「封印」されしアタマのなかより(大人の早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋)と容量性注意障害(聴覚情報処理障害)に関する当事者研究の記録です。主にワーキングメモリ(注意容量と音韻ループの関係)について研究しています。更新情報はツイッターで配信しています。

頭蓋骨縫合早期癒合症の手術の対象年齢が存在する根拠と、成人当事者に外科治療を実施するべき理由

今回の記事で紹介する項目は以下の通りです。

  • 下地武義先生の新著に関する情報
  • 早期癒合症手術で設定されている年齢制限の根拠
  • 成人当事者に対する早期癒合症手術で期待できる効果

キーワード:軽度三角頭蓋、発達心理学、スキャモンの発育曲線、大脳皮質、容量性注意障害、高次脳機能障害

下地武義先生の著書「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子たちに未来はある」で気になった部分

下地武義先生による新著が、2018年発刊されました。主に軽度三角頭蓋の臨床研究に関する内容が書かれた著書です。軽症例の成人当事者である私にとっても、当事者研究研究を実践するために、すでに手元に持っています。

この書籍の「推薦の弁」(すなわち下地先生が書いたものではない)のひとつに、以下のような文章があり、この内容について私は戸惑いを感じましたので、引用します。

子どもの発達障害で悩んでいる方々は一読される価値があります。希望が出てくるかも知れない。しかし、子どもが成長した後で読まれた方は悔いるかもしれません。もう少し早く知っていたら……と。*1

早期癒合症の手術には、患者の年齢に制限が存在しています。おそらく、柿谷氏によるコメントは、年齢制限の根拠に該当する発達心理学の理論と共通するところがあると思います。

たしかに、早期癒合症に起因する精神障害の多くは、年齢と術後に期待される改善度とが密接な相関関係を持っていることについて、異論はありません。

しかし、早期癒合症に起因する精神障害のうち、容量性注意障害の術後の改善度と年齢は関係ないと私は考えています。これを根拠に、私は手術の対象年齢に制限が存在していることについて、この記事の中で批判します。

早期癒合症に起因する症状(記事リンク)

当ウェブサイトでは、早期癒合症に起因する症状の考察記事を投稿しています。

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

当記事では、手術対象年齢の制限と関係を持つ症状である、精神症状を紹介します。

精神症状は、大きく二つの原因によって分かれます。一つ目の原因は、狭小化した頭蓋骨による脳全般への圧迫です。これによって発症する精神障害が、典型例で発症する精神運動発達遅滞、および軽症例で発症する容量性注意障害です。

二つ目の原因は、変形した蝶形骨による特定脳部位への圧迫です。これによって発症する精神障害が、自閉症類似の高次脳機能障害」、および運動性言語障害です。

外科治療の対象年齢は制限されている

早期癒合症は小児慢性特定疾病として認知されています。現時点では、児童に対する手術のみが行われており、手術が実施された成人患者例は存在しません。

早期癒合症の外科治療は、頭蓋内圧亢進症状(うっ血乳頭、脳浮腫)があることという手術適用条件が存在しますが、これに加えて、対象年齢制限が存在します。 

まず、脳神経外科学一般の外科治療を紹介すると、出生時から容易に鑑別できる典型例のみを治療対象として設定しているため、対象年齢について1歳未満という基準を提示しています。しかし、提示されている数字よりも、出生後すぐに外科治療を実施しなければならないという意図を示す表現であるといえます。

一方の、軽症例に対する外科治療(軽度三角頭蓋の手術)は対象年齢について、原則9歳と下地武義先生は設定しています(2018年時点)。しかし、頭蓋内圧亢進が認められる場合は、年齢にかかわらず、手術対象にするという考えを提示しています。

下地先生と脳神経外科学公式の治療を比べると、両者の間には治療方針や外科治療の実施内容に決定的な相違点が存在します。しかし、年齢制限については、ほぼ共通の認識を持っていると評価できます。その背景にある根拠理論については次の項で紹介します。

「年齢制限」の根拠:精神運動発達遅滞と発育曲線の関係

早期癒合症の外科治療の手術適応年齢の制限の根拠となっている、発達心理学による「スキャモンの発育曲線」の内容を紹介します。 

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その内容とは、「脳内の神経細胞の発達は、幼少期がピークであり、年を重ねるにつれて神経発達の「勢い」が緩やかになる」というものです。

脳神経外科学の公式の見解によると、早期癒合症の精神症状は、は大脳辺縁系の機能低下(およびその神経発達障害)である精神運動発達遅滞と結論付けられています。早期癒合症は神経発達理論に当てはめることが可能であり、その結果、幼少期の間に早期癒合症の病態を解消しなければ、脳内の神経発達に悪影響が残る」という結論を導き出されることになります。

逆の観点からいいかえると、「成人以降に手術を行っても効果がない」といえます脳神経外科学は早期癒合症の典型例(頭蓋内圧亢進による精神運動発達遅滞を引き起こす)について、幼少期に手術を行わなければ、術後で改善が期待される大脳辺縁系の神経発達」の効果が薄くなると考えています。 

精神運動発達遅滞(頭蓋内圧亢進で発症した大脳辺縁系の機能低下)と、蝶形骨縁の圧迫に起因する精神障害は、神経発達に悪影響を及ぼすため、発達障害の側面を持つといえます。これらの精神障害との関連に限って評価すると、早期癒合症の治療方針に「発育曲線」を根拠に、「小児期の間」と規定することに、私は異論を持ちません。

早期癒合症に起因する高次脳機能障害である「容量性注意障害」

ただ、なんだかんだいっても、早期癒合症に起因する精神障害は、発症時点では発達障害ではなく、高次脳機能障害です。早期癒合症によって狭小化した頭蓋骨に圧迫されて機能低下を引き起こしている脳部位は、大脳辺縁系だけではないことを、私は念を押して主張します。

早期癒合症の精神障害として脳神経外科学が報告していませんが、早期癒合症は、大脳皮質を圧迫し、容量性注意障害を引き起こします。 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

外側からの圧迫ですから、大脳辺縁系の外側に位置する大脳皮質が圧迫されていないと決めつけることは荒唐無稽です。つまり、典型例でみられる精神運動発達障害には、容量性注意障害が隠れているといえます。

容量性注意障害が「脳の損傷」によって引き起こされる高次脳機能障害であることは重要です。なぜなら、患者が成人だったとしても、高次脳機能障害がリハビリなどによって治癒の可能性を持つ精神障害だからです。

外科治療の年齢制限は不適切

早期癒合症が容量性注意障害という容量性注意障害を引き起こすことを踏まえて私が主張する内容とは、早期癒合症の外科治療に年齢制限が設けられていることが不適切であるということです。

従来の脳神経外科学一般の臨床研究の中では、脳神経外科学や精神医学の視野には神経発達障害しか入っていませんでした。そのため、下地武義先生以外の研究者による臨床研究では精神症状について頭蓋内圧亢進に起因する大脳辺縁系の機能低下しか扱っておらず、大脳皮質の機能低下は無視されてきました

2018年現在において、所属する学会大会のなかで当方が発表した当事者研究以外に、大脳皮質の機能低下と早期癒合症の関係に言及した先行研究は存在していません。

患者の年齢を問わず、早期癒合症を外科治療で解消することで容量性注意障害が改善されるという仮説を立てられます。この仮説を検証なしに否定することは、精神医学の知見からしてもナンセンスであると評価できます。

成人当事者に対する手術の効果に関する研究はもちろん、成人に対する手術自体が、今日までに行われたことがありません。成人当事者の手術の効果を否定する脳神経外科学の姿勢は、成人当事者に対する治療実績というエビデンスが存在していないために根拠に乏しいものであると評価せざるを得ません。

成人当事者に対する手術は無益ではない / 実施のメリット

小児医学からの否定的見解を退けられる

早期癒合症の成人患者に対し、開頭減圧術を行うべき根拠は、病理学的根拠だけではありません。軽度三角頭蓋の手術に対する否定説を一つ退けることが可能になります。

現在、軽度三角頭蓋の手術は「美容整形手術」として行われておりますが、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説は、様々な科目の医学関係者から上がっています。そのうちの一つである小児科学の否定説の内容は、軽度三角頭蓋の手術の対象年齢が幼年であることに対する批判です。詳細は以下の「軽度三角頭蓋の手術をめぐる論争」の記事をご覧ください。

臨床研究としての性格を持つ軽度三角頭蓋の手術を、成人患者に対して行うようにすれば、少なくとも小児科学の否定説を退けられます。なぜなら、患児に対する場合とは異なり、手術の承諾を成人患者本人に求めることが可能だからです。

軽度三角頭蓋を含める軽症例は、典型例とは異なり精神運動発達遅滞に至らず容量性注意障害でとどまる症例が多いです。精神医学および法学的観点に基づき、その患者が十分な意思能力を持っていると結論付けられます。

患者が成人であれば、本人の承諾を求めることが可能になり、保護者の代諾は必要ありません。すると、小児科学からの非難を退けることが可能になります。

精神運動発達遅滞や慢性頭蓋内圧亢進の病理解明のために必要不可欠

これまで脳神経外科学一般で実施されてきた早期癒合症の臨床研究では、典型例しか症状に関する情報を収集していません。症状が重く、広範囲にわたる脳部位の機能低下が発生している典型例でみられる身体症状及び精神症状は「包括的」であるため、症状の細かな分析は不可能です。

典型例とは異なり、頭蓋内圧亢進症状および高次脳機能障害が一部の出現にとどまっている軽症例であれば、症状の程度と発症する症状の相関関係を考察できます脳神経外科学一般の臨床研究と比較すると、下地先生が実施してきた軽症患者に対する臨床研究は、精緻性に勝っており、早期癒合症の病理解明を実現できると評価できます。

あとは、神経心理学認知心理学といった先進的学術を用いたアプローチを利用することで、早期癒合症の病理解明が実現するでしょう。

成人患者本人にとっても外科治療の実施が強い願望であり、そして臨床研究で軽症例から病理に関する仮説の形成が可能になるので、成人当事者に対する開頭減圧術の施行は、患者と研究者の利害が一致するのです。

結論:年齢制限の設置は不適切、積極的に治療を実施するべき 

  • 軽度の早期癒合症でみられる精神症状のひとつである容量性注意障害は、脳への圧迫に起因する高次脳機能障害である。
  • 早期癒合症の外科治療は、患者の年齢を問わず、容量性注意障害の解消効果を持つ。
  • 神経発達理論を根拠に、軽度三角頭蓋の外科治療に年齢制限を設けることは、不適切である。

*1:下地武義 三角頭蓋奮闘記, 諏訪書房, 2018, P. 198 (元立正大学心理学部教授 柿谷正期氏による推薦の弁)

頭蓋骨縫合早期癒合症(軽度三角頭蓋含める)の症状および予後について(手術を受けなかった成人当事者はどうなる)

頭蓋骨縫合早期癒合症の病態とは?

赤ちゃんの頭蓋骨は一体化されていません。人間が生まれるときには、母体の産道を通ります。しかし、人間の頭蓋骨は、人間の産道を通りぬけられないほどの大きさであるため、そのままの大きさでは通り抜けられません。

そこで、母体の産道を通り抜けるほどの大きさに頭蓋骨を変形させるという役割を担うかたちで、人間の頭蓋骨は分割されています。ちなみに、この変形機能(児頭の応形機能)を「骨重積」といいます。

そのため、赤ちゃんの頭蓋骨(顔より上の部分)は骨が一つに固まっていないのが通常です。そして成長するにしたがって大泉門や小泉門といった隙間が閉じていきます。こうして人の頭蓋骨は一つの強固な骨になっていきます。

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https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/605.html より引用

しかし一方で、頭蓋骨が病的に早い時期に閉じる疾患が存在します。それが、頭蓋骨縫合早期癒合症(以下、早期癒合症と記述)です。その発生頻度は1万人に4~10人*1と、少数にとどまっています。  

早期癒合症は病態の程度がさまざまであり、悪い病態を示すものから順番に、「典型例」「中等度」、「軽度」の3つのレベルに分類されています。このうち、軽度の早期癒合症については、治療を施すべきか賛否両論が存在しており、現在に至るまで論争が続いています。 

中等度および典型例の早期癒合症の症状とは?(成人患者の症例を参照しながら)

早期癒合症は、「頭蓋骨の体積の狭小化」という外見的病態を持ちますが、問題点は、頭蓋骨内部の脳組織が入るスペースの容積の狭小化です。狭小化した頭蓋骨とは異なり、脳組織の体積は変化しないので、脳組織が頭蓋骨に圧迫されます。すると、早期癒合症の患者は「頭蓋内圧亢進症状」と「高次脳機能障害」を発症します。

早期癒合症に起因する症状一覧については以下の記事をご覧ください。 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

早期癒合症による頭蓋内圧亢進は、同じく頭蓋内圧亢進を引き起こす脳卒中脳挫傷、脳腫瘍と共通点を持ちます。しかし、これらの急性頭蓋内圧亢進とは異なる、慢性頭蓋内圧亢進を早期癒合症が引き起こすことは重要です。

中等度および典型例の早期癒合症は、日本国内においては治療対象であるため、乳幼児である間に治療が施されます。そのため、中等度および典型例の早期癒合症の成人当事者に関する情報は日本に存在しません。

しかし、一方で発展途上国では、通常の早期癒合症の患者が未治療のまま放置されてしまうという可能性が存在します。インターネット上に、通常の早期癒合症の成人当事者の症状に関する資料が実際に存在します。

その詳細は以下の海外ウェブサイトで紹介されています。

引用元の症例の内容を箇条書きにすると以下の通りです。

  • 31歳女性、非症候性早期癒合症
  • 出生時より重篤な精神運動発達遅滞
  • 両親は健常(遺伝性が認められないことの示唆か)
  • 大脳皮質の指圧痕が認められる
  • クモ膜下腔およびクモ膜下槽(大脳皮質の外側部分)が消失していた

クモ膜下腔とは、脳組織と頭蓋骨の間のスペースであり、脳脊髄液が流れている部位です。クモ膜下腔の消失は、頭蓋骨が脳組織を圧迫していることを示しており、すでに脳脊髄液圧が亢進し、頭蓋内圧亢進の状態であることを示しています。

指圧痕とは、慢性的に頭蓋内圧が亢進している患者の頭蓋骨の内側で見られる、凸凹状の所見です。脳組織は心拍に従い膨張と収縮を繰り返します。頭蓋内圧が高い場合、その分だけ頭蓋骨に打ち付けるように膨張するため、頭蓋骨にその痕が刻まれるのです。

この症例からは、早期癒合症に起因する頭蓋内圧亢進によって、精神運動発達遅滞が引き起こされたといえます。 

「大人の早期癒合症」とは?

1 早期癒合症は小児慢性特定疾患だけではない

先ほど、早期癒合症の発生頻度が1万人に4~10人である、というデータを提示しました。しかし、私はこのデータは正確性に欠けると私は考えています。なぜなら、この数値の中に、軽度の早期癒合症は含まれていないことは確実だからです。

通常、早期癒合症は幼少期に発見される病気であるため、現在、早期癒合症は小児慢性疾患として扱われています。そして、少なくとも現代の日本を含めた先進国における脳神経外科学の臨床では、「早期癒合症の成人」は医学的に想定されていません。たとえば、日本国内の病院が提示している早期癒合症についての医療情報は、どれも中等度および典型例の症例および治療例です。軽度の早期癒合症については、どの病院でも紹介されていません。

しかし、実際には私のように手術を受けなかった、軽度の早期癒合症の成人当事者が存在します。このことから軽度な早期癒合症のことを「大人の早期癒合症」と私は呼んでいます。 

2 「大人の早期癒合症」は、軽度三角頭蓋のみとは限らない

なかでも有名なのが、前頭縫合の軽度な早期癒合という病態を現す「軽度三角頭蓋」です。軽度三角頭蓋の手術が下地武義先生によって行われていることについて、賛否両論が存在しており、有識者の間で論争が行われています。

しかし、「大人の早期癒合症」は軽度三角頭蓋だけではありません。

理論的には「軽度舟状頭蓋」や「軽度短頭蓋」が存在する可能性は否定できません。実際、当事者である私のように「複数の縫合の早期癒合」という病態を示すケースも存在しています(詳細は後述)。  

3 軽度三角頭蓋の症状に関する資料

下地先生は、軽度三角頭蓋を抱える患児に対する治療のなかで、患児の症状を資料としてまとめています。その内容は以下の通りです。

全541例 2015年まで*2

  • 言葉の遅れ    : 517例
  • 運動遅滞     : 153例
  • 多動       : 412例
  • 自閉傾向     : 342例
  • 自傷行為     : 142例
  • パニック・イライラ: 237例
  • 睡眠障害     : 132例
  • 偏食       :  73例
  • 頭痛       :   8例
  • 嘔吐       :  18例
  • 退行       : 121例

軽度三角頭蓋の症例に関するこの資料は、下地先生が手術対象とする患児の症状のみを収集して作られています。

早期癒合症の程度によって発生する精神症状がどれに該当するかを解析するための指標として、「症例数が多い症状は、早期癒合症の程度が軽いときにあらわれる精神症状」、一方で「症例数が少ない症状は、早期癒合症の程度が重いときにあらわれる精神症状」であると仮定します。すると、 言語発達遅滞の発生確率は541件のうち517件と、発生確率が非常に高いことから、頭蓋骨の狭小化の程度が軽度であったとしても、言語発達遅滞が発生する確率が高いという仮説が導出可能です。

一方で、発生確率の低い精神症状が発生している状態は、早期癒合症の圧迫による悪影響が及んでいる脳組織の範囲がより広い、深刻な状態であるといえます。すなわち、頭痛を患者が訴えているケースは、頭蓋内圧亢進の度合いが高いといえます。  

軽度の早期癒合症(「大人の早期癒合症」)の症例

ここでは、軽度の早期癒合症の成人当事者である私の症例を紹介します。

1 早期癒合症の病態について(CT画像あり)

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 私の頭蓋骨は、以下の部分が早期に癒合している状態です。

  • 前頭縫合
  • 矢状縫合

要するに頭蓋骨の縦に走る縫合線が早期に癒合した状態です。医師によると早期癒合症の程度は軽度であるとのこと。 

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赤線で示した部分は、通常の頭蓋骨では見られない所見です。 

2 悪影響の現れ方についての考察

① 外見的な問題(二次障害を含める)

早期癒合症の病態自体、頭蓋骨の「見た目問題」といえますが、それに加え見た目問題が原因の派生症状も存在しています。

大まかに説明すると、その派生症状とは頭部体積狭小化による「頭皮の下垂」を原因とする諸症状、といえます。

軽度の早期癒合症は、頭蓋骨の変形の程度が軽いですが、一方で「頭皮の下垂」を発端とする美容面での問題が存在します。

  • いびつな髪の毛の生え方(前髪が少ない、側頭部のボリューム大など)
  • 一重まぶた
  • 二重あご

また、頭皮の下垂は首猫背の原因にもなっています。  

 身体症状

  • 目に関する症状

潜伏性内斜視(開散麻痺によるもの)

頭蓋内圧亢進症状の所見のなかで決定打的存在である「うっ血乳頭」はありません。

  • ほかの身体的症状

非びらん性胃食道逆流症(ゲップが出るときに、胃の内容物が逆流する)

 精神症状

容量性注意障害が幼少期から現れています。

すなわち、言語面では特異的言語発達障害、中でも狭義の聴覚情報処理障害が発生しています。

ただ、頭蓋内圧亢進はありませんので、大脳辺縁系の神経発達の悪影響はありません。私の知能指数については正常値を保っており、そのうえ意識障害等もありません。

3 そのほか検査結果

 私が過去に受けた検査の結果を紹介します。

① 3D-CT画像の 「指圧痕」:大脳皮質への圧迫の存在を示す

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ブログ管理人リョウタロウのCT画像
② MRI画像

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ブログ管理人リョウタロウのMRI画像

脳と頭蓋骨の間のスペース(くも膜下腔、くも膜下槽)の容積が、健常者と比較して著しく狭いです。狭小化した頭蓋骨に脳が圧迫されていることを示す所見です。

また、頭蓋骨が通常と比較して、有意に厚いことも判明しました。

③ 光トポグラフィー検査(NIRS)の「陰転」:容量性注意障害を示す

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 上の画像は、筆者の光トポグラフィ(NIRS)の検査結果です。

評価では「うつ病パターン」という結論に至っていますが、二重課題時の大脳皮質における血流量低下が根拠です。NIRSでは脳の表面の血流状況しか測定できないため、他の脳部位での血流状況は不明です。

 4 自分自身の症状を考察:光トポグラフィの陰転の意味と、頭蓋内圧の推定値

NIRSにおける「血流量の陰転」を示す検査結果について、大脳皮質が圧迫されたことでワーキングメモリが無効化されている状態であるために、別の部位を代償しながら、二重課題を実行しようとした状態を示していると、私は考察します。

圧迫された大脳皮質はワーキングメモリネットワークの一部です。そして、ワーキングメモリネットワークは、デフォルトモードネットワークと排他的関係を持ちます。

以上を踏まえたうえで詳しく説明すると、ワーキングメモリネットワークが使えない状態であったとしても、二重課題を実行できないというわけではありません。デフォルトモードネットワークを構成する脳部位が有効であれば、その部位に神経伝達物質が伝達し活性化します。すると、デフォルトモードネットワークのほうにエネルギー資源を供給するための血流量が上昇していると私は仮定しています。

しかし、ここで提示したNIRSの検査結果は、デフォルトモードネットワークにおける血流量の変化に関するデータではないため、この仮説を実証するためには脳磁図やFMRIを用いた検査をする必要があります。

次に、軽度の前頭縫合及び矢状縫合の早期癒合症である私の頭蓋内で、髄液圧がどの程度まで上昇しているかについて推定しました。

  • 指圧痕の存在から大脳皮質への圧迫が認められる
  • 斜視および嘔吐が認められる
  • うっ血乳頭や頭痛、眼球突出は存在しない

→ 頭蓋内圧亢進グレーゾーン(180mmH2O ~ 200mmH2O)と推定。

<参考文献>

下地武義 「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子達に未来はある」、諏訪書房、2018年6月初版発行

頭蓋骨縫合早期癒合症の症状一覧(頭蓋内圧亢進症状と高次脳機能障害)と、医学による公式の見解の論評

頭蓋骨縫合早期癒合症の病態

赤ちゃんの頭蓋骨は一体化されていません。人間が生まれるときには、母体の産道を通ります。しかし、人間の頭蓋骨は、人間の産道を通りぬけられないほどの大きさであるため、そのままの大きさでは通り抜けられません。

そこで、母体の産道を通り抜けるほどの大きさに頭蓋骨を変形させるという役割を担うかたちで、人間の頭蓋骨は分割されています。ちなみに、この変形機能(児頭の応形機能)を「骨重積」といいます。

そのため、赤ちゃんの頭蓋骨(顔より上の部分)は骨が一つに固まっていないのが通常です。そして成長するにしたがって大泉門や小泉門といった隙間が閉じていきます。こうして人の頭蓋骨は一つの強固な骨になっていきます。

f:id:nasubinbin:20180419032126j:plain

https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/605.html より引用

しかし一方で、頭蓋骨が病的に早い時期に閉じる疾患が存在します。それが、頭蓋骨縫合早期癒合症(以下、早期癒合症と記述)です。その発生頻度は1万人に4~10人*1と、少数にとどまっています。  

早期癒合症は病態の種類はさまざまです。一つ目にどこの縫合線が早期癒合したかで、頭蓋変形の様子が変化します。そして二つ目に、悪い病態を示すものから順番に、「典型例」「中等度症例」、「軽症例」の3つのレベルに分類可能です。

記事内容紹介

頭蓋骨が狭小化し際、一方の脳が小さくなる許容範囲には限度が存在します。この限度を超える脳への圧迫が加わった場合、脳を覆う髄液の圧力が上昇し、頭蓋内環境が悪化します。すると、脳の頭部の感覚器官でみられる身体症状や精神障害が発生します。

そのうえ、早期癒合症が神経発達期における疾患であることを踏まえると、適切な時期に外科治療を受けなければなりません。ここでは外科治療を受けなかった症例を紹介していますが、外科治療を受けなかった場合、精神運動発達遅滞になります。

ここでは、公式の見解に不足している、早期癒合症の症状の解析結果を紹介しながら、公式の見解の論評を行います。

医学による早期癒合症の症状に関する公式の見解

ここまで紹介した早期癒合症に起因する症状一覧は、実は脳神経外科学による公式の見解の内容とは異なり、下地武義先生の見解に筆者オリジナルの見解を加えたものに該当します。公式の見解はさらに簡潔なものとなっています。

  • 身体症状:頭蓋内圧亢進の三徴
  • 精神症状:精神運動発達遅滞

公式の見解で記載されている上記の症状は、頭蓋内圧亢進が著しい場合に限り発生します。そして、外科治療の適用となる中等度及び典型例で観測される症状です。

しかし、実際には軽症例を考察することで存在が明らかになる症状が、上記の症状以外に存在します。

早期癒合症の身体症状(頭蓋内圧亢進症状)

頭蓋内圧亢進を引き起こす疾患には、脳卒中や脳腫瘍、脳挫傷が代表的です。これらが引き起こす急性頭蓋内圧亢進では、頭蓋内圧が際限なく亢進し続けます。脳ヘルニアに移行すると、精神症状の発症どころか、意識障害を引き起こし、生命維持のうえで重篤な問題をもたらすことになります。

頭蓋内圧亢進を引き起こす疾患に対する治療の目的について、脳神経外科学は「頭蓋内圧亢進の解消」と設定しています。つまり、「頭蓋内圧亢進」の認定基準をもとに「頭蓋内圧亢進の有無」を判定した上で、外科治療を実施します。

早期癒合症に起因する症状は、これらの疾患で現れる症状と共通します。ただし、早期癒合症が引き起こす頭蓋内圧亢進は、慢性頭蓋内圧亢進です。急性頭蓋内圧亢進とは区別されることは重要です。

早期癒合症の外科治療は、頭蓋内圧亢進症状の有無は外科治療の実施の是非を決定づける重要な要素に該当します。これは急性頭蓋内圧亢進を引き起こす疾患の外科治療の治療方針に準拠したものです。この方針に従い、頭蓋内圧亢進の程度が強い早期癒合症の典型例に対しては外科治療が実施されます。

しかし、これには問題点が存在します。早期癒合症の軽症例では頭蓋内圧亢進の認定基準を満たさない症例が多く存在しています。そのため、他の症状の有無を問わず外科治療を受けられません。

早期癒合症に起因する身体症状は、公式で報告されている「頭蓋内圧亢進の三徴」だけでなく、そのほかの頭蓋内圧亢進症状も存在します。このことは軽症例の症状の解析から明らかになりました。

身体症状その1 「頭蓋内圧亢進の三徴」

頭蓋内圧亢進時に発症する代表的な症状には、うっ血乳頭、嘔吐、頭痛が存在します。これらが、頭蓋内圧亢進を診断する際の基準に該当する身体症状であり、「頭蓋内圧亢進の三徴」と呼ばれています。

特に、脳神経外科学では、うっ血乳頭や脳浮腫が認められる状態(脳浮腫はMRI画像で判明)にある際に、頭蓋内圧亢進と判定します。これらの症状が早期癒合症によって発症することは、脳神経外科学で認められています。

三徴に関する詳細は、以下のページをご覧ください。

www.kango-roo.com

うっ血乳頭や脳浮腫の発症は、高度な頭蓋内圧亢進の時のみに限定されます。先述したように、頭蓋内圧亢進の程度が弱い軽症例では、これらの症状の存在は認められません。

身体症状その2 眼筋麻痺などの視神経疾患(眼振、開散麻痺など)

ここで紹介する「早期癒合症に起因する慢性頭蓋内圧亢進が、眼筋麻痺を引き起こす」という内容は、筆者自身の経験に基づく仮説です。

頭蓋内圧亢進の三徴には含まれませんが、頭蓋内圧亢進時には眼筋麻痺も発生します。急性頭蓋内圧亢進時において最も発生率が高い類型が、外転神経麻痺です。外転神経麻痺を発症すると、眼球を外側に向けられなくなるため、内斜視になります。滑車神経麻痺による外斜視も、頭蓋内環境の悪化により発生するという見解を眼科学が提示しています。

眼筋麻痺は、早期癒合症の臨床では報告されていません。しかし、私自身は眼筋麻痺の一つである開散麻痺を抱えています。開散麻痺が頭蓋内圧亢進時に発生することは神経眼科学で認められています。しかし、開散麻痺は眼科学でも実態が不明といわれており、罹患者の併存疾患を報告する臨床研究は存在しません。ほかにも、下地武義先生が治療した症例の中には、眼振が認められる早期癒合症の患者がいたという症例が存在します。

早期癒合症の臨床研究で眼筋麻痺に触れた研究も存在しません。神経眼科学と脳神経外科学が共同研究を実施することで、早期癒合症の慢性頭蓋内圧亢進が眼筋運動に悪影響を与えること、そして、開散麻痺の全容が明らかになると考えています。

頭蓋内圧亢進が斜視を引き起こす病理についての詳細は、以下の記事の中で紹介しています。

さらに頭蓋内圧亢進の程度が強い際は、眼球突出が出現します。眼球突出は、顔面形成の悪影響を伴う症候性の早期癒合症で見られます。

早期癒合症の精神症状(「生まれつきの高次脳機能障害」)

早期癒合症で見られる頭蓋骨の狭小化は、脳の認知機能に悪影響を与えます。この精神症状を端的に申し上げると、「生まれつきの高次脳機能障害であるといえます。精神医学の定義に従うと、早期癒合症に起因する精神症状は以下のカテゴリーに属します。

通常、高次脳機能障害というと、脳卒中脳挫傷といった後天的なきっかけで発生する精神障害が代表的です。しかし一方で、頭蓋形成や髄液の先天的な問題が、脳に悪影響を与えることがあります。この際に発症する精神障害高次脳機能障害に分類されます。早期癒合症のほかには、水頭症が挙げられます。

脳神経外科学の見解によると、早期癒合症の病態を解消さえ達成することによって、精神症状を解消できるとのことです。

早期癒合症に起因する精神症状は、二種類のメカニズムに分類され、大まかに3つの精神症状が存在します。

精神症状その1:精神運動発達遅滞、あるいは容量性注意障害

早期癒合症でみられる頭蓋骨の狭小化は、脳を圧迫します。その結果、頭蓋内圧亢進が認められる状態になります。圧迫の程度が強いほど、機能や神経発達に悪影響の程度が強くなり、悪影響が及ぶ脳組織の範囲が広くなると考えられます。

精神医学の見解によると、早期癒合症に起因する精神症状の原因は、頭蓋内圧亢進にあると考えられています。脳への圧迫(頭蓋内圧亢進)の程度が強くなる典型例及び重症例の場合、より広い範囲に悪影響が及ぶと考えられます。具体的には大脳辺縁系の機能低下に加え、神経発達に悪影響が及んだ結果、精神運動発達遅滞を発症します。

一方、圧迫の程度が弱い軽症例の場合、頭蓋内圧亢進と大脳辺縁系の機能低下が認められない症例が多く存在します。しかし、その一方で言語発達遅滞などの何らかの精神症状を抱える症例が多く存在することが、下地武義先生の臨床研究で報告されています。

軽症例で多く認められる精神症状の病理について、容量性注意障害の症状であると私は考えています。脳組織の外側に位置する大脳皮質が圧迫された結果、機能低下を引き起こしていると考えられます。

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早期癒合症による頭蓋内圧亢進は、頭蓋骨から脳という外側から内側の方向で圧迫しています。すると、早期癒合症において、大脳辺縁系より外側に位置する大脳皮質が圧迫されていないわけがありません

大脳皮質の硬さは「豆腐レベル」です。頭蓋骨からの圧迫が弱かったとしても、その悪影響を受け、真っ先に変形を伴いながら機能が低下する脳部位は、大脳皮質でしょう。

軽症例で純粋な容量性注意障害を発症しているならば、中等度および典型例においても軽症例と同様に大脳皮質が圧迫されていることは間違いありません。ゆえに、中等度及び典型例においても容量性注意障害が存在することは論理的に確実です。

容量性注意障害とは、大脳皮質(前頭前野背外側部)が担っている「ワーキングメモリ」の無効化という病理を持つ精神障害であり、すでに高次脳機能障害として脳神経外科学で知られています。この精神障害の詳細については以下の記事で扱っています。  

精神症状その2:「自閉症類似の高次脳機能障害

下地武義先生は、軽度三角頭蓋(軽症例)の臨床研究のなかで、早期癒合症の問題点として、蝶形骨縁の変形と脳組織圧迫を指摘しています。軽度三角頭蓋を抱える患児に高確率で自閉症類似の精神症状が認められること、そして、変形した蝶形骨縁を除去した外科治療後の経過が良好で、自閉症類似の精神症状の改善が有意だったとのことです。

下地先生は、早期癒合症の症例で見られた、蝶形骨縁が圧迫していた脳部位が、「ミラーニューロン」であることを指摘しています。「ミラーニューロン」は多くの自閉症の症例で機能低下が認められる脳部位に該当するであることが、アメリカの学会で報告されています。

下地先生は、早期癒合症が自閉症スペクトラム障害の原因ではないと説明したうえで、変形した蝶形骨縁がミラーニューロンを圧迫することによって、自閉症類似の精神症状を発症するという結論を提示しています。

精神症状その3:運動性言語障害

蝶形骨縁圧迫による精神症状は、自閉症類似の高次脳機能障害のほかに運動性言語障害も引き起こすと推定可能です。というのも、運動性言語野が蝶形骨縁によって圧迫されている脳部位の一つだからです。

早期癒合症と発達障害の間に因果関係はあるか

因果関係があると私は考えます。

上記の精神障害のうち、蝶形骨縁の圧迫に起因する「自閉症類似の高次脳機能障害」のほうは、神経発達に悪影響を及ぼす疑いを否定できません。詳細を申し上げると、下地先生が実施した外科治療の結果、容量性注意障害と運動性言語障害がほぼ改善される一方で、自閉症類似の高次脳機能障害の改善率が低いことから、予後が悪いというデータが残されています。

この結果から私は以下のように考察しました。

  • 容量性注意障害は純粋な高次脳機能障害であり、神経発達に左右されにくい。
  • 蝶形骨縁に圧迫される脳部位は、神経発達において重要な脳部位である。
  • 早期癒合症に起因する高次脳機能障害のうち、「自閉症類似の高次脳機能障害」は、早期癒合症の病態が神経発達が著しい年齢において放置された際、治療後に残存する可能性が高い。

このことから、早期癒合症に起因する「自閉症類似の高次脳機能障害」は発症時点で高次脳機能障害であったとしても、適切な時期(神経発達が盛んな年齢)に解消しなければ、発達障害として定着すると私は考えます。  

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早期癒合症の程度と症状の相関関係

早期癒合症の程度、すなわち頭蓋骨による圧迫の強度によって、発症する症状が異なります。言い換えると、程度が軽い症例では認められない症状があります。

脳神経外科学の臨床研究には、早期癒合症の程度と発症する症状の相関関係について考察した研究は存在しません。中等度以上の症例のみを疾病として扱っているため、脳神経外科学は相関関係を考察できません。

一方で、軽症例を治療対象として扱う下地武義先生は、臨床研究の中で軽度三角頭蓋罹患児の症状に関するデータを作成しています。このデータから、相関関係の考察が可能になっています。

詳しく説明すると、下地先生は、患児の頭蓋内圧を測定した結果と、発症症状に関する統計資料を作成しています。これらを照らし合わせ、以下のように相関関係を考察しました。

資料A : 全541例 2015年まで*2

  • 言葉の遅れ    : 517例
  • 運動遅滞     : 153例
  • 多動       : 412例
  • 自閉傾向     : 342例
  • 自傷行為     : 142例
  • パニック・イライラ: 237例
  • 睡眠障害     : 132例
  • 偏食       :  73例
  • 頭痛       :   8例
  • 嘔吐       :  18例
  • 退行       : 121例

患児の症状と発症件数に関する資料(資料A)によると、 言語発達遅滞の発生確率は541件のうち517件と、発生確率が非常に高いことが示されています。言語発達遅滞が容量性注意障害に起因する症状であることを踏まえると頭蓋内圧亢進の程度が軽度であっても容量性注意障害が発生する確率が高いという仮説が導出可能です。

次に、患児の頭蓋内圧値に関する資料(資料B )を紹介します。

健常者の髄液圧は10mmHgであるのに対して、頭蓋内圧亢進の判定基準値は16mmHgです。脳神経外科学においては、生命維持の観点から危険と判断される数値であると規定しています。

11~15mmHgの測定値の範囲は、健常者よりも高い頭蓋内圧であると評価することが可能です。しかし、この測定値では生命維持の観点から危険であるとはいえないと脳神経外科学が判断します。そのため、先述したように通常の脳神経外科学においては外科治療を受けられません。当サイトではこの範囲の頭蓋内圧亢進について、「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」と表現しています。

資料B:頭蓋内圧測定 2016年まで446症例(一部割愛)*3

  • 頭蓋内圧値が10mmHg以下(健常者と同値)は43症例(7.6%)
  • 頭蓋内圧値が11~15mmHgは115症例(25.8%)
  • 頭蓋内圧値が16mmHg以上は297症例(66.6%)

以上のデータをもとに、頭蓋内圧亢進の程度と確実に発症する症状の相関関係について、以下のようにまとめました。

  • 頭蓋内圧亢進グレーゾーン(基準値未満:11~15mmHg)の症状

 頭蓋内圧亢進症状:眼筋麻痺

 高次脳機能障害:容量性注意障害

  • 頭蓋内圧亢進(基準値以上:16mmHg~)の症状

 頭蓋内圧亢進症状:噴出性嘔吐、眼筋麻痺(眼振)、うっ血乳頭、頭痛

 高次脳機能障害:精神運動発達遅滞(容量性注意障害+辺縁系機能低下)

 その他:MRI検査で脳浮腫が認められる。脳ヘルニアを引き起こす「一歩手前」の段階か?

一方で、自閉症類似の高次脳機能障害および運動性言語障害については、蝶形骨縁の変形が発症リスクに該当すると推測しているため、頭蓋内圧亢進の程度との相関性は高くないと私は考えます。

ただし、軽症例の過半数から、頭蓋内圧亢進の基準値を満たす髄液圧が測定されたことから、容量性注意障害が現れている症例においても、髄液圧の値が頭蓋内圧亢進の基準値を満たしている可能性が高いと結論付けることが可能です。

中等度および典型例でみられる症状(成人患者の一例)

中等度および典型例の早期癒合症は、日本国内においては治療対象であるため、乳幼児である間に治療が施されます。そのため、中等度および典型例の早期癒合症の成人当事者に関する情報は日本に存在しません。

しかし、一方で発展途上国では、通常の早期癒合症の患者が未治療のまま放置されてしまうという可能性が存在します。インターネット上に、通常の早期癒合症の成人当事者の症状に関する資料が実際に存在します。

その詳細は以下の海外ウェブサイトで紹介されています。

引用元の症例の内容を箇条書きにすると以下の通りです。

  • 31歳女性、非症候性早期癒合症
  • 出生時より重篤な精神運動発達遅滞
  • 両親は健常(遺伝性が認められないことの示唆か)
  • 大脳皮質の指圧痕が認められる
  • クモ膜下腔およびクモ膜下槽(大脳皮質の外側部分)が消失していた

クモ膜下腔とは、脳組織と頭蓋骨の間のスペースであり、脳脊髄液が流れている部位です。クモ膜下腔の消失は、頭蓋骨が脳組織を圧迫していることを示しており、すでに脳脊髄液圧が亢進し、頭蓋内圧亢進の状態であることを示しています。

指圧痕とは、慢性的に頭蓋内圧が亢進している患者の頭蓋骨の内側で見られる、凸凹状の所見です。脳組織は心拍に従い膨張と収縮を繰り返します。頭蓋内圧が高い場合、その分だけ頭蓋骨に打ち付けるように膨張するため、頭蓋骨にその痕が刻まれるのです。

この症例からは、早期癒合症に起因する頭蓋内圧亢進によって、精神運動発達遅滞が引き起こされたといえます。

軽症例でみられる症状(軽度三角頭蓋罹患児、軽症例の成人当事者)

早期癒合症の軽症例には、下地武義先生が外科治療を実施している軽度三角頭蓋と、軽度の早期癒合症を抱えたまま成人になった症例が存在します。

症例の詳細は以下のリンクの中で紹介しています。 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

症状に関する公式の見解を論評する

公式の見解に、早期癒合症に起因する症状として容量性注意障害や眼筋麻痺が挙げられていない根拠とは、脳神経外科学が軽症例を疾患として認めていないことです。軽症例を治療対象として扱っている機関は、軽度三角頭蓋の外科治療を実施している下地武義先生を筆頭とする順天堂大学以外に存在しません。

脳神経外科は、生命維持に危険を及ぼす疾患を扱う科目です。ただ、これまで扱ってきた症状はほとんどが急性頭蓋内圧亢進を伴う疾患でした。早期癒合症がもたらす慢性頭蓋内圧亢進について、十分な知見を持っているとは言えません。そういった実態が、大脳皮質の悪影響を過小評価するという姿勢を生んでいるといえます。

中等度症例や典型例で認められる頭蓋内圧亢進症状と精神運動発達遅滞は、ともに強い悪影響を広範囲の脳部位が受けることで発症する症状です。つまり、その症状には様々な症状の寄せ集めといえます。

具体的には、中等度症例や典型例では大脳皮質と大脳辺縁系を囲む頭蓋内圧は、頭蓋内圧亢進の認定基準(基準値は200mmH2O)を満たすほど高い状態です。これに対して、うっ血乳頭や脳浮腫が認められない軽症例では、圧迫による大脳皮質の機能低下のみにとどまっており、頭蓋内圧も基準値を満たさない症例が多いでしょう。

脳神経外科学は、早期癒合症の悪影響を受ける脳部位について、大脳辺縁系に対してのみ焦点を当ててています。一方の大脳皮質の圧迫とその悪影響を無視しています。

精神医学も同様です。早期癒合症の治療方針の内容を決定づけるファクターは、精神医学が規定する知識です。一応、高次脳機能障害として「容量性注意障害」は存在します。しかし、精神医学では、大脳皮質が担う「ワーキングメモリ」を扱っていません。

広範囲の脳機能低下が認められる、脳卒中脳挫傷の後遺症患者の臨床で収集された症状の特徴から、容量性注意障害。精神医学は純粋な容量性注意障害(容量性注意障害のみを抱える症例)を扱ったことはないでしょう。

容量性注意障害の症状が精神運動発達遅滞の症状に隠れてしまっている、言い換えれば両概念は包摂包含関係にあります。精神医学が、精神運動発達遅滞から純粋の容量性注意障害の存在を「抽出」困難になることは想像に難くありません。

まとめると、精神医学と脳神経外科学では、大脳皮質とワーキングメモリは無視されています。このことが、早期癒合症の治療方針を妥当性を欠く内容にしているといわざるを得ません。

しかし、近年になって早期癒合症に起因する高次脳機能障害について、脳神経外科学で研究されるようになりました。研究の際には、大脳辺縁系のみに焦点を当てるだけでなく、大脳皮質とワーキングメモリにも焦点を当ててほしいと思います。そして、容量性注意障害の弊害が認められ、治療方針が変わる機運が形成されることを、私は願っています。

 <参考文献>

下地武義 「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子達に未来はある」、諏訪書房、2018年6月初版発行

早期癒合症に起因する「精神運動発達遅滞」は発達障害か、あるいは高次脳機能障害か?

早期癒合症に起因する精神症状については、様々な種類の症状が存在しています。これらの症状を総称して、精神運動発達遅滞という表現が用いられています。ここでは中等度及び典型例の早期癒合症でみられる「精神運動発達遅滞」の症状を紹介します。

名前の通り、精神症状は精神発達遅滞と運動発達遅滞に大きく分けられます。

まず、精神発達遅滞については、ワーキングメモリネットワーク、およびデフォルトモードネットワークの著しい機能低下によって発生する、全般的な実行機能(遂行機能や注意機能など)の無効化であると私は結論付けています。精神発達遅滞の具体的な症状は以下の通りです。

言語性知能の低下、かんしゃく、自傷行為多動症

頭蓋内圧亢進が重度であればあるほど、コンテンポラリーな脳機能に悪影響が及び、意識障害が発生する可能性が高くなります。この早期癒合症に起因する精神発達遅滞は、発達障害ではなく高次脳機能障害に該当します。なぜなら、発達障害とは異なり、頭蓋骨の狭小化という原因によって発生する外因性精神障害であることが、高次脳機能障害の定義に該当するためです。

高次脳機能障害は、後発的な原因によって発生する脳機能障害であり、先天的な「発達障害」とは区別されています。定義、症状に関しては以下の記事をご覧ください。

早期癒合症に起因する運動機能障害については、下地武義先生による症例(軽度三角頭蓋)に関する記述を参照した方が分かりやすいため、以下に引用しながら紹介します。

定頚(首がすわること)などの発達が遅れ気味であった。・・・1歳半でも歩けなかった。・・・四肢筋の低緊張が認められた。歩き方は確かにヨタヨタ。小脳症状である。(P. 83)

臨床で報告され、医学的に公認されている精神症状については、以上の通りですが、重症例であるため、軽度の物と比べると症状については詳細な考察が行われていないと私は考えています。後述しますが、比較的軽度の早期癒合症の症状をまとめた下地武義先生による臨床研究の方が、正確であるといえます。 

結論

早期癒合症の精神症状について、これを単純な高次脳機能障害であると決めつけることができないと私は考えます。なぜなら、早期癒合症が生まれたときから存在する疾患であることは、神経発達が最も活発である時期と重複するためです。

早期癒合症が高次脳機能障害を引き起こしたとしても、仮に早期癒合症の病態を放置し、早期癒合症の高次脳機能障害の状態が続いた場合、神経発達の機会を逃してしまう危険性が存在するわけです。このことは、水頭症と同じです。

逆説(パラドックス)的な表現になりますが、早期癒合症に起因する高次脳機能障害は、発達障害の原因になるともいえると私は考えます。しかし、結論としては、早期癒合症の精神症状そのものは高次脳機能障害というほうが妥当であると、私は考えます。

ワーキングメモリの容量が小さい「容量性注意障害」とは?病理および原因疾患について

インターネット上の検索エンジンに「ワーキングメモリ」と入力すると、以下のような検索候補が必ず存在します。

「ワーキングメモリ 小さい」

「ワーキングメモリ 少ない」

「ワーキングメモリ 弱い」

また、

「ワーキングメモリ 容量 増やす」

という検索候補もあります。

今回は上記のワーキングメモリの機能低下を引き起こす精神障害のひとつに該当する「容量性注意障害」の症状とメカニズムを紹介します。

本題の前に:発達障害とワーキングメモリの関係

ワーキングメモリとの関連する精神障害として、ADHDや気分変調性障害(大うつ病とは異なる)がピックアップされています。

しかし、両疾患はワーキングメモリの上位概念である、実行機能の問題が根本の原因です。一方、ワーキングメモリを担う脳部位はというと、その脳部位の動かし方には問題点が認められますが、脳部位そのものには問題はありません。

ワーキングメモリを担う脳部位を活性化させるためには、そのバッテリーの供給経路、あるいは供給量が十分に確保されている必要があります。これらのいずれかの要素に問題が発生すると、当然ワーキングメモリを担う脳部位は機能不全を引き起こすようになります。

ADHDや気分変調性障害においては、ワーキングメモリ以外に実行機能や報酬系にも問題が有るといわれています。要するに、これらの精神障害の原因はワーキングメモリの「無効化」ではないということです。

では、「ワーキングメモリの無効化」という単独の問題を抱える精神障害はないのかというと、存在します。それが本稿で紹介する容量性注意障害です。

容量性注意障害の定義(精神医学による説明に基づく)

1 高次脳機能障害に分類される

精神医学において容量性注意障害は、脳卒中脳挫傷の後遺症という形で出現する後天的な器質性精神障害である高次脳機能障害に分類される注意障害のひとつです。

すなわち、発達障害とは異なり、神経発達とは別の性質を持つ外部的な原因によって発症する精神症状であるため、容量性注意障害は外因性精神障害であるともいえます。 

つまり、発達障害心因性精神障害うつ病)とは異なる種類の精神障害であることを意味します。

2 症状の特徴 

容量性注意障害の症状の特徴については、一般的に以下のように説明されます。

容量性注意障害では,一度に処理できる情報量が低下します。そのために低下した処理容量内に収まるくらいの少ない情報量であればうまく処理できますが、情報の処理効率が悪くなり,同時に複数のことを処理するのが困難になります。
容量性注意障害では、日常生活において短い会話は理解できても、長い会話になると理解がしづらくなったり、混乱したりします。桁数の少ない暗算は可能ですが、桁数が多くなるとできなくなります。作業をする際、ひとつなら問題なくこなせても、複数を同時にしなければならなくなると、途端にできなくなり、ミスが増えます。*1

ワーキングメモリと短期記憶の違い

「容量性注意障害」という名前について、以下のような疑問を抱く方が多いことと思います。

「何の容量なのか?」

人間の脳には、パソコンのメモリのような「かたち」をもつものが搭載されているわけではありません。

しかし、パソコンのメモリに近い役割を持つ概念が、認知心理学の理論のなかに存在します。それはワーキングメモリです。端的に表現すると、容量性注意障害とは、ワーキングメモリの「容量」が狭小化していることで発生する精神障害なのです。

この記事では、「ワーキングメモリが小容量であること」で引き起こされる具体的な症状とその病理(メカニズム)を考察するために、ワーキングメモリの役割について紹介します。 

まず、ワーキングメモリとは実行機能の一部であるとみなされています。

詳細は以下の記事をご覧ください。 

なので、実行機能とは別個の機能として、ワーキングメモリの意味を説明します。 

人間は、通常同時に複数の思考概念を保持することが可能です。これがワーキングメモリの正体です。

この理論のすごいところは、従来の記憶の扱い方を否定していることにあります。

従来の心理学、あるいは通俗心理学においては、往々にして記憶を短期記憶と長期記憶に分類するという二分論が展開されています。これに対して、ワーキングメモリ理論では極端な二分論を否定し、短期記憶をワーキングメモリという概念に昇華させ、その機能を解析し役割を拡張させたことにあります。

従来の短期記憶の概念が情報を保持することを重視するものであったのに対し、ワーキングメモリの概念は、情報の貯蔵とともに、情報の処理、および複数の作業に対する制御という三つの心的過程から成り立っている。…ワーキングメモリの概念は、高次認知活動におけるこうした複雑な並列作業化で働く認知機能を表したものといえる。*2

ワーキングメモリの意味:「注意の焦点」

アランバッデリーが提唱したワーキングメモリ理論に付け加えるかたちで、注意制御機能(実行機能)の対象となる事物の「容量」に関する理論として、Nelson Cowan(ネルソン・コーワン)が「注意の焦点」を提唱しました。

「短期記憶は長期記憶の活性化したものであり、その中でも特に活性値の高いものが注意の焦点で保持されている」*3という考えを展開しています。

注意の焦点理論によると、長期記憶と短期記憶の違いを具体的に説明すると、「心的の情報の活性化」には以下のような3つの段階があると説明されています。

  • 長期記憶その1:現在の心的活動に全く関連がないためほとんど活性化していない
  • 長期記憶その2:現在の心的活動に何らかの関連性を有するために、ある程度活性化
  • 注意の焦点:現在の心的活動のなかで処理中・保持中の情報

 3番目の「注意の焦点」が、ワーキングメモリに該当します。そして、この「注意の焦点」の容量について、コーワン氏は「4±1チャンク」という結論を導き出しています。

この理論に従うと、脳内で同時並行処理(マルチタスク)できる事柄の最大数として、健常者の場合、同時に4つ前後の事柄を思考できるとも言い換えることが可能です。

注意の焦点は、神経伝達物質に該当する注意資源とは異なります。

ワーキングメモリ=「脳内マルチタスク」機能(自作概念)

ワーキングメモリが持つ「注意の焦点」の側面「チャンク」が存在することで、人間は初めて脳内で複数の事柄を短期記憶として貯蔵することが可能になります。

頭の中で複数の事柄を思考するというワーキングメモリの機能が、まるでマルチタスクであることから、私は「脳内マルチタスクと言う表現を作りました。そして、脳内マルチタスクを実現するための、前頭前野背外側部(DLPFC)が担うワーキングメモリの役割の言い換え表現として、私は「脳内マルチタスク機能」命名しました。

(編集中)ワーキングメモリの存在意義:記憶と意識を支える

ワーキングメモリの脳内表現

ワーキングメモリの脳内表現

 

  上の書籍は日本ワーキングメモリ学会の会長である苧坂直行先生が著した書籍です。この書籍の帯にも記されている「記憶と意識を支えるワーキングメモリ」という表現は、ワーキングメモリの役割を端的に表しています。

 「チャンク」の中に格納される情報は、短期記憶だけとは限りません。頭の中で複数の事柄を思考することを実現するためには、「注意の焦点」の側面を持つワーキングメモリに複数のチャンクが存在していなければなりません。

複数のチャンクが存在することによって、貯蔵した情報の保持と同時に、新たな情報を貯蔵するということが可能になります。すると、短期記憶の保持行為も、頭の中で複数の事柄を思考することと同義であるといえます。

容量性注意障害:ワーキングメモリ(脳内マルチタスク機能)の無効化

ワーキングメモリの機能の一つである「注意の焦点」の狭小化により、「脳内マルチタスク」を実行する機能が無効化されているため、「複数の情報の統合処理によって達成可能な認知行為」に困難が生じている状態です。

ADHDと似ていると思われがちですが、異なります。注意資源の供給に問題はなく、注意制御機能は十分であるからです。ゆえに、衝動性は認められず、集中力も高い。

パソコンで例えるならば、メモリ容量が1gbしか搭載されていない状態です。早期癒合症、軽度三角頭蓋による前頭前野背外側部への圧迫などの異常によって引き起こされることが想定されます。

容量性注意障害とADHDの比較:中身は異なる不注意症状

ADHDの「不注意」とは、「衝動性」の裏返しの表現であり、「実行機能の無効化」、すなわち「注意散漫」な状態を指す言葉でした。

一方の容量性注意障害のほうはというと、ADHDとは異なり、実行機能は有効です。っしかし、「注意資源の容量」のみが小さい状態です。すると実行機能の一部といえるワーキングメモリが無効化されます。すると「注意の焦点」が狭小化されるため、保持できる情報量が限定的になり、「不注意症状」が顕著に現れます。 

容量性注意障害の症状一覧

容量性注意障害で認められる症状を簡単にまとめると、以下のようになります。

① 不注意症状

  • 衝動性、解離は認められない(ADHDとは異なる要素)
  • ゆえに集中力は通常程度高い
  • しかしマルチタスクが必要な行為は困難

② 言語症状(特異的言語発達障害、聴覚情報処理障害)

  • 複雑な統語構造を持つ「文」であるほど、使用および理解のための情報処理がおくれる(読解力・リスニング力の低下、遅筆、口下手)
  • 言い間違いが多い
  • 言語性知能への悪影響は見られない(高い言語性知能を持つ場合もある)
  • 複数の言語情報(文)の同時理解が困難

「注意の焦点」の容量が小さいため、日常生活において不注意が散見されます。しかし、注意資源を多く必要とする課題ではない限り、課題実行を達成することは可能です。むしろ、少ない「注意の焦点」のうちの多くの割合が使われることになるので、このときにおける集中の度合いは、健常者より高いと私は推定しています。容量性注意障害は、実行機能自体は有効であるためです。 

↓ 特異的言語発達障害に関する記事 

atama-psycho-linguistics.hatenablog.jp

 ↓ 聴覚情報処理障害に関する記事 

容量性注意障害の脳では何が起きている?(神経心理学的考察)

1 ワーキングメモリの脳部位について

神経心理学的に容量性注意障害の病理を解析すると、「ワーキングメモリ」本体に該当するDLPFCの機能低下のみであるといえます。

ADHDとは異なり、実行機能(注意制御機能・衝動抑制機能)は有効な状態です。すなわち、前帯状皮質から分泌される神経伝達物質が、前頭前野背外側部に伝達するまでのプロセス、言い換えれば注意資源の供給に異常はありません。

2 検査結果でわかる容量性注意障害:光トポグラフィ検査における「陰転」

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リョウタロウの検査結果

上の画像は、筆者の光トポグラフィ(NIRS)の検査結果です。

評価では「うつ病パターン」という結論に至っていますが、二重課題時の大脳皮質における血流量低下が根拠です。NIRSでは脳の表面の血流状況しか測定できないため、他の脳部位での血流状況は不明です。

この結果の根拠について、圧迫された大脳皮質が使われない代わりに、別の部位で代償されていると私は推測します。つまり、ワーキングメモリネットワークが無効化されている状況ですので、それと排他的関係に位置するデフォルトモードネットワークが活性化されたために、二重課題時の大脳皮質の血流量が通常時と比べて低下したのではないでしょうか。

特定不能の広汎性発達障害、グレーゾーンに容量性注意障害が含まれる

私は、容量性注意障害を抱えている当事者は、事故や脳卒中の後遺症を持つ人たち以外にも、少なからず存在すると考えています。このように主張する根拠に、早期癒合症および容量性注意障害の当事者である私が、精神科において特定不能の広汎性発達障害の診断を受けていることが挙げられます。

そもそも、特定不能の広汎性発達障害とは、不特定概念であり、精神医学で定義づけられている発達障害の要件を満たさない症例に対してつけられる診断名です。

類似概念としてほかにもこの病態については以下のような診断名を用意しています。

神経症性障害、軽度発達障害(グレーゾーン)

ワーキングメモリネットワークに悪影響を与える疾病(頭蓋骨縫合早期癒合症)

頭蓋骨縫合早期癒合症は、頭蓋骨の狭小化という病態を持つ疾病です。頭蓋骨が狭小化しても、脳組織の質量は変わりませんので、脳組織は頭蓋骨に圧迫されます。その悪影響を最も受けやすいのが、大脳新皮質です。

ワーキングメモリネットワークの一つであるDLPFCは、大脳新皮質に位置する部位であるため、これによる機能不全が引き起こることは想像に難くありません。

早期癒合症には軽度のものが存在しています。その一つが「軽度三角頭蓋」です。臨床で報告されている軽度三角頭蓋による精神症状は、容量性注意障害であると説明できます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の症例に関する詳細を、以下の記事のなかで紹介しています。

結論: 容量性注意障害 = 「脳内マルチタスク機能」の無効化

容量性注意障害の問題点とは、脳内マルチタスクが困難になることで、社会適合に支障をきたすことです。

精神障害として認知されていない理由に、認知科学によって定義づけられている機能概念の無効化では説明できないことにあります。

そこで、私は、実行機能の下位分類に該当する新たな脳機能として「脳内マルチタスク機能」を提唱します。 すると、容量性注意障害とは「脳内マルチタスク機能」の無効化状態といえます。

<参考文献>

苧阪直行「ワーキングメモリの脳内表現」京都大学出版社

*1:

*2:苧阪 P. 123

*3:苧阪 P. 128

研究活動の内容、および当ブログにおける目標

私は、軽度の頭蓋骨縫合早期癒合症の「成人当事者」であり、これに起因する高次脳機能障害である容量性注意障害を患っています。通常の早期癒合症は幼児期のうちに症状が顕在化し、治療される病気であることから、「小児慢性特定疾病」として、医学によって認知されています。このブログにおける「成人当事者」という表現は意図的なものです。それは事実として2019年時点では医学において「早期癒合症の成人患者」という可能性が想定されていないためです。また、容量性注意障害も精神医学において高次脳機能障害概念として存在してはいるものの、具体的に論じている研究が存在していないことから、その実態は未解明であるといえます。

早期癒合症によって、先述した容量性注意障害のほかにも身体症状が併発しています。これら全ての症状について、NIRSやWAIS™-IIIなどの数々の検査結果や成育歴から、早期癒合症由来の後天的な症状であると私は推測しています。

これまで、私が抱える精神症状は早期癒合症由来であるということを医学が察知していなかったため、「特定不能の広汎性発達障害」(精神症状の原因不明の意味を持つ)という診断が下りています(昭和大学 加藤進昌先生)。

現在、頭蓋骨縫合早期癒合症の研究は脳神経外科学の範疇で行われていますが、併発する精神症状の病理についての研究は行われておらず、治療をめぐる議論も停滞しています(その原因は精神医学の性質上の問題点にあります)。この状況を打開するべく、当方の専門分野である認知心理学神経心理学、音声言語医学などを用いたアプローチによって、その全容を解明するために研究活動をしています。
このブログの存在意義ともいえる最終的な「目標地点」は、頭蓋骨縫合早期癒合症の研究のなかで、脳神経外科学と心理学、及び言語学のクロスオーバーを実現することです。

私は日本ワーキングメモリ学会会員で、学会大会での研究発表をしております。
質問等がございましたら、記事のコメント、twitterなどで問い合わせをください。

頭蓋骨縫合早期癒合症に対する現行の治療方針 / 軽度三角頭蓋の外科治療(手術)の是非を問う論争の内容

更新中です。(2019/8/17)

一般的に実施されている早期癒合症の外科治療について 

1 治療の対象年齢、および手術対象となる早期癒合症の範囲について

頭蓋骨縫合早期癒合症は遅くとも1歳までに手術を行うとされている。・・・頭蓋骨縫合早期癒合症の治療の目的は、1番目に整容であり、2番目に脳機能障害を予防するということである。*1

早期癒合症は先天性疾患です。早期癒合症の病態が中等度あるいは典型例ならば、出産時に素人でもすぐにわかるほどの外観の変容であるため、先進国であればただちに手術が施されます。

治療の目的について、脳機能障害の予防とありますが、頭蓋内圧亢進に起因する、特に脳ヘルニアが発生するまでの身体症状の予防を最重要視していると推測されます。

手術の対象については、基本的に中等度と典型例のみに限定されます。軽度の早期癒合症が手術の対象として認められていない根拠については、後に紹介します。

2 脳神経外科学が規定した「治療方針」と、経過観察と手術適用の分かれ道

現時点で脳神経外科学は早期癒合症の外科治療の目的について、頭蓋内圧亢進を解消することのみであると定義づけています。脳神経外科学は、早期癒合症の臨床研究で報告されている知見に基づいて、早期癒合症(軽度三角頭蓋を含める)に対する「治療方針」、いいかえると診断結果から治療を実施するか否かを決めるためのルールを定めています。 

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日本児童青年精神医学会 P. 160より引用 

上図で示した、治療方針にもとづく「治療決定プロセス」の内容を説明すると、以下のような流れになります。 

① 外見的所見の確認:頭蓋変形が重度か、あるいは軽度か

頭蓋縫合上の骨性隆起の存在が認められた場合、頭蓋縫合早期癒合症の診断が確定される。この際、頭蓋変形が重度の場合、頭蓋拡大形成術を実施する。一方で頭蓋変形が軽度である場合、次の②の診断に進む。

② 頭蓋内圧亢進症状の存否確認

眼底検査および頭蓋内圧測定術により、頭蓋内圧亢進が認められた場合、頭蓋拡大形成術を実施する。一方で頭蓋内圧亢進が認められなかった場合は、経過観察となる。

中等度および典型例の早期癒合症では、ほぼすべてのケースでうっ血乳頭および頭痛といった頭蓋内圧亢進症状が認められます。そのため、中等度及び典型例の早期癒合症は何の問題もなく治療対象として扱われています。

3 うっ血乳頭があらわれるほど頭蓋内圧が亢進していなければならない

治療方針のなかで記されている「頭蓋内圧亢進」という表現の解釈には注意が必要です。手術適用条件として記されている「頭蓋内圧亢進」とは、厳密に言えば「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」です。いいかえると、うっ血乳頭が、治療の必要性がもたらされる条件に該当します

頭蓋内圧亢進症状はうっ血乳頭以外にも嘔吐、頭痛、眼筋麻痺などありますが、なかでも極めて高い頭蓋内圧の数値が現れている状態が、「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」に該当します。脳神経外科学(神経生理学)の定義によると、「頭蓋内圧亢進」と判断できる数値とは「200mmH2O(およそ16mmHg」)とのことです。

上記の脳神経外科学が規定した治療方針アルゴリズムに従うと、眼底検査でうっ血乳頭が存在しないと判断された場合、頭蓋内圧測定術を行うことなく、経過観察処分を受けることになります。うっ血乳頭という厳格な条件を設定している根拠を簡単に説明すると、「ハイリスク・ローリターン」な外科治療を行うことを回避するために用いられている、「生命維持の観点」というポリシーにあります。

脳外科による手術の中では、早期癒合症の手術は脳組織内の侵襲という危険性が少ない部類ではあります。とはいうものの全身麻酔を使うほどのものであるため、患者および執刀医に相応のリスクが生まれます。手術以前に、頭蓋内圧測定術(脳組織内の脳脊髄液の圧力を直接測定する)も全身麻酔を使う手術であるため、同じくリスクが伴います。

生命維持の観点から経過観察がふさわしいと判断した疾病を抱える患者に対して、相応のリスクを伴う治療を行うことをすすめる行為は、脳神経外科学のポリシーに反するのです。以上の理由があり、頭蓋内圧測定術を行う前に、眼底検査でうっ血乳頭の有無を確認するという順序を踏むように規定されています。

4 「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」については経過観察

実は、「うっ血乳頭が現れるほどの頭蓋内圧亢進」もあれば、うっ血乳頭が現れない程度の慢性頭蓋内圧亢進も存在することが分かりました。

まず、健常者の頭蓋内圧を数値化すると、10mmHg以内といったところです。これに対して、脳神経外科学が治療の必要性があると判断する数値は200mmH2O(約16mmHg)です。この二つのグループの間に位置する、グレーゾーンに該当する範囲は、脳神経外科学的に治療する必要のない頭蓋内圧亢進ということになります。

  • 健常者の頭蓋内圧値は10mmHg程度
  • 「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」:頭蓋内圧値:11~15mmHg、うっ血乳頭は出現しないと推測
  • 脳神経外科学規定の「頭蓋内圧亢進」:・頭蓋内圧値:16mmHg以上、うっ血乳頭が出現

 頭蓋内圧亢進症状には、ほかにも嘔吐や眼筋麻痺、頭痛といった症状が存在します。「頭蓋内圧亢進グレーゾーン」では、これらの症状が発生している可能性が高いです。しかし、うっ血乳頭が存在するほどの頭蓋内圧の亢進ではないことから、現行の脳神経外科学に従い、経過観察処分となります。 

現行の治療方針によって経過観察対象とみなされる軽症例

うっ血乳頭という、治療の必要性の有無を決定づける頭蓋内圧亢進症状が存在しないけれども、たしかに頭蓋内圧亢進が存在する早期癒合症の類型は存在します。それが、軽症例です。

全541例 2015年まで*2

  • 言葉の遅れ    : 517例
  • 運動遅滞     : 153例
  • 多動       : 412例
  • 自閉傾向     : 342例
  • 自傷行為     : 142例
  • パニック・イライラ: 237例
  • 睡眠障害     : 132例
  • 偏食       :  73例
  • 頭痛       :   8例
  • 嘔吐       :  18例
  • 退行       : 121例

上の資料は、下地先生による臨床研究で集計された、軽度三角頭蓋の患者が発症していた身体症状および精神症状の統計です。うっ血乳頭に関しては確認できませんでしたが、頭痛や嘔吐といった頭蓋内圧亢進症状が少ないことがわかります。

軽度三角頭蓋の症例でみられる頭蓋内圧亢進症状の現れ方は、中等度以上の早期癒合症と比べると、弱いものであることが分かります。軽度三角頭蓋の場合は、頭蓋内圧亢進がうっ血乳頭や頭痛といった重症の症状を訴える水準まで達していない症例が多いです。

脳神経外科学が規定した治療方針では、うっ血乳頭や脳浮腫が出現するほどの頭蓋内圧亢進を引き起こす早期癒合症である場合に限り、治療が適用されると定められています。この治療方針に従うと、精神症状を発症していたとしても、うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進に起因する身体症状があらわれていない軽度の早期癒合症は、治療対象として扱われないという結論が導き出されます。

軽度の早期癒合症が治療対象として脳神経外科学が扱わない根拠は、うっ血乳頭の有無だけではありません。うっ血乳頭の有無は便宜であって、それ以前に軽度の早期癒合症について治療対象として認めないという見解を、脳神経外科学が持っているといわれています。

軽度三角頭蓋は、整容的な手術の必要が無いこと、症状(頭蓋内圧亢進に起因する)の発現がないとされてきたことがこれまでの常識である。*3

単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進と発達障害は生じないと一般的に考えられており、整容目的に正常の頭蓋と比較して異常な形態を修復する治療が行われている。*4

他の頭蓋内圧亢進症状(頭痛、眼筋麻痺、嘔吐)があったとしても、うっ血乳頭があらわれていない場合、「うっ血乳頭があらわれるほどの頭蓋内圧亢進」どころか、頭蓋内圧亢進そのものの存在を全否定しているのです。こうした脳神経外科学の見解に基づいて、軽度の早期癒合症は手術適用性が阻却されます。

(執筆中・リンク先記事作成中)「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」の概要

 

「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」を批判する医学

下地武義先生による軽度三角頭蓋の患者に対する外科治療は、成果を残しており、精神症状や身体症状が改善したケースが報告されています。

しかし、この手術が実施されていることに対する否定的な意見は多くあり、主に日本児童青年精神医学会が、下地武義先生に対する否定的声明を公に発表しているという状況です。

「国家戦略特別区域高度医療提供事業」認定を受けて実施を予定している「小児に対する軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術」に対し、医療関係団体が認定撤回を求めている*5

 過去に行われた軽度三角頭蓋の治療をめぐる論争の内容は、日本児童青年精神医学会発行の機関誌「児童青年精神医学とその近接領域」(詳細は記事末に記載)のなかで記されています。

パネルディスカッションの中では精神医学、脳神経外科学、小児科学(小児神経科)が、それぞれ異なる内容の「軽度三角頭蓋の患児に対する外科治療」の否定的見解を提示しています。 

1 精神医学からの批判:いずれの精神障害概念にも当てはまらない

冒頭でも記したように、パネルディスカッションを主催している日本児童青年精神医学会は、軽度三角頭蓋の手術について全面的に否定しています。

倫理委員会では、・・「臨床症状を伴う三角頭蓋」を発端に行われてきた、発達の障害を有する子供に対しての軽度三角頭蓋の外科手術について、倫理的側面から検討を加えてきた。・・当学会は、警告と見解を示してきた。*6

 宮嶋雅一先生のご発表および下地一彰先生らのご報告は、当委員会として同意できるものではない。*7

精神医学が上記の内容のように軽度三角頭蓋の手術に対する批判をしている背景にはは、日本自閉症協会が、軽度三角頭蓋の精神症状と「自閉症スペクトラム障害」との関連性について否定していることが挙げられます。 

重度の頭蓋骨早期癒合症の場合、頭蓋の拡大が制限されて脳の成長が阻害され、四肢の運動麻痺や知的障害などの神経症状が生じる可能性があります。・・・現時点で、三角頭蓋と自閉症との関連について、脳神経外科学、児童青年精神医学、小児科学などの学会で認められているとは言えません。・・・自閉症の子どもが、少しでもよくなる方法があれば試してみたいという保護者の方々のお気持ちはよくわかりますが、明確な科学的な根拠が得られるまでは、研究段階にあるものであることを充分認識する必要があります。*8

 「自閉症に似た症状と三角頭蓋の関連について、科学的証明はなされていない」*9

2 脳神経外科学からの批判:治療方針からの逸脱

早期癒合症の診断に関する基準が述べられています。 

前頭縫合はほかの頭蓋骨縫合と異なり、健常児でも3か月から癒合が始まり8か月ごろまでに癒合が完成する。そのため8か月以降に認められる前頭縫合隆起のみでは病的所見とは呼べず、前頭部大脳圧迫所見、眼窩間距離短縮、眼窩の変形を伴うものが三角頭蓋と診断される。*10

 次に、脳神経外科学規定の早期癒合症に対する治療方針を紹介したうえで、

「早期癒合症に対する手術の目的は、頭蓋形態の改善と、頭蓋容積拡大によって脳の病的圧迫を解除すること、そして慢性的頭蓋内圧亢進による二次的脳障害を予防することである。頭蓋内圧亢進が存在すれば早期減圧が望ましい。」*11

「頭蓋骨縫合早期癒合症では、手術によって改善が期待できるものはあくまで頭蓋形態と頭蓋内圧亢進であり、精神発達を促すことは手術の主目的とはなりえない」*12

上記の「二次的脳障害」とは、頭蓋内圧亢進症状の身体症状を指しています。すなわちこの概念には、下地一彰氏が主張する「発達障害」となる精神症状を含みません。

「早期癒合症が精神症状を発生させる」ことについては、早期癒合症が引き起こす頭蓋内圧亢進が精神症状を引き起こしうるということにとどまっており、頭蓋内圧亢進を引き起こしていない場合は精神症状が発生しないとみなしています。

 「単一縫合早期癒合症には頭蓋内圧亢進や発達障害は生じないという一般的な考えにより、軽度三角頭蓋の手術に対して、多くの小児科医をはじめ小児脳神経外科医においても批判的」*13

3 小児科学からの批判:臨床研究が行われていることに対する言及

軽度三角頭蓋の手術は、患児に対する臨床研究としての側面を持っています。小児科学による否定説の内容は、この部分に言及するものです。 

まず、日本小児神経外科学会の理事会が表明している、軽度三角頭蓋の手術に対する否定説の見解は以下の通りです。

・従来、発達障害に対する本術式の有効性は認められていない

・診断、治療効果判定、予測リスクなどの検討が極めて不十分であり、現時点では発達障害の治療として実験的治療であると言わざるを得ない。 *14

そして、外科治療の手術適応条件といった実体的な部分ではない、手続上の問題点の存在を以下のように指摘しています。

手術自体の発達障害に対する効果、形態以上の基準、頭蓋内圧や脳血流測定と症状との関連などのいずれも明確ではない。…一般的に子供の医療行為の承諾は、親が代理で行うことが認められているが、あくまで代諾である以上、その医療行為は確立されたもの、もしくは十分な合理性のあるものでなくてはならない。もし、治療方法に合理性がなければ、子供への人権侵害に陥りかねない。*15

(執筆中)論争に対する論考① 頭蓋内圧亢進の認定基準が厳格である

 

論争に対する論考② 現行の早期癒合症の治療方針を見直すべき 

ほかの頭蓋内圧亢進症状があったとしても、うっ血乳頭が存在しない場合においては治療しないと結論付ける脳神経外科学の治療方針アルゴリズムは、精緻性を欠くと言わざるを得ないと私は考えます。

早期癒合症の治療方針においては治療を受け入れられない軽度三角頭蓋に対する外科治療が、下地武義先生をはじめとして行われています。下地先生による手術は、他の研究では指摘されていない症状を含めて、早期癒合症に起因する症状を改善するという実績を残しています。現在も下地先生による軽度三角頭蓋の外科治療について、賛否両論があります。

軽度三角頭蓋の手術が「生命維持の観点」という脳神経外科学のポリシーに反する外科治療であると脳神経外科学が主張するならば、代替治療を脳神経外科学以外の医学が担当すればよいのでしょう。しかし、代替医療でどうにかなるような治療ではありませんことは、だれが考えてもわかることです。 

早期癒合症に対する治療方針のないようがが現状維持となると、どのようなことが起きるでしょう。うっ血乳頭以外の頭蓋内圧亢進に起因する身体症状および精神症状があらわれている、軽度の早期癒合症(軽度三角頭蓋)を抱える児童は多くいます。すると、彼らの治療の機会が奪われることになります。彼らが治療の機会を得ないまま放置されるという最悪のシナリオを絶対に阻止しなければなりません。

論争に対する論考③ 精神医学には反証の研究が不可能

少々雑な表現ですが、真実、あるいは絶対的正義は、軽度三角頭蓋の手術の肯定説にあります。しかし、この論争について私が感じたこととは、まるで肯定派に対する「異端審問」であるということです。

なぜなら、否定説側が本質的な部分、例えば下地武義先生が提示している手術の有効性に関するデータを一切検証することなく、無視するという態度を示しているためです。本来ならば、軽度三角頭蓋の精神症状の病理についての研究を精神医学が行うべきなのです。

また、下地先生が軽度三角頭蓋の精神症状として報告している精神症状は、おそらく精神医学ではピックアップされていない疾患です。言い換えれば、精神医学は、神経心理学などの脳科学より遅れている学問です。ゆえに、精神医学は「軽度三角頭蓋の精神症状の病理が不明である」と主張する以外の手段を講ずることができないといえます。

神経心理学認知心理学の動向を把握していれば、下地先生が報告している、精神症状の病理に関する考察の価値を見出すことができると確信しています。 

参考文献

「倫理委員会パネルディスカッション 発達の障害を有する子どもへの軽度三角頭蓋の外科治療と臨床研究の倫理」、日本児童青年精神医学会 『児童青年精神医学とその近接領域』 第57巻 第1号、2016年  

リンク↓

国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online

 下地武義 「三角頭蓋奮闘記 あきらめない この子達に未来はある」、諏訪書房、2018年6月初版発行

*1:下地 p.26

*2:下地 P. 94

*3:下地 P.26

*4:日本児童青年精神医学会, 2016, p. 152

*5:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*6:同上, p. 151

*7:同上, p. 152

*8:日本自閉症協会(2015)「三角頭蓋の手術についての公式見解」

http://www.autism.or.jp/topixdata/sankaku20040921.pdf

*9:「親の選択狭めないで」 三角頭蓋手術 特区撤回要求 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース、2017年10月26日閲覧

*10:井原, 2016, p. 159

*11:井原, 2016, p. 159

*12:同上, p. 160

*13:下地, 2016, p. 156

*14:坂後, 2016, p. 157

*15:坂後, 2016, p. 158