「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)の当事者研究ブログです。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(キーワード:特異的言語発達障害(聴覚情報処理障害)、音韻ループ、軽度三角頭蓋)

なぜ人間は文を理解できるのか? 言語情報の入力処理におけるワーキングメモリの役割と「脳内マルチタスク」の内容

 

第1 序論

言語情報の理解とは、読む、聞くといった、ワーキングメモリに入力された言語情報を言語中枢が意味情報に変換する行為である。

言語情報は規模の大きいものから順番に、文章、文、節、句というように分類できる。しかし、人間が言語情報を認知する際の基本単位は句である。それにも関わらず、なぜ節や文といった大規模の言語情報を理解できるのか。それは、ワーキングメモリに入力された句の意味情報を統合処理できるからである。そのためには「脳内マルチタスク」を実行するための機能が備わっていなければならないと私は考えている。

 

逆のことを言えば、「脳内マルチタスク」機能が無効化されている「ワーキングメモリ容量減少症候群」の場合、文の理解が困難になるという結論を私は導き出した。

理論に沿うと脳内マルチタスクが無効化されている状態だと文の理解は「不可能」になるが、実際は文の理解が「困難」な程度にとどまっている。これは、代償機能によるものであると私は推測している。

 

本稿では、以上のような結論に至った根拠を、ワーキングメモリ内における言語情報の扱いという観点から以下の事柄を説明する。

・言語情報の理解の仕組み

・言語情報の理解における「脳内マルチタスク」の役割

・脳内マルチタスク機能が無効化されたときの言語情報の理解

・言語理解の際に活性化する、脳内マルチタスク機能の無効化における代償機能

 

なお、自作概念である「脳内マルチタスク」と「ワーキングメモリ容量減少症候群」の意味についての詳細は、以下の記事で紹介しています。

「脳内マルチタスク」についてはこちら↓

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

「ワーキングメモリ容量減少症候群」についてはこちら↓

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

 

第2 「句」が言語情報の認知における基本単位であることについて

文章や文、節といった言語情報の意味を理解する際においても、認知における基本単位が句であることは同じである。

日本語のような膠着語における助詞も句である。しかし、助詞単独では認知できない。(助詞は音素である。)

そこで、助詞の意味を理解するためには、名詞との「連結物」なる「節の一部」で理解しなければならない。すなわち、助詞とは「句」ではなく「節の一部」であるという解釈のほうが正しいかもしれない。

 

第3 句の理解と文の理解の相違点について

1 脳内マルチタスクの必要性の有無

句の理解については「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるため、脳内マルチタスクは不必要である。

一方で文の理解については「連続する複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるため、脳内マルチタスクを必要とする。

 

2 「脳内マルチタスク」を必要とする根拠

「脳内マルチタスク」とは、文の理解のための情報処理を効率的に進めるためのプロセスという側面を持っている。

ただ言語理解の際に、効率を求めない認知様式、すなわち保持と貯蔵の同時処理ではなく、継時処理をすることを選択することも可能である。

しかし、その分だけ情報処理が遅くなることにつながってしまう(継時処理の速度を理論的に算出すると、同時処理の2倍)。

そのうえ、入力する言語情報というのは、自分ではなく他人から出力されているものであることを踏まえると、出力された言語情報の「流れる」速度というのは、脳内マルチタスクを前提とした速度である。

ゆえに、保持と貯蔵の継時処理をしていると、入力するべき言語情報の貯蔵するタイミングを失ってしまう。すると、文の理解が不可能になる。

 

ゆえに脳内マルチタスクとは、文の理解の効率化ではなく、文の理解に必要不可欠なものである。

 

これより、句の理解と文の理解、およびワーキングメモリ容量減少症候群の文の理解のミスの様子を考察する。

 

第4 句の理解におけるワーキングメモリ内の情報処理

句aという(句aで構成される)言語情報が存在すると仮定する。これを理解するときのワーキングメモリにおける情報処理の順序は以下の通りである。

 

① P(a)の入力 → 言語情報Aの貯蔵および変換

② 意味情報Aの保持

(P(a)が句aに該当)

 

入力された言語情報はワーキングメモリに貯蔵された後、言語中枢によって意味情報に変換される(→①)。そして意味情報がワーキングメモリ内に保持された時点で、句aの意味を理解したといえる(→②)。

 

以上のような情報処理で達成可能であることから、句の理解とは「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

 

第5 文の理解におけるワーキングメモリ内の情報処理

文の理解、すなわち文の意味情報を創出するまでの過程は、以下のとおりである。

・文を構成する句の意味を確認する。

・文を構成する句の意味情報を、文の統語構造に従って統合処理する。

 

例えば、次の句(Phrase)で構成される文(Sentence)があると仮定する。

S = P(a), P(b), P(c)    

{S:文(Sentence)、P:句(Phrase)}

 

この文を理解する際のワーキングメモリにおける情報処理(貯蔵、保持)の様子は以下の通りである。

 

① P(a)の入力: 言語情報Aの貯蔵および変換

 

② P(b)の入力: 意味情報Aの保持 & 言語情報Bの貯蔵および変換

 

③ P(c)の入力: 意味情報Aの保持 & 意味情報Bの保持 & 言語情報Cの貯蔵および変換

 

④ 意味情報Aの保持 & 意味情報Bの保持 & 意味情報Cの保持

 

⑤ 統合処理:意味情報Sの保持

 

 

注目するべきなのは、P(a)に隣接するP(b)の意味情報を貯蔵するプロセス(→②)において、P(a)の意味情報を保持していることである。これが「脳内マルチタスク」に該当する。

もちろん脳内マルチタスクは2つだけとは限らない。

P(c)の意味情報を貯蔵するプロセス(→③)においては、P(a)の意味情報の保持とP(b)の意味情報の保持を同時並行に行わなければならない。

そして、最終的に文として理解するためには、文を構成するすべての句の意味情報を保持する必要にせまられる(→④)。

これらの情報処理の「積み重ね」により、文を構成する句の意味情報を保持した瞬間(→④)、初めて文として理解できる準備が整った状態になったといえる。そして、最後に文の統語構造に従いワーキングメモリに保持していた句の意味情報を組み立てるという統合処理をすると、Sの意味情報の創出、すなわち文の意味を理解できる。