「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋縫合早期癒合症、および「ワーキングメモリ容量減少症候群」(仮)の成人当事者および研究者の視点で考えたことを発信しています。メインテーマは「注意」の認知科学的分析。なお当ブログの記事における内容及び理論は無断使用禁止です。

特異的言語発達障害の言語理解の特徴:「脳内マルチタスク機能」の無効化による言語理解力の低下の論証的考察

ここでは、言語情報を入力する際における特異的言語発達障害(ワーキングメモリ容量減少症候群)の症状の病理を解析する。

 

 

第1 前提知識 

この項目では、当ブログで紹介している自作概念のうち、当記事のなかで関係性の高いと思われるものを紹介する。

1 言語情報の入力における「脳内マルチタスク」の必要性について

言語情報を入力する際、ワーキングメモリにおいて保持された以下の2種類の情報を統合処理することによって、文の理解が可能となる。

・句の意味情報(前の段階でワーキングメモリに貯蔵したもの)

・句の意味情報(新しくワーキングメモリに貯蔵したもの)

 

すなわちその統合処理を達成するためには、ワーキングメモリに2種類の情報を同時に保持しなければならない。これが、言語情報の入力時における「脳内マルチタスク(同時処理)」である。

そして脳内マルチタスクを実行するワーキングメモリの機能を「脳内マルチタスク機能」と私は定義づけている。

 

詳細は以下の記事にて紹介している。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 2 「ワーキングメモリ容量減少症候群」の概要

「ワーキングメモリ容量減少症候群」とは、ワーキングメモリに複数の情報を同時に保持できないゆえに、「複数の情報の統合処理によって達成可能となる情報処理」を実行するのが困難である性質を原因とする精神症状の総称である。

その症状について、日常生活面においては「不注意症状」が出現し、そして言語活動面においては特異的言語発達障害(SLI)として認められる症状が出現する。

この精神障害を「機能の無効化」という表現を用いて定義づけるならば、「脳内マルチタスク機能」の無効化による精神障害であると私は考えている。

 

詳細は以下の記事にて紹介している。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

3 特異的言語発達障害の特徴

文の理解は「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」である。これを即時に達成するためには、ワーキングメモリによる脳内マルチタスク機能が備わっていることが必要不可欠な条件である。

すると、「脳内マルチタスク機能」が無効化されている「ワーキングメモリ容量減少症候群」となると、文の理解及び運用に支障が生じる。これが現在特異的言語発達障害として学術的に認知されている精神症状である。

私が導き出した特異的言語発達障害の特徴は、以下のとおりである。

・文の入力および出力が困難である。統語構造の複雑性に比例して困難の度合いが増す。

・句の入力および出力には問題がない。

・感覚性言語認知機能、および非言語認知機能に問題はない。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

第2 序説 

脳内マルチタスク機能が無効化されると、言語の入力時に保持されるべき2種類の情報を同時に保持するという情報処理様式を実行することが不可能になる。すると、継時に保持するという情報処理様式を選択せざるを得ない。その結果、入力された視覚言語情報および聴覚言語情報を知覚しているにもかかわらず、統合処理に必要な言語情報の意味情報を保持していないため、文を理解できない。

しかし、実際は完全に文を理解できないというわけではなく、文を即座に理解するのが困難な状態という程度にとどまっている。この現象は、入力された視覚言語情報あるいは聴覚言語情報を、あたかも自分自身が出力しているかのごとく「催眠」させる効果を持つ「追唱」を言語中枢が実行していることに由来する。

 

第3 脳内マルチタスク機能の無効化による情報処理様式の変容

1 脳内マルチタスク機能の無効化による、言語情報理解における情報処理様式

通常(脳内マルチタスク機能の有効化状態)の場合、新たな句の言語情報の貯蔵と同時に、既存の句の意味情報の保持が可能である。

一方で脳内マルチタスク機能が無効化された場合では、統合処理(文の理解の最終プロセス)の材料となる句の保持あるいは貯蔵のどちらかしかできない情報処理様式を選択せざるを得ない状況になる。

 

2 「貯蔵の専念あるいは保持の専念」という極端な情報処理様式パターン

それでは、具体的に脳内マルチタスク機能が無効化された状態では、言語理解時においてどのような情報処理様式を行うのか。それは、保持、あるいは貯蔵しかしないというものである。

ただし、ここで注意してほしいのは、以下に紹介するものは脳内マルチタスク機能が無効化された状態のものであって、特異的言語発達障害(「ワーキングメモリ容量減少症候群」)のものではないということである。言い換えれば、以下に紹介する情報処理様式の例は、脳内マルチタスク機能の無効化によると理論的に考えられる情報処理様式の極端例である。

 

・情報処理様式A:「貯蔵に専念する」

不注意症状のうちの、保持エラーに該当する。

S = P(a), P(b), P(c)

 

① P(a)の入力: 言語情報Aの貯蔵および変換

 

② P(b)の入力: 言語情報Bの貯蔵および変換

 (意味情報Aの保持が不安定になる)

 

③ P(c)の入力: 言語情報Cの貯蔵および変換          

 (意味情報Bの保持が不安定になる)

 

④ 意味情報Cの保持(Sの成立時)

 

・情報処理様式B:「保持に専念する」

S = P(a), P(b), P(c)

 

① P(a)の入力 → 言語情報Aの貯蔵および変換

 

② P(b)の入力時 → 意味情報Aの保持 

言語情報Bの貯蔵および変換が実行されない)

 

③ P(c)の入力時 → 意味情報Aの保持 

言語情報Cの貯蔵および変換が実行されない) 

 

④ 意味情報Aの保持(Sの成立時)

 

文の入力(知覚)が終了したとき、どちらの情報処理様式においても、ワーキングメモリに保持されている情報は不完全なものであるため、文の理解は不可能になるという結論が得られる。

 

第4 特異的言語発達障害の言語理解時における情報処理様式について

1 代償機能の存在

しかし、実際は脳内マルチタスク機能が無効化されている特異的言語発達障害は、文の理解が不可能になるという性質を持たない。

なぜなら人間の脳内には、言語理解のための脳内マルチタスク機能に代わり、言語理解をするための仕組みが存在するからである。それは「追唱」という言語情報の擬似的な出力処理機能を用いた情報処理様式である。すなわち追唱とは、脳内マルチタスク機能の代償機能である。

疑似的と表現した根拠とは、その出力処理が自分に向けられる行為であることにある。追唱による言語理解の仕組みとは、言語情報を出力した際にワーキングメモリに保持される情報の一つに該当する「回想的記憶」(既に出力した言語情報に関する記憶)を参照することにより、間接的に言語情報を理解することが可能になる。

 

2 追唱機能を用いた言語理解の特徴

追唱機能を用いた情報処理様式は、貯蔵と保持の継時処理である。しかし、これは非効率であると言わざるを得ない

「言語のシステム」(普遍文法とでもいうべきだろうか?)は、それの認知の効率化を実現するために、人間の脳に含まれる脳内マルチタスク機能が有効であることを前提に形成されている。すると、追唱を用いた継時処理は非効率なものであり、言語理解の処理速度の低下を招くことは避けられない。その具体例は以下のとおりである。

 

S = P(a), P(b), P(c)

① P(a)の入力: 言語情報Aの貯蔵および変換

 

② P(b)の入力: 意味情報Aの保持

 

③ P(c)の入力: 意味情報Aの保持 & 言語情報Cの貯蔵および変換

 

④ 意味情報Aの保持  &  意味情報Cの保持(Sの成立時)

 

句bが入力されたとき、意味情報Aの保持に専念しているため、句bの意味情報は、ワーキングメモリに貯蔵及び保持ができない。(→②)。

ゆえに、この場合、文の意味情報を創出するための統合処理をするための材料である意味情報Bがワーキングメモリに存在しない(→④)ため、文の意味を理解するのは不可能となる。

このように、処理速度の低下により、入力するべき言語情報の貯蔵するタイミングを失う事態に陥る。すると、文の理解が不可能になるのである。 

言語理解時において、追唱という脳内マルチタスク機能の代替手段として追唱機能を利用することは、特異的言語発達障害において言語理解をするための手助けにはなるが、やはり不完全なものであるという結論を導き出さざるを得ない。

 

第5 特異的言語発達障害と小児慢性疲労症候群の関係についての仮説

追唱機能という代替手段を用いることのデメリットはほかにも存在する。

追唱機能に限らず、代償あるいは代替機能の使用は、通常であれば使わなくてもよい脳機能を使っていることになるため、小児慢性疲労症候群につながるのではないかと私は推測している。

小児慢性疲労症候群については、考えがまとまり次第、詳しく紹介する。

特異的言語発達障害による学業の悪影響に関する考察(学習障害との関係性の検討とともに)

 

第1 序論

特異的言語発達障害が学業を達成するうえでの障壁となることは、確実です。しかし、特異的言語発達障害学習障害に分類するという見方は不適切であると私は考えています。その根拠とは、特異的言語発達障害が学習の場面にとどまらず、学習障害よりも広範囲に症状が存在することにあります。

 

第2 先行研究

特異的言語発達障害学習障害の関係について考察した研究は、既に存在します。

・山根律子「特異的言語障害とそのサブタイプ」

https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180406204318.pdf?id=ART0006204093

この研究では、両者の関係について以下のように説明しています。

「特異的言語障害は、学習障害の一部としてとらえられる場合もある。 ・・・学習障害と特異的言語障害とでは、定義の問題に加えて、質的な類似性についての指摘もある。・・・特異的言語障害の原因となるメカニズムが、他の学習障害の領域と共通するかもしれないことが示唆される。このように、特異的言語障害の位置づけは未だあいまいである。「学習障害」「コミュニケーション障害」といった用語の定義が一定でないため、定義により特異的言語障害の位置づけが異なることがその理由としてあげられる。」

 

第3 学習障害の定義

まず、「学習障害」という概念の性質について軽く触れておきましょう。

1 定義の曖昧性

世間一般で広く認知されている「大人の発達障害」のなかには、。ADHDASDと並ぶ「三大巨塔」のひとつとして、学習障害(LD)を紹介するケースが多いように思います。どうやら世間一般には、この学習障害という精神障害があたかも存在するという「解釈」があるようです。

この「学習障害」という概念について、特殊な精神障害概念であると私は考えています。例えばADHDASDという精神障害概念は、根本的な症状および病理をおおよそ画一的に説明することができます。

これに対し、学習障害は包括的な概念であるため、一つに絞るということは不可能です。すなわち、「学習障害はこういった症状を持つ」という説明は妥当ではなく、「この精神障害学習障害である」、というように説明するほうが正しいということになります。

 

2 学習障害の内容

学習障害にカテゴライズされる条件を簡潔にまとめると、

「知能が正常であるが、学業を達成するうえでの困難さという性質を持つこと」

です。

言い換えると、社会不適合の性質が顕著となる場面が、学業にかかわる認知行為をするときに限られるという特徴を持つ精神障害であれば「学習障害」に含まれるということです。

 

3 「学習障害」の中身について(一般に学習障害として認知されている精神障害

学習障害という概念のなかに含まれる複数の精神障害は、病理および現れる症状が全く異なるもの同士となります。では、実際にどのような精神障害学習障害に該当するのでしょう。これについて紹介します。

 

学習障害」はDSM-5以降において「限局性学習障害」という名称に変化しました。これを構成する精神障害は以下の通りです。

ディスレクシア

視覚言語情報を入力する機能の無効化

・ディスグラフィア(書字表出障害)

視覚言語情報を運用する機能の無効化

・ディスカリキュア(算数障害)

数字およびそれに関係する概念の理解及び運用の困難さ

 

限局性学習障害は以上の3種類のみとなっています。

 

第4 学習障害言語障害の関係

ここで気になることがあります。

言語障害学習障害であるか?」

いいえ、両者は別物です。

言語障害」という概念に含まれる精神障害は、「感覚性言語機能」や「運動性言語機能」といった機能が無効化された状態であると説明できます。例えば、失語症(特にウェルニッケ失語)や表出性言語障害および受容性言語障害といった精神障害が、言語障害にカテゴライズされます。言語障害は、言語を使う場面において困難が生じている状態です。想像の通り、言語障害は学業の達成に与える悪影響は甚大なものです。

しかし、言語障害の悪影響は学業にとどまらず、社会生活はおろか日常生活を送る場面においても及びます。なぜなら、人間が言語情報を扱えることを前提として、人間社会が成り立っているからです。

 

一方の限局性学習障害を構成するディスレクシアやディスカリキュアとは、言語機能の無効化ではありません。言語情報のメディアとなっている視覚言語情報(言語学的に表現すると「記号表示」)を理解、あるいは運用する機能が無効化されている状態です。

 

では、話を冒頭に戻しましょう。

特異的言語発達障害学習障害ではありません。

しかし、学業の達成における支障の度合いは、限局性の学習障害に劣らないほどであると私は考えています。

 

第5 特異的言語発達障害による学業の悪影響の現れ方

1 特異的言語発達障害は不注意症状と併存する

特異的言語発達障害は、「ワーキングメモリ容量減少症候群」(自作概念、当記事末尾に詳細あり)の言語症状です。日常生活面においては不注意症状があることから、特異的言語発達障害と不注意症状は、「ワーキングメモリ容量減少症候群」のもとで必ず併存します。

ゆえに、学習面だけでなく日常生活面における精神症状も存在するため、学習障害の定義に収まるものではありません。また、言語障害であるともいえないので、やはり「ワーキングメモリ容量減少症候群」の一つというようにカテゴライズするのが妥当であると私は考えます。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

2 症状と学業の達成との関係

特異的言語発達障害の症状とは、複雑な統語構造を持つ文の形態を持つ言語情報の理解及び運用の困難性による、処理速度の遅さです。

この症状が学業の達成に与える悪影響とは、大きく分類すると2種類の問題が存在します。

 

① 「実体的問題」

意味:学業の内容との相性の悪さ、要するに科目の内容との関係です。

例↓

・読解問題が大半となる国語、現代文

・英語の中でも、複雑な読解問題やリスニング、ライティングの精度が求められるもの

 

② 「手続的問題」

意味:学業の内容を伝達する「メディア」との相性の悪さを意味します。

例↓

・先生の話を理解するのが困難である。理解しようとすると、追唱により脳が余計に消耗し、疲労する。

・教科書の読解が困難である。これは文系科目及び一部の理系科目において顕著である。

 

第6 特異的言語発達障害による学業達成への悪影響を回避する方法

限局性学習障害とは異なり、特異的言語発達障害による学業に与える悪影響は、ある程度防ぐことが可能です。

まず、「実体的問題」について。以下の科目は特異的言語発達障害の悪影響を受けにくい科目の領域は以下のとおりです。

・理数系科目全般

・英語のなかでは英文法、語彙に関する問題

・国語のなかでは漢字に関する問題

 

なので、特異的言語発達障害を抱えている場合、理数系科目および、読解問題による配点の少ない言語科目を採用する試験を選択するべきです。

 

次に「手続的問題」について。特異的言語発達障害は、現実の授業を受けることによって得られる恩恵は少ないです。なので、反復が不可能な授業を選ぶことより、反復が可能な選択肢、例えば教科書を読んでいく方がよいでしょう。

現代は技術の発展により、現実の授業に代わる方法として、例えばオンラインの動画講座という選択肢を採用することにより、たとえ聞きもらした部分を繰り返すことが可能になります。

しかし、いずれにしても教科書および動画講座の中身は文章であるため、結局のところ理解するスピードは通常と比べ遅いため、理解するまでには時間がかかってしまします。

 

特異的言語発達障害は、学力の低下の要因としては有力であるため、根本原因である「ワーキングメモリ容量減少症候群」を治療することが妥当であるといえます。

 

「ワーキングメモリ容量減少症候群」の詳細については、以下の記事をご覧ください。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

特異的言語発達障害が示す症状の病理および原因についての論考

  

第1 本稿の目的:「特異的言語発達障害」概念からの具体性の「抽出」

1 特異的言語発達障害の定義

特異的言語障害(「言語機能の障害」の範疇に存在する)の定義について、公式的な見解は以下の通りである。

非言語性知能の低下、聴覚障害、神経学的異常などの言語発達を阻害する要因が認められないにもかかわらず、言語能力に著しい制約がみられる障害*1

 

2 特異的言語発達障害の曖昧性

「特異的言語発達障害」という概念は、「言語機能の障害であるが、学術的に定義づけられていない言語障害」という意味を持つため、恣意的なものであるといえる。病理が解明されていないことからこのような名称が与えられているという点で、言語障害概念における特異的言語発達障害の位置づけは、発達障害における特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の位置づけと同じである。

特異的言語発達障害は、無効化されている認知機能を学問によって定義することが不可能である言語障害の「集まり」であるため、その範疇の中に複数の別個のものが存在するという可能性も多分に考えられる。

冒頭で「特異的言語発達障害の病理を説明する」と記したが、その表現は本稿の作成を目的とするうえでの便宜的なものである。特異的言語発達障害という「集まり」から、一つの言語障害概念の具体性を抽出すると表現する方が正しい。

 

3 考察方法について

当方は、特異的言語発達障害の当事者である。

この視点を通して、私自身の経験や知見に基づいた分析内容を当ブログのなかで紹介している。

 

第2 先行研究

オンラインで閲覧できる先行研究を以下にピックアップしました。

 

・石田宏代:「特異的言語発達障害児の言語発達 -臨床の立場から-」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp1960/44/3/44_3_209/_pdf

 

・「特異的言語障害を伴う発達性ディスレクシアの1例」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/36/3/36_432/_pdf

 

田中裕美子:「特異的言語発達障害言語学的分析」 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp1960/44/3/44_3_216/_pdf

 

・室橋春光:「読みとワーキングメモリー:「学習障害」研究と認知科学

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/42649/1/murohashi_JJLD18.pdf

  

第3 特異的言語発達障害の症状

処理の対象となる言語情報の種類が文であるときに、以下のような症状が認められる。

 ・言語理解の障害

リスニング能力の低下、読解力の低下、言語発達遅滞

 ・言語運用の障害

口下手、言い間違い、遅筆

 

第4 病理解析

言語情報を認知する際に人間が利用する基本単位が句であることを踏まえたうえで、文の理解及び運用の特徴を考察することで、特異的言語発達障害の病理を導出できると私は考えている。

1 特異的言語発達障害と「ワーキングメモリ容量減少症候群」

特異的言語発達障害は、「ワーキングメモリ容量減少症候群」の精神症状のうち、言語機能の面で認められる症状である。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

2 無効化されている脳機能の定義づけ

特異的言語発達障害精神障害としての具体性を与えるためには、無効化されている機能を定義づける必要がある。

「ワーキングメモリ容量減少症候群」を、私は「脳内マルチタスク機能」の無効化によって発生する精神症状の総称であると説明している。すなわち、特異的言語発達障害とは「脳内マルチタスク機能」の無効化により現れる言語機能面での症状であると私は考えている。

 

3 「脳内マルチタスク機能」の有無による文の理解及び運用への影響

「文の運用及び理解の苦手さ」という特異的言語障害の症状は、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」即時的に達成するのが不可能な体質由来のものである。

文の理解及び運用は、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」である。これを即時的に実行できるか否かという問いに対する答えは、同時的に複数の情報をワーキングメモリに保持するという「脳内マルチタスク機能」の有無によって決定づけられる。

① 「脳内マルチタスク機能」の有効化と文の理解及び運用

通常、すなわち「脳内マルチタスク機能」が有効である場合、同時に複数の情報をワーキングメモリに保持できるため、統合処理を効率的に実行できる。ゆえに文の運用及び理解を即時に達成できる。

② 「脳内マルチタスク機能」の無効化と文の理解及び運用

しかし、「脳内マルチタスク機能」が無効化されている場合、複数の情報を同時に保持できない性質になる。すると統合処理を効率的に実行できないため、文の運用及び理解を即時的に達成できない。しかし、同時に複数の情報を保持できないだけであり、統合処理の素材となる複数の情報を継時的に保持するという非効率な処理を実行することが可能である。ゆえに、文の運用及び理解は可能である。その非効率が、即時的に文の運用及び理解を達成できないという特異的言語障害独特の問題を引き起こす。

このテーマに関する詳細はブログ内で扱っている。

 言語運用力の低下についてはこちら↓

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

一方の言語理解力の低下についてはこちらを↓

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

特異的言語発達障害の言語運用の特徴:「脳内マルチタスク機能」の無効化による言語運用力の低下の論証的考察(言い間違いおよび口下手、遅筆の原因の心理学的考察)

 

第1 前提知識

この項では、当ブログで紹介している自作概念のうち、当記事のなかで関係性の高いと思われるものを紹介する。

1 言語情報の出力における「脳内マルチタスク」の役割

言語情報を出力する際には、ワーキングメモリにおいて3種類の情報が保持されている。

・変換及び出力処理対象の言語情報

・展望的記憶

・回想的記憶

言語情報のなかでも「文」という形態を持つものを出力する際に、文を構成する句の円滑な出力を実行するためには、以上の3種類の情報を同時に保持することが条件である。そのために必要な機能が、ワーキングメモリに備わっている「脳内マルチタスク機能」である。

 

詳細は以下の記事にて紹介している。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

  

2 「ワーキングメモリ容量減少症候群」の概要

「ワーキングメモリ容量減少症候群」とは、ワーキングメモリに複数の情報を同時に保持できないゆえに、「複数の情報の統合処理によって達成可能となる情報処理」を実行するのが困難である性質を原因とする精神症状の総称である。

その症状について、日常生活面においては「不注意症状」として認められる症状、そして言語活動面においては特異的言語発達障害(SLI)として認められる症状が出現する。

この精神障害を「機能の無効化」という表現を用いて定義づけるならば、「脳内マルチタスク機能」の無効化による精神障害であると私は考えている。

 

詳細は以下の記事にて紹介している。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

3 特異的言語発達障害の特徴

文の理解は「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」である。これを即時に達成するためには、ワーキングメモリによる脳内マルチタスク機能が備わっていることが必要不可欠な条件である。

すると、「脳内マルチタスク機能」が無効化されている「ワーキングメモリ容量減少症候群」となると、文の理解及び運用に支障が生じる。これが、今日において特異的言語発達障害として学術的に認知されている精神症状である。

私が導き出した特異的言語発達障害の特徴は、以下のとおりである。

・文の入力および出力が困難である。統語構造の複雑性に比例して困難の度合いが増す。

・句の入力および出力には問題がない。

・感覚性言語認知機能、および非言語認知機能に問題はない。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

第2 病理解析(脳内マルチタスク機能の無効化と言語情報の出力)

特異的言語発達障害(ワーキングメモリ容量減少症候群)による、言語情報を出力する際の症状の病理を解析する。

 

1 言い間違い

① 説明

「言い間違い」とは、意味情報から言語情報への変換処理において発生するミスである。そのミスは句レベルのものである。

例:「エスカレーターに乗る」と発言することを意図したのに対し、「エレベーターに乗る」と発言した。

 

② 特徴

言い間違いは、文を出力する際に発生する。句を出力する際には発生しない。

 

③ 原因

ワーキングメモリによる「脳内マルチタスク機能」によって保持されるべき情報のうち、「変換及び出力処理対象の言語情報」への注意がおろそかになったことが、言い間違いを発生させる。

「複数の情報の統合処理によって達成可能な行為」である文の出力行為において、「ワーキングメモリ容量減少症候群」では、「展望的記憶」や「回想的記憶」を保持することに集中した結果、「変換及び出力対象の言語情報」への注意がおろそかになる可能性がある。すると、言語情報に変換する際に、本来の言語情報に「近い」言語情報を選択することにつながり、意図した言語情報とは異なる言語情報を出力するという結果をもたらす。

 

2 口下手

① 説明

「口下手」とは、心因的なものと器質的なものとが存在する。ここでは文を組み立てるのが遅いという器質的な性質を持つものを扱う。

文を出力する際に、文を構成する複数の句の連続性の出力が流暢に行われない症状が存在する。言語情報の中でも聴覚言語情報を出力する際に発生するこの問題を、口下手という。

 

② 特徴

ワーキングメモリ容量減少症候群による口下手は以下のような場面において発生する。

・統語構造が成立している文の形態をもつ言語情報を話す

発話行為のように、意味情報から変換された言語情報を話すとき

例えば、以下のような場合においては、連続する「文の中の句」を出力する際の流暢性が阻害されることはない。

 

・名詞の羅列の発話:意味情報から聴覚言語情報への変換行為であるが、この言語情報は文としての統語構造を持たない。ゆえに、この言語情報の出力を達成する際に、「展望的記憶」及び「回想的記憶」のうち統語構造に関する部分を保持する考慮する必要性がない。

 

・音読:音読とは、入力された視覚言語情報から変換した聴覚言語情報を出力する行為であり、これを達成するためには意味情報への変換処理をする必要性は存在しない。音読における流暢性と言語情報の出力における流暢性は別問題である。ただし、当然のごとく「入力した視覚言語情報の意味を理解するのと同時に、聴覚言語情報を出力する」行為となると、流暢性が阻害されることになる。

 

ちなみに、音読行為に関する詳細は以下の記事の中で紹介している。

 atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

  

③ 原因

言語情報を出力する際にワーキングメモリで保持されるべき情報のうち、「展望的記憶」および「回想的記憶」の統語構造に関する部分が、「出力および変換処理の対象の言語情報」と同時に保持されていないことが原因である。

文を出力する場合、本来ならば「文のなかの句」を変換及び出力すると同時に、「文をどのように話せばよいか」ということを認識するために、展望的記憶及び回想的記憶を保持しなければならない。

では、「展望的記憶」および「回想的記憶」を「脳内マルチタスク機能」によって保持できない状態で文を出力するためには、どうすればよいか。同時処理ができなければ継時処理をするのである。すなわち、「ワーキングメモリ容量減少症候群」による言語情報を出力する際の情報処理様式とは、「変換及び出力」をした後、「展望的記憶」および「回想的記憶」の確認をするという継時処理である。すると、「脳内マルチタスク機能」による句の出力と統語構造の確認の同時処理と比較すると、連続する「文の中の句」を出力するのが遅くなることは明白である。

 

3 遅筆

「遅筆」とは文章を書くのが遅いことを意味する。

それには、書きたい内容を形成できないという心因的な「遅筆」と、文を構成するのが遅いという器質的な「遅筆」とが存在する。ここでは、器質的な「遅筆」を扱う。

文の統語構造および文章の構成を意識しながら、文を書くという行為がうまくできない状態を意味する。

口下手とは、意味情報から変換される情報が視覚言語情報である点で異なるのみで、遅筆の病理は、口下手と病理と共通する。ゆえにその病理については、口下手の病理解析を参考されたい。

 

第3 結論

文を出力する際に、脳内マルチタスク機能によって保持されている3種類の情報の統合処理を必要とするのは、人間が言語を認知する際に利用する基本単位が句であることに由来する。

ワーキングメモリ容量減少症候群による言語情報の出力における症状は、おもに2種類の問題が存在する。その原因となる脳内現象とは、言語情報を出力するときに脳内マルチタスク機能によってワーキングメモリに同時に保持されるべき情報のうち、いずれかの情報の保持が実践できなかったことにより発生する。

文を出力する際、脳内マルチタスクのうち「変換及び出力処理対象」のパートへの注意がおろそかになった場合、「言い間違い」という問題が発生する。一方、文を出力する際に、脳内マルチタスクのうち「展望的記憶」および「回想的記憶」のパートを「変換及び出力処理対象」のパートと同時に保持できない状態である場合、出力する言語情報の種類の違いにより「口下手」や「遅筆」という問題が発生する。

これらの問題は出力対象の言語情報の種類が文である際に発生する。ただ文を出力する際に、ここで紹介した問題が必ずしも現れるというわけではない。出力する言語情報の統語構造の複雑性や言語類型によって、現れる頻度は変化すると私は推測する。

 

特異的言語障害の実態解明のためにも、「脳内マルチタスク機能の無効化」と相性の悪い言語情報の特徴に関する法則を考察することが今後の課題である。

なぜ人間は文を運用できるのか?言語情報の出力処理におけるワーキングメモリの役割と「脳内マルチタスク」の内容

 

 

第1 文を認知するという奇跡

コミュニケーションをとるときや情報を発信するときに人間は言語情報を用いる。その言語情報の形とは、「文」や「文章」である。人間が言語情報を認知する際に利用する基本単位は「句」であるもかかわらず、連続する複数の「句」で構成される「文」を人間は認知できる。

このページでは、文の出力をするときの脳機能のうち、ワーキングメモリにかかわる部分の仕組みについて、考えたことを説明する。

 

第2 序論

文の認知は、複数の句の意味情報を統合することにより達成できる。抽象的に表現すると、文の認知とは「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

その統合処理の素材となる、複数の句の意味情報および統語構造をワーキングメモリに保持するために必要な機能を、私は「脳内マルチタスク機能」と定義づけている。

反対に、脳内マルチタスク機能が無効化された状態である「ワーキングメモリ容量減少症候群」においては、文の出力が困難になる。そして、このワーキングメモリ容量減少症候群による脳内マルチタスク機能の無効化による症状は、特異的言語障害である。これによる言語情報の出力における症状は、「口下手」、「遅筆」が挙げられる。

 

第3 言語の運用とは

1 「言語の運用」の例

言語の運用とは、言語情報を出力する行為を意味する。その例は以下の通りである。

 

・「話す」

変換処理: 意味情報 → 聴覚言語情報

出力処理: 聴覚言語情報

 

・「書く」

変換処理: 意味記憶 → 視覚言語情報

出力処理: 視覚言語情報

 

文を話す行為や書く行為の間は、意味記憶から変換される言語情報の種類が異なるものの、変換行為であることは全く同じである。

 

2 出力する言語情報の形態による分類

・句

言語情報を認知する際に利用する基本単位である。これ単体を出力した場合、相手はその意味を理解できることから、言語情報であるといえる。

・文

連続する複数の句によって構成される言語情報である。大方の場合、主要部(述語)を持つものが代表的である。

本稿では、「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力することについて焦点を当てる。

・文章

連続する複数の文によって構成される言語情報である。

本稿では、「文章の中の文」の「連続性」を流暢に出力することについて焦点を当てる。

 

なお「節」という言語情報の形態も存在するが、言語情報の出力においては連続する複数の句によって構成されるという共通点を持つことから、文としてみなす。

 

第4 言語の運用と「脳内マルチタスク

1 ワーキングメモリで保持されるべき情報

以下の3種類の情報が、言語の運用において、同時にワーキングメモリに保持されなければならない。

 

① 変換及び出力処理対象の言語情報

人間が言語情報を出力する際、意味情報から言語情報への変換処理が行われる。変換および出力処理の対象となる言語情報の単位は句である。これは文を出力する際も同様である。

 

② 展望的記憶の言語情報

展望的記憶とは、未来指向の記憶を意味する。すなわち、本稿においては、これから自分が出力する言語情報の意味情報や統語構造に該当する。

 

③ 回想的記憶の言語情報

回想的記憶とは、過去指向の記憶を意味する。本稿においては、これまで自分が出力した言語情報の意味情報や統語構造に該当する。

 

言語情報の出力の際に、以上の3種類の情報をワーキングメモリに保持することを、「脳内マルチタスク」という。

 

2 出力する言語情報の形態と脳内マルチタスク機能の必要性

言語の理解と脳内マルチタスクの関係を考察した以下の記事の中で、私は以下のように定義づけた。

「脳内マルチタスク機能」とは、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」を効率的に達成することを目的として、統合処理の素材となる複数の情報をワーキングメモリに保持することを可能とする機能である。

「単独の情報処理で達成可能な認知行為」を実行する場面においても、当該機能は働いているが、それの達成のためには統合処理を実行する必要がないため、脳内マルチタスク機能を必要としない。

これは言語の運用においても同様のことがいえると私は考える。

句という形態を持つ言語情報を出力しなければならない場面においては、句の意味情報から言語情報への変換をすることで達成可能であるといえる。

一方、文は複数の句で構成される言語情報の形態である。文の出力の達成、すなわち「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力するためには、「変換及び出力処理」を句の個数分の回数を繰り返さなければならない。その際、展望的記憶および回想的記憶の言語情報を考慮する必要がある。

文の出力における統合処理とは、展望記憶及び回想的記憶の言語情報を考慮しながら、変換および出力処理をすることを意味する。

 

よって、以下のような結論を導き出すことが可能となる。

・句の出力は「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるため、これを達成するためには、脳内マルチタスク機能を必要としない。

・一方で文の出力は、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるため、これを達成する(「文の中の句」の連続性を流暢に出力する)ためには脳内マルチタスク機能を必要とする。

 

第5 出力する句の変化に伴う、脳内マルチタスク機能によって保持されている情報の内容の変化

人間は文の出力時に、文のなかのとある句を出力し終えると、それの次の句の出力に移行する。このように、人間は意識的に出力する句を変更することから、言語情報を出力する際に実行されている「脳内マルチタスク」のうち、「変換および出力対象の言語情報」は、人間が直接変化を与える部分であるといえる。

文の出力時の統合処理を成功させるためには、「変換および出力対象の言語情報」の変更とともに、「展望的記憶の言語情報」および「回想的記憶の言語情報」の内容も同時に変更させなければならない。

 

ここでは、言語情報の出力時における、脳内マルチタスクとして保持されている3つの情報の内容の変化の過程を、出力する言語情報の形態(句および文)の場合を提示する。

 

1 句の出力と「脳内マルチタスク

句を出力する際の「脳内マルチタスク」の内容の変化は以下のとおりである。

 

出力対象:P(a)

→脳内マルチタスク

↓タイミング

展望的記憶

変換及び出力対象

回想的記億

① 出力直前

P(a)

None

None

② P(a)の出力時

P(a)

P(a)

None

③ 出力終了

None

None

P(a)

 

句を出力する際の情報処理を、このように脳内マルチタスクの内容の変化というかたちで表現することも可能である。言語認知の基本単位である句を出力することで達成できるため、「変更及び出力対象の言語情報」の変更プロセスが存在しない。ゆえに「展望的記憶」や「回想的記憶」を参照することがない(そもそも出力する句以外に存在しない)ため、統合処理の必要性は皆無である。

このことから、句の出力時におけるワーキングメモリ上の情報処理は「変換及び出力対象の言語情報」だけでよい。ゆえに、句の出力を達成するためには「脳内マルチタスク機能」を必要としないといえる。

 

2 文の出力と「脳内マルチタスク

複数の連続する句によって構成される言語情報である文の出力には、脳内マルチタスク機能により保持されている3種類の情報の統合処理が必要であることを示すために、ここでは下記の文を出力する際に変化する「脳内マルチタスク」の内容を提示する。

 

出力対象:S = P(a)、P(b)、P(c)

→脳内マルチタスク

↓タイミング

展望的記憶

変換及び出力対象

回想的記億

① 出力直前

P(a), P(b), P(c)

None

None

② P(a)の出力時

P(a), P(b), P(c)

P(a)

None

③ P(b)の出力時

P(b), P(c)

P(b)

P(a)

④ P(c)の出力時

P(c)

P(c)

P(a), P(b)

⑤ 出力終了

None

None

P(a), P(b), P(c)

 

例えば、②のプロセスと③のプロセスの間に存在する「句aを出力し終わり、句bを出力し始めなければならない」というタイミングにおいては、「変換及び出力対象」を句aから句bへの変更を決定しなければならない。その決定のためには、「展望的記憶」や「回想的記憶」を参照することにより、以下の結論を導き出さなければならない。

・次に出力する言語情報が句b、句cであること

・すでに出力した言語情報が句aであること

そして、③のプロセスにおける「変換及び出力対象」が句bであることを確認できる。これが、文の出力の際に実行される統合処理である。

 

第6 結論

1 人はなぜ文章を作ることが可能か

人間が言語情報を出力する際に用いる基本単位は句である。ゆえに、文の出力を達成する、言い換えれば「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力するためには、同時に文を全体像として俯瞰しなければならない。ゆえに、文を出力する行為とは、「連続する複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

 

「文章の中の文」の「連続性」を流暢に出力する行為についても同様である。文章の出力を達成する際にも、その文を含める文章の意味情報や文の役割の構造を参照しながら、次に出力する文を決定するという統合処理が存在すると考えられる。

 

2 言語運用の障害

文の出力を達成するために必要なプロセスである「脳内マルチタスク」を実行できない場合、「文の中の句」の「連続性」を流暢に出力することは不可能になる。

自作概念である「ワーキングメモリ容量減少症候群」は、「脳内マルチタスク」機能の無効化であり、これを原因として様々な種類の精神症状を発現するものである。言語面(言語理解および言語運用面)における問題は、現在学術的に認知されている名称で表現すると、「特異的言語障害(SLI)」に該当する。

「ワーキングメモリ容量減少症候群」による、言語運用時の悪影響を、次の記事で論じる(その記事は以下のものです)。

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

なぜ人間は文を理解できるのか? 言語情報の入力処理におけるワーキングメモリの役割と「脳内マルチタスク」の内容

 

第1 序論

言語情報の理解とは、読む、聞くといった、ワーキングメモリに入力された言語情報を言語中枢が意味情報に変換する行為である。

言語情報は規模の大きいものから順番に、文章、文、節、句というように分類できる。しかし、人間が言語情報を認知する際の基本単位は句である。それにも関わらず、なぜ節や文といった大規模の言語情報を理解できるのか。それは、ワーキングメモリに入力された句の意味情報を統合処理できるからである。そのためには「脳内マルチタスク」を実行するための機能が備わっていなければならないと私は考えている。

 

逆のことを言えば、「脳内マルチタスク」機能が無効化されている「ワーキングメモリ容量減少症候群」の場合、文の理解が困難になるという結論を私は導き出した。

理論に沿うと脳内マルチタスクが無効化されている状態だと文の理解は「不可能」になるが、実際は文の理解が「困難」な程度にとどまっている。これは、代償機能によるものであると私は推測している。

 

本稿では、以上のような結論に至った根拠を、ワーキングメモリ内における言語情報の扱いという観点から以下の事柄を説明する。

・言語情報の理解の仕組み

・言語情報の理解における「脳内マルチタスク」の役割

・脳内マルチタスク機能が無効化されたときの言語情報の理解

・言語理解の際に活性化する、脳内マルチタスク機能の無効化における代償機能

 

なお、自作概念である「脳内マルチタスク」と「ワーキングメモリ容量減少症候群」の意味についての詳細は、以下の記事で紹介しています。

「脳内マルチタスク」についてはこちら↓

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

「ワーキングメモリ容量減少症候群」についてはこちら↓

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

 

 

第2 「句」が言語情報の認知における基本単位であることについて

文章や文、節といった言語情報の意味を理解する際においても、認知における基本単位が句であることは同じである。

日本語のような膠着語における助詞も句である。しかし、助詞単独では認知できない。(助詞は音素である。)

そこで、助詞の意味を理解するためには、名詞との「連結物」なる「節の一部」で理解しなければならない。すなわち、助詞とは「句」ではなく「節の一部」であるという解釈のほうが正しいかもしれない。

 

第3 句の理解と文の理解の相違点について

1 脳内マルチタスクの必要性の有無

句の理解については「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるため、脳内マルチタスクは不必要である。

一方で文の理解については「連続する複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるため、脳内マルチタスクを必要とする。

 

2 「脳内マルチタスク」を必要とする根拠

「脳内マルチタスク」とは、文の理解のための情報処理を効率的に進めるためのプロセスという側面を持っている。

ただ言語理解の際に、効率を求めない認知様式、すなわち保持と貯蔵の同時処理ではなく、継時処理をすることを選択することも可能である。

しかし、その分だけ情報処理が遅くなることにつながってしまう(継時処理の速度を理論的に算出すると、同時処理の2倍)。

そのうえ、入力する言語情報というのは、自分ではなく他人から出力されているものであることを踏まえると、出力された言語情報の「流れる」速度というのは、脳内マルチタスクを前提とした速度である。

ゆえに、保持と貯蔵の継時処理をしていると、入力するべき言語情報の貯蔵するタイミングを失ってしまう。すると、文の理解が不可能になる。

 

ゆえに脳内マルチタスクとは、文の理解の効率化ではなく、文の理解に必要不可欠なものである。

 

これより、句の理解と文の理解、およびワーキングメモリ容量減少症候群の文の理解のミスの様子を考察する。

 

第4 句の理解におけるワーキングメモリ内の情報処理

句aという(句aで構成される)言語情報が存在すると仮定する。これを理解するときのワーキングメモリにおける情報処理の順序は以下の通りである。

 

① P(a)の入力 → 言語情報Aの貯蔵および変換

② 意味情報Aの保持

(P(a)が句aに該当)

 

入力された言語情報はワーキングメモリに貯蔵された後、言語中枢によって意味情報に変換される(→①)。そして意味情報がワーキングメモリ内に保持された時点で、句aの意味を理解したといえる(→②)。

 

以上のような情報処理で達成可能であることから、句の理解とは「単独の情報処理によって達成可能な認知行為」であるといえる。

 

第5 文の理解におけるワーキングメモリ内の情報処理

文の理解、すなわち文の意味情報を創出するまでの過程は、以下のとおりである。

・文を構成する句の意味を確認する。

・文を構成する句の意味情報を、文の統語構造に従って統合処理する。

 

例えば、次の句(Phrase)で構成される文(Sentence)があると仮定する。

S = P(a), P(b), P(c)    

{S:文(Sentence)、P:句(Phrase)}

 

この文を理解する際のワーキングメモリにおける情報処理(貯蔵、保持)の様子は以下の通りである。

 

① P(a)の入力: 言語情報Aの貯蔵および変換

 

② P(b)の入力: 意味情報Aの保持 & 言語情報Bの貯蔵および変換

 

③ P(c)の入力: 意味情報Aの保持 & 意味情報Bの保持 & 言語情報Cの貯蔵および変換

 

④ 意味情報Aの保持 & 意味情報Bの保持 & 意味情報Cの保持

 

⑤ 統合処理:意味情報Sの保持

 

 

注目するべきなのは、P(a)に隣接するP(b)の意味情報を貯蔵するプロセス(→②)において、P(a)の意味情報を保持していることである。これが「脳内マルチタスク」に該当する。

もちろん脳内マルチタスクは2つだけとは限らない。

P(c)の意味情報を貯蔵するプロセス(→③)においては、P(a)の意味情報の保持とP(b)の意味情報の保持を同時並行に行わなければならない。

そして、最終的に文として理解するためには、文を構成するすべての句の意味情報を保持する必要にせまられる(→④)。

これらの情報処理の「積み重ね」により、文を構成する句の意味情報を保持した瞬間(→④)、初めて文として理解できる準備が整った状態になったといえる。そして、最後に文の統語構造に従いワーキングメモリに保持していた句の意味情報を組み立てるという統合処理をすると、Sの意味情報の創出、すなわち文の意味を理解できる。

 

 

音読に効果はあるのか?音読と読解の関係についての論考

読解のためには音読をするとよいといわれています。

言語科目では音読教育が行われています。それは

「音読ができるならば、読解ができる」

という観念が働いているためだといえます。

 

しかし、オンラインの検索ボックスに「音読」と入力しますと、検索候補に

「音読しても理解できない」

「音読 意味ない」

という言葉が並んでいます。

 

実は、私自身、音読をしてもその内容が頭に入らないことが多くあります。

音読はかなり得意な方で、途中でつまずくことなく音読できるので、国語の朗読ではアナウンサーになったような気分でいました。しかし、どんなに流暢に音読したものでも、その内容を理解していないのです。

読書ができなくなる要因としてよくピックアップされるうつ病にかかったことはありませんし、古典的な言語障害(感覚性言語障害)もありません。

むしろ、読める漢字は人一倍多いですし、英語の点数を英文法で稼いでいたぐらいですから、言語能力は低くないと思います。

 

ただ、読解力がなかった。

黙読はもちろん、音読をしても読んで理解した内容が、頭から抜け落ちていくのです。だから、文として理解できない。

 

そこで、今回の記事で「音読ができるならば読解ができる」という命題は偽であると主張する根拠を提示しようと思います。

 

内容の要点は以下の通りです。

・音読は読みへの集中を促進する効果を持つ。

・しかし、読みに集中しても読解できない場合がある。

 

目次

 

第1 音読と集中力

1 なぜ先生は生徒に音読をさせるか

文章読解をさせるとき、必ず先生は音読をさせると思います。例えば、語学(国語)の授業では先生が生徒を指名し、「○○さん、ここを読んでください」といいますね。なぜこういう教育手法を採用しているのでしょう?

 

それは音読が読解しているか否かを客観的に確認できる手段だからです。黙読では、本人が読んでいるかどうかを確認できませんからね。

 

2 音読と黙読

読む行為には、音読と黙読の2種類が存在します。

黙読は声に出さずに読む行為です。読んでいる当人は声に出していないので、客観的に読んでいるかどうかがわかりません。それに読むべき当人も、いつの間にか「字面を眺めている」状態で、読んでいないなんてことにもなりかねません。

一方で、音読のほうは、読んでいる内容を声に出すことで読んでいることを対外的にアピールできるという点で、客観的に読んでいることを確認できる手段です。

 

3 音読教育の目的:衝動抑制および注意制御機能(実行機能)の促進

多くの場合、子供は集中(注意制御機能)をすることを知りません。読む行為についても同様に、読むことに集中するという経験がなければ、当然のことながら読んで理解する(読解する)ことを学習していません。

そこで、子供たちの読む行為に対する注意制御を促進させるために音読をさせる、というのが音読教育です。その根拠理論を提言三段論法形式で表すと、以下の通りになります。

 

(音読教育の根拠理論)

・音読をすると、読む行為に対する集中力が高くなる。

・読む行為に対する集中力が高ければ、読解ができる。

・ゆえに、音読ができるならば、読解ができる → 「音読教育」

 

すると、音読の精度が低く、ぎこちなく読んでいるとき、読みに対する注意制御が実行されていないと判断できます。一方で音読の精度が高く、すらすらと読めるようになったとき、その人物の読みに対する注意制御が十分に実行され、集中力が高い状態になったといえます。

音読が集中力を高める方法として有効なのは、教師と生徒の関係だけではありません。音読は、読む当人にとっても読む行為への集中力を高めるための良い手段になります。

 

第2 「音読ができるならば、読解ができる」の嘘

1 「読む行為に集中すると読解できる」は、真であるとはかぎらない

実は、読みへの集中度以外に読解力を決定する条件が存在します。そして、その条件を満たさなければ、どんなに読みに対して集中していたとしても、読解できるとはいえません。

すなわち、先に紹介した音読教育の根底理論には反論の余地があるのです。

「読む行為に対する集中力が高ければ、読解ができる」

というのは、必ずしもそうであるとはいえないということです。すると、同時に

「音読ができるならば、読解ができる」

というのも、偽となります。言い換えれば、音読ができるからといえ必ずしも理解ができるとは限らないということです。

 

2 2つの「読み」(音読と読解)は別の認知行為である

音読をすると読解力が向上する理由を説明する前に、音読と読解は別のプロセスであることを提示します。

両者の情報処理の概略は以下の通りです。

 

音読は入力処理と出力処理を含みます。はじめに文字をワーキングメモリに貯蔵します。次に言語中枢が聴覚言語情報に変換したのちに、その音声を出力するという行為です。

 

入力処理:視覚言語情報(文字)

変換処理:視覚言語情報(文字) → 聴覚言語情報(音声) 

出力処理:聴覚言語情報(音声)

 

 

読解は、純粋な入力処理です。

ワーキングメモリに貯蔵された文字は、言語中枢によって意味情報に変換処理される、というプロセスで構成されています。

 

入力処理:視覚言語情報(文字)

変換処理:視覚言語情報(文字) → 意味情報

出力処理:なし

 

3 「音読をすると読解できる」の真相

通常の人間の場合、確かに音読ができれば、同時に理解もできます。その原因は、音読と読解に共通するプロセスである「視覚言語情報の入力処理」の存在にあると私は考えます。そして、視覚言語情報の入力に集中(注意制御)した結果の「随伴効果」(音読に集中すると読解も集中でき、逆に音読に集中できなければ読解もできないというものです。

 

4 音読するときにおけるワーキングメモリの情報処理

音読と読解の比較について先の分析ではどのように情報が変換されるのかという焦点で分析しましたが、今度はワーキングメモリ内での情報の貯蔵と保持の様子について分析します。

音読とは、「句」単位の認知行為の繰り返しです。「句」を読み取り、発音するだけでよいので、過去に読み取った「句」を保持しなければならないというわけではありません。

音読における情報処理の仕組みは以下の通りです。

 

----(句の入力)----

① 貯蔵

視覚言語情報をワーキングメモリへ貯蔵。

② 変換

貯蔵した視覚言語情報を「聴覚言語情報」に変換。

----(句の入力)----

③ 貯蔵

④ 変換

----(句の入力)----

⑤ 貯蔵

 

このことから音読とは、

「単独の情報処理によって達成可能な認知行為の繰り返し」

であるといえます。

 

5 読解するときにおけるワーキングメモリの情報処理

一方の読解は、文の認知になりますので、「連続する複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」であるといえます。

「文」の認知をする場合においても、人間が言語を理解するときの単位が句であることには変わりありません。しかし、文の意味情報を獲得するためには、すべての句の意味情報がそろっていなければなりません。ゆえに句を「保持」しながら、新たな句の意味情報を貯蔵する必要があります。これこそ「脳内マルチタスク」です。

読解における情報処理の仕組みは以下の通りです。

 

----(句の入力)----

① 貯蔵

視覚言語情報をワーキングメモリへ貯蔵。

② 変換

貯蔵した視覚言語情報を「意味情報」に変換。(変換の主体は感覚性言語中枢。ワーキングメモリではない。)

③ 保持

意味情報を保持する。

----(句の入力)----

④ 貯蔵

⑤ 変換

⑥ 保持

これらのプロセスは前の句の意味情報を保持しながら行われる。

----(句の入力)----

⑦ 貯蔵

 

 

6 「音読しながら読解する」ときにおけるワーキングメモリの情報処理

音読と読解の間には「随伴効果」(音読に集中すると読解も集中でき、逆に音読に集中できなければ読解もできないというもの)があると書きました。

この「音読をしながら読解をする」というマルチタスクにおける情報処理の仕組みは以下の通りです。

 

----(句の入力)----

① 貯蔵

視覚言語情報をワーキングメモリへ貯蔵。

② 変換

A:貯蔵した視覚言語情報を「意味情報」に変換。

B:貯蔵した視覚言語情報を「聴覚言語情報」に変換

③ 保持および出力

A:意味情報の保持

B:聴覚言語情報の出力

 

----(句の入力)----

④ 貯蔵

⑤ 変換

⑥ 保持および出力

これらのプロセスは前の句の意味情報を保持しながら行われる。

----(句の入力)----

⑦ 貯蔵

 

 

第3 集中しても読解ができない人 → 特異的言語発達障害

基本的に人間は読みに集中するとその内容を理解できるようになっています。

しかし、例外が存在します。音読がスラスラできるのに、その内容を理解できない人は、「脳内マルチタスク」を実行する機能が無効化されている状態です。すなわち、それは「ワーキングメモリ容量減少症候群」の言語症状である特異的言語発達障害です。

脳内マルチタスク不全症候群による特異的言語発達障害は、音読をして読みに集中できたとしても、その内容の理解が困難であるという症状が現れます。

 

脳内マルチタスク不全症候群及び特異的言語発達障害についての詳細は以下の記事で紹介しています。↓

  

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

  

第4 「脳内マルチタスク」が使えない人の読解を手助けしている能力

「脳内マルチタスク」を実行できないとなれば、これまでの理論に従うと文を全く理解できないという結論に至ります。

しかし、実際のところ、まったく読解ができないというわけではありません。当事者の私の場合ですが、簡単な統語構造の文などの理解には問題がありませんし、難解な統語構造の文を入力した場合、部分的には理解しているのです。

このことの原因については、ほかの認知能力を用いた代償的な認知機能(例えば追唱による意味理解など)が実行されていることが原因ではないかと考えています。

まだこれについては考えがまとまっていないので、まとまり次第記事としてまとめます。

 

第5 (結論)音読教育の効果:読解ではなく読みへの注意制御を目的

ここで、音読教育の根拠理論に振り返ってみましょう。

 

①音読をすると、読む行為に対する集中力が高くなる。 → 真

②読む行為に対する集中力が高ければ、読解ができる。 → 偽

③ゆえに、音読ができるならば、読解ができる。 → 偽

 

②および③の部分が偽であることをお判りいただけたでしょうか。

いわば子供に注意制御機能を身に着けさせるというのが、学校教育の使命といっても過言ではありません。子供の学業不振の原因の大多数は集中力の欠如でしょう。ゆえに音読教育には存在意義があります。

しかし、音読はあくまで「読む行為」への注意制御を促すための手段でしかありません。

 

読解の可否を決定づける要素は集中力の高さ以外にも以下のように存在しています。

・語彙、文法の理解度

・「脳内マルチタスク機能」の有無

語彙や文法の理解度については、それこそ一般教育のなかで教えていけばよいので問題は解決できます。一方の「脳内マルチタスク機能」に問題がある特異的言語発達障害(「ワーキングメモリ容量減少症候群」)を原因とする読解力の低下であれば、それは一般教育にとって「想定外」のことですので、太刀打ちできないでしょう。臨床の現場でも、特異的言語障害はあまり認知されていないのが現状です。