P(c)

→脳内マルチタスク

↓タイミング

展望的記憶

変換及び出力対象

回想的記億

① 出力直前

P(a), P(b), P(c)

None

None

② P(a)の出力時

P(a), P(b), P(c)

P(a)

None

③ P(b)の出力時

P(b), P(c)

P(b)

P(a)

④ P(c)の出力時

P(c)

P(c)

P(a), P(b)

⑤ 出力終了

None

None

P(a), P(b), P(c)

 

例えば、②のプロセスと③のプロセスの間に存在する「句aを出力し終わり、句bを出力し始めなければならない」というタイミングにおいては、「変換及び出力対象」を句aから句bへの変更を決定しなければならない。その決定のためには、「展望的記憶」や「回想的記憶」を参照することにより、以下の結論を導き出さなければならない。

・次に出力する言語情報が句b、句cであること

・すでに出力した言語情報が句aであること

そして、③のプロセスにおける「変換及び出力対象」が句bであることを確認できる。これが、文の出力の際に実行される統合処理である。

 

第6 結論

1 人はなぜ文章を作ることが可能か

人間が言語情報を出力する際に用いる基本単位は句である。ゆえに、文の出力を達成する、言い換えれば「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力するためには、同時に文を全体像として俯瞰しなければならない。ゆえに、文を出力する行為とは、「連続する複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

 

「文章の中の文」の「連続性」を流暢に出力する行為についても同様である。文章の出力を達成する際にも、その文を含める文章の意味情報や文の役割の構造を参照しながら、次に出力する文を決定するという統合処理が存在すると考えられる。

 

2 言語運用の障害

文の出力を達成するために必要なプロセスである「脳内マルチタスク」を実行できない場合、「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力することは不可能になる。

自作概念である「ワーキングメモリ容量減少症候群」は、「脳内マルチタスク」機能の無効化であり、これを原因として様々な種類の精神症状を発現するものである。言語面(言語理解および言語運用面)における問題は、現在学術的に認知されている名称で表現すると、「特異的言語障害(SLI)」に該当する。

「ワーキングメモリ容量減少症候群」による、言語運用時の悪影響を、次の記事で論じる(その記事は以下のものです)。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp