「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症と容量性注意障害に関する当事者研究の記録です。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。(他キーワード:特異的言語発達障害、軽度三角頭蓋、ワーキングメモリ)

「ワーキングメモリ」とはなにか? / 精神障害(発達障害含める)との関係について(原因は「容量」の減少か?それとも「機能」の無効化か?)

改訂中です。

世間一般において曖昧模糊に語用されている「 ワーキングメモリ」の意味、および神経心理学認知心理学のアプローチを用いて、精神障害発達障害など)との関連性について考察しました。

 

キーワード:実行機能、アランバッデリー、ワーキングメモリネットワーク、前頭前野背内側部(DLPFC)、作動記憶、ネルソンコーワン、注意の焦点化、注意資源、自閉症スペクトラム障害ASD)、ADHD、処理速度、頭蓋骨縫合早期癒合症 

 

ワーキングメモリは「実行機能」の一部である

「ワーキングメモリ」とは、心理学者Alan Baddeley(アラン・バッデリー)が唱えた、実行機能の下位分類に位置する、認知心理学上の理論概念です。

実行機能についての説明は以下の通りです。

  • (実行機能とは)複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称である。*1
  • 実行機能は,思考と行動の制御を行うプロセスであり,前頭葉の働きと関連することが脳科学研究から分かっています。*2

 次にワーキングメモリの説明です。

ワーキングメモリとは、短い時間に心の中で情報を保持し,同時に処理する能力のことを指します。会話や読み書き,計算などの基礎となる,私たちの日常生活や学習を支える重要な能力です。…ワーキングメモリは,思考と行動の制御に関わる実行機能(executive functions)の一つであると考えられています。*3

要するに、実行機能という脳機能が存在しており、実行機能のさらなるサブカテゴリのなかに「ワーキングメモリ」という機能が存在する、ということです。 

 

実行機能の構造とワーキングメモリの役割の考察

大脳皮質が担う実行機能の側面を、後述する精神障害との関連性を説明するための便宜を図るために、以下のように分類しました。

実行機能=衝動抑制機能、ワーキングメモリ

① 衝動抑制機能

扁桃体からの快楽主義的感情ともいえる衝動を抑制するための機能です。

  • 役割その1:「正の欲動」(リビドー)の抑制

意欲のコントロール。いわゆる集中力を実現する。注意制御機能ともいう。

肉体・精神疲労時にあらわれる死の欲動のコントロール。認知的再評価を実現。

 

② ワーキングメモリ

実行機能には衝動抑制機能とは別に、ワーキングメモリという機能を持っていることは先述したとおりです。

  • 役割その1:短期記憶の保持

短期記憶の保持をつかさどる。

複数の思考概念を念頭に置くという「脳内マルチタスク」(自作概念)を実現する。

 

「ワーキングメモリネットワーク(WMN)」について

1 ワーキングメモリを担う脳部位

ワーキングメモリネットワーク(WMN)とは、主に神経心理学で用いられるワーキングメモリを実現するための異なる脳部位間の連携を意味する言葉です。WMNを構成する脳部位は、以下の通りです。

大脳辺縁系に位置する前部帯状皮質(ACC)は、実行機能を有効化するための神経伝達物質を分泌する器官です。ACCから分泌された神経伝達物質神経細胞を介し、大脳新皮質に位置する前頭前野背外側部(DLPFC)に供給されることで、はじめてワーキングメモリが実現されます。

WMNを「パソコン」で例えるならば、DLPFCは「メモリー」であり、ACCはメモリを正常に動かすための「電源」です。そして、DLPFCとACCを結ぶ神経細胞アドレナリン受容体)は、DLPFCにつなぐ「電源ケーブル」です。

詳細は後述しますが、実行機能に悪影響が及んでいる器質性精神障害発達障害)は、これらのプロセスのうちのいずれかに問題箇所がある、ということになります。 

ワーキングメモリネットワークの働き、構造についての詳細を知りたいという方は、以下のウェブサイトが参考になります。

Child Research Net 子供は未来である 「38. ワーキングメモリと注意の制御 - 論文・レポート」:https://www.blog.crn.or.jp/report/04/51.html

 

「ワーキングメモリ」の低下について悩んでいる人は多い

「ワーキングメモリ」という言葉を検索エンジンに入力してみると

「ワーキングメモリ 弱い」

「ワーキングメモリ 少ない」

「ワーキングメモリ 小さい(低い)」

 と、否定的な形容詞をつけた言葉が検索候補に上がっています。ただ、これらの劣位を示す形容詞を付け加えただけの表現は、感覚的なものにとどまっており、具体性に欠けています。

それどころか、間違った認識をしている人も多いようで、ワーキングメモリと実行機能を混同した使い方をしているケースが多いです。

そこで上記の表現を、認知心理学上のワーキングメモリ理論を用いながら言い換えると、以下のように説明できます。

  • 「弱い」:衝動抑制機能の無効化
  • 「少ない」:ワーキングメモリネットワーク(WMN)への神経伝達物質の供給量の低下
  • 「小さい(低い )」:ワーキングメモリ容量の狭小化

  

「ワーキングメモリの低下」を引き起こす精神障害一覧

 ここからが本題です。

「ワーキングメモリ機能の低下」という表現は抽象的です。以下に挙げる精神障害では、すべて「不注意状態」が認められる状態ですが、それぞれの精神障害によって、「不注意」の性質および病理が異なります。

「ワーキングメモリ機能の低下」を引き起こす精神障害をそれぞれ紹介します。

1 うつ病

うつ病は、心因性精神障害に分類されます。実行機能が無効化された状態です。しばしば扁桃体と大脳皮質の働きのバランスが崩れた状態と表現されます。

ワーキングメモリ機能を酷使するストレス(二重課題など、詳細後述)の積み重ねは、大脳皮質の機能全般の低下を引き起こします。この状態になると、肉体的および精神的に疲労感を覚えるようになります。

すると、扁桃体から発生した、疲労感に起因する「ネガティブ感情」を、機能低下している大脳皮質がコントロールできなくなります。この時点で、うつ病の診断が下りることでしょう。さらにこの状態が悪化すると、被害妄想といった思考回路の異常が発生しやすくなります。

うつ病は、疲労感に加え、思考回路がネガティブになったことで全般的な「意欲の低下」状態ですので、当然集中力を発揮することは困難であり、「不注意症状」が認められます。

実行機能が低下している状態であるという点で、後述するADHDと共通していますが、うつ病「意欲の低下」により「正の欲動」も発生しない状態になります。

 

2 ADHD注意欠陥多動性障害) 

ADHD器質性精神障害のうちの神経発達障害に分類されます。ワーキングメモリ機能のうち、「衝動の抑制」が無効化された状態です。

認知心理学の表現を用いるならば、注意資源(神経伝達物質)の供給に関する問題が原因です。ADHDの不注意症状は、衝動を抑制できないことによるものであり、意欲はある一方で「注意散漫」というように評されます。

ADHDの病理については未解明な部分がありますが、以下の2つの原因が想定されています。

以上の2つの原因に共通することとは、前頭前野背外側部に神経伝達物質が十分に行き届いていないことです。そのため、前頭前野背外側部が担っている実行機能が無効化され、その結果衝動性の症状が現れます。

ADHDの症状を発生させる不注意症状は、実行機能の無効化と説明できます。「注意の焦点化」理論に沿うと、「注意の焦点」そのものが存在していない状態と評価できます。つまり「注意資源の容量を算出する」以前の問題であるといえます。

ただし、治療薬を用いて実行機能が働き、ADHDの病態が解消されたとき、「注意の焦点化」ができるようになるので、その際は注意資源の容量を算出することが可能になります。その際は、健常者と同じ程度の注意資源を獲得することが可能になります。

 

3 注意障害

注意障害は、高次脳機能障害脳損傷によって発生する精神障害)に分類されます。ADHDとは異なり、注意障害は後天的要因によって発生する外因性精神障害です。このカテゴリーの中にも以下のようなサブカテゴリが存在します。

  • 持続性注意障害
  • 容量性注意障害
  • 全般性注意障害(上記2つの性質を持つ)

持続性注意障害は、ADHDと同じようなもので、集中力の維持(注意制御機能)が無効化、あるいは低下した状態です。 

一方の容量性注意障害のほうの詳細は、下の記事のなかで紹介しています。

 

4 そのほか発達障害とワーキングメモリの関係

自閉症スペクトラム障害については、ワーキングメモリネットワークの使い方に「クセ」があるものの、問題点は使い方であり、ワーキングメモリの機能自体は低下していません。

狭義の学習障害(限局性学習障害)についても、全く別の認知ネットワークの異常であるため、ワーキングメモリネットワークの機能とは無関係です。