「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と高次脳機能障害(配分性注意障害)に関する当事者研究の記録です。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋含める)の症状および予後について(手術を受けなかった成人当事者はどうなる)

頭蓋骨縫合早期癒合症の病態とは?

赤ちゃんの頭蓋骨は一体化されていません。人間が生まれるときには、母体の産道を通ります。しかし、人間の頭蓋骨は、人間の産道を通りぬけられないほどの大きさであるため、そのままの大きさでは通り抜けられません。

そこで、母体の産道を通り抜けるほどの大きさに頭蓋骨を変形させるという役割を担うかたちで、人間の頭蓋骨は分割されています。ちなみに、この変形機能(児頭の応形機能)を「骨重積」といいます。

そのため、赤ちゃんの頭蓋骨(顔より上の部分)は骨が一つに固まっていないのが通常です。そして成長するにしたがって大泉門や小泉門といった隙間が閉じていきます。こうして人の頭蓋骨は一つの強固な骨になっていきます。

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https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/605.html より引用

しかし一方で、頭蓋骨が病的に早い時期に閉じる疾患が存在します。それが、頭蓋骨縫合早期癒合症(以下、早期癒合症と記述)です。その発生頻度は1万人に4~10人*1と、少数にとどまっています。  

早期癒合症は病態の程度がさまざまであり、悪い病態を示すものから順番に、「典型例」「中等度」、「軽度」の3つのレベルに分類されています。このうち、軽度の早期癒合症については、治療を施すべきか賛否両論が存在しており、現在に至るまで論争が続いています。 

中等度および典型例の早期癒合症の症状とは?(成人患者の症例を参照しながら)

早期癒合症は、「頭蓋骨の体積の狭小化」という外見的病態を持ちますが、問題点は、頭蓋骨内部の脳組織が入るスペースの容積の狭小化です。狭小化した頭蓋骨とは異なり、脳組織の体積は変化しないので、脳組織が頭蓋骨に圧迫されます。すると、早期癒合症の患者は「頭蓋内圧亢進症状」と「高次脳機能障害」を発症します。

早期癒合症に起因する症状一覧については以下の記事をご覧ください。 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

早期癒合症による頭蓋内圧亢進は、同じく頭蓋内圧亢進を引き起こす脳卒中脳挫傷、脳腫瘍と共通点を持ちます。しかし、これらの急性頭蓋内圧亢進とは異なる、慢性頭蓋内圧亢進を早期癒合症が引き起こすことは重要です。

中等度および典型例の早期癒合症は、日本国内においては治療対象であるため、乳幼児である間に治療が施されます。そのため、中等度および典型例の早期癒合症の成人当事者に関する情報は日本に存在しません。

しかし、一方で発展途上国では、通常の早期癒合症の患者が未治療のまま放置されてしまうという可能性が存在します。インターネット上に、通常の早期癒合症の成人当事者の症状に関する資料が実際に存在します。

その詳細は以下の海外ウェブサイトで紹介されています。

引用元の症例の内容を箇条書きにすると以下の通りです。

  • 31歳女性、非症候性早期癒合症
  • 出生時より重篤な精神運動発達遅滞
  • 両親は健常(遺伝性が認められないことの示唆か)
  • 大脳皮質の指圧痕が認められる
  • クモ膜下腔およびクモ膜下槽(大脳皮質の外側部分)が消失していた

クモ膜下腔とは、脳組織と頭蓋骨の間のスペースであり、脳脊髄液が流れている部位です。クモ膜下腔の消失は、頭蓋骨が脳組織を圧迫していることを示しており、すでに脳脊髄液圧が亢進し、頭蓋内圧亢進の状態であることを示しています。

指圧痕とは、慢性的に頭蓋内圧が亢進している患者の頭蓋骨の内側で見られる、凸凹状の所見です。脳組織は心拍に従い膨張と収縮を繰り返します。頭蓋内圧が高い場合、その分だけ頭蓋骨に打ち付けるように膨張するため、頭蓋骨にその痕が刻まれるのです。

この症例からは、早期癒合症に起因する頭蓋内圧亢進によって、精神運動発達遅滞が引き起こされたといえます。 

「大人の早期癒合症」とは?

1 早期癒合症は小児慢性特定疾患だけではない

先ほど、早期癒合症の発生頻度が1万人に4~10人である、というデータを提示しました。しかし、私はこのデータは正確性に欠けると私は考えています。なぜなら、この数値の中に、軽度の早期癒合症は含まれていないことは確実だからです。

通常、早期癒合症は幼少期に発見される病気であるため、現在、早期癒合症は小児慢性疾患として扱われています。そして、少なくとも現代の日本を含めた先進国における脳神経外科学の臨床では、「早期癒合症の成人」は医学的に想定されていません。たとえば、日本国内の病院が提示している早期癒合症についての医療情報は、どれも中等度および典型例の症例および治療例です。軽度の早期癒合症については、どの病院でも紹介されていません。

しかし、実際には私のように手術を受けなかった、軽度の早期癒合症の成人当事者が存在します。このことから軽度な早期癒合症のことを「大人の早期癒合症」と私は呼んでいます。 

2 「大人の早期癒合症」は、軽度三角頭蓋のみとは限らない

なかでも有名なのが、前頭縫合の軽度な早期癒合という病態を現す「軽度三角頭蓋」です。軽度三角頭蓋の手術が下地武義先生によって行われていることについて、賛否両論が存在しており、有識者の間で論争が行われています。

しかし、「大人の早期癒合症」は軽度三角頭蓋だけではありません。

理論的には「軽度舟状頭蓋」や「軽度短頭蓋」が存在する可能性は否定できません。実際、当事者である私のように「複数の縫合の早期癒合」という病態を示すケースも存在しています(詳細は後述)。  

3 軽度三角頭蓋の症状に関する資料

下地先生は、軽度三角頭蓋を抱える患児に対する治療のなかで、患児の症状を資料としてまとめています。その内容は以下の通りです。

全541例 2015年まで*2

  • 言葉の遅れ    : 517例
  • 運動遅滞     : 153例
  • 多動       : 412例
  • 自閉傾向     : 342例
  • 自傷行為     : 142例
  • パニック・イライラ: 237例
  • 睡眠障害     : 132例
  • 偏食       :  73例
  • 頭痛       :   8例
  • 嘔吐       :  18例
  • 退行       : 121例

軽度三角頭蓋の症例に関するこの資料は、下地先生が手術対象とする患児の症状のみを収集して作られています。

早期癒合症の程度によって発生する精神症状がどれに該当するかを解析するための指標として、「症例数が多い症状は、早期癒合症の程度が軽いときにあらわれる精神症状」、一方で「症例数が少ない症状は、早期癒合症の程度が重いときにあらわれる精神症状」であると仮定します。すると、 言語発達遅滞の発生確率は541件のうち517件と、発生確率が非常に高いことから、頭蓋骨の狭小化の程度が軽度であったとしても、言語発達遅滞が発生する確率が高いという仮説が導出可能です。

一方で、発生確率の低い精神症状が発生している状態は、早期癒合症の圧迫による悪影響が及んでいる脳組織の範囲がより広い、深刻な状態であるといえます。すなわち、頭痛を患者が訴えているケースは、頭蓋内圧亢進の度合いが高いといえます。  

軽度の早期癒合症(「大人の早期癒合症」)の症例

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ここでは、軽度の早期癒合症の成人当事者である私の症例を紹介します。

1 サイト管理人の早期癒合症の病態について(CT画像あり)

私の頭蓋骨は、前頭縫合、および矢状縫合が早期に癒合している状態です。癒合の程度は共に軽症例に該当します。

すなわち、頭蓋骨の縦に走る縫合線が早期に癒合した状態です。

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赤線で示した部分は、通常の頭蓋骨では見られない所見です。 

側頭部を除く部分が、すべて狭小化しています。

2 サイト管理人が抱える症状

① 外見的な問題(二次障害を含める)

早期癒合症の病態そのものが頭蓋骨の「見た目問題」ですが、この病態がさらなる派生症状を生み出しています。大まかに説明すると、その派生症状とは頭部体積の狭小化による「頭皮の下垂」が引き金になっている諸症状です。

早期癒合症では、頭蓋骨の体積は体積は本来よりも狭小化しているのに対して、頭皮は頭蓋骨に応じて縮小することはなく、その面積は変わりません。狭小化した頭蓋骨と面積に変化がない頭皮のアンバランスな関係が「頭皮の下垂」の引き金になっています。

皮膚は重力で下の方向に落ちるため、特徴的な顔貌になります。その特徴を紹介します。

  • いびつな髪の毛の生え方

髪の毛が生えている頭皮が下に行くため、狭小化した頭蓋骨上部の髪の毛の量が減ります。その代わり、後頭部や側頭部に頭皮が集中するため、重力の影響で「前髪が少ない、側頭部及び後頭部の髪の毛のボリューム増加」といった問題が生まれます。

  • 一重まぶた

まぶたの皮膚も下の方向に落ちているため、二重まぶたになりません。

仮に目を大きく開けたあとに二重まぶたにするように閉じたとしても、皮膚が厚いまぶたによる眼球に対する摩擦が強いため、ドライアイ気味にになり痛くなります。

眼瞼下垂のようにまぶたを開けられないというわけではありません。

  • 「二重あご」(肥満とは実質が異なる)

本来あらば頬に位置する皮膚が、頬の下に堆積するため、正面から見ると二重あごに見えます。しかし、肥満による二重あごとは、脂肪を持たない点で異なっています。

早期癒合症による「二重あご」は、首を圧迫します。特に、喉仏が突出している男性の場合は喉仏が皮膚に圧迫されるため、息苦しい感覚になります。すなわち、早期癒合症の男性の場合、喉仏が出ていないように見えます。

早期癒合症で頭皮が下垂した際の顔貌の印象は、顔が大きくなったように感じます。主観ですが、特に首と頭部の輪郭が不鮮明であり、その上だぼついたようになり、顔が大きく見えるようになり、老けたような印象です。そのため、写真写りが悪くなりがちです。

  • 首猫背

一重まぶたとあごの下での皮膚の堆積という二つの問題を抱えている場合、頭部を挙げたほうが好都合になります。私の場合ですが、首猫背の姿勢を行うようになります。

 身体症状(頭蓋内圧亢進の程度)

  • 目に関する症状

潜伏性内斜視(開散麻痺によるもの)

頭蓋内圧亢進症状の所見のなかで決定打的存在である「うっ血乳頭」はありません。

  • ほかの身体的症状

非びらん性胃食道逆流症(ゲップが出るときに、胃の内容物が逆流する)、立ちくらみ時のけいれんが挙げられます。

頭蓋内圧亢進の程度については、うっ血乳頭や脳浮腫、頭痛が認められないため、病院で脳神経外科学の基準値を満たさない状態と推定されました。

 精神症状

幼少期から容量性注意障害に起因する不注意症状及び言語発達遅滞が認められる状態でした。

現在も言語面では特異的言語発達障害が認められる状態です。これに起因する狭義の聴覚情報処理障害が発生しています。

大脳辺縁系の神経発達の悪影響はありません。私の知能指数については正常値を保っており、意識障害等もありません。

3 そのほか検査結果

 私が過去に受けた検査の結果を紹介します。

① 3D-CT画像の 「指圧痕」:大脳皮質への圧迫の存在を示す

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ブログ管理人リョウタロウのCT画像
② MRI画像

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ブログ管理人リョウタロウのMRI画像

脳と頭蓋骨の間のスペース(くも膜下腔、くも膜下槽)の容積が、健常者と比較して著しく狭いです。これは、狭小化した頭蓋骨に脳が圧迫されていることを示します。

また、頭蓋骨が通常と比較して、有意に厚いことも判明しました。

③ 光トポグラフィー検査(NIRS)の「陰転」:容量性注意障害を示す

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 上の画像は、筆者の光トポグラフィ(NIRS)の検査結果です。

検査の評価では「うつ病パターン」という結論に至っています。しかし、その根拠はあくまでも二重課題時の大脳皮質における血流量低下のみです。NIRSは脳の表面の血流状況しか測定できないため、うつ病の本質といえる、神経伝達物質の供給量については測定できません。

他の脳部位での血流状況は不明ですので、NIRSの検査結果のみでは不十分といえます。FMRIを受けることで実態が判明するでしょう。

 4 自分自身の症状を考察:光トポグラフィの陰転の意味と、頭蓋内圧の推定値

NIRSにおける「血流量の陰転」を示す検査結果について、大脳皮質が圧迫されたことでワーキングメモリが無効化されている状態であるために、別の部位を代償しながら、二重課題を実行しようとした状態を示していると、私は考察します。

圧迫された大脳皮質はワーキングメモリネットワークの一部です。そして、ワーキングメモリネットワークは、デフォルトモードネットワークと排他的関係を持ちます。

以上を踏まえたうえで詳しく説明すると、ワーキングメモリネットワークが使えない状態であったとしても、二重課題を実行できないというわけではありません。デフォルトモードネットワークを構成する脳部位が有効であれば、その部位に神経伝達物質が伝達し活性化します。すると、デフォルトモードネットワークのほうにエネルギー資源を供給するための血流量が上昇していると私は仮定しています。

しかし、ここで提示したNIRSの検査結果は、デフォルトモードネットワークにおける血流量の変化に関するデータではないため、この仮説を実証するためには脳磁図やFMRIを用いた検査をする必要があります。

次に、軽度の前頭縫合及び矢状縫合の早期癒合症である私の頭蓋内で、髄液圧がどの程度まで上昇しているかについて推定しました。

  • 指圧痕の存在から大脳皮質への圧迫が認められる
  • 斜視および嘔吐が認められる
  • うっ血乳頭や頭痛、眼球突出は存在しない

→ 頭蓋内圧亢進グレーゾーン(180mmH2O ~ 200mmH2O)と推定。

<参考文献>

下地武義 「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子達に未来はある」、諏訪書房、2018年6月初版発行