「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

認知心理学の研究をする頭蓋骨縫合早期癒合症の成人当事者が考えたことを書いていきます。扱っている症状は原因不明のものばかり(泣)。当ブログの記事における内容及び理論は無断転載及び引用は禁止です。更新情報はツイッターでも配信しています。

頭蓋骨縫合早期癒合症の予後:手術しないまま大人になったらどうなるか? 頭蓋骨縫合早期癒合症による3種類の悪影響について

国内においては、一般的な頭蓋縫合早期癒合症や症候群性頭蓋縫合早期癒合症は、手術適用となります。

しかし、一方の「軽度三角頭蓋」に代表される軽度の早期癒合症は、下地武義先生による施術を含め、ごく少数の医療機関でしか行われていないという状況です。そのうえ、軽度三角頭蓋の手術に対する否定的な見解を持つ団体も少なくありません。

現状こういった状態なので、お子様の頭蓋骨が軽度三角頭蓋であることが運良く発見できたとしても、親御さんは手術を受けるべきか、または受けざるべきかという選択肢の間で悩まれるかと思います。

そこで今回は、通常の早期癒合症と軽度の早期癒合症の双方において、手術をしないまま大人になった場合の症例を紹介しながら、頭蓋縫合早期癒合症がもたらす悪影響について説明します。

 

 

第1 頭蓋骨縫合早期癒合症とは

赤ちゃんの頭蓋骨は一体化されていません。人間が生まれるときには、母体の産道を通ります。しかし、人間の頭蓋骨は、人間の産道を通りぬけられないほどの大きさであるため、そのままの大きさでは通り抜けられません。

そこで、母体の産道を通り抜けるほどの大きさに頭蓋骨を変形させるという役割を担うかたちで、人間の頭蓋骨は分割されています、。ちなみに、この変形機能(児頭の応形機能)を「骨重積」といいます。

そのため、赤ちゃんの頭蓋骨(顔より上の部分)は骨が一つに固まっていないのが通常です。そして成長するにしたがって大泉門や小泉門といった隙間が閉じていきます。こうして人の頭蓋骨は一つの強固な骨になっていきます。

 

f:id:nasubinbin:20180419032126j:plain

https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/605.html より引用

一方で、頭蓋骨が早い時期に閉じることがあります。これが頭蓋骨縫合早期癒合症(以下、早期癒合症と記述)です。その発生頻度は1万人に4~10人*1と、少数にとどまっています。 

 

 

第2 早期癒合症の悪影響

 早期癒合症が引き起こす問題を大きく分類すると、3種類の悪影響が挙げられます。

 

1 外見的悪影響

早期癒合症そのものは、頭蓋骨の「見た目問題」といえますが、見た目問題だけではなく、それから派生する症状も存在しています。

大まかに説明すると、頭部体積狭小化による頭皮の下垂を原因とする諸症状、といえます。

 

2 身体症状

① 症状一覧

早期癒合症とは、頭蓋骨の体積の狭小化であると同時に、頭蓋骨内部、すなわち脳みそが入るスペースの容積の狭小化でもあります。

すると、脳内の圧力(頭蓋内圧)が上昇します。頭蓋内圧亢進の程度は人により異なります。その結果、以下の身体症状が現れます。

 目に出現する症状

  • 斜視、潜伏性斜視(診断名:外転神経麻痺、開散麻痺など)
  • うっ血乳頭
  • 眼球突出

 ほかの身体症状

  • 悪心のない嘔吐(診断名:心因性嘔吐、神経性嘔吐、反芻症、非びらん性胃食道逆流症
  • 頭痛

 

② 症状の現れ方

青文字表記で表した症状は、「頭蓋内圧亢進の三徴」として医学が認知している症状です。

ただし、頭蓋内圧亢進とは、基準値以上の脳圧値を示したときに下される診断名です。早期癒合症は変形の程度や頭蓋内圧亢進の程度が千差万別であるため、上記の身体症状の現れ方も千差万別であるといえます。

すなわち、頭蓋変形が軽度で、頭蓋内圧亢進がさほど高いレベルにないため、身体症状が一部のみ現れる、あるいはまったく現れないこともあります。

事実、後述の「軽度の早期癒合症」では、身体症状が現れていない、あるいは一部のみ現れているという病態を示しています。

 

3 精神症状

頭蓋内容積の狭小化は、脳機能にも悪影響を及ぼし、精神障害および情報処理障害を引き起こします。

① 「早期癒合症特有の精神症状」(情報処理障害)

頭蓋骨に圧迫された大脳皮質の機能低下に伴って発生する精神症状の存在を、認知心理学的の理論を用いて論証が可能です。

一言でいえば、あたかもワーキングメモリの容量が減少したかのような病態をしめしていることから、私は「ワーキングメモリ容量減少症候群」(自作概念)という名称を用いて説明しています。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

ちなみに現時点で医学では、この情報処理障害を認知していませんので、診断時には以下のような不特定精神障害概念を用いられています。

 

② 「頭蓋内圧亢進症状」(精神障害

ここで記した「頭蓋内圧亢進症状」とは、精神運動面での症状を指します。

頭蓋内圧亢進症状は、急性症状と慢性症状の二つに分類可能ですが、精神運動面の症状で限定すると、急性症状であれば「前頭葉徴候」に代表される意識障害、慢性症状であれば精神運動発達遅滞が認められます。

早期癒合症による「頭蓋内圧亢進症状」とは、後者の精神運動発達遅滞に該当します。

詳細は以下の記事で紹介しています。 

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

③ 精神症状の現れ方

早期癒合症による頭蓋変形の程度が重度であれば、「早期癒合症特有の精神症状」および「頭蓋内圧亢進症状」の双方の特徴を併せ持ちます。

一方、軽度の早期癒合症(後述)の場合、頭蓋内圧が亢進している症例が少なく、その多くは頭蓋内圧の測定値は基準値を下回ります。しかし、大脳皮質が圧迫されている場合が多いため、「早期癒合症特有の精神症状」のみの出現という病態を示します。

 

第3 通常の早期癒合症の成人当事者の症例

1 症例データ

日本においては通常の早期癒合症であれば即刻治療対象となるため、通常の早期癒合症の成人当事者に関するデータは日本に存在しないことは前にも記しました。しかし、一方で医療後進国では、通常の早期癒合症の患者が未治療のままになる可能性は十分存在します。

実際、インターネットで調べると、通常の早期癒合症の成人当事者の症状に関するデータが存在することが判明しました。

その詳細は以下の海外ウェブサイトで紹介されています。

 

www.annalsofian.org

 

ウェブサイトの内容を要約しますと、

  • 31歳女性、非症候性早期癒合症
  • 出生時より重篤な精神発達遅滞、全般的な発達遅滞
  • 両親は健常
  • 脳組織は正常
  • しかし、クモ膜下腔およびクモ膜下槽(大脳皮質の外側部分)は消失していた(著しく体積が減っていたの意味か?)

 

成人の症例というものはなかなか希少なものらしく、ウェブサイトにはこんなことが書かれていました。

The uniqueness of our case lies in the presentation of imaging findings of the patient with primary craniosynostosis who survived into adulthood without undergoing any corrective surgical procedure, whereas the literature describes such findings in infants and children only.

 

2 考察

重度の頭蓋変形をもたらす通常の早期癒合症を抱える患者は、頭蓋内圧が基準値より高い傾向にあることから、頭蓋内圧亢進が併発しているといえます。頭蓋内圧亢進は、脳中心部の圧力も上昇しているため、脳中心部に位置する大脳辺縁系の機能を低下する原因になります。

よって、この症例のなかで精神障害として列挙されている「重篤な精神発達遅滞」とは、慢性的な頭蓋内圧亢進により、神経発達が阻害された状態であるといえます。

 

第4 小児慢性特定疾患としての早期癒合症と「大人の早期癒合症」

1 早期癒合症は小児期だけのものではない

先ほど、早期癒合症の発生頻度が1万人に4~10人である、というデータを提示しました。しかし、私はこのデータは正確性に欠けると私は考えています。なぜなら、この数値の中に、軽度の早期癒合症は含まれていないことは確実だからです。

通常、早期癒合症は幼少期に発見される病気であるため、現在、早期癒合症は小児慢性疾患として扱われています。そして、少なくとも現代の日本を含めた先進国では、早期癒合症の状態で成長することは、想定されていません(ただし医療後進国ではこの限りではない)。

しかし、早期癒合症を小児慢性特定疾患とみなす見方について、私は疑問を抱いています。なぜなら、私のように軽度の早期癒合症の成人当事者が存在するからです。軽度の早期癒合症は、エビデンスが十分に存在していないどころか、専門家の間でも認知されておりません*2

なので、現在の早期癒合症の鑑別方法に準拠したとしても、医師は軽度の早期癒合症を知らないため、その存在を見過してしまうでしょう。

もちろん、そうなった場合、早期癒合症を抱えた状態で大人になってしまいます。

このことから軽度な早期癒合症を、「大人の早期癒合症」と私は呼んでいます。

 

2 「大人の早期癒合症」は、軽度三角頭蓋のみとは限らない

なかでも有名なのが、前頭縫合の軽度な早期癒合という病態を現す「軽度三角頭蓋」です。有名といったのは、軽度三角頭蓋の手術が下地武義先生によって行われていることについて、賛否両論が存在しており、有識者の間で取り上げられているためです(詳細は以下の記事をご覧ください)。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

しかし、「大人の早期癒合症」は軽度三角頭蓋だけではありません。

理論的には「軽度舟状頭蓋」や「軽度短頭蓋」が存在する可能性は否定できません。実際、当事者である私のように「複数の縫合の早期癒合」という病態を示すケースも存在しています(詳細は後述)。

 

3 「大人の早期癒合症」の原因

軽度三角頭蓋(=「大人の早期癒合症」)が発生する原因についての私見を、当ブログの中で提示しています。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

簡単に言いますと、

  • 患者の頭部が大きい
  • 母親の産道の幅が狭い

の二つの条件が成り立った時、可能性が高くなると私は推測しています。

 

4 「大人の早期癒合症」のエビデンスとなる情報はまだ存在しない

通常、早期癒合症が幼少期に発見される疾病であることは前にも書きました。

こういった事情もあり、日本国内において「早期癒合症の成人」という可能性は医学的に想定されていません。実際、軽度の早期癒合症についての情報をオンライン上のホームページに記載している病院は、日本国内に存在しません。

 

5 軽度三角頭蓋のエビデンスとなる資料の存在

下地武義先生による軽度三角頭蓋の手術が行われ始めた時期は比較的近年のことですので、軽度三角頭蓋の医療の歴史は、まだ浅いですし、世間一般に認知されていません。

そんな中で、下地先生によって軽度三角頭蓋の罹患者の症状をまとめた統計資料をウェブサイトのなかで公開されています(以下のURLリンク)。

 

www.geocities.jp

 

しかし、この情報は、下地先生が手術対象とする幼児期の患者の症状のみをまとめた作られた資料です。軽度な早期癒合症の全容を解明するためには、より幅広い年齢の患者の症状をまとめることが必要になるので、成人当事者のデータが必要となります。

 

第5 軽度な早期癒合症(「大人の早期癒合症」)の症例

ここでは、軽度な早期癒合症の成人当事者である私の症例を紹介します。

 

1 早期癒合症の病態について(CT画像あり)

f:id:nasubinbin:20170709142053p:plain

 

私の頭蓋骨は、以下の部分が早期に癒合している状態です。

  • 前頭縫合
  • 矢状縫合

要するに頭蓋骨の縦に走る縫合線が早期に癒合した状態です。医師によると早期癒合症の程度は軽度であるとのこと。

 

f:id:nasubinbin:20170709142057p:plain

f:id:nasubinbin:20170709142056p:plain

 

赤線で示した部分は、通常の頭蓋骨では見られない所見です。

 

2 軽度な早期癒合症による悪影響の現れ方についての考察(※ 加筆中)

① 外見的な問題(二次障害を含める)

軽度の早期癒合症は、頭蓋骨の変形の程度が軽いですが、一方で「頭皮の下垂」を発端とする美容面での問題が存在します。

  • いびつな髪の毛の生え方(前髪が少ない、側頭部のボリューム大など)
  • 一重まぶた
  • 二重あご

 

 

 身体症状

  • 目に関する症状

内斜視(外典神経麻痺、あるいは開散麻痺によるもの)、それに由来する眼精疲労

頭蓋内圧亢進症状の所見のなかで決定打的存在である「うっ血乳頭」はありません。

  • ほかの身体的症状

悪心のない嘔吐

 

 精神症状

 

「頭蓋内圧亢進症状」である精神発達遅滞はなく、知能に関しては正常値を保っています。

しかし、処理速度に関する知能指数が低いため、ワーキングメモリに悪影響が及んでいることから、大脳皮質が頭蓋骨に圧迫された結果現れる「早期癒合症特有の精神症状」を抱えています。

 

第4 早期癒合症についてさらに知りたい方のために(記事リンク)

1 軽度三角頭蓋の治療に関する肯定説および否定説

「大人の早期癒合症」のひとつである軽度三角頭蓋の治療に関しては、その是非を問う論争が存在します。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

2 「頭蓋内圧亢進」と早期癒合症の関係について

以下の記事では「頭蓋内圧亢進」の観点から、早期癒合症の病理を考察しています。

早期癒合症の頭蓋内圧亢進は、そのメカニズムに特異性を持つ私は考えています。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

 

*1:

http://www.jichi.ac.jp/keisei/surgery/disease1.html

*2:例えば国内のcraniosynostosis研究会において扱われたことはない